三人で娘さんの恋愛傍観
「どうしたらいいんでしょう?」
「私に聞かれても困るのですが‥」
目の前に座る娘さんは街のパン屋さんの娘だ。両親がパン屋さんをやってるらしく、そこの看板娘で、いつもクリーム色のエプロンをしていて、街でも評判の美少女なのではないかと思う。
そんな娘さんはどうやら、今は恋をしてしまっているらしい。とゆうか、相手からは好意があるのかないのかわからない態度で困っているとのこと。
私には程遠い、縁のないことだから全くもって、どうしたらいいのかわからない。
物憂げに目を伏せている娘さんは、私が出した牛乳をのような物をベースにした甘くてあったかいカクテルに、お通しとして出した中に果実酒が入ったチョコレートをカクテルに落として溶かす。
「‥‥先輩、私ここにいにくいんですけど、二階に行ってもいいですか?ナミラちゃんもいるし、もう寝たいですし。」
「お、オーガさんは私を見捨てるというの?」
横でグラスを座って磨いていたオーガさんは娘さんが来てからずっと同じグラスを磨いていた。‥今はまだお昼頃だよ?寝ちゃいけないよね、夜に寝れなくなっちゃうし。完全にここの場から逃げるための嘘だよね?
「じゃあもう私達で見に行ってどうゆうふうなのか見てみましょうよ、それならなんかわかるんじゃないですか?」
「あぁ、それは良いわね!みなさんに見てもらいましょう。私ではわからないから。」
娘さんはそれが最上の選択だというふうに手を叩いてオーガさんに拍手を送る。良いんですか、こんなホイホイ人の色恋を見て良いものでしょうか。
私達は娘さんに押されるままに店を出て、娘さんとその相手の男がどんな関係なのか見に行くことになった。
「で、ナミラさんはお留守番してなくてよかったの?」
「えー暇なんすよ、家にいて一人で整体やれって言われてもほら、私人見知りじゃないすか。」
知らないよ、聞いたことないよ。いきなりネーミングセンスのない技名出してチョップしてくるでしょうよ、そのノリで行けばいいのに。
私とナミラさんとオーガさんの三人で、物陰からパン屋さんで働いている娘さんを観察する。にこにこ、笑顔でお客さんにパンを勧める姿が眩しすぎる、これが接客のプロなのか。
そうすると、一人の客がやたら娘さんに絡んでいる。うん、予想はしていたが街のおしゃれボーイな感じの青年だ。笑うと爽やかそうで、栗色の髪の毛先がくるっとパーマがかかっている。多分、天然だと思う。
笑うとと爽やかそうなのに、今はむすりとしながら娘さんに絡んでいるのだ。ここは相手からは見えない死角の場所なので、こっちから見えるがあっちからは見えない。
私達が喋るとあちらに聞こえてしまうほどの距離だが、こちらが喋らなければあちらの声だけが聞こえるのだ。
「なぁ、店の手伝いばっかしてないで遊んだら?」
「でも私は遊ぶより、店のお手伝いの方が楽しいの。」
「そんなこと言ってたら行き遅れるぞ。」
「‥‥その時は店を継ぐもの、そしたら忙しくて結婚のことを考えないし。」
「行き遅れた婆さんの店に誰が通うんだ?」
「店主がお婆さんでもパンの味が美味しければお客さんは来てくれるわ、フルーさんの所の繁盛ぶりを知らないとは言わせないわよ?」
「っ勝手にしろ!」
ずかずかと帰って行く爽やか青年は、微妙に哀愁が漂う背中をしていた。‥結果的に言えば、この娘さんに爽やか青年が好意を持っていると考えてもいいと思うんだ。
私の中では爽やか青年は、既に素直になれない好きな子に意地悪しちゃう、このままだと当て馬になってしまう可能性のあるかわいそうな青年という設定になっている。よって、さっき言った青年の言葉もこう聞こえた。
店の手伝いばっかしてないで遊んだら?→俺となんで遊んでくれないの?
そんなこと言ってたら行き遅れるぞ。→俺がもらってやるから心配する必要なんてないけどな。
行き遅れた婆さんの店に誰が行くんだ?→その隣には年をとった俺がいたらいいのに。それにこいつは年をとっても可愛いに決まってる。
勝手にしろ!→こんな事言うから俺は駄目なんだよ!あぁくそっ、今日も誘えなかった‥!
