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#0-5-終 ブラウン恋物語

 会長に懐中時計を返してもらい、ついでに会長の告白について返事を先延ばしにしたその後、私は会長…樽油重人という人物について調べる事にした。

 ストーカーじゃ無いからね?情報収集だからね?


「と、言うわけで、甲賀先生お願いします」

「何がと言うわけで、だ。こっちだって忙しいんだよ」

「スイカバー三本と書類整理のセットでどうです?」

「教師の俺から言わせれば、樽油はまだまだ子どもだな。感情表現が下手すぎる。それから、住所教えてやるから色恋沙汰に役立てろよ?あ、やべ。これ個人情報保護法とか大丈夫かな…ま、西山なら大丈夫だろ」


 言われた住所をメモに記載し、渡された書類を生徒会室に持って帰る。

 なお、本来教師が私情で生徒の住所を教えるのは犯罪ですので、絶対にマネしないで下さい。


「おう、茶子おかえり…おいおい、まさかこがっちから新しい書類貰ってきたのか?俺はもうやんねぇぞ?」

「大丈夫です会長。これは私が引き受けた仕事ですから」


 自分の都合で、情報と引き換えに受けた仕事だから、私がやらないといけない。それが、物の道理だと思うから。


「え、茶子自ら仕事を…?お前、大丈夫か?」

「なんで私がサボりキャラなんですか。そんな事より会長は会長の仕事をして下さい。遅いですよ」

「……ほほぉ…遅い…ふーん…」


 そう言うが早いか、会長はカチカチとシャーペンを準備する。そして一心不乱に書類の山に取り組んだ。時折、私の書類を見る動作をするので、多分勝手に競争しているのでしょう。


 とは言え、私の書類は百枚前後、重人の書類はデスクの上に15cm未満の山が2つですので、負けるはずもありませんが。


 ………

 ……

 …


「あるぇー?俺の事遅いって言ったくせに、しかも俺より仕事量少ないのに遅いですよぉー?」

「……くっ」

「ねー今どんな気持ち?サボリ魔会長に負けて今どんな気持ち?」

「…………うぅ」


 すごく、悔しいです…!こんな、こんな適当な会長に負けるなんて…悔しいです…っ!


「これに懲りたら、もう遅いとか言っちゃダメだからに?わかりまちたくぁー?」

「……そこはかとなくウザいっ…!でも負けたから何も言えないっ!」


 もう、心折れて泣きそうです。もしかしたら、既に半泣きかも知れません。もしそうなら、今重人に顔は見せられません。見せたら、何されるか…。


「…茶子、お前何をそんなにむくれてるんだ?」

「別に、むくれてなんか……」

「いや、むくれてるから。ついでに言うと、これまでに無いほど可愛い顔してるから」

「なンっ…!?」


 こ、こいつは…っ!…なんでこう恥じらいもなく歯の浮くようなセリフが言えるかな…。


「あの、会長…恥ずかしくないんですか?」

「ん?恥ずかしいぞ?でもな、本心は思ったまま言わないとスッキリしないんだよ」

「そんな本能のまま生きて、よくもまぁ今まで困りませんでしたね」

「そう?ところで、手が止まってるけど。仕事中は手を休めないんでしたっけ?」

「…う…上げ足を取らないでください!私は会長と違って…」

「あ、ちょいまち。こがっちから電話…あー、もしもし?…うん、うん…あー…はいはい、分かった分かった……今買いに行くから。そんじゃ、切るぞ……なぁ、茶子。悪いんだけどさ、ちょっとスイカバー買って来てくれ」

「…はぁ…わかりました……」


 処理中の書類を一度切り上げて、私は学校最寄りのコンビニへと向かった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「…えーっと、スイカバーは…あったあった」


 冷凍陳列棚から目的の商品をカゴに入れ、ついでにストック用黒ボールペンインクをカゴに入れる。

 そのままレジで並んだいると、背後から声をかけられた。どうやら、私のクラスメイトらしい。らしい、というのは、単に私がクラスメイトの顔を覚えていないからだ。


「偶然ですね、茶子さん。生徒会頑張ってますか?」

「…えぇ、まぁ……」


 随分と馴れ馴れしい人だった。そういえば、登校初日に話しかけてきた人がいたような…?


