自ら味わう神の水。
「この夏も繁盛しますようにー」
「願い事って言ったら叶わないんじゃありませんでしたっけ?」
「あれ、そうだったっけ?」
まじかよ、じゃあこの夏はもう繁盛しないのか…?
「世界を支配出来るような金持ちになりますように。」
「ナミラさんその願い絶対叶わなくなったよ…」
今現在、私達は神殿にお参りに来ている。まぁ、明確な意味を持っていないが、この夏も繁盛するようにお参りに来たのである。あと、ここはいつでも過ごしやすくて涼しいからかな。飲み物だって配られてるし…涼みに来てるのは私達だけではないからね、神様の御好意だね。
「あともう一回登るよー」
「三回に分けられてるなんてめんどくさいですね。」
「その方がありがたみがますからじゃない?」
そういうもんですかね、と珍しくオーガさんがフードを外した。やっぱり涼しい場所にいるからとはいえ蒸れるのだろう。
そして耳元あたりでブンブンと手を振っている。それって仰いでるの?それとも虫でもいるの?
「ヴぁー…」
「…オーガさんそんなに暑い?めっちゃ声低かったが。」
「え?…あぁ、そうなんですよーもう暑くってやんなります。」
「そうかい。」
よっぽど疲れてるんだなぁ。
ここの神殿は神様が三体いて、一番えらい神様の所まで行くには、二体の神様に挨拶してから行かなければならない。
なんでもここの神様は三体で一体。という数え方をするところも少なくないらしく、そのうち二体が護衛であと一体が偉い人…らしい。食欲を司ってるらしく、私にはうってつけの神様だったのだ。
一番上にたどり着くと、そこには食材がたくさん供えられていた。真ん中にはおじいちゃんのような人の石像がたっていて、多分この像が神様なのだろう。
「あそこに手水社あるよ。」
見たことあるものとは少々形が違うものの、手を清めるためのものであることには違いはない。
「ここにも作法とかあるんだよね、私最初これが手水社だって気付かなかったよ。」
「あぁ、でも私の国では手水社どころじゃ無いですよ、体に水ぶっかけて清めますから。」
「なかなかワイルドだね…」
手で水を清めている時に、口に水を含んでいるナミラさんがなんだか神妙な顔になっている。少し考え込んだ後、口に含んでいた水をゴクリとのんだ。
おいおーいこのお茶目さんめ、喉乾いたからって手水社のお水を飲んじゃダメだぜ。
「甘い。」
「どしたナミラ。」
「いや、なんかさぁ、この水お茶に牛乳入れたみたいな味する。」
「…あぁ、抹茶ラテ?そんな味しなかったけど。」
「マジで!したんだよほんと!」
…うん。私も今水口に含んでるけどまったく全然そんな味しない。…でもナミラさんだからなぁ、神様からのメッセージを受け取ったのかもしれない。抹茶ラテかぁ、神様好きなのかねぇ。
「じゃあ作って供えてみる?」
「先輩作れるんすか?」
「馬鹿にするんじゃないよ、あれは抹茶にミルク入れれば…抹茶?」
この世界って抹茶あるのか?
いや、でも東之国のものを扱ってるとこに行けば可能性はある。ミルクはあるから問題ない。抹茶…でも緑茶みたいなのがあるし、それの生産元があるからお茶っ葉を細かくしたのを石臼で引いて…ってこれうちで作れるんじゃないか?
「…よし、参拝はあとだね。抹茶ラテ作って持ってこよう。多分今日中にいける。」
「えぇ、ここまで来たのに戻るんですか?」
「ブウブウ言わない、ラングドシャ作ってあげるから。作ったことないから失敗したらごめんね!」
「失敗したらハゲさせます。」
「じゃああたしむしる!」
そんな脅しを聞きながら、帰りにお茶っ葉を買って帰ってきた。これを細かく刻んでもらうのはハモォヌちゃんにやってもらおう。
原稿もひと段落して、ハモォヌちゃんはこの頃思い詰めた顔をしてなくて、黄昏ることも少なくなったように思える。でもわさびと一緒に小説書いてるのは…くれぐれも!わさびに変な知識を植え付けないようにね。
石臼は今、ミキレイさんがハンマーとノミで削ってくれている。この時のミキレイさんは不運なことが起こる事はないだろう。めっちゃ集中してるからね。そう言えば、何もないところでつまづくのは幽霊に引っかかってるって本当だろうか?
最初はオーガさんに頼んで抹茶にしてもらうという楽な方法でいこうと思ってやってもらったら、微粉砕になってしまった。…というより塵になって消えてしまった。紛失してまったので、オーガさんは私の作ったいびつなラングドシャを食べている。味に問題はないようで何よりだ。
「先輩、これぐらいですかねー」
「あ、茎とかとっておいてくれると助かる。」
「了解でーす。」
ミキレイさんのいる方向からカンガンカンという音が止んだ。のっそりと入口から出てきたミキレイさんは、小脇に石の塊を抱えて出てきた。
「どう?いい感じかい?」
「なんとか形になったって感じですかねぇ…でも使えますよ。」
暇そうに細長い針をいじっていたナミラさんに、細かい網目のふるいにお茶っ葉をかけてもらう。
それを石臼で引いて、出てきた粉はちゃんと水に溶けたので、問題はなさそうである。
「おお、溶けた溶けた。あとはミルクにいれて砂糖入れて…味の調整だな。」
「味見は任せてください。」
オーガさんに味見を頼んで、砂糖を入れたり抹茶を多くしたり、ミルクの種類を変えてみたり…意外と一筋縄では行かなかったのである。
途中でオーガさんの指示で甘くしている時、極度の甘党ということに気付き、選手交代で味見する人がミキレイさんかハモォヌちゃんになったりした。
ナミラさんにはお客さんが来てたから飲んでもらえなかったなぁ…でもお客さんから飴もらってたね、そのおばちゃん、駄菓子屋の人か、私たちが通る度にあめちゃんをくれるいいおばちゃんである。
「うん、このぐらいがちょうどいいんじゃないですか?」
「あたしもそう思うわぁ。」
「やったぜ。じゃあ、これをお供えしに行こうか…もう暗いけど。」
「屋台でなんか買ってくれるならついていきます。」
「うっ、ひとつだけね、いつもは自分で買いなさいって言うけどね、手伝ってもらったからね。」
途中の屋台で食べ歩きできる物を食べながら、神殿の一番上までやってきた。牛乳瓶に入れた抹茶ラテをおじいちゃんの像の前に供える。
その瞬間、少しだけ地面が震えた。
「ワシ甘いのが好きなの。」
「え?」
「え?なんすか?」
「……いや、なんでもない。」
なんか、ナミラさんから嗄れた声が聞こえた気がするけど、気のせいだ。ナミラさんも揺れましたねーって言ってるだけで至って普通だ。
「じゃあ、お参りして帰ろうねぇ。」
今度こそ、海月館が繁盛しますようにと、心で唱えた。




