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第三話

 ソーサラーとはソーサリーと呼ばれる力を操る者の総称だ。

 強化器官を得る事で霊気保有量や霊気放出量といった霊気能力が文字通り桁違いに上がり、取得したファースト・ソーサリーによってソーサラーへと成る。

 厳密に言えばファースト・ソーサリーは誰もが生まれた時に得ているとされている。ただ、霊気能力が足らない為に使える状態にないだけなのだ。

 そして、それを使えるようにする強化器官は未だ不明な事が多い。

 そもそも得る為の正確な条件すら解かっておらず、それが故にどの国でもソーサラーを量産するという事は出来ないでいるのだ。

 因みに強化器官と言っても身体の内部にあるわけではなく、それぞれの人類種に発現する各強化器官は全て外部に発現する。

 例を挙げれば、ヒューマンの強化器官は『神紋』と呼ばれる左右どちらかの手の甲に現れる光る紋様である。


 では、ソーサリーという力は一体どういう力なのだろうか?

 端的に言えば本来この世に存在しない不思議な力である。

 対象を攻撃するものであればアタック・ソーサリー、逆に対象を防御するものであればガード・ソーサリー、自身の能力を強化するものであればブースト・ソーサリー、対象に何らかの支援をするものであればサポートソーサリー、最後にそれ以外の特殊なものをスペシャルソーサリーと分類している。

 霊気という生命体ならば誰もが持つものをエネルギー源にして発動するもので、例えば炎の弾を生み出したり、例えば雷の槍を撃ちだしたりできるし、身体能力の強化といった事も出来る。

 但し、上で上げた炎の弾などは実際には炎のようなもので出来た弾である。

 自然に生まれる炎に似た性質を持つが、操る本人が指定した対象以外を燃やす事はないし、逆に自然の水で消火する事も出来ない。

 あくまでも霊気を元に作り出された炎のようなものなのである。

 それは炎だけでなく他のモノにも当てはまり、それが故にソーサリーの属性は炎や水、ではなく赤や青という風に該当属性を持つソーサラーの霊気の色による区別がされている。

 人類種が持つ属性は全部で七つ存在し、各属性にはそれぞれ相性や特徴もあるがそれは別の機会に説明する事にしよう。

 

 ソーサリーにはファースト・ソーサリーと呼ばれるものとアーティーファクト・ソーサリーと呼ばれるものの二種類が存在する。

 ファースト・ソーサリーとはソーサラーになった時点で発現する力であり、ソーサラーの身体を変質させる身体変化またはトランスフォームと呼ばれるソーサリーもファーストソーサリーの一つである。

 アーティーファクト・ソーサリーはファースト・ソーサリーの一つである聖霊武装創造またはクリエイト・アーティーファクトにより生み出されるアーティーファクトを用いる事で使う事が出来るソーサリーだ。

 ファースト・ソーサリーは言わばソーサラーではない者をソーサラーという存在に変質させる為のものであり、アーティーファクト・ソーサリーこそが力としての本来の意味でのソーサリーだと言えるだろう。

 つまりその力を生み出すアーティーファクトはソーサラーにとっては唯の武器ではなく、ソーサリーという力をこの世に発現させる為の媒介に等しい。


 例えどういう風な特徴を持つソーサラーであろうとその性質上アーティーファクトは必ず所持している。

 どのようなソーサリーを使えるかは自身のアーティーファクトがどのようなソーサリーを備えているかによるだろう。

 この備えているソーサリーやアーティーファクトの形態などはソーサラー自身の性質によって決定される。

 アーティーファクトには一番下がGで一番上がSSのランクが存在し、このランクが上がっていく程所持するソーサリーの数も増え、更に質も向上する。

 つまるところアーティーファクトのランクは、そのままそのソーサラーの力と言うのに等しいという事になる。





「要するにアーティーファクトのランク上げは重要だよって事になるわけだけど……俺は滅魔とか倒しても上がらないからあまり関係ないけどね」」


「グゥオオオオオオオ!!」」


 直人の独り言をかき消すように神界に獣の咆哮が響き渡る。

 しかし、威嚇のつもりであろうその咆哮に、直人は全く動じずに腕を組んだまま目の前にいる獣を見ている。

 その見た目はワニに似ているが、鱗はくすんだ青色をしており、大きさは直人の目測ではあるが十メートルを超えているのではと思うほどある。

 神々の分身によると、アルファレルでクリムトと呼ばれる滅魔であるらしい。

 滅魔は獣や生命種を元にしたものも存在するらしく、例えばゴブリンはヒューマンを元にしたものとの事だ。

 このクリムトは額に黄色い石が二つ存在している。

 つまりはカテゴリ八に当たる滅魔という事になる。


(そう言えばアルファレルの世界の単位ってやっぱ地球と違うよね)


