学校
僕は養護施設中学二年の4月養護施設から抜け出し、両親と僕で暮らしていた家で一人暮らしをすることに決めた。僕が何をしようと誰も気にも止めなかったから、施設を抜け出しても何も言われなかった。
それでも、中学には休まず入っていた。
母が学校はなるべく行きなさいと言っていたから。
2年になってから僕はいじめられるのではなくいないものとして
扱われるようになった。
休み時間ではみんな遊んだり喋ったりしているのに僕だけ何もせずただ『ぼーっと』している。
最初は良かった。部活の先輩や同級生や先生に馬鹿にされたり、殴られたりしないから。
でも、そんな生活を半年もしてやっとわかった。
家を出て学校に行って、学校ではずっと黙ってて、家に帰って寝るだけの生活。
誰とも話さず、だだ生きているだけ。
これではいじめられている時より辛い。
だっていじめられてた時は誰かが相手をしてくれるけど、今は誰も僕の相手をしてくれない。
中学二年になって僕は初めて『孤独』を味わった。
これが......僕の人生、これが永遠に続くのだろうか。そう考えるとすごく悲しい気分になる。
そんなある日、僕はいつものように学校に行くと机の上に花瓶が置かれていた。いつもは教卓の端っこに置かれているのだが、何故か僕の机の上に置かれていた。
教室に入った時、辺りを見回したが皆無反応で、幾つかのグループを自然に作り楽しそうに喋っている。無論僕を迎え入れてくれるグループなど無かった。
僕はいつものようにそっと自分の席に座った。
「キーンコーンカーンコーン」チャイムと同時に担任の先生が入ってきたと同時に目が合った。
「謙也、その花瓶どうした」
担任が睨みつけてくる。
「えーっと......すみません、もとに戻しておきます」
「お前、ほんとに馬鹿になったな」
担任の睨んでいた目はいつしか僕をあざ笑うかのような目つきになっていた。
クラスメートも僕を無視する人もいれば担任のような冷たい目線を送る人もいた。
僕はとても怖かった。僕はいつの間にか人の目つきにとても神経を使う性格になってしまっていた。
「本当にすみません......後で...戻しておき...ます」
精一杯の声を出したつもりがとても弱く情けない声だった。
先生がポンと手を叩いてホームルームを始めた。
僕はいつの間にか立っていて先生たちに頭を深々と下げていたのに気がついた。
いつも責めれれると無意識にそうしてしまう。たとえ自分が何も知らなくて、悪くなくても。
そうしないとあの怖い目線をずっと耐えなければならないから。クラスでは偶然目が会うだけでみんなから睨まれるからいつも下を向いてなければいけない。学校に行きたくないと思ったことは何度もあった。
でも義務感や学校なら家と違って人間のそばに居られるという感情の為、結局は嫌だとわかっていても行くしか無かった。
引きこもれば孤独は増大し、学校に行けば視線を精一杯逃れようとして、結局は精神がボロボロになった。
今日の最後の授業はみんなにとっては楽しいが僕にとっては体育よりも辛い最も苦しい授業だった。一週間に一回もあるとても辛い授業。
それは友達どうし2、3人のペアを組んで自己アピールや相手の良いところを褒めるといった授業だ。
将来、面接などをする時の為に作られた授業らしい。でも、大抵は雑談で終わる。
僕以外は
みんな机を移動したりしているなか僕はいつも動かずにじっとしている。
みんなが楽しそうに話しているのを僕は下を向いたまま一時間も聞いていなければいけない。誰も仲間に入れてくれないし入ろうとしたらどうなるかなんてわかりきっている。
今日も地獄が始まるのか〜〜そう思いながら下を向い向いていると誰かが僕に話しかけてきた。
「謙也くん。一緒にやらない」
凄く優しい声だった。まるで僕の母のようだった。
僕は恐る恐る顔を上げた。
みんな、意外だと思ったのか僕を睨みつけていたが、ある少女だけは僕の目の前で微笑んでいた。
『桜田 花音』
幼なじみで昔よく遊んだが、中学になってからは一言も喋っていなかった。だからクラスメートなのにどんな人間なのかよくわからなかった。僕が言うのもなんだが目立たない人間だから。
「え、どうして?.........いつものペアで組まないのですか?」
普通だったらいじめられっ子でカッコ悪くて馬鹿で貧乏で空気とかした僕のことなんて男子はおろか女子でさえはすごく毛嫌いされた。
女子から変態扱いされたことだってあった。
だから、僕と話していると絶対に花音は僕と同じになる。だからそうならないように、僕と組まないように言葉を発した。話すことに慣れていなかったから片言でしかも敬語だ。
「女子たちに仲間外れにされちゃった」
と僕にしか聞こえないくらいの小声で言い
「それじゃあ、始めようか!」
と元気良さげに言うと、
自分の席からイスを持ってきて僕の席に向かい合うようにして座った。
教室は静まりかえった。
みんな花音にゴミを見るような侮辱の目で
花音のことを観察するかのように見ていた。
しばらくすると周りはにぎやかな状態に戻った。
多分、みんなには花音は『落ちているホコリや笑いながらゴミを床に座りながら食べている頭の狂った少女』というような感じで見えているのだろう。
「じゃあ、私からいくね」
「いくって、何のことですか?」
「決まってるじゃない。私があなたの良いところを言うの。さっ、顔上げて!」
僕は幼なじみでさえ目を合わせるのに躊躇したが、懸命に目を合わせようとした。
僕と目が合った瞬間、彼女は微笑み僕を見つめた。
「謙也くんってかっこいいよね!」
僕は一瞬時間が止まったと思った。