第一話 神坂ゆかりと言います。女の子が好物です†
私は目を覚ます。
「……ん……。あ……そっか。また『BAD END』か……」
私は手に持った携帯ゲームの画面を確認する。
背景が真っ赤な画面に「BAD END5 『嫉妬の先に咲いた赤い向日葵』」と表記されている。
「はぁ……私は一体いつになったら絵里ちゃんと結ばれるのかしら……」
制服のスカートを払い、立ち上がる私。
まさか私が、この人の少ない放課後の図書室の。
『絶対に』と言い切っても良いほど誰も来ない、過去の新聞記事だけが山の様に整頓されている、通称『無人の新聞部屋』にいるとは思わないだろう。
誰が付けたか分らないが、その名の通り放課後にもなるとこの部屋には誰も来ない。
その部屋で私はいつも、この不思議な『美少女ゲーム』をプレイしていた。
◆◇◆◇
私こと、『神坂ゆかり』は自分で言うのもなんだが、かなり美人な女子高生だ。
スタイルも良いし、表向きは清楚で性格も良いとされている私の正体。
それは『女の子が大好き』だと言う事。
でも今までに誰にも明かした事は無い。
だって当然でしょう。
そんな特殊な『属性』を持っていたなんてばれたら、私の人生は一瞬で終わってしまう。
でもある日、クラスのキモオタ男子共が嬉しそうに興奮気味に喋っていたある携帯ゲーム機で発売された『美少女ゲーム』。
内容はなんてこと無い、至ってシンプルな『選択肢』によって先に進めるアドベンチャーゲームらしい。
私は今までこれと言ってゲームに嵌った事も無ければ、当然美少女ゲームなんてものをやった事は無いし。
女子の間で少し流行っている携帯アプリの『乙女ゲーム』ですらやった事は無い私。
そんな私がある日、行きつけのCDショップでその『美少女ゲーム』を発見。
パッケージには何人もの二次元美少女の絵がパンチラ付きで載っていたのだが。
その中の一人の少女の絵に釘付けになってしまった私。
二次元少女特有の大きな目。
サラサラに描かれた少し茶色掛かった髪の毛とアホ毛。
それなりの大きさの胸にスカートから覗くパンチラ姿。
そして吹き出しには『篠崎絵里はいつもあなただけの彼女だよっ♪』の文字。
正直に言います。
私、鼻血が垂れていました。
そして人目を気にして鼻血をハンカチでふき取った私は、そのゲームソフトのパッケージを隠し持ち。
全く買うつもりも無かった雑誌やら文房具やら単行本やらを大量に買い込み。
それら大量の買い物のちょうど真ん中位にゲームソフトのパッケージを仕舞い込み紛れ込ませレジ精算へと向かいました。もちろんパッケージは表の女の子の絵が見えないように裏にして。
『いらっしゃいませ。お預かり致します』
レジのお姉さんは一つずつバーコードリーダーで商品のJANを読み込んで行く。
いいぞ……その調子でスムーズに精算まで済ましてくれよ……。
沢山買い込んだせいでレジが混み始めた。
……くそ、こんなに買うんじゃ無かった……。
でも今更後悔しても遅い。
そして問題の『美少女ゲーム』を手にした店員さんは驚きの応対を取った。
『こちら、中身をお持ちしますので少々お待ち下さい』
……私は絶句した。
中身が、入っていない、だと……?
じゃあ私は何の為にパッケージの裏にあるバーコードを上にしてすぐに清算が済むようにわざわざ仕向けたのよ!
しかも今『中身をお持ちしますので』の時、パッケージをクルクル回しながらガン見して確かめてたから、後ろのおっさんにめっちゃ見られちゃったじゃん!
私は顔が赤くなるのを感じながらも、お姉さんが戻って来るまで俯きながら待つ。
その間もレジは込み始める。
早く……早く戻って来てよ店員さんっ!
待っている人達の視線が痛いのよ!早く!お願い……。
そしてたっぷり3分ほど待たされた私に下されたのはお姉さんからの死刑宣告だった。
『こちら、限定版となっておりますので、こちらの『篠塚絵里ギリギリまで見せちゃうドキドキ♪フィギュア付き』が同包となっておりますが、お間違いは御座いませんか?』
3人後ろに並んでいた太めのメガネの男から歓声が上がる。
……なかなか戻って来なかったのはその為か……。
陳列棚にはきっと『通常版』と『限定版』が陳列されていたのだ。
でも私は絵里のパッケージに心を奪われて有頂天になり、そこまで確認せずにレジまで持って行ってしまったという訳だ。
灯台下暗し、とはこの事なのか……!
私は完全にゆでだこみたいな顔になりながらも店員さんに告げる。
「………ドキドキスクラッチも3枚下さい」
歓声に沸く店内。
今思えば、どうしてスクラッチまで追加注文したのだろう。
多分あれだ、どうせ恥をかくのであれば、一度にかいた方が後が楽……とかいう心理だ、きっと。
篠塚絵里の姿に心を奪われていた私は、どちらにせよいつか『ドキドキスクラッチ』を購入するはめになっていたのだ。
『限定版』だってそう。
『通常版』を買ってしまった後に欲しくなって、また買いに来ていたのかも知れない。
そう考えたら変装して買いに来たり、わざわざ遠くの別のCDショップに買いに行ったりとかの手間が省けて良かったではないか、ゆかり。
そして店内をそそくさと出ようとする私を携帯の写真で激写していた奴ら共。
呪われて死んでしまえ。