 今も唸りながら睨んで来る滅魔を前に、直人はそんな事を考えていた。

 直人の周囲にゴブリンの時とは違い、七つの球体のようなものが浮かんでいる。

 球体といってもそれは何かしらの素材で出来たボールやエネルギーの塊のようなものでもなく、白く塗られた球体の形をした機械のように見える。


「グガァッ」


 不意にクリムトが短い雄叫びをと共に口から鉄砲水のような勢いの水を吐き出す。

 直人くらいならいとも簡単に飲み込んでしまいそうな水流を前に、しかし直人はそれを避けようともせずにその場に立ったままだ。

 ドンッ

 直人を飲み込まんとしていた水流は直人の手前で何かに激突でもしたかのように塞き止められた。

 では、その何かの正体では何だろうか?

 答えはフォースシールドと呼ばれるソーサラーなら全ての者が備える防御壁だ。

 フォースシールドはソーサラーが持つ霊気によって生み出された壁である。その見た目は透明な為、パッと見では何もないように見えるが、ソーサラーや滅魔であればその存在を感知できる。

 当然クリムトもその防御壁があるのを感じ取っており、それを破壊する為に水流による攻撃を行なったのだ。

 だが、直人のフォースシールドの防御力とクリムトの水流による攻撃力には決定的な差があるのか、フォースシールドが難なく受け止めたようだ。


「グゥッ」


 それを予測していたのか、それともただの動物的感なのかは解からないがクリムトはシールドと水流が激突した直後には動き出していた。

 その動きはその大きさからすると驚くほど速く、人をあっさりと引き裂きそうな爪が生えた前足を大きく振りかぶる。

 だが、その前足が振り下ろされる前に直人の周囲に浮かんでいる球体の一つが淡く輝き、数個の白光球が生まれたと思うとクリムト目掛けて最初に一つ、時間差で二つ飛んでいった。

 パッキィンッ、ドンドンッ

 フォースシールドに類するモノは滅魔も備えており、当然クリムトの周囲にも展開されている。

 しかし、そのクリムトのシールドは白光球の一発によりいとも容易く砕け散り、その残滓の瘴気が粉雪のように舞い散るのを振り払うかのように時間差で飛んでいった二つの白光球がクリムトへ直撃する。


「グォウルグゥッ!?」


「サジタリウス」


 直人の呟きと共に直人の手に白光の弓が生み出された。

 白光で出来た弦を引くといつの間にかそこには矢が現れていた。

 元々直人は弓道をした事があるわけでもなければ、弓を触った事もない。故にその弓矢を構える姿はテレビで見た事あるものの見よう見真似であり、適当と言っても良いくらいだろう。

 だが、それとこの弓矢が正常にその力を発揮するかは関係はない。

 何故なら弦を引く事――それこそがこの弓矢が力を発揮する為の儀式のようなものであり、それさえ行われていれば例えどんな体勢であろうとも矢は思い描いた場所へと飛んでいくのだから。

 ズドンッ

 既に身を守る障壁もなく、体勢を立て直す時間もなかったクリムトはその身を白く輝くその矢に貫かれた。


「グゥオオオオオオォォゥゥ……」


「まだ完璧ってわけじゃないけど一応は慣れつつあるって感じかなー。まるで暴れ馬を乗りこなそうとしているような気分だよ」


 苦しげな断末魔も段々と小さくなっていく中、直人は自身の手の中にある白く光り輝く弓を消し去り満足そうな様子を見せる。

 直人がこの戦いで見せた三つの力は当然ながらソーサリーと呼ばれるものだ。

 フォースシールド、フォースボール、サジタリウス。

 それらが今回直人が使ったソーサリーのそれぞれの名前になる。

 フォースボールはフォースシールド同様に誰もが備えているベーシックと分類されるソーサリーだ。自身の霊気を球状に変化させただけであり威力はそう大したものではないが、その分素早く手数を出せるのが長所と言える。

