表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5.襲撃

 半狂乱となりかけた九乃と陽菜だったが、ディーンは冷静だった。すぐに楓に駆け寄ると傷口の様子を見る。


「これは、例の棒状の武器……小銃といったか、あれの傷だな。矢じりは背中から抜けている」


 体内に弾丸が残っていないことを確かめたディーンは、治癒魔法をかけた。


「傷はふさいだ。体力回復の魔法をかけたが、かなり血を失っているようだから目が覚めるまでには少しかかるだろう。」


 楓の顔からは苦痛の表情が消え、呼吸も穏やかになった。ディーンは楓をソファーの上に寝かせた。


「ありがとー! ディーンさん!」

「ありがとうディーン。開腹手術ができる人間はここにはいないわ。本当にディーンがいてくれてよかった」

「なに、先ほどのうまい飯のお礼だ。それよりも武器を用意しろ。この建物の周りを敵意を持った者達が包囲し始めているぞ。」

「え?」

「俺は、敵性の者を感知する弱い魔法を常に展開している。それに引っかかった。少なくとも二十人に囲まれている。」


 そう言うとディーンは脱衣場に戻り、洗濯乾燥が終わった鎧をジャージの上に身につけた。


「おそらくそこのカエデがつけられていたのだろう」

「そういえば、楓ちゃん、男性陣と一緒に出て行ったのに一人で帰ってきた……まさか」

「……浩平達は死にました」


 いつの間にか目を覚ましていた楓が、口を開いた。


「私たちはいつものように輸送部隊を襲撃して、物資を奪おうとしました。しかし今日襲撃した部隊は輸送部隊に見せかけた囮でした……浩平達がトラックの荷台に踏み込もうとした瞬間、荷台は爆発し前衛二人が吹き飛びました。残った二人も別の車から出てきた兵士に射殺されて……」

「楓ちゃん……」

「狙撃のため遠くからスコープをのぞいていた私だけ、すごすごと帰ってきたのです。その途中、敵の狙撃兵に発見されて銃弾を受けたばかりか、後をつけられるとは……くっ!」


 楓は悔しそうに目に涙を浮かべると、唇をかんだ。


「みんな、悔しがるのは後だ。早く武装をしろ。初期配置が終わったようだ。いまに攻め込んでくるぞ」

「このアジトはもう終わりね。撤収しましょう」


 九乃が指揮を執る。


「地下の秘密通路から脱出するわ。陽菜、あなたの二つ名を敵に知らしめてやりなさい。」

「えー、あれ恥ずかしいんだけどなー。よっと。トラップ全起動、完全撤収モードっと」


 陽菜が手元のタブレット端末を操作しながら言った。


「期待しているわよ。『純真な爆弾魔(イノセントボマー)』」



 襲撃部隊は六人の小隊が四つ、全二十四人だった。二隊は廃ビルの九乃達のアジトがあるフロアのエレベーターホールに待機していた。残りは屋上と、非常口に一隊ずつ突入指示を待っていた。


「アルファならびにブラボー。百八十秒後に正面から突入する」

「了解。チャーリーは窓から侵入する」

「デルタ同じく、非常口から侵入する」


 無線で連絡を取り合い、突入タイミングを合わせる襲撃者。


「よし、行けブラボー。アルファは突入を援護する」


 ブラボー隊はエレベーターホールの角から奥をのぞき込み、異常がないことを確認すると、弾かれたように奥に走る。エレベーターホールから電子錠までをつなぐ通路の距離は十メートル。重い装備を身につけていても、数秒とかからずたどり着ける距離のはずだった。


ピッ……。


 ブラボー隊が走るその足下でかすかな電子音がした。次の瞬間、


ズドン!


 大きな音とともに通路の両側の壁が爆発しはじけ飛んだ。壁の奥から超音速で飛来した直径十ミリの鉄球の雨がブラボー隊に襲いかかった。ブラボー隊六人のうち五人は即死だったが、防弾装備が幸いして一名はなんとか生き残った。しかし足に弾丸を受けた彼は床に転がる。

 通路のように見えていたのは、両側を石膏ボードで壁のように見せかけた広間だった。もうなくなってしまった両側の壁の奥には、指向性対人地雷がずらりと並べられている。ブラボー隊はその罠の中にまんまと足を踏み入れてしまったのである。


「ブラボー隊全滅。生存者はブラボー3」

「ブラボー3を回収しろ。グレネードで地雷原を一掃する」

「了解」


ドン……ズズン……!


ちょうどそのとき、遠くから爆発音が二つ響く。


「非常口に向かったデルタも壊滅。チャーリーは窓から室内に侵入するも、音信が途絶えました」

「ここはトラップ源か。被害が大きい。いったん撤退するか……?」


 アルファ隊隊長がそう呟いたときだった。ゴゴゴという地響きのような者が聞こえてきた。



「よっし、正面の地雷原がクリティカルヒットー! あれ準備するのちょー大変だったんだからー!」


 楓に肩を貸しながらタブレット端末を操作していた陽菜が、画面を見てはしゃぐ。

 ディーンと九乃達四人はアジトの秘密扉からつながっている、地下下水道に降りていた。かつて地上を流れていた川が開発のため地下化し、暗渠(あんきょ)となっていたところに、下水道やケーブル坑などが縦横無尽に増設され、さながら地下迷路のようになっていて、いまや九乃たちレジスタンスにとってはなくてはならない移動通路となっている。


「お、非常口から来たね。残念。そこもトラップでした-! あれ、室内に侵入された。窓からかな。さようなら私のエニグマちゃん……はい爆破」


 前を歩いているディーンが、隣の九乃に聞く。


「エニグマというのはなんだ」

「陽菜のパソコンよ」

「パソコン?」

「うーん……なんて説明したらいいのかしら……陽菜、遊んでないでさっさとビルごと爆破しちゃいなさい」

「はーい」


 陽菜がビルの爆破指示を出すと、その瞬間、ゴゴゴという地鳴りのような音が響いてきた。


「んー!我ながらきれーに爆破解体できたね。これで、向こうに行った部隊はたぶん全滅だよ」


 すがすがしい表情で陽菜が言う。それを聞いたディーンが言った。


「ならば、前の敵だけか」

「え?」

「そこの角の先に数人敵がいる。この逃走経路を見透かされていたな」


 ディーンは背中から大剣を抜いて構える。


「待って、援護するわ」


 九乃は自動小銃を構えると、曲がり角の壁に張り付いた。


「わかった。俺が飛び込んで攪乱(かくらん)する。後衛は任せた」


 ディーンはなにげない様子で曲がり角から飛び出していった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