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4.アジト


「ここで服を脱いで、その全自動洗濯機に入れて。鎧も臭いわね。鎧も洗濯機に一緒に入れて大丈夫よ。剣道の防具も一緒に洗える業務用の最新式だから」


 脱衣所で、九乃がディーンに風呂の使い方を教えている。


「これを捻ればシャワーからお湯が出るわ。石けんはこれね」


 一通り説明し終えた九乃が脱衣場から出て行く。残されるディーン。

 ディーンはまず、いまだに背負っていた大剣を壁に立てかけた。そして、鎧を外しにかかる。


「自動で洗濯してくれる魔導機械だと言っていたな。鎧も洗ってくれるとはすごい機械だ。しかし、洗濯するとなるとナイフは外しておいた方がいいだろうな」


 ディーンは鎧の各所に隠すように取り付けられている投げナイフを二十本ほど、順番に床に並べていく。そして胸当てとすね当て、肩当てを外して洗濯機に入れていく。


 鎧を外し終わり、服を脱ごうと、腰にぶら下がっている大ぶりの短剣を外そうとしたところでふと逡巡する。


「さすがに丸腰というのは無防備すぎるな」


 ディーンは服を脱ぐと、短剣を固定していたベルトを裸の腰に巻き付けると風呂場に入った。


「これを捻れば湯が出ると言っていたな。うおっ!」


 蛇口を捻るディーン。シャワーから適温のお湯が勢いよくでてディーンの顔にかかる。

 ディーンが異世界人でこちらの常識がないことを知っていた九乃は、不測の事態に備えて脱衣所の外で待機していた。ディーンの叫び声を聞きつけて、九乃が声を上げる。


「何か今叫んだけど、大丈夫、ディーン?」

「……問題ない!」


 なんとかシャワーの使い方を理解したディーンが答えた。そしてディーンは体を洗おうと、液体のボディーソープのボトルを凝視していた。ボトルは業務用の大瓶だった。


「この瓶が石けんと言っていたな……石けんというのは瓶に入るものなのか?」


 ディーンは固体の石けんしか見たことがなかった。元の世界では石けんは高級品だったため、滅多に使うことはなかった。ましてや口にポンプのついたプラスチックボトルのボディソープなど、使い方がわかるはずがなかった。

 瓶であることは理解したので、ふたを回してボトルを開けると、傾けて中身を手に取り出す。


「これが石けんか? これで体を洗えばいいんだよな?」


 いまいち使い方がわからなかったディーンは、石けんを頭から振りかけた。全身を液体石けんだらけにするディーン。全く要領がわからなかったディーンは、業務用の大容量ボトルのボディーソープをほとんど頭からかぶってしまった。


「よし。これで体を洗って……うお、眼に入った! 痛い!」


 慌てたディーンは一歩踏み出す。しかし浴場の床には、ディーンが振りかけた大量のボディーソープの液体が広がっており、泡だらけであるだけではなく、ヌルヌルと非常に滑りやすい状態だった。ディーンはそのヌルヌルに足を取られ、見事に転んだ。


ガシャーン!


 何とか受け身を取ったディーンはしかし、浴場の扉に倒れ、脱衣場に倒れ込んだ。その大音声を聞きつけた九乃が、脱衣場の扉を開ける。


「何!? すごい音したけれど、ディーン、大丈夫!? きゃあ!」


 九乃は、泡だらけの脱衣場に転がる全裸の腰にベルトと短剣を帯びたディーンの姿を見て、思わず悲鳴を上げた。



「すまなかった」

「もういいわよ。慣れていないんだし。私の説明が不足していたわ」


 風呂から上がったディーンが九乃に謝る。九乃は若干顔を赤くして言った。

 ディーンはジャージ姿だ。着てきた服は洗濯中だった。その間、アジトにあった男性もの下着の予備と、ジャージを着てもらっていた。ジャージの腰にはやはり短剣が刺さっている。


「この服は着心地がいいな。それに動きを全然邪魔をしない。この上に鎧を着たいくらいだ」


 ディーンはジャージをいたく気に入った様子だ。


「これは男性ものだな? ここには男もいるのか」

「今は出払っているけど、もうすぐ帰ってくると思うわ。私たちの『細胞』は男性四人、女性三人よ」

「『細胞』?」

「拠点や構成員が政府にバレたときに、組織全体が全滅しないように小分けにしているの。別の『細胞』がどういう人員で何をしているかは私たちは知らないわ」

「外国に潜入する諜報部隊みたいだな」

「そのようなものよ」


 そんな説明をしていると、陽菜が台所から料理を持ってきた。シーフードパスタとサラダをテーブルに並べていく。


「急だったんでこんなものしかないけど……」


 陽菜が少し申し訳なさそうに言う。このアジトの台所を預かっているの陽菜の料理の腕はなかなかのもので、客人をもてなすとなればもっと豪華な料理を作りたかったのだ。しかし、ディーンはそんなことを気にすることなく、


「いただきます」


 と言うやいなや、フォークをパスタに突き刺して、口に運んだ。本当におなかがすいていたのだろう。


「お代わりもあるよー。どんどん食べてね」


 すぐに空になった皿を差し出すディーン。結局、ディーンはパスタを三杯お代わりした。


「うまかった。こんなにうまいものを食べたのは久しぶりだ」

「ディーンさん褒めすぎだよー。でもありがとう。えへへ」


 ディーンは旅の間干し肉や乾いたパンなどを口内の水分で戻して食べるような生活をずっと続けていた。それからすると、この食事は王侯貴族の食卓のようだった。いや、内陸地の祖国では、シーフードパスタなど王侯貴族ですら食べられないだろう。


「さて、一息ついたことだし、例の魔王について話を聞きたいんだけど、二度手間になるからメンバーがそろってからの方がいいわね。陽菜、浩平達はいつ頃戻るの?」

「んーとね、輸送部隊への嫌がらせをして午前中には戻ってくるって言ってたけど」

「もうすぐ夕方じゃない。まあいいわ、この辺の地図と、政府軍の配備状況をディーンに教えておくわ」

「頼む」


 九乃が地図を広げ、ディーンに近辺の軍事情勢を説明していく。配備している武器については、銃火器をほとんど見たことがないディーンにはなかなか理解が進まなかったが、武器のイメージだけは伝えたのだった。

 そういった状況説明をしていると、ピピッと電子音が鳴った。入り口の電子錠を誰かが解錠しようとしている知らせである。


「楓ちゃんが帰ってきたよ。顔色が悪い……もしかして怪我してる?」


 モニターをのぞいて、誰が来たか確認した陽菜が言った。程なくして、肩に狙撃銃を担いだ、黒髪ロングストレートの女性が居間に入ってきた。


「楓!」

「楓ちゃん!」


 楓と呼ばれた女性は腹から血を流し、ふらふらと床に倒れ込んだ。



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