 サジタリウスは今回使ったものの中では唯一のアプリケーションと分類され、対象を光の矢で攻撃するソーサリーで、その名の由来は元の世界の星座の一つだ。

 その威力は一般的なソーサラーがパーティーにて討伐するカテゴリ八を一撃で倒した事からも知れるというものだ。

 

「ラグナロクを十分に使いこなせるようになったようだな。しかし、随分と変わった形態にしたものだ」

 

 ラグナロク。

 直人がいた世界では北欧神話の世界における終末の日の事なのだが、この世界においては神々が扱うアーティーファクトの事である。


「俺は武道とかやった事ないですからね。だから、剣とかそういうのにしてもその形状を使った技術を使えない。となると、そういった武器の形にする必要性がないんですよ。かと言って、その技を習うとなるとまた時間かかりますし。この形状なら両手も自由になりますし、身に纏わせるわけでもないから行動するのに違和感を感じる事もない。他にもこの形にした理由はありますけどね」

 

 直人のラグナロクは名称を北斗七星と言う。

 直人の周囲に浮かぶ球体は七つで一つのラグナロクなのである。

 今回は使用されなかったもののこのラグナロクには他のアーティーファクトには存在しないであろう機能が存在する。

 例えば――攻撃に対する自動防御。

 ソーサリーの使用には別段長い呪文などは必要としない。

 しかし、例外的に自動で展開されるフォースシールドを除きソーサリーの使用にはそれを使う事を意識し、そのソーサリー名を言葉にする必要がある。

 その手順を踏んで始めてソーサリーがこの世に発現するのだが、直人の場合は自分を守る為のガード・ソーサリーにこの手順を必要としない。

 自動で展開し、最初に発動したガード・ソーサリーが割られかけたり、または耐え切れない程の攻撃を感知した場合には別のソーサリーを展開する。

 今回の戦いでフォースシールドのみしか展開されていなかったのは、単純に自身のフォースシールドの防御力を確かめる為にあえてそうしていたのである。

 他にもそのような特殊な機能が存在し、それを実現させるのに一番直人にとってやり易い形態が今の北斗七星だっただけの話だ。

 

「まぁ、ファンタジーものなら敵にこういうのを使う人が出てきたりするけど、立場的には勇者とかそういうポジションの自分が使うのはどうなんだろ?」

 

 生み出した後に考える事ではないと思うが、直人自身も便利で強力なら別に良いかと直ぐに考えるのを止めた。

 

「だが、最初に言った事は忘れないようにな。そのラグナロクはまだ不完全だ」

 

「えぇ、解かってますよ」

 

 釘を刺す言葉に直人は頷きながら答える。

 直人のラグナロクはまだ完成し切っていない。

 それは直人の神格がまだ足りてないのが原因だ。

 今の直人は魂に神の力の塊を宿した事により、既に人間ではなく神に近い存在へと変化を遂げている。

 だが、神格はまだ低くそれは完全ではない。

 その為にラグナロクもまだ完全には力を発揮できる状態にはないのだ。

 

「ラグナロクを完成させるには神格を上げるしかない。そう、ソーサラー達が自身の力を強くする為にアーティーファクトのランクを上げるように」 


「その為には眷属を作るしかない。そして、それは俺の目的にも繋がる」

 

 直人の目的はハーレムを作る事。

 勿論、ただ綺麗な女性が沢山いれば良いというわけではないが、そこは実際に行動する直人次第だ。

 いつも夢で見てきたこの世界は凄くドキドキワクワクする世界だ。

 当然の事だが、現実の世界でもあるので辛い事ととかそう言った事も沢山溢れているだろう。それが生きるという事でもあるのだから。

 だけど、それを理解しつつも直人はこの世界を楽しもうとしている。

 元の世界にだって楽しい事もいくつもあった。ならば、この世界にだって楽しい事はあるはずなのだ。


「さて、例の話はそろそろ決めたか? どのような能力を望むのか」


「そうですね……とりあえず、三つ。対象は自分及び眷属で状態異常無効化、眷属を自分の下に空間移動させるもの、最後に自我を持たない戦力を召還するもの。この三つでお願いしたいんですけど、どうでしょう?」






