第40話
第40話
街に姫さん達の協力者こと、影武者役を置いて真夜中に山道までやって来た。影武者役の人達について問題ないのか、エリーゼにそれとなく聞くと、どの国でもやっている暗黙の了解らしく事が起きない限り手を出さないそうだ。
「この山を越えればアルトランド領だ」
「急ぐのはわかるが、領土に入ってからの心配は大丈夫なのか?」
敵から逃れるために街を出たとはいえ、自国に入ってから襲われない理由にはならない。
「先に行かせた者に、軍の要請と籠の用意を頼んでいるから問題ない」
籠?馬車のことか?それなら普通に馬車というが……
「アルトランド名物の竜籠のことです。起源はロマリアの飛竜艇ですが、飛竜の小型種を量産できたのがアルトランドでは、籠を竜で運ぶと言う交通手段を上流階級のみ使われているので、異国のヨシアキ様が知らないのも無理はありません」
俺が考えを巡らしているとエリーゼが答えてくれた。…………なに!!
ファンタジーのロマン、竜に乗れるだと!?ゲーム上でもあったが、あれは乗って目的を決めるとホワイトアウト。気がついたら目的地に到着と残念仕様。それを体験できるとは何という幸運。災難続きだったが、こんなご褒美があったとはな。
ついつい、急ぎ足になる。
「もうすぐ山小屋に付くが、それから休みなしで移動が続く。今からはしゃいでいると城まで体力が持たないぞ」
ギリアムから指摘されるが、そんなのは気にせず歩く速度を変えずに一人先に進む。
~~☆~~☆~~~
山小屋に入ると、それぞれ荷物をおろして体を休ませる。
「あと少しでアルトランド領だ。街で休めなかった分ここで少し休息しよう」
道中にモンスターとの遭遇はなかった。本来なら夜行性のモンスターと遭遇してもおかしくないのに、なんだか嫌な予感がするな。
「ここまで戦闘がなかったのはよかったけど、なんだか妙な感じがします」
リリーも同じように考えていたらしい。皆が頷いてフラグになりそうだが、まだ決定的な言葉ではないので大丈夫なはず……
「たしかに、うまくいき過ぎている……」
ギリアム、アウトーーと思った矢先、薄いガラス窓を破って1本の矢が入って来た。
全員が臨戦態勢をとり始めたが、俺はお決まり過ぎて驚くよりも呆れて反応ができないのは間違っているのだろうか?
「中にいる者達に告げる。貴様らは包囲されている。無駄な抵抗はやめて大人しく投降しろ。さもなくば命はないと思え」
外の様子を感知すると俺達が来た方に4、50人ほど隠れているのがわかった。包囲なら山小屋を囲うようにしろよ。
「敵さんはざっと50人。しかし、後ろはガラ空きだから逃げることは容易だな。とっとと逃げるとしますか」
そう言うと姫さんが首を振って否定する。
「後ろがガラ空きだとしても、相手は足を持っている。追いつかれるのも時間の問題だ」
そりゃそうだ、単純過ぎてそこまで考えてなかったな。そうなると……
「ヨシアキ殿。最初に我々を助けた風の障壁はどのくらい展開できる」
「突然へんな口調するなよ。紳士騎士様のようにされても気色悪いだけだぞ」
ギリアムが俺をそんな風に呼ぶので寒気がした。
「まじめな話だ。茶化すな!!」
「――回復薬を使えば30分はできると思うぞ」
真面目に考えると、ゲーム上では1度発動させれば3ターン(体感で1分程)維持される。俺の魔力量と消費量からすると40分は使えるとは思う。しかし、そのまま伝えると異常者なので現にアイテムも持っているので使えばということで嘘ではない。
「そうか、この状況だと20分と考えると……」
「ヨシアキあなたの……ッ」
リリーの口をふさぐ。
