#0-1 ブラウン恋物語
話の続きを考える為に
え、ナニコレ。
まさかとは思うけど作者読者様、私に恥ずか死にしろって言ってる?
あははは、はは、まさか、ねぇ?
なんで私が先輩との関係を暴露しなくちゃいけないの?
本編で上手く誤魔化したのに?
頭おかしいんじゃ無いのかしら。
あれ、うそ、もう始める?始めちゃうの?
ま、待って待って!私の心の準備がっ!!
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ゲームネーム〈ブラウン〉。本名〈西山茶子〉。
名付け親は、お婆ちゃんで、いわゆる三世代家族だ。
生まれは田舎だったから、なんの違和感も無かったのだが、学校の関係で引っ越し、都会に住むことになった。
そこで待っていたのは、憧れた華やかな生活では無く、このババ臭い名前をタネにイジメられる毎日を送っていた。
「茶子ちゃんは可愛いから、素敵な男の子が守ってくれるわ。今はいなくても、待っていれば必ず現れるから。それまでお婆ちゃんは、あなたの味方よ」
いつも、そう言ってお婆ちゃんが慰めてくれなかったら、きっと今頃、うつ病になって引き篭もっていたかもしれない。
そんな優しかったお婆ちゃんも、去年亡くなり、私は一人になってしまった。
両親はいるけど、慰め方が両方とも下手すぎて、逆効果にしかならなかった。
それでも、お婆ちゃんの言葉を心に残して今日まで生きてきた。
そんな私も、明日から高校生になる。
「あぁ〜楽しみだなぁ〜」
自室のベッドであれこれ妄想しながら、本棚に目をやる。そこにはビッシリと少女漫画が収納され、心はすっかり恋する乙女。
暗い、モノクロ中学時代は終わり。わざわざ中学時代の人が誰も行かない高校を受験したのだから、あとは素敵な恋をすればバラ色高校ライフの始まりねっ!
「早く明日にならないかなぁ〜?」
「茶子!ちょっと手伝ってー?」
「はーい」
んもう、折角妄想してたのにぃ!
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翌朝。
「遅刻するっ!!」
「茶子がのんびりしてるからでしょ⁉︎」
「お母さん、トースト無いの⁉︎」
「朝はご飯でしょ⁉︎お茶漬けして良いから早く行きなさい!」
「そ、それだと曲がり角で衝突して急いでるからってなって教室であ、あの時の!ってならないでしょ⁉︎」
「何バカな事言ってるの!それならお茶碗持って走りなさい!ああ、お父さん起こさなきゃ!」
お茶碗持って走れるわけないでしょ!
でも早く行かないと本気でヤバイ!
くっ、ここは諦めて行こう!
熱々ご飯に梅干しと緑茶をかけて、お腹に押し込む。
お箸とお茶碗を洗いカゴの中に入れて、玄関を飛び出した。
「本当にギリギリじゃ無いのよもう!」
ブレザーのポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。
これはお婆ちゃんの形見で、戦死したお爺ちゃんの遺品だそうだ。
その正確さは折り紙付きで、今も現役で動き続けている。
高校は、家から徒歩十五分ほどに位置していて、かなり良いところに引っ越したと思う。
…っと、校門が見えた。
チャイムはまだ鳴って、あぁっ!なり始めたよ!でもまだ大丈夫っ!なり終わるまでが本当の勝負なのですからっ!
「はいダメ、遅刻」
突然、門の前に立っていたスーツの人 (多分この高校の先生だと思う) に呼び止められた。
「ちょ、何するのよ!まだ鳴り終わってないじゃ無い!」
「他の学校は知らないけど、この高校じゃ鳴るまでが登校時間なんだ。君、新入生だろう?クラスが分かったら指導室に来なさい」
「お願いします、一秒ぐらい見逃して下さい」
「君一人を許したら、他の生徒も見逃さなきゃいけなくなる。だからそれは出来ないんだよ。さ、名前を言いなさい。生徒証明書はまだ貰っていないだろうからね」
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静かな廊下。別に先生がいるから、と言うわけでは無く、話す相手がいないからだと思う。
同じ中学の人達でさえ、ヒソヒソと駄弁っている程。
そんな廊下を歩き、自分のクラスに辿り着く。
先生はまだ来ていなかった。
教室に入り、黒板に張り出されている座席表を確認し、席に着く。
少しして、このクラスの担任が入ってきた。
思わず、目を逸らす。
ーーあ、朝の人だ!最悪っ!
