六月のギルドに出張
梅雨である。
こちらの世界にも、あのムシムシする梅雨はちゃっかり存在しているのだ。ちゃんと四季があるのは日本とよく似てるなぁ、と思う。
六月のくせに暑いし、雨降るし、湿度が高い。そんな最悪な天気がしばらく続い て、もうそろそろ勘弁してくれと思い始めたくらいのこと。私たちの店にある依頼がきた。
なんでも、ギルドでなんか凄い仕事やってきた人が帰ってくるからお祝いをするらしい。でもって、お祝い会のために酒とご飯を提供してくれる店を探しているのだという。……確か、このギルドは前クレイモアさんが居たところだと思うんだよなぁ……。多分クレイモアさんも参加するんだろう。帰ってくる人はかなりの古株みたいだし。
とりあえず行くことにしよう。あわよくば……っていうか素直にガチムチが見たいのだ。あのクレイモアさんが参加していたギルドだ。行けば間違いなくガチムチが見れるだろう。それこそ、漫画みたいな盛り上がった素敵な筋肉が!!まぁ、ガチムチっていうか筋肉が美しければ私はそれでいいですけど。
さて、ギルドのお祝い会となると、やっぱりある程度の人手が必要だ。ていうか全員連れて行こうこれは決定事項です。……それでオーガさんをギルドに売り込むんだ。うまくいって仕事とかもらえたらお金も入って、ついでに仕留めた魔物とかから食料も手にはいる。最高だね。
「ってわけでギルドに行きます。ハモォヌちゃんちゃんとリヤカー引ける?大丈夫?」
「大丈夫ですよー?それよりこんなにお酒飲んだら 体壊しますよね」
「ギルドのガチムチパネェ」
「ギルドってことは、オジサマはいるんですよね!?」
樽を八つ積んだリヤカーをひとつ。これはハモォヌちゃんに引いて貰って、食料の積んだリヤカーを私が引くことにする。樽積み過ぎたかな、でも八つっていう注文だしなぁ……。
ちなみに樽の中身はかなりアルコールが強いのが三つ(ギルドではかなり人気)、アルコールは強いが口当たりがよく飲みやすいのが二つ(気づいたら飲みすぎているので危険)、お酒の飲めない人のためのお茶やジュース、お酒を割るための炭酸などが三つだ。
食料は肉中心。肉以外の物も少しは乗せた気がするのだが、圧倒的に肉が多く肉で下の食料が隠れてしまっている。なんてこったい。
街の人の迷惑にならないように、リヤカーを引いてやってきたのは、みなさんおなじみサドガルマゾ。SだかMだかわからない名前だなぁと、初めて見た時は思ったっけ。
中に入ると、何人かの人達がぽつぽつと座っている。例によって全員ガチムチ。ごちそうさまですっ!!
みんなして入り口前で突っ立っていると、奥の方から見覚えのある性別不詳者が歩いてきた。
「良く来たわねナナセちゃん!こんなにたくさん頼んじゃって……手伝えばよかったわ」
「クレイモアさん!……いえいえ、気にしないでください」
うん。出来ればもうちょっと早く言ってほしかったですね?かなり重かったんですがね。でもハモォヌちゃんはピンピンしてるよ!!さすがだね!!