「そうですか!それは良かったです!それで、あの…よろしければ、樽油先輩のアドレスかRAINを教えてくれませんか?」

「…それは……ごめんね、私知らないの」

「そうなんですか…ごめんなさい……」

「いいの。気にしないで」


 …なん…なんだろう。この、名状しがたい胸のざわめきは…。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「それは、恋だな」

「なんで私が同性にトキメクんですか。スイカバー渡しませんよ」

「恋じゃなきゃ、嫉妬心かな?会長が、他の女の子に取られるのが嫌なんだよ、きっと」


 そう言いながら、私の腕からスイカバーの入ったレジ袋を取り上げ、早速新しいスイカバーを頬張り始めた。一緒に入っていた黒ボールペンインクは、投げて寄越されたけど。


「嫉妬心…」

「そ、嫉妬心。まぁ、若いうちはそうやって悩め。それも、学生の仕事だ」

「独身貴族の古賀先生にだけは、言われたくありません」

「うるせえ。好きで独身やってンだ。ンな事より書類整理して来い」

「はいはい、分かりましたよ」


 指導室を後にし、生徒会室に戻る。


「おかえり。これ二回目だけどな。それから、そこの書類全部やっといたから、こがっちに渡して来て」

「え、また私が行くんですか?古賀先生にもらった書類も終わってない…あれ、ここにあった書類は?」

「ん?茶子のやってた書類?全部終わらせたぞ。暇だからな」

「あぁ…そうですか。すいません」

「気持ちわるっ!茶子お前、変なものでも食べたのか?」


 失礼な……のは、いつもの事か。この人、私に気があるとか言ってるけど、本当はウソなんじゃないんですかね?


「あ、そうそう。その書類、持って行ったらそのまま帰っていいぞ。俺もバカだよなぁ…サボりまくって溜め込んだ書類(コレクション)全部消費しちまうんだから」

「重要書類が消えていたのは重人の所為だったの!?新しく刷りなおしたり、謝りに行った私の苦労は!?」

全部無駄(オールナッシング)

「な……な…な……っ!」


 カッコつけて言うセリフか、それが!重人マジでゆるさん!許すまじ!


「ほらほら。そんな怒って膨れても、可愛さが増すだけだぜ?」

「なるほどそうですか。では、思いっきり(さげす)んで差し上げましょう」

「…おぉう。新たな境地に目覚めそう」

「目覚めればいいんですよこの下種(げしゅ)め」


 と、おおよそ心にもない言葉をぶつけながら、どこから出したのかダンボール箱詰めされた書類の山と自分のカバンをかかえ、私は生徒会室を退室した。


 そして、至極当たり前ながら生徒会室には重人が一人残されるワケで。

 残された重人は、自身のデスクに突っ伏していた。


「……あの…(表情)は……反則じゃあ無いですかねぇ」


 蔑み顏(ポーカーフェイス)も怒った顔も、呆れた顔も嬉しそうな笑顔も。俺の知らないどんな表情も、俺は、それが……。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 週末、古賀先生に教えてもらった住所へと私は足を伸ばした。が、しかし。


