第七話 「不可能を可能に」
とにもかくにもまず、リースが行わなれければならなかったのは魔力神経回路に魔力元素を通すことだ。
四肢が動かせねば、理想郷の創造などできるはずもないのだから。
だがしかし、帝国仕えの医師すら見捨てた体である。
この世界の摂理ではどう足掻いてもどうしようもないのが現実です。
だがそんなことはリース自身すら先刻承知である。
「(ならば俺は、この世界の摂理すら凌駕するまでよ。死後転生すらなした身からすればこの程度奇跡とすら言わんよ)」
まずは現状の把握だ。この体は心臓で魔力元素を生成している。
だがその魔力神経と呼ばれる疑似神経……いやこの世界では、本来の生体神経の変わりに魔力神経回路が存在しているのだろう、その神経に魔力が流れていないせいで四肢が動かなくなっている。ならばどうすか。答えは一つだ。
「(自然に流れないのなら自力で流すまでだ)」
至極単純な話だ。体が出来ぬと言うのなら無理やりさせてやれば良い。
その為にやるべきことは二つ。
指先から足先まで存在するあらゆる場所に存在する魔力神経の把握。
そして神経と心臓の接続である。
人間は本来体を動かすときに自分の神経を意識したりなどしない。
いや出来ない。だが――体が僅かたりとも動かない現状なら、動かないからこそ神経の末端までの把握することも可能性があると言うもの。
そして把握してしまえばそこに自力で魔力元素を押し込んでしまば良い。
「(そんなこと不可能だろうと?――――この世界の外には、ネコ娘が今も虐げられてんだよ! それを救う為なら人間の限界すら超えてやらあよ!)」
それから一月リースはほぼ寝ることなく自らの身体を把握することに費やした。
自らの意識をより深い場所へと潜らせて、僅かの違和感すら感じられるように。
その集中力は尋常ではなかった。
ガルシヤやシルフィアが部屋を訪れても、食事を食べさせようとしてもほとんど気づきもしないほど自らの意識をより深い場所へと潜らせていた。
本来はほんの僅かすら感じることも出来ないない神経を把握するために。
「(――解析、分析、把握。――解析、分析、把握。――解析、分析、把握)」
それは常人なら一日でもしれ入れば発狂してしまうような作業である。
淡々と自分の中にある神経回路を把握していく。指先の末端から足先の末端まで、一ミリ、一ミリと微々たる速度でだ。その僅かな距離を把握する為にも尋常足りえない集中力を必要とする。
百人が居れば百人が不可能と思われる作業である。
だがしかし――――作業開始からちょうど一ヶ月となる午前零時。
「フハハハハハハハハハハハハハハハ、出来た。遂に出来たぞ!
体にある神経回路その全てを把握しきったぞ! 今なら分かる。この体中に張り巡らされた神経その末端に至るまで全て手に取るようにわかるぞ!」
寝食のほとんど放棄して作業をした一ヶ月。元々弱りかけていた身体が生命の限界を迎えかけた
ころリースは、ついにやりとげた。
嘗て仙人とすら呼ばれる人種がその一生をかけてすら辿り着けないと言われた偉業に、前世の世界においては現存する科学技術の全てを用いてやっと辿り着けるだろう場所に彼はわずか一月で辿りついてしまった。
ただ、ネコ娘に対する執念のみでだ……。