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第一話 「始まりの終わり」

加賀明宏(かがあきひろ)はネコ好きな大学生である。ネコ好きと言うと多少語弊がある。彼は暇さえあれば近所のネコカフェ「アポロン」に通い、バイトをすれば全額をそのネコカフェのネコ達に貢いでいた。彼自身の住むボロアパートはペット厳禁な為自身でネコを飼うことは今のところなかったが。とにかく彼はネコを愛していた。世界すべてのネコを愛していた。まさにネコ街道まっしぐらの人間である。これはそんな彼が一匹のネコを助けるために命を懸けたところから始まる物語である。


それは八月後半の茹だるような暑さの日であった。明宏はいつものようにネコカフェ「アポロン」に通っていた。


「ああ。シュレーディンガー。相変わらず君は美しいな! どんな確率世界にあろうと君の美しは変わらないぞ! バハムート。今日もまた威厳があるな。今日はとってときのネコ缶を買ってきたぞ! どうか君のお腹の中に収めてくれ!」


明宏が「アポロン」に通い始めてすでに三年の月日が経つが未だに彼はネコ達の前に立つとテンションが下がること知らない。


「うるせえぞ明宏。てめぇが構いすぎるせいでネコ達にストレスが溜まっちまうだろうが。ちったぁ落着きを覚えやがれ」


そこに「アポロン」店長の前田敏則(まえだとしのり )がやってきた。三十九歳独身である。ちなみにネコ達の名前は全て店長が付けたものだ。シュレーディンガー、バハムート、レヴィアタン、ノーデンス、ルルイエ、ノーチラス、真祖etc・・・センスが悪い?三十九歳で未だ独身でネコカフェ店長なのだ。後は察してくれ。


「すまない店長。しかし彼らへの愛が止まることをしらないのだよ。なぜ彼らはああも美しいのだろう。

特にその耳と尻尾。まさに神が作り出した最高の美しさだ」

「お前なあ……うちのネコ達を可愛がってくれるのは嬉しいが、そんなんだと彼女とか一生できねえぞ?」


何度も言うがネコカフェ店長独身三十九歳。まさに重みのある言葉である。


「彼女ねえ……尻尾もネコ耳も持たない人間に興味が湧かないんだような。ああ。どこかに居ないかね。尻尾とネコ耳を持つ神に愛された人類が」


「ネコの姿をした人類ね……そんな夢を見るのは二十代のうちに捨てちまったよ……」


「むしろ二十代まではそんな夢を持っていたのかよ。さすがネコカフェアポロンの店長だな!」


そうやっていつもの様に敏則とバカ話をしながらネコ達とのスキンシップを行った明宏は、3時間ほどで帰路についた。


「(今日も良い一日だった。ああ。やっぱり我が家でもネコが飼いたい。しかし、引っ越しをしようにもバイト代は全てネコ達に使ってしまう。どうしたものか)」


そんなことを考えながら歩道を歩いていると、大通りの真ん中で立ち往生している一匹のネコを発見した。してしまった。おそらく親猫と一緒に渡ったが途中で車に遮られそのまま、その場所から動けなくなってしまったのだろう。そこにちょうど大型トラックが走ってきた。そのタイヤの大きさなら間違いなく子ネコまで届くだろう。そうして五秒先の未来には一匹のネコの死体が出来上がる。

ならば明宏がとる行動は一つである。

その未来を変える。

死を目前としているネコが居るのを見過ごすなどどうして出来よう。

例えば目の前に居たのが人間の子供なら。

それが絶世の美少女であったとしても明宏は助けには行かなかった。

しかしネコならば命を懸けよう。命を懸けて助けに行こう。

ここであの子ネコを見捨てたら、明宏は自分がネコ好きだと一生言えなくなってしまう。

ネコを見捨てた自分など絶対に許せない。ならば後はネコに向かって走りだすだけだ。

トラックがネコを跳ね飛ばす一秒手前でネコをタイヤが届くより向こう側に押し出すことが出来た。

だが、そこから自分がトラックを避ける余裕は存在しなかった。

そうして明宏はネコを助けた代償として大型トラックに跳ね飛ばされた。それはほぼ即死であった。

彼は大学生である。これから先にあった何十年という人生がその瞬間終りを告げた。

また彼の両親は未だ健在である。

自分たちの一人息子がトラックに跳ね飛ばされて死んだと知ると一体どれほどの悲しみを負うであろうか。しかし明宏の心には死を迎える瞬間であってもただの一つも後悔は無かった。


「(ああ……よかった……俺は動くことが出来た……ネコを見捨てず……助けることが出来た……ハハ……これでネコが好きだと……ネコを愛していると……閻魔の前でも言ってやれる……嘘偽りなく……大声でいってやれる)」


そうして加賀明宏の人生は終わりを告げた。しかし彼の物語はここから始まりを告げるのである。

ネコ大好きです。

でも私も自宅でネコが飼えず。

ネコカフェ通いです。

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