「この辺…なのよねぇ……」


 住宅街から少し離れ、もっと言えば学校から徒歩にして一時間程離れた場所に、重人の家はあるはずなのですが。

 えぇ、迷ってるのではありません。ググマプ先生も、この辺だと言ってますし。


 されど、航空写真を見ても周囲の状況を再三確認しようとも、それらしき建物は一軒も見当たらなかった。


「車一台でも通れば、道を聞けるんだけど…この辺りは交通量が少ないのね…」


 そう、ボヤきながら今まで歩いてきた道を振り返る。すると幸運なことに、一台の黒い車が遠目に見えた。


「あの車に道を聞こうそうしよう。っていうか聞かなきゃ迷子よ、これ」


 ヒッチハイクのハンドサインを送って、止まってもらい、運転手に道を尋ねる。すると、その場所を知っていると言い、更に後で迎えを頼んでくれるとのこと。なんで今この車に乗せなかったのかは、分からなかったけどね。


 そのまま待つこと5分程。今度は黄色い軽自動車がやって来て、中から黒服の男が出てきた。


「君が、お客様かね?」

「お客様…ではないと思いますけど、用があるのは私です」

「我が家にはどの様な用事で?」

「ええと…お宅の重人……さん…に用がありまして」

「…作用ですか。それでは、どうぞ」


 随分と上から目線の黒服男に言われるがまま、軽自動車の後部座席へと座らせられる。そのまま音もなく発進するのは、電気自動車なのだろうか。


「…あの、重人…さん……のお宅って、この辺なんですよね?」


 車内の沈黙に耐えられなかった私は、運転手の黒服男に話しかける。


「いえ、ここが、その敷地内です」

「え、でも家らしき建物はどこにもありませんけど…」

「いえ、確かにここが敷地内です。お住まいは、もう少し奥ですが…」

「……?」


 どうにも要領が掴めない。さっきの車といい、この黒服男といい、ググマプ先生といい……何がどうなっているのやら。


 と、一人で考えている間に軽自動車は表札のかかった門の前で停車する。


「到着しました。少々お待ちください」

「え…あ、はい」


 到着したと感じ、自分で車を降りようとした時に、そう呼び止められた。まぁ、今日尋ねるとも言ってないし、そもそもこれは重人にバレないように調査しようと思ってたし。ここで門前払いされても、おかしくないよね…。


「どうぞ、茶子お嬢様(▪︎▪︎▪︎)

「………ふぉあ!?」


 車内から黒服男にエスコートされ、あれよあれよいう間に遠くに見える屋敷(▪︎▪︎)へと案内される。建物の大きさは、ニコニコする動画サイトで立教大学と赤コメされる程で、それでも分かりづらい人は、自分の通うもしくは、通っていた学校の本館を想像していただきたい。


 そのまま私は客室へと通され、ご丁寧にミルクティーと焼きたてクッキーなどのお茶菓子を頂き、そのまま待たされる。

 私は、客室備付(きゃくしつそなえつけ)のソファーに腰を下ろし、ついでに側のクッションへと手を伸ばす。


「…むむっ!こ、これはっ……!このソファーとクッションは…っ!」


 なでりなでりと座り直したり、クッションそのものに顔を埋めてみたり。


「この反発性…そこらの、安物ビーズや羊毛、羽毛にも引けを取らない、ネコ科のぷにくきゅうですら、比べ物にならないほどの心地良さ…!私、やみつきになりますっ!」


 とかなんとかしていると、通路の方から足音が聞こえてくる。そしてそれはこの客室へと向かって来ていて、その迫り来る勢いのまま客室の扉が開かれる。そしてそこには、黒服の…多分、執事さん。と、これは多分メイドさん…かな?それから重人が立っていた。


