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第二話

 アルファレルという世界には現在三つの生命種と呼ばれるものが存在する。

 一つ目は自然種と呼ばれるものであり、獣と妖精の事を指す。この世界そのものが生んだとされ、世界の意思が具現化したものとも言われている。

 二つ目は竜種と呼ばれるものだ。生命の神々八柱が最初に生み出し、その力は全ての生命種の中でも最強と言われているが、今ではその数は多くない。

 最後になる三つ目は人類種である。竜種の後に生みだされ、地球の人間に近い姿をしており、現在では最も数の多い生命種である。


 これら生命種と世界を脅かす存在が、滅魔と呼ばれる者達である。

 神代に突如として現れた『全てを滅ぼすモノ』が、生命の神々に敗れた際に世界に残した自身の分身のようなものである。

 『全てを滅ぼすモノ』がそうであったように、滅魔は世界と世界に存在する全ての生命を滅ぼし尽くすのが唯一の存在理念だ。


 この滅魔に対抗できるのはソーサリーと呼ばれる力を操るソーサラーのみ。

 ソーサラーは特別な資格が必要なものではなく、また種族による括りさえない。あくまでもソーサリーを操る者をソーサラーと呼んでいるに過ぎない。

 ソーサリーと呼ばれる力は霊気と呼ばれるエネルギーを糧とし、本来この世界には存在しない強い力を生み出すものである。

 一部の種族――竜種やイスギラス、妖精にとってはソーサリーとは当たり前に持っている力な為、使えない個体は存在しない。


 霊気とはエーテルという世界が生まれた時より存在する目に見えないエネルギーのようなものを、生命種が持つ魂の力により変換したもので、その保有量こそ差はあれど生命種はこの霊気をその身に宿している。

 但し、妖精だけは例外であり、その身そのものが霊気の塊であり、霊気生命体と言われ他の生命種とは一線を画す存在となっている。


「ここまでで、何か不明な点はあるか?」

 

 無機質な声が太陽に似た光に照らされた空間に響き渡る。

 広さこそかなりのものだが、物は殆どなく唯一あるのは様々な色をした柱くらいなものだ。

 しかし、この空間はどこか朝を思わせる澄んだ空気に満ちていた。

 現在、ここに存在するのは直人と各々違う色をした八個の水晶で出来た六角柱のような物体――生命の神々八柱のみ。正確には目の前にいるのは、その分身であるらしいが。

 現在、直人はオーレリアが神界と呼んでいた場所に来ている。目的は目の前にいる生命の神々八柱に会う為。

 ここで神の力とやらを貰う予定になっているのだが、その前に様々な説明をして貰う事となり、現在へと至る。

 

(うーん、声が全部一緒で区別が付かないけど……まぁ、付ける必要もないのか?)


「えーと、貴方達は生命の神々八柱の分身って話ですけど、アルファレルを作った創造神とやらはその内の一柱、で良いんですか? その神様がこの世界を作ったって聞きましたけど。後、貴方達の本体はどうなったんです?」


「生命の神々八柱もまた創造神に作られし者。創造神は全くの未知の存在であり、詳細は不明である。この世界を創造し、生命の神々八柱を生み出した後は神々に世界を任せ、この世界より去っていった。我らの本体は全てを滅ぼすモノとの戦いの後、残りし力を使いこの世界の生命種が生きていけるように改変を行った。そして、我ら分身を生み出した後に力を全て使い切った為に消滅した」


