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第44話

第44話


なぜ俺の正体がバレている!?


「俺いや、自分の名前をご存じであることは光栄に思えますが、自分はしがない冒険者です。異世界というのは、つい最近呼び出されたと噂される勇者様のことでしょうか?彼はユルカのお城で打倒魔王のために日々鍛錬されていらっしゃるはずでは?」


苦しい言い訳かもしれないが、何も言わないよりかマシのはずだ。


「無理に敬語を使う必要はない。召喚された勇者は2名いるということはすでに諸外国に伝わっておる。黒髪というだけでも目につきやすいのに、白と黒の珍しい夫婦剣を携え、ユルカの姫君と行動を共にしているとなれば、間違いなく異世界の片割れと言っておるようなものだ。もちろん伝わっている内容は、容姿だけではなくその実力もだがの」


これは気が付かなかった俺のミスだ。この世界の住人は今のところ黒髪はリリー以外見ていない。かと言って髪を染めるのは遠慮したいので深めの帽子でも被っておくべきかな。


「アルトランド王、差し出がましいでしょうが、彼を従えることは不可能でございます。実力も伝わっているのであれば御身の想像されている範疇に彼は収まっておりません」


リリーも国を思ってか、俺という戦力の危険性を王様に伝える。


「リリシア王女も、我の前ではそう畏まる必要はない。彼に言いたい事は、この地でもう一人の勇者の行く末を見ないかと言うだけだ」


それは遠まわしにこの国に属さないかと言っているのではないのか?


「なにやら勘繰っているようだが、我が言いたいのは他国に振り回されぬよう我が国の庇護に入らぬかと言うだけだ。ヨシアキ殿には我の目が黒い内は何もする必要はない。もともと、我々の世界の問題を別世界の人間に任せると言うのはどうも王としては賛成せねばならんが、我個人としては反対だ。他人の人生を狂わせておきながら魔王退治という危険な使命を負わせるのは賛成できぬ」


上辺だけの戯言のように思えるセリフだ。しかし、この人が言うと本当にそういう意味で言っているように見えるのは、この人の貫禄があってこそのものだろう。


「詭弁と言われてしまえばそれまでだが、ナスカ行きの船はつい先日出航したので、次の船が出るまでしばらくはこの城で休めるとよい。それに強行軍で思考も落ちているだろうから返事は今すぐでなくてよい。ではゆっくりと休むがよい。ヨシアキ殿の報酬は後日渡す」


「報酬?」


姫さんを助けたからあってもおかしくはないが、リリー達ではなく俺の報酬なのは何でだろう?


「ランドルフを捕らえた報酬だ。ユルカから聞いておらんのか?」


「ああ、そんなこともあったな」


あの盗賊はこの国の指名手配者で報奨金があるとかシーバムの村で言われていた。そのことよりもユルカの兵士に嵌められた!!という気持ちのせいでそのことを言われるまですっかり忘れていた。


「欲のない男だのう」


周りの者達はあきれ顔をしているが、王様だけは感心しているのか笑顔であった。


~~☆~~☆~~~


それぞれの部屋へ案内され、後は寝るだけとなった。しかし、いつもの悪い癖が出てしまったのか、俺は寝ずにベッドの上に横になる。善王とも言われているし、初日ということで仕掛けてくるとは思いたくはないが……コンコン。


「はぁ、やっぱり来たか」


思わず、ため息をしてしまう。考えることはどこも一緒もしくは配下の暴走ということで諦める。タヌキ寝入りでもいいが、ここはきっぱりと態度を示しておいた方がいい。


「これは驚き……いや、適任と言えば、適任か」


扉を開けるとそこには姫さんがいた。城の中ということで、鎧を脱いでおり、部屋着の様な水色のゆったりとしたドレスを着ている。


「なんのことだ?それよりも、改めて助けたお礼をしに来たのだが、少しお邪魔してもいいかな?」


拒否する理由ものところないので、姫さんを部屋へと招き入れる。客室なのにあえてなのか、イスがないため二人してベッドに座る。


「改めて、私の命を救ってくれてありがとう」


「別に気にしなくていい。お礼を言うならリリーに言ってくれ。あれはリリーがいての結果だ。俺一人じゃ姫さんに同行することはなかったからな」


「リリー殿にはすでにこの部屋を訪れる前に礼を言っている。それにしても、適任とはいったい何のことだったのだ?」


姫さんの様子を見たが、本当に分からないといった顔をしている。王族としてはどうかと思ったが、善王の娘ということでとりあえず納得しておく。


「ほしい男がいたらどうやって引き入れる?」


「唐突だな……強いて言うなれば、地位や報酬、ほしい物をあたえるかな」


「それは誰にでも当てはまるが、俺が言ったのは、ほしい男だ」


少し考える素振りを見せて俺の言いたいことに気がついたようで胸を腕で隠す。よく見る反応だが男の俺としては逆に反応してしまうのだが俺だけなのか?