「…おい、茶子。これは一体どういう事だ」

「あ、重人。ねぇ、このクッションってどこの店にあるの?私これやみつきになったから、今度買いに行きたいんだけど」

「…っ!……そんな顔すんじゃねぇ……って、そんな事はどうでもいい!茶子…いや、お前、なんで住所が分かった」

「古賀先生に聞いたら、ここだって」

「こがっちかぁぁぁぁあああ……」

「…勝手に押しかけたのは、悪かったわよ。私はただ、重人の事をもっと良く知りたくて…」

「…そんなもの、俺の口からいくらでも教えてやる。でも、俺の家には来るな。来たいときは、俺に言え。一人で、来るな。今後、二度と」

「そ、そんな言い方…」

「頼むから!……また今度、俺の都合だけど、呼ぶから……だから今日は、帰ってくれ」


 終始私と目線を合わせようとせず、ずっと重人は下を向いている。何か、都合の悪い用事でもあったのだろうか。

 私は、それが気になって仕方がなかった。


「…ねぇ、重人。今日は、私が来ちゃいけない理由が、何かあったの?」

「………ごめん。とにかく、今日は帰ってくれ」

「…どうして謝るのよ。どちらかと言えば、悪いのは私でしょう?」

「…いいから、今日は帰ってくれ。今日は…親父が家にいる日なんだよ……お前の事が、親父にバレたら、俺はお前と…!」

「私が、どうかしたのかね。息子よ」


 気配もなく、重人の後ろに仁王立ちする人が現れる。同時に、執事さんやメイドさんは頭を下げたまま微動だにしない。


「親父……父さん」

「ふむ、なかなか可愛らしいお嬢さんではないか。初めまして、重人の父だ」

「え、あ、西山茶子です。こんにちは」

「西山…茶子、お嬢ですな。失礼だが、息子とはどのような関係かな?」

「親父…父さん!」

「お前は黙っていなさい!」


 うわぁ…迫力あるお父さんだなぁ…。うちのお父さんにも、これくらいの威厳があったらいいのに。


「失礼。少し取り乱してしまった。質問の答えを聞こうかな」

「ええと、重人との関係…ですよね?学校の先輩後輩、生徒会長と…役員です」


 はい、役職盛りました。雑用です。でも、生徒会って私と重人だけだし、いいよね?


「そうか。それでは、今後とも会長をよろしく頼む。さぁ、息子よ。外までご案内して差し上げろ」

「……行くぞ茶子」

「え、うん…」


 重人に、客室から玄関、玄関から門の外へと連れられる。その途中で、気になることを聞いてみた。


「重人ってさ、もしかして超が付く御曹司(おんぞうし)だったりする?」

「…あぁ」

「すごく貫禄のあるお父さんだったね。うちにも、あれくらいの威厳が欲しいよ」

「…ありすぎて、分けてやりてぇよ」

「重人も、あんなに怯えた顔するんだね。結構可愛かったよ?」

「そうだな」

「重人は…さ、最後に言われた、会長をよろしくって言うの…どう思う?」

「……さぁな」


 ……いけない。重人の心が、どこか明後日の方向を向いている。


「重人……あのね?私の事、好きだって…言ったよね?」

「…言った」

「あれ、どうしてだったの?」

「前にも言っただろ。一目惚れってやつだ」

「…そうじゃない。重人の好きは、ラブじゃなくてライク…愛するとか、そうじゃなくて、物を見て言う好きなんだよ」

「…違う」

「私は、最初その違和感に気付いてた。でも、確証はなかったの…だけど、今日の重人にあってよく分かった」

「……違う」

「…重人は、最初私を見たときなんて言ったか覚えてる?重人ね、私の事を “ 可愛い猫ちゃん ” って言ったんだよ」

「そ…れは……」

「ねぇ、重人。もう一度聞くよ?私の事、好き?」


 私の最後の質問に、答えが返って来る事はなかった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 茶子を送り出した後、俺は自分の部屋にこもり、茶子の質問の答えを考えていた。


「ラブじゃなくてライク……か。人を好きになるってどういう事なんだろう」


 ブラウンなら、知っているだろうか。あの人は、女の子だから…少なくとも俺よりかは何か知っているかもしれない。

 枕元に置いてある〈リンクギア〉を装着し、仮想世界へとダイブする。そこは唯一、俺が俺でいられる場所だからだ。


「…っと、流石に週末のこの時間帯は混んでるな…。一応、ブラウンのログイン情報確認っと……ダメか」


 フレンド登録されているブラウンの名前に、オフラインと表示されている。この表示が出ていると、プレイヤーはこの世界にログインしていないという事だ。


「ま、そのうち来るだろ。今日はギルマスから召集掛かってるし。自由参加だけど」


 なんでも来週辺りに、攻略組が魔王討伐に行くそうで、その情報収集と分析、あわよくばそのまま倒してしまおうと言う事らしい。実際に動くのはギルマスじゃなくて、俺たちだけどな。