「うーん、なるほど……。貴方達の本体、つまり生命の神々八柱というのは生命を生み出した神々って事で良いんですよね?」


「その通りだ。その呼び名自体は人類種が付けたものであるが」


 なるほど、と頷きながら頭の中で整理を始める。

 この説明の中で解った事だが、この世界はどうやら直人が毎日夢で見ていた世界に近い――いや、恐らくは同じ世界なのだろう。

 何故、この世界の夢を見ていたのかは不明だが、恐らく偶然ではないだろう。

 気にはなるが、今、大事なのはこれからすべき事に必要な情報を得る事であり、その為に必要な質問をしていく事にした。


「滅魔に対抗できるのはソーサラーのみって言ってましたけど理由は?」


「滅魔は全て滅ぼすモノが残した力――呪いと呼ばれているモノを核としている。その呪いの強さで滅魔の強さも決まるわけだが、呪いはエーテルを取り込み、それを元に瘴気と呼ばれるモノを生み出し、実体を作り出すのだ。つまり妖精に近く、瘴気生命体と言うべき存在となっている。霊気と瘴気、どちらも影響を与える事ができるのは霊気か瘴気による力のみ。例えどれだけ強かろうと、霊気も瘴気も関係していない力では滅魔を傷つける事はできない」


 その説明を聞いて、ふと疑問が浮かぶ。


「では、ソーサラーは? 普通の人との差はソーサリーが使えるだけで、ソーサリーじゃなくても傷付けたりできるんですか?」


「ソーサラーにはソーサラーとなった時点で発現する力がある。それはファースト・ソーサリーと呼ばれており、その中に身体をソーサラーの身体――霊質体に作り変えるものが存在する。妖精のように完全に霊気で作られたものになるわけではなく、あくまでも近い形になるだけだが、それでも今までの常識は通じない身体にはなる。例えば、自身の何十倍ものの重さを持つ物が落ちてこようがそれが霊気や瘴気を伴っていなければ傷付く事はない」


「……なるほど、そんな感じかー」


 それはつまりソーサラーとソーサラーでない者に隔絶した差がある事になる。それは様々な問題になり得るのではないだろうか。


「この世界に生命が生まれてから、大体どのくらい経っているんですか?」 


「約千六百年。滅魔が現れるようになってからは約千百年の時が経っている」


 この世界がその間にどういう進化の道を辿ってきたのかは解らない。

 しかし、それだけの時が経っているという事は、恐らく直人が思いつくような問題はずっと昔に起きていて、何かしらの解決を見ている可能性が高い。

 現在におけるソーサラーとソーサラーでない者のそれぞれの立場など、やはり気にはかかる事はある。だが、それはオーレリア達に聞いた方が良いと判断し、一旦置いておく事にした。

 

「しかし、それは要するにソーサラーを倒せる生命種もソーサラーだけって事ですよね。つまり、この世界において国同士の戦争とは、互いが抱えるソーサラー同士の戦いという事になる」


「その通りだ」


 その返答を聞き、直人は困ったような顔をしながら頭を掻く。

 半ば予想していた事ではあるのだが、予想していたからと言って困らないわけではない。

 直人がこの世界に呼ばれたのは、起こるであろう世界の危機を止める為、である。そして、世界が危機に陥る原因として高いのは滅魔の神と呼ばれている存在によって引き起こされる可能性が高いと言われている。

 自分の力がどれほどのものなのか不明な現在、まずは信頼できそうで且つ力のある仲間を集めるつもりでいた。

 しかし、オーレリアの話によれば、周辺の国の情勢が結構怪しいようだ。そうなると、下手をすれば国同士の戦争すら可能性が出てくる。

 つまりその戦争で戦力になりそうなソーサラーが死んでしまう可能性も出てくる。

 それは直人にとって、かなり頭が痛い問題になるだろう。


(うーん、確か国内部に問題を抱えている国もある、みたいな言い方してたなぁ。地球でも自国の優秀な人を自分の派閥じゃないからと排除したりする事があるからなぁ。この世界でも似たような事はありそうな気がする……)


 左遷されたり、少々の不遇な目にあっているだけならまだマシな方で、下手をすると暗殺されたり内々に処理されたりする可能性もある。

 こういうファンタジーものの大人向けの話で良くあるものだと、わざと不利になるような状況にして十八歳未満禁止な事になるとか、または敵に殺されたという虚偽報告をして、本当はどこかに監禁しやはり十八歳未満禁止な事になるとか。


(あまり国の中枢とかに関わる気はなかったんだけど……。この分だとオーレリア王女と相談して比較的友好そうな国と何とか関係を結んだ方が良いかもなぁ)