‥こうなるわけだ。我ながらよくできた心の声だと思う。なんとかこの恋を成功させなければ、でなければ当て馬になったとき爽やか青年があまりにもかわいそうだ。
しばらくして、休憩時間に入ったらしい娘さんがやってきた。困ったように眉を下げていて、その姿はさぞや男性陣の加護欲をそそるだろう。
「ごめんなさいね、変なところを見せてしまって。それで、どう思います?」
「完全にあの男、娘さんのこと好きでしょう。あんなにわかりやすい人っていたんですね。」
「オーガさん、もうちょいソフトに‥まぁ、私にもそう見えましたよ?」
「もうあれ完全にツンデレっすよね。」
どうやら、二人も同じ意見のようだ。周りはそんなに気にしないで見るとわからないが、気にして見てみるとあの男はわかりやすすぎる。
私達の意見を聞いて、娘さんがやっぱり‥‥と頷いた。
え、と娘さんを見ると困ったように苦笑いをして、あの爽やか青年とは幼なじみで、長い付き合いだし、それに毎日突っかかってくるからさすがに気付くと言っていた。
私達に見てもらったのは自分だけでは確信がもてなかったかららしい。
「だから、私もヒョウネの事は好きだし、そろそろ素直になって欲しいの。私から言うのはちょっと恥ずかしくて‥告白は男からやらないと、そう思うでしょう?」
にこりと笑った娘さんは、どうやら天然だけではなく、結構強かなようだ。
そんな強かな娘さんが嫌いではない私は、娘さんのために一肌脱ぐことにした。
「ナミラさん、これどうよ。」
「ナミラわかんなーい。」
「真面目に聞け、どっちの方が警戒心が弱まるか飲んでみてよ。」
途中でナミラさんを実験体にしたり、そのお酒を飲んで警戒心がなくなったナミラさんにオーガさんがいたずらしたり、そんな試行錯誤を重ねてようやく完成した。実は言うほどそんなに時間はかかっていない。
そして、酒場のカウンター席に座る娘さんと爽やか青年。
爽やか青年は最初娘さんに誘われて緊張していたが、お酒のおかげで緊張はほぐれたようだ。そして、さりげなく、例のお酒を出した。
「なぁなぁなんで俺と遊んでくれねーの。お前のために空けてんのに。ありがたく思えよ。」
「まぁ、そうだったの。今度は一緒に遊びましょうね。」
「仕方ないから遊んでやるよー‥」
爽やか青年に酒を与えた結果がこれだよ!
もうすでに少し後悔している。オーガさんなんてなにか、いけない物を見た目をしているよ。
こんなに強いお酒作るんじゃなかった‥‥それに周りにピンクなオーラが飛び散って他の一人で飲んでるお客さんに多大なダメージを負わせている。大変だ。
とりあえず、私は二人を空いてる部屋に押し込んでおいた。これで少しは空気はましになっただろう。
そして、仕事が終わった時、部屋でベットに寝っ転がった。ここには何もない、街の騒音もきこえない、ここから少し先に行ったところが繁華街だからだ。‥‥あれ、おかしいな。なんか聞こえるような‥‥
「ふ、‥も、だめぇ‥‥」
「まだ‥‥‥を‥くれっ!」
ギシアン‥‥だと‥‥?え、人が快く貸してあげた、というか押し込んだんたけども。なにしちゃってるんですかねぇー!
知らないぞー私はわからないよーなにも聞こえないよー‥そう思うほど気になりだした物ははっきりと聞こえる。
その夜、私は目をギンギンにして、アレがようやくおさまったころにようやく目を閉じれたのであった。だが、当然体の疲れはたまりっぱなしだ。
「‥ねれなかった‥‥」
「私もです、本読んでたらいきなり聞こえてきたんですよ、気まずすぎます。」
「‥ギシアンBGMにして寝るのは難易度高過ぎっすよ。」
私達が顔を合わせて不眠を訴えあっていると、その元凶がつやつやになって降りてきた。あーそうですか、ならばこの言葉を送ってやりましょう。私達三人は二人を見つめて言葉を放った。
「「「さくやはおたのしみでしたね。」」」
爽やか青年は罰が悪そうに、娘さんは恥ずかしそうに、嬉しそうに頬を赤く染めた。