五歩先の本屋で何やってるのぅ?
「や、やめっ‥‥」
ぎしり、軋む柔らかいベットに押し倒される。自分は図体がでかいから、ベットはかなり沈んだ。
目の前、自分の上に乗ってるのは先ほどまで一緒に板書している生徒たちに授業を教えていた、細身の男だ。どこか浮き世離れしていて、よくわからない奴だが良い奴だ。
自分はその細身の男に押し倒されているのだ。巨体の自分が細身の男に押し倒されるとは何とも情けない。
いつもなら、反論しているところなのだが、今はそれどころではないのだ。頭がぼーっとして、思うように体が動かない。
「ナ、ナガイティール‥何でこんな事‥‥」
「‥ホシティオス、俺はね、我慢強い方なんだ。子供たちには教育として怒ってるけどね。君が他の学校に行くと聞いてね、居ても立ってもいられなくなったんだ。」
確かに、自分はこの学校から他の学校に転勤する事になる。ナガイティールはそれのどこが気に入らないのだろうか。
「ホシティオス、どこかに行く前に閉じこめなきゃいけないね。図体がデカくて怖がられてるくせに、どこか抜けてて放っておけない。‥‥あなたには俺がいないと駄目なんだよ?」
ひらひらと視界の先で揺れる手のひらに、視線を奪われているとナガイティールはホシティオスの唇に指を当てた。
「ちゃんと喋れるはずのに、あなたは何にも文句言わないね?それは、俺に縛られたいと思ってるってこと?」
「‥‥‥っ」
ー嗚呼、そうだ。
自分は心の中で、ずっとこうなることを望んでいたのかもしれない。そういえば、校長に言えばまだ転勤はしなくてもいいはず。
それか、このまま目の前の男に捕らわれて、溺れるのも良いかもしれない。
そんなほの暗い誘惑に、ホシティオスは恍惚と唇を歪めた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥。」
私たち元文化部員は、顔を合わせて、一つの本を覗き込んで読んでいる。
この本はオーガさんとミキレイさんが本屋に立ち寄った際に見つけてきたものだ。この本は、何故出版できたのか?そして、何故こんなにも見覚えがあるのか?
「‥‥‥これ、絶対に居ますよね?」
「‥もれなく、全員集合みたいだねぇ。」
この『理数のススメ~数学教師の罠~』は私たちの知っていた人物にそっくりな登場人物が出ている。そこでは実際に付き合ってはなかったのだが、後輩たちとそのことについて妄想して盛り上がったものだ。
ここでは男性同士の恋愛はオープンに行われているが、それを本にしようとはしなかった。なのに、何故こんな物があるのだろう。
私たちが行き着く答えは一つだけだった。この本のモデルとなった人物たちのカップリングをすごくリスペクトしていた後輩がいたのだ。もうその子以外考えられない。
「ちょっと、これ書いた人連れてきてみようか。それでもうここに引き込もうよ。」
「それ良いですね、ナミラちゃん、一緒に拉致してこよう。」
「やったぜ、Let's 誘拐!」
意気揚々と誘拐しにいったオーガさんとナミラさん‥あ、ミキレイさんか私が行くべきだったな。あの後輩は何かとあの二人に好かれていてそのせいか苦労人なところがある。ちょっと申し訳なくなってきた。
「せんぱーい、このお酒って日本酒っぽいのですか?」
「いや、それリキュールだよ。日本酒っぽいのはこっち。」
まぁ、何とかなるか。
そうして私は考えるのをやめたのであった。
随分時間が遅くて、少し心配になってきたころ。その後輩と思われる人物がオーガさんとナミラさんの二人を両腕に引きずりながらやってきた。なんだ、
「両手に花じゃないか。いいなー」
「‥‥先輩、何であたしのとこにこの二人やったんすか!?お世話になってる本屋に私の性癖をバラされて‥‥!」
「やーいやーい、ハモォヌハモォヌ!ホモー!」
「ハモォヌってずっと言ってるとホモォヌに聞こえてくるんだぜ!」
※個人の感想です。
ハモォヌって後輩ちゃんの名前?前の面影欠片もないな。ところでハモォヌちゃんはどうしてここの場所に居たんだろう。元居た場所から無理やりつれてきたんじゃなかろうな。
「先輩聞いてくださいよぉ、ハモォヌ木の上で寝てたんすよ?」
「え、虫とか大丈夫だったの?」
どうやらこのたくましい後輩は木の上で寝ていたらしい、なんてだ、もうちょっと手段があったでしょうよ。ハモォヌちゃんなら食堂のおばちゃんに取り入って働きながら泊まり込むとかさ。
そんなことより、気になるのはあの本の事だよ。何故書いたし、いや、ハモォヌちゃんがあの二人が居ないと生きていけないってぐらい好きなのはわかってたけどさ。
「先輩、なんかあの三人コント始めたんですけど‥‥」
いつものことだったから、別に気にしない。コントの内容は気になる。
「おい!お前がやったんだろ!」
「君がやったって事は、この本が何よりの証拠だよ!」
「す、すいませんっ‥俺っこの世界で覚醒してからあの二人が居ないことに絶望してっ‥‥それなら自分で書くしかないって‥‥!」
バーのカウンターで、ハモォヌちゃんひとりにオーガさんとナミラさんが二人で向き合っていた。その光景は、刑事ドラマの取り調べを忠実に再現している。特にオーガさんが買ってきた本『理数のススメ~数学教師の罠~』をハモォヌちゃんの顔に押しつけているところがポイントだね。
「ところでハモォヌちゃん、どうやってその本出したの?」
「いや、親切な子供に紙と尖った木炭をもらって‥‥それでそれに欲望の赴くままに書いたらこうなったんですよ。」
「それ欲望だしすぎじゃね?」
いつの間にか出版してたって、どんだけみんなに知ってほしかったんだ。貴腐人が増えてしまうでしょうが。
話を聞くと、ぽつぽつと売れているらしいが、今は表にどんっと置けないので、端の方にあるので目に留まりにくいのだと言った。‥‥いや、それ売れるの?売れていることにびっくりだよ。
「先輩、とりあえず、今日の夕飯も買ってきたんでご飯作ってくださいよ。」
「あ、ありがとうオーガさん。‥‥その内臓飛び出すしとめ方どうにかならないかなぁ‥‥」
「チッ、だって先輩が毒使うなって言うからこんな事になるんですよ。」
「ねぇ今舌打ちした?したよね?」
明後日方向を見るオーガさんをさらに問い詰めようとするとポン、と肩を叩かれた。振り向くとそこにはナミラさんが立っていた。
おい、そんなドンマイお前可哀想だな、みたいな顔するんじゃない。ムカつくぜ‥‥
なにはともあれ、これで集合みたいだ。良かった‥のか?でも、これからが賑やかになりそうで嬉しいな。
とりあえずパーティはこのメンバー。そのうちギルドとか行きたいですねぇ
ご観覧、ありがとうございました。