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第六話 「理想郷を目指して」

前世今生合わせて、これほもまでに待ちにまった時はないだろう。

それは、彼にとって極上の時間となるはずだった。

だが、この時ネコの体を持つ少女を見た感動が過ぎた後、彼の心にあったのは喜びではなかった


「(しかし……なぜ……)」


その心にあったのは純粋に、ただ、怒りのみであった。


「(なぜ彼女があのような仕打ちを受けているのだっ!?)」


彼女を後ろから追い越す人間、前からすれ違う人間、年老いた男性も、若い女性もその全ての人間が彼女に忌避の視線を送った。

いや目線を送るだけではない、中には石を投げる人間もいれば、唾を吐きかける人間も居た。


「父様……彼女は何者なのでしょう? なぜあのような仕打ちを受けているのでしょう?」


「むう……彼女はな……」


ガルシアは言い淀んだ。獣の姿を模す彼女のことについて真実を話して良いものか悩んだのだ。


「あなた、この子は聡明ですよ。例え嘘偽りを教えてもこの子なら気づいてしまいます」


そこに助け舟を出したのはシルフィアだった。

シルフィアは気づいていた。リースが今ままでに見たこともないほどの怒りを感じていることを。

だから彼女はリースに真実を話して欲しいと思った。


「ふう……分かったよ。リースよ。彼女はな……悪魔憑きだ」


「悪魔……憑き?」


「そう悪魔憑き。千人に一人の割合で彼女達は生まれてくるという。その性別は全て女性で、全員が獣の耳と尻尾が生えている」


「彼女達は、人間から生まれてくるのですね。


ならなぜ……彼女達は悪魔憑きなどと呼ばれるのです」

リースは、枯れそうな声でガルシアに聞いた。


「それはな……彼女達は、人間の悪意と穢れによって出来ているからだ」


「あく……い……?」


「彼女達は人間の悪意を集めるという。人間の穢れを集めるという。

それは、彼女達が母親の胎の中に居る時から始まるという。

母親の胎の中から彼女達は人間の悪意を穢れを集める。その悪意が獣の耳その穢れが尻尾として表れる。

だからあの耳と尻尾は、人間の悪意のと穢れの象徴だと言う。

そうして、生まれてきてからも、彼女達は人間の悪意を集め続けると言われる。

だから彼女達は、忌み嫌われる。彼女達は悪意で出来ているから、塊彼女達は穢れで出来ているからだから」


そうガルシアは語る。いつもよりやや饒舌に、いつもより表情を険しくてそう語る。ガルジア自身この

風習を正しいと思ってはいないのだろう。だがリースにはそれを気にかける余裕もなかった。


「ふ、、、、、ふざけるな! 何が悪意だ!! 何が穢れで出来ているだっ!!!」


「……そうだな」


ガルシアはリースを眩しそうに見てそう呟いた。ガルシア自身この考えが間違っているとは思って

いる。だがザールラント帝国の前身フェルクリンゲン帝国から続く聖堂教会が、初めて悪魔憑きを

確認にしてから、ずっと押し進めている習慣にはっきりと間違っていると言えない自分をもどかしく

思っていたのだったがその息子は、そんなことをお構いもなしにただ純粋に怒りを見せた。

そんな我が子をガルシアは、眩しそうに見たのだ。


「それで……彼女は、悪意によって出来ているから、穢れある姿をしているから、ああやって石を


投げられるのですか? 唾を吐きかけられるのですか?」


ガルシアに似ている黒い瞳に一切の虚偽を許さないという意思を込めてリースは問うた。


「いや……それだけではない。人間は、自分の悪意と穢れを生まれきた彼女達にぶつけるんだ。


それは、嫉妬であったり、強欲であったり、色欲であったり、とにかく、悪意だと穢れだと思う

感情を彼女達にぶつけるんだ。

彼女達は生まれながらにして、悪意と穢れで出来ているから。彼女達は人間の悪意や穢れの全てを集めると言われるから、だから彼女達に悪意や穢れをぶつけることで自分達の悪意や穢れが取り払われると考えられたんだ。だから彼女達に石を投げつける、唾を吐きかける。それだけではない。いや……こんなことはまだ序の口だ。中には自分殺意等といった極悪の感情すら彼女達にぶつけるのだからな。だから、普段彼女達は街には出てこない。街の外で隠れ住んでいて出来るだけ街には近づかないようにしているようだ。中には強欲な商人が彼女達を使って奴隷商を行っているという噂もあるそうだが……どちらにしろ

このように街中を歩く彼女達は、珍しいだろう」


「そうですか……」


ガリシアが語り終わった後、リースはそう呟いただけった。だが体は指一本動かないにも関わらずその全身からその怒りが湧き出ていた。そんな怒りの感情を初めて出している我が子を、シルフィアはただ優しく抱きしめただけだった。


「さあ……今日は、もう屋敷に帰ろう」


そう言ってガルシアは馬車を操る従者に声をかけたのだった。

それ以降屋敷に付くまで声を出す者は誰も居なかった。

リースはその灰色の耳と尻尾を持つ少女を見つめ続けた。

石や罵倒、唾を吐きかけらながら、ふらふらと歩き続ける少女の横顔はただ、無機質で、何一つ感情の表れていない、そんな顔に見えた。

リースは、馬車の中でも、そうして屋敷についてベットに横たわってからも、今日見た少女のことを

考え続けた。


「(本当にふざるけるな。何が悪意だ。何が穢れだ。あれほど美しい姿を持つ存在が悪意で出来ているだと? 耳と尻尾は穢れの象徴だと? 彼女達に自分の悪意をぶつけるだと? それは天に唾吐く行為だろう。 それは神が作り上げた名画に泥水を掛ける行為だろう。神が作り上げた理想郷(ユートピア)を自らが堕ちた理想郷(ディストピア)としている行為に何故気づかない!)」


目の前に今まで追い求めて来た存在が居た。

自分が愛する動物の耳と尻尾を持つ存在が居た。

だが、この世界でそれは悪意と穢れの象徴であった。

ならリースはどうするべきか考える。

答えなど始めから決まっていた。


「(彼女を救う。彼女と同じ存在、その全てを救う。あれほど美しい造形を持つ存在が穢されるなぞ我慢なるか! この身の全てを使って彼女達を救ってみせる!!)」


四肢も動かぬ体で何が出来る?  


「彼女達を救ってみせよう」


その矮小の身では、何も変えられないぞ?


「この世界を変えてみせよう」


その体はすでに死にかけだぞ?


「この身はすでに一度、死への運命に逆らっているのだぞ」


お前は、あらゆる人間から嫌われるかもしれないぞ?


「それが、どうした」


迎え撃つのは人間の悪意全てだぞ?


「それが、どうした!」


さあ、ここに新たな理想郷を創り上げよう。


ここまでで、第一章完となります。


第一章というよりここまでが序章で次からが、本章となります。


只今少しでも読みやすいようにと試行錯誤中の為


一話一話で改行の具合などで違いが出ていますが


少しでも面白いと思える作品を書けるよう頑張っていきたいと思いますので


これからもお付き合い頂けると嬉しいです。


ところでこれってネコを題材にした小説じゃないの?――いいえ、これはネコ娘との


ニャンニャンを目指して頑張るお話です。

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