 直人は自身が授かるという神の力を交渉カードとして利用できないかと考えているようだ。

 勿論、その力の価値を高く見せる方法は必要になるだろう。

 そこでふとこの世界の言葉の事を思い出した。


「そう言えば、この世界の言葉ってどうなっているんです? この世界に来た時、いきなり日本語で話しかけられてビックリしたんですけど……」


「ツヴァイド大陸で主に使われている言語は共通語である森羅語と呼ばれるもの、そして、それ以外で目にする事が多いのはピルク語と呼ばれるものだ。言語の形態としては森羅語は君の使う日本語に近く、ピルク語は英語に近い。その為、直人が喋る言葉は日本語部分は森羅語として、英語やその他外国語部分はピルク語として自動翻訳されている。逆に直人が言葉を聞く場合は森羅語は日本語に、ピルク語は英語にという風に翻訳される。文字もまた同じように自動翻訳がされる」


「またそれは便利な……。つまりオーレリア王女が喋っているのは森羅語なのか」


「森羅語はツヴァイド大陸の共通語として認識されて久しい。どの種族であろうと、森羅語が通じない、という事はない」


「けど、ツヴァイド大陸のって事は他大陸ではまた違うんですよね?」


「その通りだ。だが、この世界では現在大陸間の交流はない。他大陸の言葉が必要になる事はまずないだろう」


 あまり盛んではないだろうなとは思っていたものの、全くないとは思わなかった直人はその返答に目をパチクリとさせて、


「それはまた何で?」


「この世界において、大陸から一定の距離が離れた海は航行可能な領域ではないからだ。かつてこの世界では生命の神々八柱と全てを滅ぼすモノによる戦いがあったのは話した通りだ。その戦いは大地、海、空全てに影響を与えた。四つあった大陸の内、二つは失われ、大陸より離れた海と空は混沌の領域と化してしまったのだ。それは今もまだ続いており、それが故に現存している二つの大陸の間に交流は存在しない」


「……千年以上経っても影響があるとか、流石と言うべきなのかなぁ」


 そのスケールの大きさにどういう感情を持てば良いのか解らないのか、呟く直人は何とも言えない苦笑を浮かべていた。

 実際、地球においては百年でも生きるのは限られた人だけだ。千年以上と言われても、ピンと来ないのも当然と言えるだろう。


「まだ聞きたい事はあるか?」


「おっと、まだ重要な事で聞いてない事があるんですよ。……世界の危機とやらが起きるのは具体的に何時なんです?」






 カチャッ。

 軽い音を立てて白いティーカップが同じく白いソーサーに置かれる。

 ティーカップは湯気を立てており、底の方に琥珀色の液体があるのが見えた。どうやら直人がいた時に出したものとはまた違う飲み物であるようだ。

 オーレリアとクリスティンは、直人を神界へと送った後、一旦オーレリアの自室へと戻っていた。

 直人がこちらに戻ってくるのは明日の正午丁度と決まっている。

 現在の時刻は午後五時を回っており、六時になれば夕食に向かう事になるだろう。

 因みにこの世界には時計というものが一応、存在はする。それなりに高価な物であるので、個人で所有する者は決して多くはない。

 勿論、第一王女であるオーレリアの部屋には置いてあるが。

 

「クリスティン」

 

「何でしょうか、オーレリア様」


 主の後ろに控えていたクリスティンは、その呼びかけに応えるのと同時に、僅かに前へと進み出る。 

 

「貴方から見て直人様はどのような方に見えた?」


「……背の高さはヒューマンの男性にしては高い方ですが、身体そのものは筋肉隆々というわけではなく、目立ったところはありませんね。顔の造形は良くもなく悪くもなくですが、あの真っ直ぐな視線は心惹かれるものがありますね」


