#0-2 ブラウン恋物語
〈CDO〉では、私はとあるギルドに所属していて、その中に〈ゲシュタルト〉と言う先輩がいる。
「ほほう。それで、ちゃんと〈ブラウン〉は、ごめんなさい出来たのか」
「…えぇ、まぁ」
「んで?話に続きがあるんだろ?」
「そうなんですよ。そしたら、その会長が、何かお詫びがしたいって。私は断ったんですけど…なんやかんやと言いくるめられて、結局その……」
「うんうん、デートに誘われた訳か」
「………」
あの時、どうしてあんな事したのか、全然わからないんだけど。やらなきゃ、って思っちゃって。
それは会長も同じだったんですけど。
「茶子、星は好きか?」
「え……星、ですか?…あんまり興味無いです」
「じゃあ、魚は?」
「魚ですか?好きですよ?」
唐突に茶子と呼ばれた事と、食べる事として魚は好きだと答えてしまったために、今度の日曜日に水族館へと連れて行かれるハメになってしまいました。
「じゃあ、ブラウンは今度の日曜日にイン出来ないのか。それは良かった」
「なぜです?」
「俺も、日曜日はちょっと出かけるんだよ。今日はそれも含めて伝えようと思っててな。俺とブラウンってよくパーティー組むし、後でいろいろ喧嘩するの嫌だし、何より俺が後味悪い」
「じゃあ、お互い様ですね。それでは、そろそろ落ちます。明日は学校で会議ですから」
「おう、じゃな」
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「それでは、予算会議を始めます。会議の前に何かご質問のある方は挙手お願いします」
全員が、挙手をする。当然と言っていい。
「では、陸上部部長」
「会長は?」
「あの野郎は、面倒だからと言って今回は欠席です。どのみち、いてもいなくても私が仕切りますので問題ありません。他にご質問は?」
流石に、もう手は上がらなかった。
そうして、会議が始まる。
「それでは、先月の活動報告と、使用した部費の報告をお願いします。野球部からどうぞ」
「はい、野球部です。まず、先月の活動報告から………」
………
……
…
…
……
………
「はい、これで今回の会議はお開きとさせていただきます。来月の予算は決定していますので、後日各顧問から予算明細を受け取ってください。お疲れ様でした」
ふう、と。ため息一つ突いて、会議の報告書を整理する。
すると、会長がやって来た。
「あれ、もう会議終わり?」
「サボリ魔が何を言うのですか」
「まぁ、そう言うなよ茶子」
「昨日から不思議だったんですけど、どうして会長はいきなり私の苗字から名前を呼ぶようになってるんです?」
「さぁ?なんでだろうね。響きとかがいいのかな」
「え…」
初めて見た。私の名前を、褒めた人なんて。あ、いや…おばあちゃんの他にだけど。
「ほら、なんか甘いお菓子みたいでさ」
「…バカにしてるんですか?」
「違う違う、褒めてるんだよ。お菓子みたいで、可愛くて」
「なっ…⁉︎」
「何より、落ち着く響きだからな。しかも本人はかなりの美人とくればもう……」
「えっえっえっ⁉︎」
可愛いって、美人だなんてっ!
これはもう、フラグ立ってるんじゃ無いですか⁉︎
そりゃあ、会長さんはそれなりにイケメンですし、身長は私よりちょっと高いし、やれば出来る人ですしっ!
こ、これは今流行りの壁ドンからの告白タイムですか⁉︎
「仕事が捗る捗る!俺一人のさみしい生徒会室に所属する癒し系愛玩動物!こんな至高の空間を独り占めとは、なんと言う贅沢かっ!」
…なんていうか…言葉が出ません。
そこは乙女心をがっちり掴むところでしょう?離してどうすんのこれ。
「あれ、どうかした?」
「…なんでもないです。会長、これとこの書類に目を通して既読印を。それからこっちが先週の報告書ですから、まとめておいてください。私は帰りますので」
「え、ちょ!かなり多くない⁉︎ていうか何、帰る⁉︎まってまって、お願いだから手伝っt(ry」
聞く耳を持たず、生徒会室の扉を強引に閉める。誰が手伝うものですか。
乙女は怒ると怖いんですからね。
帰宅し、部屋にこもって〈CDO〉にログインする。
ギルドホールのいつもの場所に向えば、そこには、先輩が。
「先輩がいない…?」
まぁ、現実でやることができたのでしょう。そのうちログインするだろうし、簡単なクエストを消化して行きましょう。
三十分ほど時間を潰すと、電子音が鳴り、先輩がログインしたことを知らせる。
「先輩、こんにちは。今日は珍しい時間のインですね」
と、チャット。
「ちーっすブラウン。いやぁ、現実の方でちょっとヤボ用がな。それで、今日はどうする?」
「そうですね。ウルファキング討伐行きませんか?」
「いいぜ。じゃあ、クエ掲 (クエスト掲示板の略) の前に集合な」
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日曜日。
本来ならば、昼まで寝ていたいのだけれど。