 部屋の中央にある魔法陣が光り輝き始め、更に光の粉のようなものが部屋の中を舞い始める。その光景はさながら部屋の中なのに雪でも降っているかのようだ。

 この光景を見るのはオーレリアとクリスティンは初めてではない。

 先日、直人がこの世界に来た時にも同じ光景を目撃しているのだ。

 つまりそれが意味するのは、神界へと向かった直人が再びこの世界へ現れようとしている事に他ならない。

 あの時と同じように次第に光が強くなり、いよいよ何も見えない程になる。

 そして、その光が一瞬で消え失せた。

 

「神界から戻る時も同じなんだ……。眩しいから嫌なんだけどなぁ」


 まだオーレリアもクリスティンも聞き覚えるという程聞いてはいないが、穏やかそうでどこか掴みどころのないようなそんな声が聞こえてくる。


「お帰りなさいませ」


 異口同音に言いながら二人はお辞儀をする。

 オーレリアの流れるような長い髪とクリスティンの肩に届かないくらいで切り揃えられた髪が、それぞれ前へと流れる。

 そこには行った時と変わらぬ格好をした直人がいた。

 だが、顔を上げたオーレリアは直ぐに違和感を感じる。


(……爽やかな、空気? いえ、これは直人様から感じる気配?)


 爽やかな朝を感じさせる気配。この気配にオーレリアは覚えがあった。

 これは神々と交信する時に感じる気配に良く似ているのだ。

 そこでハッとなって気付く。

 

「直人様、もしかして今の貴方は……」


「お、流石に神使さん。もしかして解かったのかな? うん、向こうで神様達にちゃんと力貰って来たよ。お陰で随分昔にいたって言う魔神って名乗ってた人と同じような状態になったみたいだね」

 

 それはまるで今日の天気の話をするくらいの気軽さだった。

 しかし、言われた側はそうもいかない。

 事前の話では神の力を与えるとしか聞いておらず、実際にどういう風になるのか具体的にはオーレリアも知らなかった事なのだ。

 

「かの魔神と同じ状態に……」

 

 つまり直人は異世界に来ただけでなく、人である事を止める事をすら余儀なくされたという事になる。

 実際に力を与えたのは神々だが、それを願ったのはオーレリアだ。

 つまり責任は間違いなくオーレリアにある事になる。

 

「言っておくけど、これは俺が望んだ事だよ。神様達は人じゃなくなるって事はちゃんと説明してくれた上で俺が望んでこの力を得た。それは色々と考えた上で俺が自分で決めた事だから、必要以上に君達が責任を負う必要はないよ。君達が俺のものになるという報酬で俺が納得してるんだからね」

 

 僅かに固くなった表情を見て、気軽さをそのままに告げる直人。

 直人とて何も考えずに気軽に呼び、更には倒してこいというような命令をされていたら、素直に言う事を聞かず力を手に入れたらこの国を出てから一人でどうにか生きていく事を考えたかもしれない。

 だが、オーレリアは直人に願ったのだ。

 ならば、その願いを受けるかどうかは直人次第、という事になる。

 そして、直人はその願いを自分の意思で受けたと言っているのだ。

 直人の言わんとしている事を理解し、オーレリアは柔らかい笑みを浮かべる。

 

「ところで……お昼ご飯ってあるかな? 向こうじゃ七日間くらい過ごしたけど、食事とかはいらなかったから問題はなかったんだけど……」

 

 直人のお腹が盛大に鳴る。

 それはさながら何日も食べてないというくらいに大きな音だった。

 

「こっちに戻ったらすっかりお腹減っちゃって……」

 

 自分のお腹を擦っているその様子は本当にひもじそうだ。

 くすくすとオーレリアはさもおかしそうに口元に手を当てて笑っている。

 

「別室にご用意をさせて頂いています。では、ご案内の方をさせて頂きます」

 

 笑っているオーレリアの代わりに答えたのはクリスティンだ。

 どうやら別室に既に昼ごはんがあるらしいと解かった直人は、一礼した後にクリスティンが扉へと向かう前に既に扉を開けていた。

 

「昼ごはんが、俺を呼んでいる!」

 

「……直人様、お昼は逃げませんので落ち着いて下さいませ」

 

 

 

 

 