入ってきた担任は、今朝私に遅刻宣言を下した先生だった。めちゃくちゃ居づらい。
「俺がお前らを一年間面倒見る先生だ。甲賀信夫と言う。俺は面倒が嫌いだからな、くれぐれもトラブルは起こさんでくれ?例えば、初日から遅刻した上にタメ口で逆ギレしたりとか」
チラリと、こちらを見る。
目を合わせず、焦点をぼかした。
「んじゃ、主席とるぞ?名前呼ばれたら、簡単な自己紹介を頼む。まずは…」
出席番号順に呼ばれ、私の番になった。
「西山」
「はい、西山…です。趣味はゲームとマンガです。最近はCDOにハマってます、よろしくお願いします」
ふぅ、なんとか乗り切れた。
一安心し、席に着こうとすると。
「西山、下の名前を言い忘れてるぞ」
「……」
わざと言わなかったんですけど?
甲賀先生は、善意で言っているつもりらしい。抜けた顔をしてこちらを見ている。
「…西山…茶子、です」
名乗った瞬間、周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
やっぱり、高校デビューは果たせなかったか…もう終わりだ。
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「あの、茶子さん。一緒に帰りませんか?」
「あ、ごめんなさい。このあと指導…甲賀先生に用事があって」
「そっか、じゃあまたね」
随分と馴れ馴れしい人だった。
高校初日で一緒に帰ろうなんて普通は考えつかないだろうけど。
…あ、指導室行かないと。
嫌だなぁとか、早く帰ってゲームしたいなぁとか、そんな事を考えているうちに指導室に辿り着く。
「失礼します、甲賀先生はいます…いらっしゃいますか?」
「おう!待ってたぞ、西山。今日はクラスに注意事項を言い忘れたからな。西山は皆より早くそれが知れるぞ」
「知りたくもありません」
「まぁ、そう言うな。早く生徒証明書をだせ。遅刻スタンプが付けられん」
「遅刻スタンプぅ?」
生徒証明書を差し出し、それを広げて何やらスタンプをポンと付けた。
「遅刻スタンプだ。一度の遅刻でスタンプ半分、無断欠席一回でスタンプ一個だ。そして、スタンプが四五個貯まると退学になる」
甲賀先生の話を聞いていると、指導室の扉が開いた。そこから、一人の男子生徒が出てくる。
「こがっち、持って来たぜ。これが今回の報告書、前回の報告書のまとめ、んでこれがオヤツのスイカバー」
「おう、悪いな会長。いやぁ、これが食べたかったんだよ」
「そっちじゃねーだろ?会議報告書まとめろよ。こがっちの仕事だろうが」
「まぁそう言うなよ。俺がやるより、会長がした方がわかりやすいんだよ」
なんなのだ、この人は。
仮にも教師にタメ口とは、命知らずも良いところだと言うのに。
会長、と言うからには生徒会長さんなのだろうけど。
「なーなーこがっち、そんでこの可愛い子はどちら様?」
「かわ…⁉︎」
「こいつは今年からの新入生で、俺のクラスにいる」
「フーン、で?なんでここにいんの?」
「今日遅刻したからスタンプ押しに来させた」
「へぇ、俺と一緒か!懐かしいな」
「そういえば、お前も高校初日に遅刻したんだっけ。それが今や生徒会長さんだからな…あ、そうだ。西山、お前生徒会入れ」
………ん⁉︎
「にゃにお言ってんですかあにゃたは⁉︎」
「噛みまくってんな、可愛いぞ。こがっち、この子生徒会に入れるのか?」
「お前ら気が合いそうだからな」
「この猫ちゃんが入るなら、俺は毎日でも働くぜ?」
「それは良いことだ。俺の仕事が減る。頼んだぞ、西山」
「いや、私の意見は⁉︎」
