第42話
祝評価人数1000人超え
第42話
ギリアムに威勢よく啖呵を切ったが、心臓バクバクだ。マジで死ぬかと思った。レジストのことは理解していたが、この世界に来て初めての被弾だったので発動するのか不安だった。案の定レジストをしても服はミスリル製で大丈夫だと思ったが、髪がアニメよろしくアフロ頭になっていないか、とっさに異常がないか頭を触っていたのが煙幕で見えなくてよかったと思う。さて、ギリアムとやる前に、まずは姫さんの安全確保だな。
「何の冗談だ?」
「無詠唱は厄介だから姫さん達にいかないよう防御魔法を展開しただけだが?」
俺は、毎度おなじみのフォース・フィールドで姫さん達に手出しできないようにした。
「わざわざ、魔法を使えないようにするとはバカな男だ」
「私達のことは気にせず戦ってくれ。いくらヨシアキ殿でも、魔法なしでギリアムと闘うのは無謀すぎる」
姫さんが防御魔法を叩きながら訴えてくるが、リリー達を見るとそんな心配もせずに、グッジョブと言いそうな顔をしているのを見て呆れてしまった。
「はぁ……生憎とこれでもあんたと俺の実力差は大き過ぎてハンデにもならない」
「一端の小僧が!!死して後悔しろ!!」
「上等だ!あんたの心を粉々に砕いて、洗いざらい吐いてもらうぜ」
~~☆~~☆~~~
俺が魔法を使わないことを理由にしているのか、槍術によほどの自信があるのか、魔法を使わずに槍だけで攻撃してくる。互いに斬撃をかわしたり、受け止めたりと傍から見れば均衡状態になっている。俺はギリアムの心を砕くために手加減をしてスピードを出しすぎないように戦っているのだが、意図的に作った接戦をどう思ったのか不敵に笑うギリアム。
「……所詮、若僧だな」
「何が言いたいんだ?」
隊長に任命される程の男なら俺が手を抜いているのが分かって、苦汁を嘗めさせられて怒鳴るかと思えば、失笑とはバカなのか?しかし、そう言う意味で若僧と言っている訳ではなさそうだな……
「それすら気付かないからこそ若僧と言っているのだ!!」
今までよりもすばやく動き、勢いよく槍を突き刺してくる。どうやら手を抜いていたのは向こうも同じようだ。今のままでは、避けきれそうにないな……
「なっ!?」
「そろそろ目が慣れてきた頃合いだと思って、スピードを上げてみたんだが、ちと上げ過ぎたか?」
段階的に戦闘レベルを上げることはできず、スイッチを切り替えることしかできないため、圧倒的なステータス差故に背後に回り込んだ俺を見失ったようだ。
「貴様!決闘において他人から補助魔法を受けるなど卑怯千万!!」
純粋なすばやさを補助魔法による加速と勘違いしているようだ。しかも、勝手に決闘だと言い張るとか何様だ?
「誰も補助魔法なんて使ってないのはあんたも見ているだろ……接近戦も飽きてきたし、ご自慢の魔法でも使ったら?」
「ならば、お望み通り消し炭にしてくれる!!フレアランス!!」
それなりの威力みたいだが、リデルの攻撃と比べると雲泥の差だな。俺は避けずに飛んできた炎の槍を剣でなぎ払う。
「詠唱破棄とか、殺る気あるの?」
ご自慢の魔法があっさりとかき消されたのが、信じられないのかショックを受けていたところに俺の一言で現実に戻されたようだ。
「っく!ならば、私の最強の魔法で貴様を葬る!!」
「そんなセリフを言うくらいなら最初から全力でこい!!」
詠唱するため、魔法陣が展開された。魔法陣の大きさから判断するに大規模な魔法だろう。それでも俺に傷をつけるような威力をもった攻撃にはならない。
「我が魔力の結晶よ!我が前に存在するものを炸裂の嵐にて破壊せよ!フレアバースト!!」
炎の最上級魔法だと!?こんな騎士崩れが使えるとは誤算だったな……
~~☆~~☆~~~
複数の爆発で辺りを粉塵が舞い全く見えない。
「ヨシアキ殿!!」
「大丈夫ですよ、ディナ姉さま」
平然と言うリリシア殿に怒りを覚える。仲間の彼のことが心配にならないのか!?
「何を根拠に!!炎の最上級魔法を受けて無事な者などいない」
「常識などヨシアキ様には当てはまりませんよ。根拠なら未だに防御魔法が健在なのが理由です」
そうだ!!この防御魔法を展開したのは彼だ。術者に異変があればすぐに術は解除される。それなのに未だに展開されているのは彼が無事な証拠だ。
「いやー、さっきのはちーっとばかし熱かったな」
~~☆~~☆~~~
「バ、バカな……」
「やっぱり、あんたには劣化の騎士がお似合いだな。お返しに、これでも食らっておけ!!」
ギリアムの前に爆発を起こし吹き飛ばす。とっさのことで判断ができないというより、信じられないものを目の当たりにして硬直している。
「あ、ありえん!!魔法の同時発動だと!?」
「魔法の同時発動は無理だが、裏技を使えば同時に発動しているように見えるな」
前に魔法の同時発動ができるか試してみたが、世界の法則故か、同時に発動させることはできなかった。しかし、今のように近いことはできている。気が付いたのは、補助魔法を使っている奴が、攻撃魔法を使えることだ。魔法が同時に行使できないのであれば、補助魔法がかかっている間は魔法が使えないはずだ。それなのに魔法が使えるのはどうしてだろうと考えた結果、ある仮説が生まれた。魔法が同時に発動できないのは、魔力制御ができないから不可能だということだ。補助魔法は一度発動させれば、一定時間効力が発動するので、制御や維持する必要はない。防御魔法は展開しても維持させなければすぐになくなってしまう。攻撃魔法も制御しなければうまく発動しないし、維持させなければ当たらなかったり、単発で威力が下がったりしてしまう。だから、誰も同時に発動させることができなかったのではないのか?そして、その仮説は正しかった。防御魔法を展開させた後に、維持は魔力過多で一時的に持続させ、その隙に別の魔法を発動。再度、防御魔法を維持させることで、同時に発動させているように見せたのだ。このやり方は魔力が多い人物でないとできないが、誰にでもできてしまう方法なので、誰にもこのことを教えるつもりはない。
「接近戦、遠距離戦で心がボロボロのところ悪いが止めだ」
ゆっくりと近づく俺に対してギリアムは何もせず、呆然としている。戦意喪失しかけているだけで、回復した後に何をしてくるかもしれない以上徹底的にやる必要がある。
「うせろ!!!」
マルサスの時のように殺気全開で寸止めの攻撃で相手を気絶させる。あのとき以上に殺気を込めたので精神崩壊したら……そん時はそん時で。