 クリスティンはその質問に対して、全く表情を動かす事なく答え始める。

 最もこのメイドは普段から表情を動かす事がほぼないのを、オーレリアは良く知っているので、仮に表情が見える位置にいたとしても彼女は何の疑問にも思わなかっただろう。

 まずは外面の特徴から上げていっているようだ。

 但し、その評価は良いのか悪いのかかなり微妙な按配であるが。


「内面については流石にまだ判りかねる部分が多くありますが……女性への興味は一般的な男性とそう差はないかと思われます。少なくともオーレリア様と私にある程度以上の異性としての興味は持って頂けたようです。人となりは真っ直ぐなところもあり、悪い方ではないと思われますが……ちょっと個性的な部分もあるようで今の時点では多くは語れません」


「個性的、か。ふふ、そうね。面白いところがある方なのは間違いなさそう。ハーレムの話はどこまで本気なのでしょうね」


 オーレリアは楽しげに微笑みながら、その時の直人の様子を思い出していた。

 この世界において王であれば側室が存在するし、貴族や富裕層にも妾を囲っている者は存在する。だが、それは血を残すのが義務の一つであったり、またはそれを許されるほどの責任能力がある者ばかりだ。

 しかし、事前に聞いた話では直人はこちらの世界で言う平民のような立場であり、更には彼の住んでいた国は一夫一妻が制度により定められている。

 その為に複数の女性を囲う事に否定的な可能性もあり、彼を惹き付ける為にオーレリアとクリスティンを差し出すというのは懸念点でもあったのだ。

 しかし、実際に蓋を開けてみれば否定的どころかオーレリア達の目の前でハーレム宣言。

 何か別の意図があるのでは、と考えてもおかしくはないだろう。

 

「どこまで本気かは解りませんが……あの目の光は強い好奇心が溢れていました。まるでまだ見ぬ宝物に期待を寄せるかのような……」

 

「ええ、そうですね。私達についても同じような目で見てらしたので、私達に興味を持って頂く事はできたみたい」

 

 ほんの僅かにだが、ほっとしたようにオーレリアが小さく息を吐く。

 自らが呼んだという立場からしても、第一王女という立場からしても、不安を表に出すわけにはいかなかったが、不安がなかったわけではない。

 何せ相手は初めて会う異世界の住人。事前にある程度の情報はあったとは言え、やはり未知の相手には違いない。

 結局はオーレリア達が何かをするまでもなく直人がその気になった為、実行する事はなかったがそうでなかった場合には、その未知の相手に対して誘惑をしなければならなかった事を思うと、緊張をしたり、不安になったりするなというのは無理な話だろう。

 

「ですが、あまり安心してばかりはいられません。直人様にとって、この世界は何も知らない世界。あの方が信頼できる人などいない……そういう状況に私達がしてしまいました。ですから、私達があの方の心に寄り添わなければなりません」

 

「えぇ、そうね。例え直人様がどのような道を歩まれようともそれはこれから先、未来永劫変わる事はない。それを私達はあの方に示さなければならない」 


 オーレリアとクリスティンの顔に浮かぶのは、強い決意。

 その強い意志こそが直人が彼女達を好んだ要因でもある。まるで美しいバラには棘があると言わんばかりの意思の強さだ。

 あまり似たところがない二人だが、昔からそういうところだけは似ていた。

 

「まぁ、今はあの方のご帰還をお待ちしましょう」

 

 オーレリアの強い意志は成りを潜め、代わりに浮かんだのは穏やかな笑み。

 ティーカップにそっと手を伸ばすその仕草は、まるでゆっくりと時間が過ぎるのを待つかのようである。

 その様子を見たクリスティンも特に返事を返す事はなく、ただ黙って控えている。

 

 

 

 

 

 オーレリアとクリスティンが話している頃、直人は相変わらず神界にいた。

 しかし、その状況は随分と変わっている。

 直人自身は集中するかのように目を瞑り、右手だけを前に突き出している。そして、直人の周囲を野球の球くらいの大きさの白く輝く玉がいくつか浮かんでいた。

 

「大分その力に慣れてきたようだな」

 

 無機質な声が空間に響く。生命の神々八柱の声だ。

 

「ここまで来るのにかなり大変でしたけどね……」

 

 そう言う直人の声には、その言葉通りに疲労が感じられた。

 顔や腕にもそれなりの量の汗が浮かんでいるようだ。

 