「リリー、それは最終手段だ。おいそれと使えば厄介事にしかならない」
小声でリリーに告げるが、納得していない顔をする。
「ヨシアキ殿、お主の命、我々に預けてはくれまいか」
「どういうことだ?」
何を世迷言を言っているんだと思ったが、真剣なまなざしでこちらを見るので面と向きう。
「このまま全員で逃げ出せば、追いつかれる。誰かが足止めをしなければならない。領土にいる軍の応援を連れて来るまで、約20分。それまで、我々を信じてリリシア様を守ってはくれまいか」
「なぜ、姫さんとおまえと言うメンバーなんだ?」
「障壁を張るヨシアキ殿は当然のこと、リリシア様方を連れて行けないのは道中に守り切る保障がないためだ。イリアを残すのは万が一のためにこちら側の誰かが残る必要がある。姫様は応援を呼ぶため、イリアでは道中に問題が起きた時の対処が難しい。だから私と姫様が行くのが最善なのだ」
「しかし、それではリリー殿の危険性が増す。大人しく奴らにこれを渡せば、リリー殿達の命だけは助かるはずだ」
「奴等が約束を守る保証はどこにもありません。一番安全な策はこれしかないのです」
先程の説明は納得できるが、ギリアムの返答に俺は疑問を抱く……
「ギリアムさんよ、一番優先すべき人物は分かっているよな?」
「当たり前だ。姫様のお命をお守りすることだ」
「その姫さんと言うのは誰の事だ?」
「ディアナ様だ。何を考えているのだ!!」
苛立っているのか怒鳴り声で言い放つ。その言葉を聞いて俺は深く溜息をついた。
「そうか……なら、早く行け。敵さんは悠長に待ち続けてはくれないぞ」
俺がそう言うとギリアムはすぐさま裏口を作り始めた。姫さんは心配そうにこちらを見るが、苦渋の選択の末こちらに背を向けた。
「すまない、リリー殿。必ず助けに来るから、それまで耐えてくれ」
「心配しないで、ヨシアキがいるならどこよりも安全よ。ディナ姉様は早く応援を呼んでください」
「姫さんよ、何があっても気を抜かすなよ。どこに敵が潜んでいるかわからないからな」
姫さん達が抜け穴から去って行った。
~~☆~~☆~~~
「そんじゃま、さっさと片付けるか」
姫さん達が出て行ったのを確認した後、俺は扉に手をかける。
「何を言っているのでありますか!?あの数を相手に出来るはずがありません」
「ヨシアキ、さっきまでは渋っていたのにどういうこと?」
「厄介事に首を突っ込むとは、ヨシアキ様はやっぱりお優しい方ですね」
リリーとイリアはそれぞれ言ってくるが、どうやらエリーゼだけは感付いたみたいだな。
「あいつらを追いかけないといけないから、解説は後だ」
外に出ると歩兵大勢、騎馬が10、その中で一人だけ服装が違う人物がいる。おそらくこの団体さんの隊長だろう。
「貴様、何のつもりだ?姫はどうした?」
ありきたりなセリフをどうも。本来ならおちょくって時間稼ぎが定石なのだが、今回に限っては悪手でしかない。
「残念ながら、お前たちに説明している時間が惜しい。とっとと沈め!グラビティーバインド!!」
前方に群がる敵達を重圧で地面に張りつけにする。その余波で周りの木々がへし折れるが気にしないでおこう。
「更に、眠れ!スリープミスト」
襲撃者達の中心から魔法陣を発動させ白い靄が辺り一面に広がり、重圧でうめき声を上げていた敵の声がなくなり静寂な夜を取り戻した。
「地の上級派生に、水の広域状態異常……それだけでなく、最初に見せた風の障壁、あなた様はいったい何者ですか?」
イリアは自分が目の当たりした光景を信じ切れず、俺に答えを求めてくる。
「さっきも言ったろ。時間がない。姫さんを助けに行くぞ」




