冬の海
「サヨナラ」
それを告げた冬の日。
そのままその思い出の浜辺で、私は一人佇んでいた。
そうして、海の向こうに、夕陽が沈むのを見つめていた。
浜辺からほんの少しだけ離れた、道路へと続く階段の一番下の段。振り返る。
最近まで、そこには二人いたはずだった。そっと手を重ねて。
再び海の向こうを見つめる。夕陽が沈む。ゆっくりと。
夜の闇が訪れる――
そのまま、微動だにせず、遠くを見ていた。
ただ、涙が勝手に零れていった。
静かな冬の海は、まるで暗闇で――そのまま飲み込まれていってしまいそうだった。
思い出も、涙も、この想いも、そして、私自身も――
すべてすべて飲み込まれていってしまえば……。
冬の海の上を、風が撫でるように流れていく。
冬の海で、今一瞬、波が大きな音を立てて静寂を壊した。
そしてまた、何事もなかったかのように、静かに暗闇に溶けていった……。