「元々持たぬ力、それも神の力を宿したのだ。身体がその力を使える身体になるまでは仕方のない事なのだ。その故にここまで来てもらわねばならなかった」

 

「まぁ、確かに最初はやろうとするだけで全身に痛みが走りましたからね……。貴方達の支援がなければ絶対無理でしょうね」

 

 現在直人はその身に宿った神の力を使えるように特訓中なのである。

 とは言っても、本人が言うように最初はまともに発動さえできなかったのだが。

 その理由は神々曰くまだそういう身体になっていないから、らしい。

 その為、まずは身体を改変する為に、神の力を全身に行き渡らせる事からしていたのだが、それでかなりの時間を食った。

 何せ行う度に全身を引き裂くような痛みが走るのである。その度に神々に癒して貰ってはいたが、痛みが走らなくなるまでにかなりの時間を費やした。

 そして、つい先程から実際に神々の力を使い始めたところだった。

 

「もう少し楽できるように準備とかできなかったんですか?」

 

 直人自身がやると言った事とは言えども、あれだけの苦労をすれば文句の一つも出るのもまた仕方のない事だろう。

 

「一応、夢を通してこの世界の力に慣れて貰ってはいたのだがな。本体であればもう少し何かできたかもしれないが、分身である身には異世界干渉は中々難しい」

 

「……夢を通して?……ひょっとして、あの夢って貴方達が見せていたんですか?」


 思わぬところで思わぬ発言が出てきて、思わず目を開けてしまい更には集中が乱れた為に、白く輝く玉が霧散しかける。


「そうだ。この世界にあるソーサリーという力に慣れて貰おうと思ってな。だから、必ず君が見る夢に出てくる人物は何かしらの力を使う者ばかりだっただろう」


 そう言われて直人が思い返してみると、確かに様々な武器を手にして、漫画やアニメに出てきそうな力を使う人ばかりだった。


「なるほど、あれがソーサラーか。という事は相手にしていたのが滅魔?」


 今まで見てきた夢の中で、ソーサラー達は様々な生物を相手に戦っていたのだ。

 中には如何にもこれはゴブリンみたいだなぁ、と感想を抱いた百二十センチくらいの緑色の肌をした人間に近い姿をしたモノもいた。


「そういう事だ。……その玉の維持には大分慣れてきたな。では、動かしてみろ」


 その言葉と同時に白く輝く玉が様々な方向に動き始める。

 速度そのものはそこまで早くはないが、兎に角縦横無尽といった感じだ。


「先程も言ったが、君に宿った力は白の神の力。欠片ではあるものの紛れもない神の力そのものだ。この世界において白属性とは主に光を司っている。君が操る力も必然と光を操るようなものになるだろう。だが、それをどういう風に発現させるかは君次第だ。ソーサラーは先にイメージを与えられ、それを霊気を用いて実現させる。しかし、君の場合は君のイメージに従って力が生み出されるのだ。丁度その玉を生み出した時のように」」