「な!何を考えているのだ貴殿は!!」


「つまり、そういうことだ。金・酒・女と男の3大欲を満たして引き入れるのが、一般的だ。金はさっきのやり取りで俺には通用しないと考えるだろう。次に酒だが、知らないだろうが、俺にとっては酒は無価値だ。そんで、最後に残った女性を使った篭絡だが、見知らぬ女では門前払いの可能性がある。しかし、姫さんならそれはないと思っての差金かと思ったが、そんな様子じゃ演技じゃなければ俺の思い過しだったようだな」


「あ、当たり前であろう!!私がそ、そのようなことをするはず……」


なんで言葉が小さくなっていくんだよ。


「そう言う訳で、俺が疑心暗鬼にならないよう。家臣たちに言い聞かせておいてくれ。姫さんも早く出ないと美人なんだから理性飛んでしまって襲っちまうぞ」


「美人だなんて……からかうのも大概にしろ」


「こんな時でないと姫さんをからかうことなんてできないからな。……美人だってことは事実なんだけどな」


最後の方は聞こえないように独り言だったが、より一層姫さんが赤くなった。もしかして、聞こえてしまったか?「お礼も言ったことなのでお休み」とぎこちない様子で部屋を出て行った。姫さんも行ったことだし、これでようやく寝つけると思ったが、再度扉をノックされる。


「今度は誰……リリーか。どうした?」


「いや、その……ヨシアキの部屋にディアナ様が部屋に入るような話をしていたから気になって来ちゃった」


何を気にすることがあったんだ?何も言わず部屋へと入るリリーをどうかと思ったが、話がそれ以外にあるのだろうと思い、特に気にせずに扉を閉める。


「姫さんならもう来た後だよ。篭絡かと思ったが、内容としては本当にお礼を言いに来ただけだったよ」


「篭絡って……いや、ヨシアキにならあり得ないことじゃないわね。でも、もしかすると」


一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静に判断して一人ぶつぶつと考え事を始める。


「男としてはうれしい限りだが、素直に喜べない自分が虚しいったらありゃしないよ」


戯けてみたもののリリーに反応がない。しばらく黙って様子をみていたが、考え事がまとまったのか何かを決心したようで咳払いをする。


「そういえば、ヨシアキへのお礼がまだだったわね」


「別に気に……」


する必要はないと言おうとしたが、リリーに口で口を塞がれてしまい言えなかった。つまり、俺はリリーにキスされている。


「いったい何事!?」


悪ふざけにしてもこれはない。乙女ならぬ漢の純情を弄ぶにしてもさすがにやり過ぎだ。


「ヨシアキがディアナ様を助けるのに、をつけてくれるなら引き受けると言ったから色を付けたまでよ」


若干赤く見える顔をしながらそう答えるので、悪戯にしたようには見えない。


「そういう意味での色は冗談でするな!!」


「あら、乙女の祝福を喜ばないなんてヨシアキはホ〇だったの?」


真っ赤になる俺に対して徐々に赤い顔が元に戻るリリー。


「んな訳あるか!!毎日……」


我慢しているなんてセリフを言うと今後に差し支えてしまう。


「用が済んだなら帰れ!!」


「おもしろい話も聞けたことだし、そろそろ帰るわね。お休み」


リリーが帰った後、一人悶々として、眠れぬ時間を過ごす羽目になってしまった。


~~☆~~☆~~~


「お嬢様。顔だけに留まらず、全身が真っ赤ですが、ヨシアキ様と何かあったのですか?」


「エリーゼ、悪いけど今は何も聞かないで」


「かしこまりました。それではお休みなさいませ」


一人納得されニコニコとしているのは気に食わないのだが、そんな事よりも自分のしでかした行動の方が問題だ。思い出すたびに顔が熱くなるのが自分でもわかってしまうくらいでは、明日からヨシアキにどんな態度をとってしまうか……考えて普段通りできるようイメージトレーニングをしよう。

リリーの行動は3カ月以上前から考えていた伏線でしたが漸く回収できました。

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