第七話 神坂ゆかりと言います。実は膝の裏のスジフェチです†
私は決意してみる。
この自慢の胸の前に握りこぶしをぎゅっと当てる。
手には机の上においてあった『アレ』を握り締めたまま。
私は携帯ゲームの画面に映っている選択肢の『空白の4番目の選択肢』にカーソルを合わせ『決定』ボタンを押した。
・・・
目を覚ますとやはり『ゲーム』の世界へと戻って来ていた。
絵里が全く同じ形で静止している。
この隙に軽くチュウとかしてみた。
良いよね?
だってもしかしたらこの『作戦』が失敗して、ここにいる絵里はトラックに轢かれてバラバラのミンチのぐちゃぐちゃのドロドロになって死んじゃうかも知れないんだから。
せっかくだからもう一回チュウしようとしたら『スコンッ』と後頭部に良い音がした。
「???」
頭を抑えながらキョロキョロ見回してみるけど何もいない。
「……痛ぇなぁ……どうせ『使者様』の一撃でしょ……まったくまったく……」
ブツブツ言いながらも私は作戦を実行する。
掌を開くと『ソレ』があった。
うん。予想通り。
私はにやっと笑う。
『現実世界』の物を『ゲームの世界』に持ち込める。
それが分っただけでもかなりの進歩だ。
というか何となく気付いてはいたのだが。
過去10回の『BAD END』。
もちろんこのうちの数回は私の欲望が暴走した結果、選択肢を間違えてしまいBAD ENDへと向かったものもあったとは思うが。
(……例えば絵里を押し倒そうとした時に絵里の後頭部がコンクリートの角にぶつかって死亡とか、絵里を全裸にひん剥いてやろうと思ったらタイミング良く警察が通り掛って婦女暴行罪で逮捕されたりとか、絵里を……)
・・・。
数えてみたら半分以上が私の暴走の結果のBAD ENDだったが、それは内緒にしておいて……。
でも、だ!
あったもん!
確かに『明らかにコレ、何を選択したってBAD ENDだよね!』ってやつ!
全部が全部、私が悪いってんじゃ無いんだもん!もんもん!!
・・・
10分ほどエアー友達に言い訳をし、満足した私は計画に移る。
『選択肢で選んだ選択は絶対』。
このルールを逆手に取る。
私は選択肢の3番にカーソルを動かす。
そして左手に握り締めていた『お菓子に付いていたおまけのトラックのおもちゃ』を私と絵里のいる位置の反対側の道路に置く。
私は生唾を飲み込み―――。
―――そして3番の選択肢で『決定』を押した。
・・・
動き出す世界。
「ふふ……。ゆかりの弟君っておっちょこちょい……」
「絵里!ごめんっ!!」
「え―――――」
私は絵里を勢い良く『おもちゃのトラック』へと突き飛ばす。
「きゃっ!!!」
突然私に突き飛ばされ体勢を崩し、地面に転ぶ絵里。
そして後ろからは猛スピードでトラックが迫ってくる。
駄目か―――。
そう思い目をギュッととじる私。
「・・・」
「・・・」
「……あれ?」
いつまで待っても衝撃が来ない。
恐る恐る目を開けるとトラックは既に私達を潜り抜け向こうの方に走り去っていた。
「いたたた……もう……ゆかり?膝を擦りむいちゃったじゃない……」
「……生きてる……」
「え?」
「生ぎでるよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ちょ、な、やめて、ゆかり……汚い……何か色んな液が私の制服に……!」
「うわあああああん!!!!絵里いいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
ドサクサに紛れ、私は絵里の胸に涙やら鼻水やら涎やら謎の液やらを擦りつけ匂い付けを敢行。
・・・
10分間楽しませて頂きました。
本当に有難う御座いますた。
「もう……一体何なのよゆかり……ああ、もう……制服がグショグショ……」
猛獣の匂い付けからようやく解放された絵里はスカートの埃を払いながら立ち上がる。
「………あれ?何コレ……。こんなもの落ちてたっけ……?」
絵里はお尻の下からおまけのトラックのおもちゃを取り出す。
そうなのだ。
絵里は間違いなく3番の選択肢の『未来』に進んだのだ。
『絵里がトラックに衝突する』。
何も間違えていない。
私が後ろから突き飛ばした『絵里が』私が現実の世界から持ち込んだおもちゃの『トラックに衝突する』。
先にその『選択肢の未来』を実行したから、後から迫ってきたトラックは素通りしただけで絵里は轢かれずにすんだのだ。
私策士。
今度から題名を『策士神坂の冒険白書』と名を変えよう。
……題名……なんだそりゃ?
「………あ。ごめん絵里……血が出てるんだったよね……」
私は膝から血を流している絵里のおみ足に舌を伸ばし……はせずに、ポケットからハンカチを取り出し血を拭う。
……もちろん必要以上に絵里の太ももをサワサワした事は認めよう。
「あ、いいよゆかり……。でも、今度突き飛ばす時は先に言ってよね?」
「え?」
「うん?」
……意味が分って言ってるのだろうか。
それとも誘ってる?
先に『突き飛ばす』という行為を伝える行為をする行為なんて、私は一つしか思い付かないのですけど。
「……うん?」
目をパチクリしながら首を傾げ、こちらを見つめる絵里を―――。
―――今すぐにでも突き飛ばして馬乗りになりたい衝動を抑えている私がそこにいた、なんて事はもう、みんな分ってるよね?