【番外編】十.五文字飛ばして呼んだら暗号?んな訳あるか。_3
下がれと言っても聞かないかと思っていたが、勇者は案外素直に後ろに下がった。
対する私はスライムウォールと対峙。やっぱでっかいなぁ…………。
「~~~~~~!!」
そして口から難解な音律を紡ぐ。自分で難解って言うのも何かあれなんだけど、難解なものは難解だからね。
因みにこっちの呪文はそこそこ大きかったり古かったりする魔法にしか使われない。もっというと魔法陣なんかはよっぽど古いか大掛かりな魔法にしか使われなかったりする。
そしてこれは対象の時間の流れを逆転させる魔法だったりする。
これが結構キツイ。バリアだけでも難しくて疲れる魔法なのに時間逆転まで一緒に使うと実は真面目に気を失いそうになる。
キュイィィィイイインと、厨二病丸出しな音を起てながら魔法が作動し始める。おいスライムウォール、抵抗すんな止めろ。死ぬ。おら死んじまうだよ。体力的に。
音のボリュームと高さが上がって来て、こっちの負担も増えてくる。
やっぱ杖欲しいな。視界霞んで来ましたよヤバいですね。
段々立ってるのがやっとになって来るけど、知らん。頑張れ俺。
キュイィィィパリンッ
あ、モノクル割れた。
モノクルの割れる高い音ですっかり視界もクリアになり、余裕余裕!!おめめパッチリですよ!!となる。何でこんなに楽になるのかはモノクルに聞いて欲しい。
で、さっき説明し忘れましたが一体どうして時間逆転魔法を使うのかと言いますと、まず、スライムウォールになる前のスライムに戻すため。
でも、スライムウォールを崩すだけじゃだめ。このタイプの時間逆転魔法が出来るのは「状態」の時間を逆回しにするだけで、記憶や考えにまでは作用できないから、スライムに戻ってもすぐにまたスライムウォールを形成してしまう。
じゃあどうするのって、スライムって分裂するでしょう?
ぽんっ!ぽんっ!
だから、時間を逆転させてあげれば………。
ぽんっ!
一体か、少なくとも数体のスライムに戻るって訳ですよ。
スライムが三体ほどになった所で魔法を止める。んでもって何事も無かったかの様に土嚢を積みなおして帰ることにした。もう何か取り敢えず怠い。
スライムも暫く混乱していた様だったけど、私が魔法で土嚢を積んでる間に森へ帰って行った。
さて、全部終ったし、帰るか!!はー、お疲れ様。自分に乾杯だよ全く。「おい…じゃなくて、あの!」
ん?あれ?何の声だ?
「俺の事忘れん………忘れないで下さいよ!!」
「あ、勇者。って、敬語!?キモッ!!キモすぎるっ!!何かもう吐き気してきたんだけど!!」
「酷!……いですよ!!えーっと、さっきはすいませんでした。これ、割れちゃったけどモノクルです。」
「へ?あ、あー!!忘れてた!!へー。割れたあとってこんな感じなんだー。石はちゃんと割れずに残ってんのね。へー。」
そんな風に態度の変わった勇者を懸命にスルーしながら杖のデザインを閃いていると、勇者がまた話し掛けてくる。
「えっと、いきなりなんですけど………。」
「何?早く帰りたいんだけど。」
「あ、はい。えっと、あの……………………貴方の、弟子にしてもらえませんか?」
「………………ん?」
いやコイツ今なんて言った?「弟子にして下さい?」いや、空耳だろ。余りに失礼な事を言われて脳がショックに耐え切れず勝手に脳内変換しちゃった系だろ。そうだよね?そうなんだよね?
「すいません、もう一度言ってもらって良いですか?」
「いや、だから、弟子に…………」「は?えっと、つまりお前は私の弟子になりたいんだと。そう言ってるんで間違い無いかな?」
いやいや嘘だろ?と、もう一度確認してみるも…………………
「はい。魔法を教わりたいんです!!」
あ、マジだ。リアルだ。これリアルだよ。うわぁ。兎に角、この場は誤魔化そう。それで先輩に相談しようそうしようそれが良いね!!