「早速ですがお酒と食料はどこに……?」
「酒はその辺に置いとけば勝手に飲むからだいじょぶよぉ!!あ、食料はうちで調理させて貰うから私が預かるわね。うちの料理人は腕が良いんだからぁ」
「じゃあ、私以外の全員従業員に使っちゃっていいですよ」
後ろからえーだの聞こえてくるけど私には聞こえません。ていうかハモォヌちゃん以外今日はまだなんにもしてないよね?ちなみに私は端っこの方でお酒を割ったりするからね!女性向けのカクテルとかそんなん作ってよう。
あとの四人をクレイモアさんに預け、カウンターの端っこに場所を借りてちまちまとしたものを用意する。クレイモアさんにはちゃんと鍵を作った本人であるミキレイさんを紹介してあげた。
クレイモアさんはミキレイさんの腕をぶんぶん振って感謝を表してたよ。ミキレイさんはやはりストライクゾーンが広かったようで、クレイモアさんと中々楽しそうに話してたな。
まだ人が来ていないのでだらだらしてたらだんだんと周りが騒がしくなってきた。いつの間にか、かなりの人数が集まってきていたようだ。
ひさしぶりの仲間と会えて肩を組んでいる男達……。ぶつかり合うガチムチ。暑いから汗を拭っているねー豪快に拭いますねー眼福。そして異世界っぽい彫りの深い顔立ちだから、なんかみんなイケメンに見える。うへへへ
「ガルバディストが帰ってきたぞ!みんな、出迎えてやれ!」
「こんなに盛大にしなくてもいいのによぉ……」
ギルドの男の人が高らかに声を張り上げたから何事かと思って入り口を見みると、くすんだ金髪オールバックのオジサマがやれやれと首をすくめながら入ってきたところだった。三十路かしら……かっこいいわぁ。
この人が、なんか凄いことをしてきた人らしい。ガルバディストさんは早速男女問わずたくさんの人にもみくちゃにされている。わぁ人気者、そこで笑って受け入れているところも器が大きいことを表していますね。
さっきまでは従業員として働いていたみんなも、周りが好き勝手騒ぎ始めたから仕事がなくなってしまったようだ。私のところにもお酒の弱い人や珍しいカクテルに興味を持った人が何人かやってきてたけど、その人達もみんな中心の方に行ってしまった。
ということで、今カウンターでは仕事のなくなった後輩達がのんびり休憩している。BGMは野太い声で歌われている軍歌です。ねぎらいの意味も込めてよく冷えたチョコレートを出すと、全部オーガさんが持って行ってしまった。どういうことなの……。
次々にお菓子が消えていく中、空になった樽を蹴りながら、こちらにやってきたのはガルバディストさんだ、あれ、中心にいませんでしたか?
「マスターさん、獅子の乳を水割りで、オレンジ飾ってくれるか?」
「はい、かしこまりました。こらナミラちゃん?二人分の席をつかうんじゃない」
「このロリコン!」
「なにゆえ!?」
いきなり後輩に罵倒されたんですが。ロリコンとか心外なんだけど?確かに小さい女の子すごく可愛いとは思うけどさぁ……。あぁ、気にしてる場合じゃない。ちゃんとお酒作らないと。
「はい、どうぞ。……主役が中心にいなくていいんですか?」
「どーも。……あいつ等はただ騒ぎてぇだけなんだよ。俺の帰還だって、どうせ騒ぐ口実が見つかったとでも思ってんだろ」
ククッと悪役のようにニヒルに笑ったガルバディストさん。大変絵になっていらっしゃる。黙って机に伏せていたハモォヌちゃんがガルバディストさんに話題をふったようだ。
「ガルバディストさんって、どんな事してきたんですかー?」
「あぁ、ちょっくら離れた火口にドラゴンを倒しに行っただけだ。大したことじゃねぇよ」
え、それって凄いことじゃないですか。だってドラゴンってアレだよ?すごく凶暴で手が着けられなくていくつもの街とか国がドラゴンのせいで壊滅したんだよ?しかも火口に居る奴って……卵産む状態の一番気が立ってるヤツじゃないですかやだー!
良いもんみせてやるよ、とガルバディストさんはマントから取り出した、クリスタルに入った何かを見せてくれた。
「……ドラゴンの卵ですか?」
「マジかよ!本物っすか?」
「本物だよ。ドラゴンの卵を結晶化して持ってきたんだ。もちろん、クリスタルを割ると卵がでてくる」
すげえ……この人命知らずだよ……。ドラゴンの卵持ってくるなんて正気じゃねぇよ……。
そんな風に、ガルバディストさんの武勇伝をたくさん聞いていたんだけど、しばらくするとガルバディストさんは酔っ払いに絡まれて、中心の方へと行ってしまった。
宴会が終わった時には、ほとんどのガチムチが床で転がって寝ていた。
私達が寝たらこれをかけてちょうだいね、と頼まれていたので毛布を一人一人にかけていく。おいハモォヌちゃんガチムチ同士をくっつけるな。一緒の毛布に入れるんじゃない。
寝ているギルドの皆さんを放置して私達は帰る事にした。元々大きいリヤカーはギルドからの借り物だったからおいていっても大丈夫だし、お金はいただいてるし。
ようやく家に帰ってきて、みんなは自分の部屋に行ってすぐに寝るつもりらしい。疲れたんだね、お疲れさま。
私もベストを脱いで畳もうとすると、やけにポケットが重かったので探ってみた。すると、なんと、あのドラゴンの卵が入ったクリスタルが入っていた。ガルバディストさんが書いたと思われる、『駄賃だ。』と書かれたメモと共に。
……もらっても使い道が無いんですが、これは飾っとけってことで良いんですよね?いいんだよね?
2/21 誤字等修正。