「ふー、美味かったー!」


 グラスに入った水を飲み干し直人は満足したように大きく息を吐く。

 実際満足したのだろう。

 出されたチキンライスに似たご飯料理を四回もお代わりしたのだから。

 まだ若いとは言え育ち盛りは過ぎている。その量を見ればどれだけお腹が空いていたのか解かると言うものだ。


「いや、本当に美味しかった。この料理は専属の料理人さんが?」


「いえ、それは私とクリスティンで用意したものです」


「え、オーレリアさん達が?」

 

 その言葉に思わず目を丸くして驚く直人。

 まさかの王女の手作り料理とは想像もしていなかったのだろう。

 

「はい、私はクリスティンと共に直人様の身の回りのお世話をさせて頂くつもりですので、メイドとしての修行も積んでいますから」」

 

「なん、だと……?」

 

 その発言を聞いて直人は即座にオーレリアがメイド服を着て料理をしている姿を頭の中に思い浮かべた。

 より正確に思い浮かべれるように視覚情報を閉ざし、イメージに集中する……と言えば格好良いが、要は目を閉じて妄想に集中しているだけの話だ。

 

(……有りだな)

 

 閉じていた目をカッと開き、その心境は悟りを開いたかのよう。

 しかし、本人の中で下された答えは当然ながら周囲からは解からない。

 解かる事と言えば目を閉じて何か考えていたと思ったら、突然目を開いたという事くらいだろうか。

 きょとんとしているオーレリアを見て、直人は気を取り直すように咳を一回してから気になった事を質問する事にした。

 

「ところでこの料理に入っていたのって鳥肉で良いのかな?」

 

「はい、この近辺に生息するトイレス鳥という鳥の肉になります」

 

 唐突な直人の質問に答えるのはクリスティン。

 オーレリアの後ろにまるで変わらずに控えているその立ち姿は、まるで今の質問を想定していたかのようにすら見える程堂々としている。

 

「ふーむ、なるほど……」

 

「どうかされましたか?」

 

 流石に質問が唐突過ぎたのかもしれない。

 オーレリアの顔にも不思議そうな表情が浮かんでいた。

 

「いやね、俺の元の世界にはエルフって種族は実際にはいないんだけど、創作の物語にエルフが出てくるものはあるんだ。で、大抵エルフは肉を食べないっていう風に認識されているんだけど、肉が出てきたから普通に食べるんだなーってね」

 

「なるほど……そうなのですね。基本的にエルフとヒューマンの方々で食べるものに差異はありません。野菜や果物も食べますし、お肉も食べます。まぁ、個人個人で好き嫌いは当然ありますけども」

 

「なるほどねぇ……」


(食事は基本的にあまり地球と変わらない感じなのかな? 科学は発達してなさそうだからどういう風に調理しているのか良く解からないけど……。少なくとも味に関しては問題ないどころか美味しかったし、まぁ、良いか)

 

 最終的に美味しければ良しとなってしまうのが性格か。

 とは言えども、大半の者にとって食事が自分の口に合うかどうかはかなり重要な事として上げられる事だろう。

 

「ところでオーレリアさん?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「俺はですね、こう思うんですよ。自然体でいるには回りもまた自然体でいる必要があるんじゃないのかと」

 

「……はい?」


 小首を傾げるオーレリアの姿は大分可愛らしかった。

 この姿を見ただけでも言い出した価値はあったが、それで終わるわけにはいかない。

 

「要は直人様はオーレリア様にもありのままの姿でいて欲しい、と言われているのではないでしょうか?」


 クリスティンがオーレリアの後ろより助け舟を出す。

 会ってから一回たりともその表情が動くところを直人は見ていないのだが、何故か今はほんの僅かに笑顔が見えたような気がした。本当に僅かだったので、ひょっとしたら気のせいかもしれないが。

 

「え?」


「そりゃ、元々の立場が王女様な上に神使なわけで、更には俺とオーレリアさんの立ち位置も中々難しいものだけどさ。俺のものって言っても、俺は別に奴隷とか欲しいわけじゃない。凄い我侭を言ってると思うけど、もっと対等な関係を築いていきたいんだよ。そう、あくまでも例えばだけど恋人とかそんな感じのね」


「こ、恋人……」

 

 立場的に恋人なんて今までいた事がないオーレリアは、その言葉に思わず恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 そもそも恋人どころか本来の意味での友人すらほんの僅かにしかいない。