「………私は犯罪者を弟子にしたくは無いですから、とりあえず今まで金品奪った人達に土下座して、奪った物返して来なさい。使ったり壊したりしたなら元の持ち主に相談して弁償させて貰って、全部終わったら私にアイスクリーム奢れ。そこまでしたら考えてやる。」
「い、良いんですか?!やったー!!」
何ちゅー喜びようだ。…………まぁ、とりあえず何をするにもこのぬるぬるじゃ動きにくいだろうし。
「取り敢えずうち来て水浴びしろ。そんなんじゃ向こうも困るだろうし。」
「はいっ!!」
「~~~~~!!」
さっきとは別の呪文を呟くと、私達の体がぐねりと唸る様な感じがして、気が付いたらあの施設に居た。
事前に発泡スチロール(っぽい素材)製のマネキンを大量に用意しといて良かった。これで等価交換に勝つる。瞬間移動及び転送魔法においての『等価』は質量だからね!!ミキレイちゃんありがとう。マイホーム愛してる。
固まってる先輩達に風呂の準備を要請し、風呂から上がってビン牛乳を飲みながら事情聴取を受けるのはもう少し後の話…………………
* * *
ああああああああああああああ。あれだ!!絶対あの時に拒否するべきだったんだ!!
あの時何で濁したんだろう?先輩に相談?そんな事よりスパっと拒否だ。NOと言える日本人の代表格とも言える私として恥ずすべき失態!!なんてこったい!!
「師匠!!今日は何をすれば良いですか?」
「昨日、昨日やった事のテストするからかき氷食べたら準備しておいて。」
「水の魔法ですね!分かりました!!」
あの一件の後、勇者はマジで土下座して回ったらしい。それと同時に、どうして改心したのか理由を聞かれる度に私の名前を出しやがり、お陰で私、ひいてはこの施設もそれなりに有名になってしまった。
有名と言ってもかなりローカルな社会なので買い物に行くとおじちゃんおばちゃんなや声をかけられる位である。
ただ一つ気掛かりな事といえば、「変な奴が多い(と言うより全員変人だ)けどあそこの奴等に頼めば大抵のことは何とかなる」と言うあながち間違ってない噂が王都の方まで流れているらしい事ぐらいだ。まあ、でも、大したこと無いだろう。辺鄙なとこだしね。
ただ、この施設(名前未定)とそこの従業員(私達)はこの地域の軽い名物になってしまっていた。なんてこったい。
たまに面白半分で見物に来る仕事か何かで来たおじさんとかが居るくらいだからまあ良いだろうし、先輩達は「儲かるから問題無い。」とキリリと決め顔をしながらマネーのハンドサインをする位の余裕が有る。
私も有名になった事に関してはなんともないのだが、毎日の様にやって来る勇者にはなんかもう疲れていた。
正直毎日てんてこ舞いのつもりだが、「元々が働かな過ぎなんだよぉ!こんなの大したことナイナイ!!」と言われる。
あまりにもウザいので「大した事ナイナイ!!」と言われる度に最近図書館で見かけた「お手軽!悪戯からチョットした呪いまで!!黒魔術百選」と言う本に載っていた、「何か今日ついてないなー」魔法をかけて憂さ晴らしをしているんだけど、これがまた面白い。兎に角面白いのだ。詳細は省くけど。
そんな話はあっちに置いといて、兎に角、私は勇者の魔法の特訓をする事になった。
折角だしと最低限のマナーや礼儀、一般常識、暗黙の了解や魔法の仕組み、語学なんかから始まり、こっちでは余り重要視されてない(と言うか余り発展していない)科学や義務教育卒業レベルの数学なんかもみっちり教えてあげてから実技に入ったが、コイツ、中々根気が有る。しかも中々飲み込みが良いのでスルスル教えられるし、こっちとしてはとても良い生徒だ。不本意ながら。
ちょっと前の勇者なら考えられ無いけど、これがあの勇者なのだ。この事実は変わらない。でも、人に物を教えるのが果てしなくめんどくさいのも事実だ。
と、言う事で私はあの時断ら無かったのを未だに後悔しています。皆さんはちゃんと受け入れるか断るか瞬時に判断出来る様に日頃から訓練しておきましょう!!以上!!




