第八話 「魔術について」
神経を把握し終わたリースであるが、これで終わりではない。
ここまでが第一段階である。ここから次なる難関がまっている。
把握された神経に魔力元素を注ぎ込む。
神経を把握する過程で分かったことだが、やぱり心臓に連なる部分の神経回路が悉く繋がっていなかった。
いや……より正確に言うのなら回路の部分に栓がされているようになっておりそのせいで魔力が流れていなかった。
ならばどうするか?
「(自身の魔力でこじ開けてやれば良い)」
これまた簡単な話だ。蛇口が詰まっているのなら勢いよく水を流してやれば良い。
その過程で神経回路が破壊されたら? その時はその時だ。とうにリースは自身の覚悟を決めているのだから。
だが問題は、どうやって魔力を流せば良いのかということか。
「お母様、少しお聞きしたことがあるのですが大丈夫ですか?」
分からないのなら、まずは相談しみれば良い。そう思いリースは、シルフィアに聞いてみることにした。
「あらあら、なぁに? 私に分かることなら何でも答えるわよ」
そう言ってシルフィアは凄く嬉しそうな顔をした。ここ一月食事もとらず、話しかけてもまともに返事もしなくなった息子のことが気が気ではなかったのだ。そんなリースが、久方ぶりに話しかけてくれたのだ。これが嬉しくないわけがなかった。
「お母様は、魔道師なんですよね?」
「ええ、そうよ」
今までの会話により、シルフィアが魔道師と呼ばれる称号を持っていることをリースは知っていた。
この世界において魔術を使うものはいくつかに分類に分けられる。
ちなみにその分類を行っているのは魔道院と呼ばれるこの世界において魔術を総括している組織が行う。
魔術を志すものは必ずその魔道院に通うと言われる。そして以下の四つに分類されるらしい。
まずは、魔術を習い始めた者を”魔術見習い”と呼ぶ。
これは魔道院に通い始めた者が最初に与えられる称号だ。
そして、一定以上の魔術を習得されたと認められた者を”魔道師”と呼ぶ。
これは魔道院を卒業する者が与えられる称号だ。つまりこの称号が取れなければ卒業も出来ないというこだ。だが、王侯貴族が市井にある普通の学校変わりにこの魔道院に通うことも多いので真面目にやれば
卒業できる程度だとか。ちなみに、シルフィアも親に言われこの魔道院に通ったらしい。
さらに、魔術において一流と認められる成果を出した者を”魔術師”と呼ぶ。
これは、新たな魔術理論を作り出した者や、魔術を用いて目覚ましい成果を出したと魔道院が認めれば、国王自らが与える称号だ。年に数人ほどかしか与えられないこの称号は、魔術を志す者にとっては憧れともいえるものだ。
ちなみに父親であるガルシアは、この魔術師の称号を持っている。何でも若いころ魔獣相手に一騎当千の働きをしたからだとか。
そして最後に、全ての魔術を用いる者の最高位に与えられる称号が”世界樹”だ。
何故、最高位が世界樹なのか。それは、この世界の魔力元素は、世界樹から零れ落ちた滴から広まったと言われているから。なので、魔道院の紋章には、世界樹を模したと思われる樹が描かれている。
ちなみに、世界樹の位を持つ者は現在、この世界においてたった一人しかい。しかもその一人も十年ほど前から行方不明となっているので、現在はほぼ空位となっている。
閑話休題、なので魔道師の位を持つシルフィアは魔術においてそれなりの知識があると思われる。
「お母様は魔術を用いるときどのようにするのですか?」
「んー……ルーンを刻んでかしら?」
「そのルーンを刻む時に自身の魔力の流れを意識したりしませんか?」
「そうね……魔力の流れ何かは意識したことないけど、魔術を用いるときはいつも自分の中にあるイメージを強く意識しているわ」
「イメージ……ですか」
「そうイメージ。魔術を持ちようとするとその魔術に関連するイメージが頭の中に浮かぶの。
それは一人一人違ったものだそうよ。例えば私の場合は、水の魔術を行う時は流れ落ちる滝のイメージが浮かんでくるの」
「なるほど……その魔術に関連するイメージですか。火の魔術を行う時は火に関連するイメージが?」
「ええ、そうよ。私の場合は、燃える焚火のイメージを思い浮かべているわ。そのイメージをより強く意識することでその魔術を行使できるの」
「(イメージ……イメージ……か。これならやってみる価値は十二分にありそうだな)」
そうリースが心の中で思っていると、シルフィアが心配そうな顔をしながらこちらの顔を覗きこんできた。
「…………貴方が好奇心旺盛なのは良く知っているわ。そんな貴方なら魔術に興味を持つのも当然だと思う。でも……今はどうか体を安静にすることを考えて。今ガルシアと私で国中で貴方の体を治してくださるお医者様を探しているわ。だから、いつか必ず体が良くなる日がくるわ。そうすれば、ちゃんと魔術を学べる機会もあるわ」
そう言って優しくリースの頭を撫でた後静かに部屋を後にした。
だがその姿を見ながらリースは、自らの決意を口にした。
「そのいつかは、必ず自分の手で掴み取ってみせますよお母様」
そう言って自らのイメージを探す為に目を瞑り、自らの意識をより深淵へと導き始めた。