 その後しばらくして、ギルドホールにて作戦会議が行われた。ブラウンは…来てないな。

 ギルドホールの演説席の後ろには、巨大なディスプレイが設置されており、事前に入力した映像が流れるようになっている。今は、これから調べる魔王城の写真が映し出されていた。


『あー………お、おばよゔ諸君っ!今日集まって貰ったのは他でもないっ!近々行われる魔王討伐のじゅ、情報収集の為だっ!差し当たってまず行われ、行うのはっ!』

『…姉ぇ、堅すぎ…肩の、力、抜い、て?』

『…すまない、ハク………よし、もう大丈夫だ。改めて、諸君!今日集まって貰ったのは他でもない。近々行われる魔王討伐の情報収集とその解析をする為だ。どのような戦況になろうとも、情報がしっかりしていれば負けるはずもない。その為の、情報収集なのだ。皆、心してかかるように』


 俺が所属するギルド…DB(データバンク)のギルドマスターは〈ジュン〉さん。サブギルドマスターは〈ハク〉さん。ジュンさんは情報収集能力に長け、対するハクさんは解析に長けている。DB以外にも、情報収集を生業とするギルドは多数存在するが、攻略組に混ざって情報提供しているのは、DBだけなのだ。つまりそれだけ信頼されているって事だ。


『それで、まずはボク達先発隊が大雑把に調べて来た。それで、敵の強さだが…ハク』

『…ん…敵、の、強さ、レベル、は、最低、80前後、と、推察…数、は、現在、少数…でも、最近、増えつつ、ある』

『そして、画面に表示されているのはお察しの通り魔王城だ。そしてその中でも最上階…ここだ。この塔の中に魔王の子がいるのを確認した。正確には、魔王の子の魔力だが。しかし厄介なことに、その魔王の子が現在の魔王より多い魔力を有している…つまり、覚醒すればかなり厄介な存在になるだろう。さて、ここまでかなり大雑把だが、先発隊は頭をひねって考えるとしよう。そのためには、君達の勇姿と物を見る目に賭けるとする』

『…みんな、ふぁい、おー』


 魔王城の鮮明な画像、敵の強さ、数と種類、要注意点……。ここまで調べてまだまだと言われたら、他の情報ギルドは落胆し、数々の愚痴をこぼしながら、最後は口を揃えてこう言うだろう。そこまでするか、と。そこまでするのだ。

 それが、情報ギルドとしてのプライドだからだ。例えそれが、小ネタやバグ対処であろうと、俺たちは全力でやる。

 そして今回も、狭いギルドホールはハクさんの掛け声に合わせて雄叫びを上げた。


 さて、俺たちのする事は先発隊のそれより大変な作業だ。まずは二人から四人の小パーティーを組み、現地へおもむく。そこで出る雑魚敵の攻撃パターン、弱点、ドロップ品、レア種の確認、発生する緊急クエスト、残りHPによる攻撃パターンの変化やその他もろもろを実際に戦い、体感し、新たな情報としてギルド掲示板に投稿。これらを延々と繰り返し繰り返しする事で、ある程度情報がまとまってくるのだ。

 そうした情報を全てリアルタイムで読み、1日単位でギルマスとサブマスにより簡略化される。そうやって、情報は厳選されるのだ。


「…まぁ、これが結構疲れるんだよなぁ……」


 しばらくギルドホールで待機し、ブラウンがログインしてくるのを待つ。ソロで行っても良いのだが、敵の動きを見るのは1人よりも2人の方がいい。ブラウンに聞きたい事もあるし、な。