 今、操っている白く輝く玉は、言われた通りに頭の中でイメージしたら勝手に直人の周囲に出てきたものだ。

 とは言っても、慣れない内は少し気を抜くと直ぐに霧散していたが。

 一先ず玉の動きは止めて、神々に疑問を投げかけた。


「要するに俺がイメージした通りの力を使えるって事で良いんですよね?」


「ほぼその通りだが、限界はある。例えば今すぐ世界を滅ぼす力を生み出そうとしても今の君では無理だ。そこまでの力を発現するには神としての格が足りない」


 良く解からない言葉に、直人は頭の中で?マークを浮かべた……だけでなく、目をパチクリとさせるなど表情にも出てしまっている。


「簡単に言えば、この世界においてその神がどれだけ認められているか、と言う風に考えて貰えれば良い。それが多ければ多いほど神が持つ力は強くなる」


「えーと、つまりそれは強くなりたければ色々な人に神様として認められろと?」


「勿論、それが難しい事は解かっている。その為、君には別の方法によって神の格を上げて貰う」


「別の方法?」


「君には君の眷属を作って貰う」


「眷属……?」


 眷属という言葉そのものは聞いた事があった。

 確か元の世界においては、超常的な力を持つ存在に力を分け与えられた者的な感じで使われたりしていた気がした。


「そう、君の力をその身に宿し、君と共に歩んでいく存在だ。眷属は性別を問わず、全員が女性であっても問題はない。君の目的と平行して行えるだろう?」


「……まるでハーレムを推奨するかのような言い方ですね」


「推奨をするわけではないが、それを目指す事が悪いとも思わない。どういう目的であれこの世界での目的があるなら、それは我らにとって歓迎すべき事だ」


 その言葉の意味を正確に理解し、なるほどと直人は笑う。

 考えてみれば簡単な話ではある。この世界に直人が執着するものが増えるのは、直人の力を必要とする彼らにとってプラスになる話しだ。

 眷属を増やすという事は仲間を増やすという事だ。つまり最初から彼らはそのつもりであったのかもしれない。勿論、力の強化も大きな理由ではあるだろうが。

 

「大分力に慣れてきたところで、そろそろ次の段階に進むとしよう」


 その言葉と共に直人より少し離れた前方に、白い光の文字で描かれた魔法陣のようなものが現れ、その陣の上に光の柱のようなものが立つ。

 陣の大きさは丁度人が三人くらい入れる程度の大きさだろうか。


「いくら強い力があろうと君はまだ実戦が未経験だ。故に、ここで多少の実戦経験を積んで貰う事にする。ここでならばいくらでもフォローが出来るのでな」


 そこで丁度光の柱が消えていき、そこに生物が三体ほど現れた。

 それは以前夢でも見た事のある生物――直人がゴブリンと呼んだ生物だ。

 それぞれ手には棍棒や短剣などの武器を持っている。

 夢の時には特に気にしていなかったが、今見ればこのゴブリンらしき生物の額にはビー玉をちょっと大きくしたような赤い玉が一個あるのが見える。


「この滅魔は最下級に当たるゴブリンというものだ」


(あ、ゴブリンで良いんだ……)


「額に赤い宝石のようなものがあるのが解かるだろう。あれは全ての滅魔が身体のどこかに持っているもので、アルファレルでは滅魔石と呼ばれている。あれは滅魔の核の一部であり、あの石の色と数によってその滅魔の大体の強さが解かるのだ。それを基準にカテゴリと言う区分が作られ、滅魔を強さ別に別けている。あれは赤色の石が一個あるので、カテゴリ一の滅魔。色は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒と変遷していき、数は一個から三個まで。同じ色でも数が多い方が上、という風になっている。例として上げれば、黄が二つあればカテゴリは八という事になるな。但し、十九の紫と二十の黒は例外で石の数は一つのみしか存在しない」


「そのカテゴリって区分はソーサラーが使っているって事で良いんですよね?」


「より厳密に言えばソーサラーが所属する組織が、と言ったところか。組織の事など詳しい事についてはオーレリア王女に聞くと良い」


 言葉が途切れると同時にゴブリン三体が前に進み出る。まるで前に出るタイミングを計っていたかのようだ。


「ギィイイイイイ」


 爛々と赤い瞳を光らせ、金切り声に近い雄たけびを上げた。

 アルファレルに実際にいる滅魔を呼び出したのか、それとも即興で似たものを作ったのかは解からないが、その目に宿る殺意は本物のようだ。

 その手に持つ武器を強く握り締めたと思ったら、三体同時に直人へと飛び掛り、それぞれが持つ武器を振り下ろした。

 だが、その武器が直人を傷付ける事はなかった。

 直人自身は何もしていない。ただ、その場に立っていただけだ。

 しかし、肩や首を目掛けて振られた武器は当たる直前に止まってしまっている。

 ゴブリン達が寸止めをしたわけではないのは、困惑した表情を見れば解かった。

 では、何故止まってしまっているのか?

