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3.現状把握

 九乃とディーンはビルの並び立つ裏道を縫って、アジトに向かっていた。道すがら九乃は現在の情勢をディーンに説明していた。


 ここは西暦二一一五年の日本。これまで長らくこの国は世界屈指の平和な国だったが、十五年前の二一〇〇年、突如、国防軍がクーデターを起こした。

 それまで、有事の際の発砲すらためらうような慎重姿勢だった国防軍が、何故このような暴挙に出たのかはいまだにわかっていない。というのも国防軍に所属している人員が、そのときを境に一般国民との一切の対話を絶ってしまったからだ。国民の中には国防軍に家族がいる者もいたが、それ以後全く連絡が取れなくなっていた。

 国防軍によって樹立した軍事政権は圧政を敷き、その軍事力を背景に、対立者は容赦なく粛正されていった。独裁の恐怖政権の始まりである。

 この事態を憂慮したアメリカなどの西側諸国の軍事支援により、反政府組織(レジスタンス)が各地に発足した。反政府組織によって各地で内乱が勃発し、この国はいま内紛状態にある。


「その反政府組織っていうのが私たち」

「それで殺されそうになっていたのか?」

「いえ、それもあるけれど、今回はこれのせい」


 九乃が懐からカードを取り出した。


「これさえあれば、形勢を逆転できるかもしれない……」


 カードを大事そうに見つめる九乃。ディーンはその様子を見つめるが、別の世界の国の事情にあまり頭を突っ込む気がないので、あえて詳しくは聞かない。


「ディーン、あなたのことも聞かせて」

「俺は魔法剣士だ。魔王を倒すために旅をしてきた」

「それはさっき聞いたわ。魔法剣士って何?」

「魔法を駆使して戦う剣士だ。並の戦士の千人分の戦力と言われているが……まあそれは言いすぎだ。せいぜい百人分だな」


 そう言うディーンの顔は自負に溢れていた。


「俺は世界を滅ぼしかけていた魔王を倒すために旅をしてきた。そしてついに奴を追い詰めた。しかし魔王は転移の魔法を使って逃走を図った。俺はすぐに後を追ったが、転移先は先ほどの路地裏だ。あとは知っての通りだ」


 ディーンは悔しそうに言った。


「話がファンタジーでにわかには信じられないけれど……別の世界とか次元から飛んできたとかそう言う奴?」

「おそらくそうだろう。俺のいた世界には、さっきの連中が使っていたような武器はなかったし、街にこんなに高い建物はなかった」

「それで、さっきの死体……シェイプシフターだっけ? あれを見てどうして魔王がこの世界にいると思ったの?」

「シェイプシフターは魔王が作り出した魔法生物だ。魔王は様々な魔法生物を生み出すことで世界を征服していったのだ。あれがいるということは、魔王がこの世界にいるということだ」


 九乃は考える。突如反乱を起こした国防軍。それが軍内部に紛れ込んだシェイプシフターのによるものだったら。裏で魔王が手を引いていたとしたら。そう考えると妙に符号が合う。


「魔王だけ一五年前にこちらに来たということは考えられないかな?」

「転移の魔法は、転移先とものと場所で時間の流れる速さが異なる場合があるという。ふむ、魔王が渦に入ってから俺が渦に飛び込むまでの間に、こちらでは一五年の月日が流れたということか」


 ディーンはしきりに納得している。

 そうしているうちに、二人はとある廃ビルにたどり着いた。


「ここよ」


 九乃に導かれてディーンは廃ビルに入っていった。




 廃ビルの一フロアに九乃とディーンはやってきた。そこには、入り口に電子錠がかけられていた。九乃は電子錠に手を置いてカメラに眼を向けて、静脈認証と虹彩認証受ける。


「あ、あー。九乃よ」


 さらに音声認証で本人確認を果たした電子錠がガチャリと解錠された。


「この世界は魔導機関が発達しているのだな。さっきの武器しかり、魔導馬車しかり。魔法鍵など、王城の財宝部屋くらいにしかないぞ」

「これは魔法ではないわ。でもそうね、充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かないとも言うわね。魔法と捉えても問題ないわ」


 電気や内燃機関の説明も面倒だし、説明して動作原理を理解したところで得があるわけではない。そう考えて、九乃はあえて魔法で動いているというディーンの理解を訂正することをやめた。

 アジトの中に入っていく二人。


「ただいま、帰ったわ。誰かいる?」

「おかえりー、九乃ちゃん。陽菜がいるよー」


 居間のようなところに入ると、ソファでくつろいでいた少女が返事をした。歳は十二、三歳くらいだろうか。肩まである巻き髪のショートカットが似合っている、幼い印象の少女だった。


「わ、誰!? その男の人!?」


 ソファにだらしなく寝転がっていた少女は、振り向いてディーンの姿を認めると、驚いてソファから転がり落ちた。


「陽菜、この人はディーン。命の恩人よ。この人が助けてくれなければ今頃蜂の巣だったわ」


 陽菜と呼ばれた少女が立ち上がって体裁を整える。


「ディーンさん? 九乃を助けてくれてありがとー! 私は高崎陽菜だよ」

「よろしく頼む。ヒナ」


「陽菜、ディーンに食事を用意してあげて。昨日から何も食べていないらしいの」

「わかった! でもディーンさん、怪我してるよ。その手当ての方が先じゃない?」


 確かにディーンは肩と(もも)に銃弾を受け、そこには血がこびりついていた。


「何、かすり傷だ。『体内を巡る魔力と活力よ……傷を癒やし給え……』」


 ディーンの肩の傷がみるみるうちにふさがっていく。それに九乃と陽菜が驚いているうちに、ディーンは腿の傷も治療してしまった。


「うわー、なに今の? 痛いの痛いの飛んでけー! の強力版みたいな感じ?」

「これが魔法……?」

「そうだ。治癒の魔法だ」


 目の前で起きた現象に目を丸くする九乃と陽菜。ディーンはなんということはないような顔をしていた。陽菜は肩に顔を近づけて、傷口がふさがっているのを確認していたが、少し眉をひそめていった。


「でもディーンさんはご飯の前にお風呂だね。怪我は治ったとはいえ、血がこびりついてるし、ちょっと……ううん、結構汗臭いよ?」

「そうか? 確かに、魔王城に入ってから連戦続きで、三日ほど前から風呂に入っていないが」

「すぐにお風呂に入りなさい」


 その言葉を聞いて、九乃はディーンにきっぱりと命令したのだった。




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