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1.転移


「魔王よ、観念しろ! お前の命運もここまでだ!」


 魔法剣士ディーンは大剣を構え、魔王と対峙していた。


 魔王と呼ばれた人物は傑出した魔法使いであった。彼は人生の大半をかけて生命を操作する禁断の魔法の研究を行っていた。寝食を忘れて魔法を研究し、探求し、追求した彼は、ついに、その末に魔法生物を生み出したりする禁術を発見したのだった。

 禁断の魔法に手を染めた彼に世界は厳しかった。異端と断罪され、住む場所を追われ、逃げるように辺境に身を潜めた。彼は世界を憎んでいた。恨んでいた。だから、禁術を手に入れた彼は世界に宣戦布告をし、侵攻を始めたのだった。

 そして、世界はその力に屈服しようとしていた。彼はいつしか『魔王』と呼ばれるようになっていた


 もはやこの世界の国々に、組織だって戦う力は残っていなかった。そこで、少数の勇者が魔王討伐のために派遣された。彼らは魔法剣士と呼ばれる戦士達だった。大剣を振りかざし魔法を駆使して戦う、一人で千人の軍勢と等しい力を持つとされる超人たち、それが魔法剣士である。

 しかし、いかな魔法剣士達といえども、ここまでの道程は簡単なものではなかった。一人、二人と敵の手にかかり命を散らしていった。魔王の元にたどり着くことができたのは、ディーンただ一人だった。そして、ディーンと魔王の間には、四体の魔物がいるのみである。魔王討伐は目前と言えた。


「くっ……お前達、時間を稼げ!」


 魔王は配下の四体の魔物にそう命じると、魔法の詠唱に入った。


「させるか!」


 ディーンは叫ぶと、瞬時に足下に魔力を放出させる。踏み込んだ足からドンっという爆発音を響かせて、猛烈な勢いで前方に飛び出した。

 魔法剣士は機動力が命であるので、全身鎧ではなく胴と肩やすねなど要所要所を防護する鎧を好んで着用していた。その機動力を生かして、ディーンは魔物に一直線に突っ込んでいく。

 それを阻もうと迎え撃つ魔物たち。しかしディーンは先頭の一体を一刀のもとに斬り捨てた。


「まずは一つ!」


 残る三体のうち二体の魔物が、ディーンの両脇から迫る。魔物はそのままディーンの腕に抱きついて動きを封じようとした。


「はあっ!」


 ディーンは両腕で魔力を爆発させた。至近で爆発を受けて左右に吹き飛んでいった二体の魔物は、壁にぶつかって動かなくなった。


「三つ!」


 残る魔物は一体である。最後の魔物は、ディーンを通すまいと大きく腕を広げて構えた。


「馬鹿め! 隙だらけだ!」


 ディーンは全身の体重を乗せて突きを放つ。ディーンの大剣の切っ先は、魔物の胸に真っ直ぐ吸い込まれていった。


「四つ! ……何っ!?」


 心臓を貫かれた魔物はまだ絶命していなかった。その両腕で、自らの胸から生える大剣を掴むと、抜けないように押さえつけていたのだった。自らの命が尽きるわずかな時間を、命令に忠実に時間稼ぎに費やすつもりだった。


 魔物の献身的な時間稼ぎが功を奏し、そのときついに魔王の詠唱が完了した。


「魔法剣士よ、惜しかったな」


 魔王の魔術により空中に人間の背丈ほどの大きさの渦ができあがった。攻撃魔法かと身構えるディーン。しかし最後の魔物がまだ押さえていて、剣を抜くことができない。


「しかし私も多くの物を失った。しばらくは雌伏の時を過ごそうぞ」


 魔王が渦の方に一歩足を踏み出す。


「ではさらばだ、魔法剣士。いずれまた会うことになろう」


 そう言うと、魔王は渦の中に身を投じ、姿を消した。


「待て! 魔王ーっ!」


 ようやく絶命した魔物から大剣を抜いたディーンが渦に駆け寄ったころには、魔王の姿はもうなかった。


「これは、転移系の魔術か。どこに繋がって……いや、考えている暇はない」


 渦は端の方から早くも崩れかけている。


「待っていろ魔王! どこに逃げようと必ず討ち取ってみせる!」


 ディーンは叫ぶと、迷わず渦の中に飛び込んだ。



 藤原九乃は走っていた。それにあわせて髪が揺れる。邪魔にならないように両サイドで結んだ髪が、少女の活発な印象を強調していた。

 九乃という名前は、生まれた西暦二〇九九年にちなんで母親が付けてくれたものだった。しかし十六才になった今、その母親ももういない。


「いたぞ! こっちだ!」


タタタン!


 銃声が鳴り響く。音からして九九式小銃だろうと九乃は思った。九乃と同じ年に開発された同じ数字を冠する銃。

 九乃は横っ飛びに銃弾を避けると路地に逃げ込んだ。懐から拳銃を取り出すと、角から腕だけ出して適当に連射して牽制した。

 全弾撃ち尽くして拳銃を捨て、走り出す九乃。そのまま路地の奥まで走った九乃だったが、そこは行き止まりになっていた。


「追い詰めましたよ。このドブネズミめ」


 路地の入り口には軍服姿の兵士が数名、こちらに小銃の銃口を向けて構えていた。その後ろに装甲車が止まる。装甲車の中から背の低い、豚のように肥え太った男が下りてきて言った。


「さあ、盗んだマスターキーを渡しなさい」


 豚が口を開いて言った。


「いやよ。死んでも渡す物ですか」


 九乃は気丈にも豚男を睨み付けるとそう言った。


「そういう口をききますか。生意気な。別に死体からむしり取っても良いのです。総員構え!」


 豚男が号令を下すと、配下の兵士は一斉に膝射の姿勢で小銃の照準を九乃に合わせた。


「さようならお嬢さん。よし、撃……」


 豚男がまさに射撃の命令を下そうとしたそのときだった。兵士と九乃の間に、空間に穴を開けたような渦が現れた。



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