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生徒会の仕事は忙しい。
朝は校門で遅刻宣告をしなくてはいけないし、毎週土曜日は生徒会会議をして今後に繋げなくてはいけない。
校則厳守はもちろん、先生の雑用もこなすのは当たり前。
「あの、会長。これ一つも守れて無いですよね」
「え、なんで?」
「私、この学校に来て一ヶ月経ちましたけど。会長を朝から校門で見たこと無いですし、会議って言っても生徒会には私と会長と各部長さんしかいないし、校則厳守どころか授業サボるとか人としてどうかと思います。あと、そろそろ会長の名前教えて下さい。いつまでも会長としか呼べないのはなんか嫌です」
私が生徒会に入らせられて一ヶ月。
学校にも慣れ、それなりに楽しんでいる。
「名前って言ったらさ、俺西山さんの下の名前知らないんだけど?いつも言ってるけどさ、それさえ言ってくれれば解決するのに?」
また痛いところを突かれた。
いつもこうして逃げられる。知っておく必要性は無いけれど、何かの時に「会長」では、いささか抵抗があるのだ。
「…そういえば、どうして生徒会なのに他の生徒がいないんですか?」
「さぁ?結構な頻度で来るけど…二、三日で皆やめちゃうんだよね、なんでだろうね」
それは会長が自由すぎるからです、とは言えず。
「なんででしょうねぇ?」
そう答えるしか無かった。
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「西山さん、これ、こがっちに渡して来て?」
「はい、わかりました…って会長、最終確認の所、空欄ですよ?」
「え、そうなの?じゃあ代わりに書いといてよ。誤字脱字のチェックは済んだし、あと残ってるって言ったら誰が見たかの名前記入でしょ?」
「…はぁ、会長は本当にサボるの好きですね。まぁ、もう慣れましたけど」
ペンケースからシャーペンを取り出し、名前を書いていく。
その中に、生徒番号というのがあった。
私の生徒番号…?そんなの覚えて無いよ…生徒証明書に書いてあるかも…あ、あった。番号は348……よし。
「じゃあ、行って来ます」
「いってらー」
私は、報告書を持って指導室に向かう。その途中で、生徒証明書をブレザーのポケットに戻していないことに気付いた。
足の向きを変え、生徒会室に戻る。
「ど、どうした?」
「すみません、忘れ物しました」
「そうか」
「どうかしましたか?」
「んにゃ?なにも」
再び生徒会室の扉を開け、指導室に向かう。
「甲賀先生、報告書持ってきました」
「お、ありがと。それにしても西山、シゲトはどうだ?ちゃんとやってるか?」
「…シゲ…ト?」
「おう…あ、お前らまさか自己紹介すらしてないんじゃ無いだろうな?…全く、これだから最近の若い奴は…良いか? 樽油重人っていうのが会長の名前だ。お前も早く名乗った方が良いぜ?気持ちが楽だからな」
甲賀先生の言葉は、最後まで聞けなかった。
何と無く、名乗りたく無い理由がわかったから。
そしたら、なんだか居ても立ってもいられなくて。
「あ、そうだ西山。スイカバー買って来てくれ」
「自分で行って下さい」
「え、アッハイ…」
急ぎ足で生徒会室に戻る。
「あの、会長ッ!」
「お、西山…か…その、だな。俺、お前に謝らなきゃならん」
「会長…その、私。会長に謝らなきゃなりません」
大概、私の名前を知ると、イジメてくる。
それが嫌で、私は逃げた。逃げた先が〈CDO〉で、私はそこで〈茶子〉と名乗り、違う自分を作り上げた。
話の番外編を書き始めました。
訂正→祖母の形見を修正。懐中電灯から懐中時計に。
懐中電灯で時計は見えません。
ご愛読ありがとうございます。