 しかし、待てど暮らせどブラウンがログインする気配がしない。これは、今日は諦めた方がいいかな…と、1人黄昏ていると、ブラウンの名前にログインた表示された。


「ちーっすブラウン、今ちょっと話せるか?」

「あ、先輩。私も、少し話したいんですけど、良いですか?」

「おけおけ、いいよ。じゃ、いつもの場所で」


 そこで一度チャットを終わらせ、例によっていつもの場所でブラウンと落ち合った。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 重人の家から帰ってきて、私はしばらく放心状態になってしまいました。理由は……自分でも分かりません。それで、今日の出来事を誰かに聞いて欲しくて、真っ先に浮かんだのは重人で。その次がゲシュタルトさんでした。

 私は、自室のベッドに横たわり、仮想世界へとダイブする。流石に週末のこの時間帯は混んでおり、街中はざわついていました。

 そこへ、ゲシュタルト先輩からチャットが届きます。


「ちーっすブラウン、今ちょっと話せるか?」

「あ、先輩。私も、少し話したいんですけど、良いですか?」

「おけおけ、いいよ。じゃ、いつもの場所で」


 そこで一度チャットを終わらせ、いつもの場所に向かう。そこには既に、先輩が座っていた。周りは、なんだか街中よりざわついていますが。


「先輩、今日何かあったんですか?ギルドの皆さん、張り切ってますけど」

「…その様子じゃ、忘れてるな……今日、ギルマスから召集あったんだぜ?覚えてたか?」

「………あ!今日でしたっけ!?」

「やっぱりなぁ……後で、パーティー組んでくれ。俺も行きたいから」

「あ、分かりました……それで、ですね先輩。少しお話がありまして」

「…そうだったな。お先にどうぞ」


 お言葉に甘えて、まず私が話し始める。

 前置きとして、自分が生徒会長に少なからず恋心を抱いているという事、返事を先送りにしているという事、心に迷いが生じているという事、そして今日生徒会長の自宅に突然訪問した事……最後に、会長を怒らせてしまったかもしれないという事。それらを多少オブラートに包んで先輩に話す。


「…なるほどな……俺も、似たようなものだ」


 そう言って、先輩は話し始める。

 自分の家の事、自分が生徒会長である事、同じ生徒会の後輩に恋をした事、告白した事、返事を先送りにされた事、それについての答えが気になって仕方ない事……最後に、今日後輩が、自分の家に突然訪問してきた事。


「…これは、私の視点ですけど、その後輩は先輩の事が知りたかったんです。告白の答えを先送りにしたのは、迷いがあって、不安だから……きっと、確かな確証が欲しかったんですよ」

「そうなのかもな…でも、その後輩がさ、帰る時に俺に言ったんだ。今日の会長は酷く怯えているって、あなたの好きはラブではなくライクだって…それで、俺……人を好きになるのってなんだろうって思ってさ」

「…奇遇ですね、私も、会長にそう言いました。それで、傷付けてないかなって、心配で……会長は、見た目よりもずっと弱いですから」


 本当に私達2人は、似たような悩みを持っているんですね。


「大丈夫かなぁ……重人」


 ぽつりと、そう心でつぶやいたつもりが、つい口に出してしまいました。いけないいけない。リアル、持ち込み、禁止!今後は気をつけよう。


「…………ぁ、ぅ……!?」

「…どうしました?先輩。顔赤いですよ?」

「ぉ、ぉま…ぇ……ブラウン、お前、まさか……茶子…………か?」

「………………………………………なんで知ってるんです?」

「……………………………………………最悪だ」

「……えぇと、先輩。凄く失礼なこと聞きますけど、まさか…………重人?」

「…そうだよ。ゲシュタルトは〈タルユシゲト〉のアナグラムだ。ブラウンも、茶子(ブラウン)から来てんだろ?…あーもうちくせう!」

「…………ぁ…ぁ……ぁああっ!」


 そんなまさか、いや、水族館で〈CDO〉やってるって言ってたから、いつか会うだろうとは思ってたけどっ!こんな近くにいたとは…っ!


