第四話 「日常からの脱却」
リースは五歳の誕生日を迎えた。
相変わらず体は動かず、四肢は元々細かったがここ一年でさらに細々となり
枯れ果てた木々のようになっていた。
両親は、そのように弱弱しくなっていく我が子見て、日々悲しみに暮れていた。
しかし、そんな両親をよそに当の本人は
「(ネコがさんびゃくろっぴーき、ネコがさんびゃく……ネコがいっぱーい……あひゃひゃ)」
ネコが居ないことに絶望したリースであったが、何だかんだで一年を生きてきた。
元々は楽天家の人間である。
ネコが居ないのは確かに絶望だがそれに代わる、元々の世界には無かった文化や魔法は十分に彼の好奇心を刺激したのだった。
「(しかし暇だ。毎日、毎日お手伝いや母親、父親が会話をしたり本を読んだり、魔法を見せてくれたりするがいかんせん体が動かないのではどうしようもない……ああ、そうだ。今度、父親にお願いして外に連れってもらうか)」
彼にとっては、どうせ長くない体なのだ。
せめて今まで見たことのなかった異世界の町を見てみたいと思っただけだったのだが――。
「父様、母様、明日城下町に連れて行ってもらえませんか?屋敷の中ばかりでは退屈です」
食後に、両親が彼の部屋に訪れた時にそう声を懸けた。
「ふむ……しかし、その体では馬車に乗ることも辛いのではないか?」
ガルシアも彼に外の世界を見せるのは悪くないと思った。
しかし、その体にこれ以上の負担をかけるの危惧した。
「あら、それなら私が、ずっとリースのことを抱きしめて上げていれば大丈夫ですよわ」
そういってシルフィアはリースを抱きしめた。
常人とは比べようもないほど困難な体を持ちながらも我儘一つ言わない我が子からの珍しいお願いだ。
これを叶えずして何が母親か。
そう思ったシルフィアは、自分の生き写しのようなリースを抱きしめながらそう言ったのだった。
「分かった。なら明日馬車を用意して三人で街に行ってみよう」