「ちょっとちょっと、茶子!あんたいつの間に彼氏なんか作ったのよ!」
「…はぁ?」
自分の母親に、それは邪魔された。
そして、今日が日曜日である事を思い出す。
「お母さん、今何時⁉︎」
「九時過ぎ」
「ヤバッ!」
今日は会長と出掛ける約束をしていたんだった。
昨日はゲームで疲れて、そのまま眠ってしまったので、メイクはおろか服すら真面に考えていない。
しかも、既に遅刻のため、オシャレに回す時間は存在しないに等しい。
「服、どうしよう…ライトブルーメインで、それでいて春っぽい服にしよう。メイクは…リップクリームと薄桃チークで誤魔化そう。ああもう!私のバカ!全然可愛くない!ダメダメやり直し!」
そんなこんなで一時間ちょっと。
当の会長はリビングに招待され、お茶菓子や飲み物をツマミに、私に着いて聞かれていた…らしい。
「すいません、会長…遅くなりました」
「おう、じゃあ行こうか。お義母さん、お茶菓子美味しかったです」
「あらあらまあまあ。お義母さんだなんて、照れるわぁ…おほほ。なるべく遅く帰って来なさいね」
「お母さん⁉︎」
「ほら、早く行くぞ。時間押してるんだ」
ぐい、と手を引かれ、家を出る。
懐中時計を取り出し、時間を確認する。
もう既に十時半を過ぎていた。
「あの、会長」
「重人でいい。俺も茶子って呼ぶから」
「えっ…と。じゃあ、重人」
「…っ⁉︎……んだよ」
耳を紅く染め、目を逸らす。
「私、お腹空いちゃって。急いでたから何も食べてないのよ。それと、いつまで手握ってるんですか?」
「え、あ、すまん。じゃあ、何か買うか?俺も朝は喉が通らなかったんだが、さっきお茶菓子をかなり貰ったからな」
「あ、そうなの?じゃあ……あ、クレープ食べたい」
「朝ごはんの代わりがそれか⁉︎……まぁ、別にいいか」
水族館への道程を、少し外れて近場のスイーツショップへ向かう。
チョコバナナクレープを購入し、歩きながら食べる。なんか悪いことしているみたいでちょっと楽しい。
「美味いか?」
「もう最高にハイって感じ」
「…ふーん」
二口三口頬張っていると。
「俺にも一口頂戴?」
「何?重人も食べたいの?買ってくれば?」
「いいから、一口だけ!お願いっ!」
「しょうがないわね、一口だけよ」
パクリと、残りの半分を持って行かれた。
「わぁああああああ!」
「ほーかひたのは?もぐもぐ」
「な、ちょ、うわぁあああああああ!何してんのあんたは!」
「もぐ、ごくり。何って、一口だけ食べたんだけど?」
「一口がデカすぎるわ、ばかぁ……」
あぁ……私のクレープが…しかもまだ食べてないバナナのトコ丸々食べやがった…
もう、嫌だ…
「お、こんなトコにクリーム付いてるぞ?」
「…え?」
振り向くと、瞬間。
重人の顔が目の前に来ていて。
頬のクリームを “ 舐めとった ” 。
「…っ⁉︎っ⁉︎っ⁉︎っ⁉︎」
「ご馳走さん。あ、最後のは一口としてカウントすんなよ?」
「っ⁉︎っ⁉︎」
「どした?」
「い、今何を…⁉︎」
「クレープ横取り?」
「そ・の・あ・と!…ああ!やっぱり言わないで!考えたくないっ!」
「そうか?」
なんなのこいつ…ありえない。
舐められた頬に触れれば、何が起こったのか明確に理解することができるだろうし、怒れたのだろうけど。
どうしてこうも、心拍数が上がっているのだろうか。私は、会長にそういう感情を抱いているということだろうか。
無いな。と、考える。
「茶子?水族館行こうぜ?なんか人目が集まって来たんだけど」
「…でしょうね。私が大騒ぎしちゃったもんね。私も今すぐこの場を去りたい…」
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昼前に、水族館へと着いた。
「お、イルカショーやってるのか。どうする?行くか?」
「うーん、私は普通に見て回りたいかな」
「そうか、じゃあそうしよう」
私が、入場券を買おうとすると、横からチケットを差し出された。
「え、まさか今日は全部おごり?」
「まぁな。謝罪的な面もあるが、女の子に出させるのはダメだろ?」
お、女の子…うわぁ……ちょっとキュンと来た…もうダメかもわからんね。
「んー、にしても今日はヤケに人が多いな…なんかあるのか?…よし、茶子。手、出せ」
「ふぁい!?」
そそそそれはつまり手繋ぎデートって事でそれはリア充がするアレで私は私は私はぁぁああ!
いやいや、相手はあの会長ですよ?面倒が嫌いでウザくて我儘な会長ですよ?
どうせなら〈先輩〉みたいに自分から進んで動いて面白くて裏で頑張ってる人がって何を言っているのよ私はっ‼︎
「何を葛藤してんだ?早くしろよ、恥ずいだろ。はぐれたらどうすんだ?」
「そうですよね、はぐれたら大変ですものね。うん、仕方なくですよ仕方なく」
「おう、もうなんでもいいから」
重人は、有無を言わせず、私の手を取り歩き出す。
私と重人は、水族館の人混みの中に消えて行った。
ご愛読ありがとうございます。