「「世の中狭すぎだろっ!」」


 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …


 閑話休題


 …

 ……

 ………

 …………

 ……………

 ………………


 しばらく間を置き、その間会話は止まる。そしてその緊迫感を解いたのは、重人だった。


「あのさ……ブラウン。今度、正式に俺の家に招待するわ」

「…そう。あのね、先輩。さっきの話……あれ忘れて?」

「なんで?」

「…私が会長に……先輩に恋しちゃいましたとか、言ってたきがするし」

「…あぁ、言ってたな。まぁ、忘れろって言うなら忘れるけど…」

「…?」

「その場合、リアルの世界で樽油重人に面と向かって好きです、なんて言わなきゃならんよな?そんな勇気が今後出るのか?」

「……なら、今言う。あくまで、これは仮想世界の中だし、言った内には入らないから」

「…おう」


 だらけた姿勢をお互いに正して、面と向かって向き合う。


「先輩」

「ほいな」

「今は、ライクでも構いません。これから、ラブに変えていって下さい。それまで、私は、あなたの隣で、待っていますから」

「…ありがとな、俺は、ライクとラブの違いが分かるまで、どれくらいかかるかわかんねぇし、多分親父に反対もされるだろうけど……それでも、俺がなんとかするから、それまで、俺の隣で、待っててくれ」


 …………。

 …………。


「「…………」」


「「…的な事を現実世界で言おうと思うけど、どう?」」


 と、最後に適当にはぐらかして、その後はお互い一言も話す事は無く、ギルドメンバーとしての職務を全うしたのでした。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「……ねぇ、作者。これ…この話、書く必要あった?」


 記念作品だからな。耐えろ茶子さん。


「わざわざ人の恥ずかしい恋物語書いといて耐えろってのは無いんじゃない!?」


 まぁまぁ、メインヒロイン出来たし、良くね?


「良くね?じゃ、ないわよこンのヘボ作者ァ!」


 うぅわっ!ちょ、グーパンは無しでしょ!?


「あんたなんか、読者に怒られて過労死すればいいのよっ!ひ、人の気も知らないでっ!」


 まぁそう言うなよ。パロ小説をわざわざお気に入りで読んでくれた方々に申し訳ないと思わんのかね?


「ええそうね、あなたが綺麗に終わらせられれば、別に怒らないわよ」


 どこかお気に召さない所が?


「ええ、全部よ全部。この恋物語自体が最近の私の健康を妨げているのよ」


 またまたぁ…そんなわけないでしょ、ねぇ?


「それがあるから、わざわざこうやって本編に作者引っ張って来てるんじゃない」


 まぁ、そうなんだが……。


「何よ」


 これ、どうオチ着けるの?


「作者の首が宙を舞うまで」


 死ねと申されますか!?


「死ねと申すのです」


 そんな!どうか、お慈悲を!


「慈悲は……ないっ!」


 キャアァァ!殺られるぅ!


「その辺にしとけ、茶子」

「あ、重人…何しに来たのよ」

「オチを着けに」

「重人は作者の味方なの!?」

「んにゃ?俺は、茶子の味方だ。だからこそ、オチを着けに来た」

「私の…ために?」

「あぁ。さぁ、おいで?一緒に帰ろう。な?」

「…仕方ないわね。今日は取り敢えず見逃してあげるわ」


 そう言って、茶子は重人と仲良く腕なんか組んだりして帰りました……と。


 へっ。最後は結局ノロケかよ……。
























































 …ちくしょう。

( ゜д゜)、ぺッ


おのれリア充


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


ご愛読ありがとうございました。

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