 

「何か傷付けられる気がしなかったから何もしないでいたけど……本当に傷一つ付けられないとは思わなかったなぁ」

 

「君の身体は既に神の力を使うに相応しい身体となっている。赤であるカテゴリ一~三や橙であるカテゴリ四~六程度の滅魔ではどう足掻いても傷付ける事はできないだろう」

 

「なるほど、なるほど。じゃあ、攻撃の方はどうかな?」

 

 その言葉と共に直人の拳を淡い白光が包んだ。

 それを確認してから、そのまま無造作にゴブリンの一体へと拳を突き出す。

 ヒュボッ!

 風を切る音がすると同時に拳が頬に当たったかと思ったら頭が爆発したかのように弾け、周囲に緑色の血が撒き散る。

 

「げっ、スプラッターな事に!?」


「ギィッ!?」


 始めて振るうその力は直人にとって予想外の結果を生み出したようだ。

 その光景を見て、残りのゴブリン二体は慌てて距離を取ろうとするも、それより早く直人の腕が振られる。

 ヒュッ、ヒュッ

 手刀のような形で振られたそれはまるで豆腐でも相手をしているかのように、いとも簡単にゴブリンの身体を真っ二つにする。


「おぉう……これは中々キッツイ光景だなぁ……」

 

 眼前には頭が吹き飛んだものと真っ二つになったものと二種類のゴブリンの死体がそのままの形である。

 元の世界では人を殺した事は勿論、動物を殺した経験も皆無の直人には中々精神的にキツイ光景かもしれない。


「本来の滅魔はこうした死体は残らない。あれは身体は瘴気で構成されているからな。だが、もしかしたら滅魔以外とも戦う可能性はある。その時、こういった事に慣れていなければいくら力があっても不覚を取りかねない。故にここではそういった事にも慣れて貰う為に敢えて死体は残るようにしている」


 倒したら即消滅してしまうのならあまり生物のような感じはせず、生物を殺したという印象も沸き難い。

 しかし、例え滅魔と同じ姿をしていようと、死体が残り血が流れるのならばそこには生物を殺したという印象が残るだろう。

 つまりこの神々の分身達は、滅魔だけでなく生命種と呼ばれる者達とも戦う可能性があり、その為に今から生物を殺す事に慣れておけと言っているのだ。


(あまり人を殺す事に必要以上に慣れる気はないけど、場合によってはやる必要はあるだろうね)


 直人の力は一個人が持つにはかなり強大なもののはずだ。

 そう考えると、直人の力の強さが国々に広まった時、その力をどうにかして利用しようと考える国や個人は出てくるだろう。

 更に言えば直人の目的はハーレムを作る事だ。

 もし、そのハーレムを作れたとしたら、当然そのハーレムも標的になるだろう。

 人質に取る事ができれば、直人に命令する事も出来るようになる可能性もある。

 そんな時、人を殺す事を躊躇していたら大事なものを取りこぼす事になる。


(まぁ、人の大事な物に手を出す人に遠慮する気は全くないけどね)

 

 半ば勢いのようなハーレム宣言だが、現時点で二人ほど付いてきてくれる事は確定している。勿論、その二人とどのような関係になるかはこれから次第だ。

 だが、付いてきてくれるならば彼女達を守ると直人は心に決めている。

 だからこそ、もしそういう状況にいざなったら、迷う事はないだろう。

 彼は聖人君子のつもりも勇者のつもりもないのだ。

 自分にとって大事なものに手を出す存在があれば、慈悲をかけるつもりはない。

 その時の為に、迷わない程度には殺す戦いにも慣れる必要はある。

 

「呼び出すモノは段々と強くしていく。この訓練の中で自身の力の使い方をイメージし、それを使いこなせるようになって貰いたい」

 

 言い終わるのが早いか、早速次の魔法陣が現れた。

 

「力の使い方かー。光ってなると色々と想像はできるし、片っ端から試してみるかな!」


神様の分身達は八体いるけど意識は全部繋がってます。

なので、実質一人みたいな感じ。

主人公の力は色々迷ったけど、最終的に光を使う事になりました。

光の力を使う人って最近だと終盤のボスで強い人が使うイメージがありますが、チートものなのでこの物語では主人公が使います。

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