 

「勿論、いきなりそんな事を言われても困るって言うのは解かる。俺が言いたいのはそんな風な関係を築いていきたいって事なんだ。オーレリアさんとクリスティンさんの二人とね」


「……私はオーレリア様にお仕えするメイドです。これからは直人様にもお仕えさせて頂きますが、そこは変える事ができません」


 先程の僅かな笑顔はやはり気のせいだったのかと思うほどキッパリと断言する。

 だが、直人は気を悪くした様子もなく、逆に解かっていると頷いた。


「うん、それは解かってる。そこは変える必要はないよ。けど、メイドさんである事と俺とそういう関係を築いていく事は両立できるんじゃない? 恋人って言うのはまぁ、置いておくとしても親密な関係になる事はできるはずだよ」


「……解かりました。直人様の言われる事も尤もだと思います。直ぐには無理だと思いますが、私は王女としてや神使としてではなく、オーレリアという一個人として貴方と共にありましょう」

 

 オーレリアはふわりとした柔らかい笑顔を浮かべる。

 それを見て、やはり女性は笑顔が一番だなと直人は思う。

 

(いつかはクリスティンさんの笑顔もちゃんと見てみたいところだなぁ)

 

「……出来るかどうかは直人様次第、とだけ言わせて頂きます」

 

 いきなりクリスティンにそう告げられて思わず直人はギョッとした。

 表情を動かさずまるで何もなかったかのようにそこに佇むメイド。

 その言葉の意味が解からないオーレリアは二人の様子を交互に見るが、それでもやはり何も解からないので小首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 そこには一切の光が存在しない。

 まるでその空間そのものがくらい闇そのものであるような錯覚さえ覚えそうだ。

 そこに存在するのはそんな冥き闇と全てを呑み込み滅ぼし殺し尽くしそうな程の死と滅びの気配だけ。


「忌々しい事だ……我らが直接動けさえすれば今すぐにでもこの世界に滅びを与えてやれるというのにな」

 

「仕方のない事さ。何せ生命の神々によって作られているからねー。幾ら僕らと言えどもどうしようもない」


 地の奥深くから響くようなそれだけで全てを潰しそうな声と女性かもしくは子供のようなどこか無邪気な声。

 全ての生を否定するかのようなそんな空間にいる彼らは一体どのような存在だと言うのだろうか。


「セクトとミクトランの様子は?」

 

「相変わらずだね。まぁ、これも仕方のない事だよ。僕らの存在意義はこの世界を滅ぼすというその一点のみ。だからこそ、その一点を自らの手でと考える事は何らおかしい事ではない。僕達の方が異端なんだよ」

 

「確かに、な……。そういう意味では貴公とだけでも協力できるのは僥倖ぎょうこうというべきか。本来ならばそれすら難しいという事だからな。……神使の連中は魔神とか名乗ったあのふざけた男の同類を呼ぶと思うか?」


「同類かどうかは解かんないけど、手は打ってくるだろうね。だけど、あの時と状況は随分変わってる。あの邪魔な竜もその数を随分と減らしているし、向こうの戦力そのものが相当下がってると見て良いと思う」


「うむ……。我らが神を呼び出そうとしている事は奴等も理解しているだろう。だが、計画の全てを知ってはいない。我らの手でこの世界とこの世界に在る全ての生命に真なる死と滅びを与えてくれよう」

 

「うん、僕も今から楽しみだよ。きっと良い絶望を見せてくれるよね、心地良くなるような悲鳴を聴かせてくれるよね。あぁ、本当に楽しみだなぁ」

 

 片方は炎のような強い決意、片方は背筋が寒くなる程の無邪気さを秘めた声。

 彼らが言う計画に対する感情はそれぞれ違うようだが、その感情が強くなる従いその空間に満ちる滅びと死の気配も濃くなっていく。

 この世界に滅びと死をもたらす事こそが彼らの本懐であるが故に。

神界での修行は所謂RPGで言うチュートリアル。

最後の相手は最初のボス戦みたいなもの。

神界とアルファレルとの時間軸はズレていて今回の場合は七日間のズレでした。

食事は必要としないけど睡眠はとってました。

最後のシーンは……こういうお話だとほぼ必須と言って良い感じのシーンです。

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