第39話
第39話
「――ヨシアキ、私達に何をしたの」
「はぁ?」
リリーの問いかけに俺は全く心当たりがない。
「そうです。わたくし達にナニをしたんですか?」
「――おい、何のところがカナ表記に聞こえて、全く違う意味に聞こえるぞ」
エリーゼの一言でシリアス感0になってしまった。真面目なのか天然なのかよくわからんな。
「そもそも、何が原因で俺が詰め寄られているのかわからんのだが?」
いきなり、なんで犯人扱いされなきゃならないんだ?本当に犯人であれば弁解の余地を要求する。
「それもそうね」
ふたりは顔を見合わせると何も言わずに頷き合った。
「わたくしが説明いたします。ヨシアキ様と共に行動するようになってから様々なイベントが発生しましたが、今日になってわたくし達に異変が起こっていたのが明確になったのです」
「壮大な出来事のように語っているが簡潔に説明を頼む」
今回の説明は完全に茶化しているのがわかる。
「私達のステータスが急成長していたのよ」
「……お嬢様、わたくしのセリフをとらないでくださいませ」
「エリーゼにまかせているとヨシアキが別の話で逃げそうになるから……ついね。私が推測するに、食事にグローボトルを混ぜられていたかもしれないと思ったのよ。ヨシアキなら大量に持っていてもおかしくないのよね」
罰が悪そうにリリーは手を合わしながらエリーゼに謝る。リリーが言う、グローボトルならたしかにすぐにステータスが上がるな。ちなみにグローボトルとは、ゲームでよくあるステータスアップアイテムで、全てのステータスが10アップする秘薬だ。1周で手に入る数は10個にも満たない秘薬中の秘薬。ステータスアップのために周回プレイした原因の1つでもある。
「たしかにそれなら持っているが、生憎と残り3つでこの世界に来てから一度たりとも出したことはないな。それよりもモンスターを倒したから成長したと思わなかったのか?」
魔法の練習で魔物のコロニ―を潰しまわったから、その影響でリリー達が強くなっていてもおかしくない。
「それでもランクが2つも上がっているものがあるから、それだけでは説得力がないわ」
2ランクアップとは随分と急成長だな。強い魔物がいないから疑われるのは仕方ない。
「そういや、前に魔人を倒しただろ。そん時に大きく上がったんじゃないか?」
名前は忘れたが、洞窟で魔人を倒したから急成長ということもあり得る。もともと魔人は終盤でしか出てこないモンスターだから経験値も大きい。
「でもあれはヨシアキが倒したからヨシアキにしか効果はないはずよ」
「そんなことはないぞ。そもそも、モンスターを倒して強くなる理由わかっているか?」
ゲームの設定がそのまま引き継がれているのであれば、リリー達の常識と俺の知識は食い違っていることになる。
「いろいろな学説があるけど、確か有力なのは魔物の生命力を体内に取り込んでいるだったかしら?」
「そうです。生き物ではなく魔物と位置づけられるもの限定。人を殺したとしてもステータスはあがらないことは実証済みでございます」
なるほど、俺の知識とほぼ一緒だが、原理までは解明されていないか知らないようだ。
「なら、俺の世界で作られた原理のままか。正確には生き物にはマナと呼ばれる生命力の源が存在する。マナは大気中の魔素でも作られる。しかし、魔素が長期間取り込まれずに大気中にいると毒素を含むようになる。毒素を含んだ魔素を取り込み過ぎると魔素化と言われる凶暴化が起こる。これが魔物認定される理由だな。ただ、中には例外もいて、魔族は魔素化しているが、理性を保っている。魔物が自然死しない場合は体内にある凝縮された魔素が大気中に流出してそれを取り込むことで強くなる。だから、殺した者が一番大きく魔素を吸収して、近くにいる人も強くなるんだよ」
リリー達はハトが豆鉄砲を食らった様に呆けた顔をしている。
「ヨシアキって、ときどきそんじょそこらの学者よりも知識豊富じゃないのかと思うんだけど?」
「今の話が本当ならば、宮廷クラスの博識ではないのでしょうか……」
「なんだ?そういう風に言うのは俺がバカだと言いたいのか?」
俺がそう言うとリリーは両手を振って否定する。
「そう言う意味ではないわ。しかし、それだとあの魔人を倒したとしてもヨシアキにほとんど持っていかれるのではないの?」
「本来ならそうだが、俺は限界まで到達しているから吸収の余地がない。だから、魔人の魔素はリリー達に吸収されたはずだ」
そう言ってふと思ったが、近くにはメアリーちゃんや奴隷にされていた女性もいた。見知らぬ女性は、その後どうなったか気にもしないが、メアリーちゃんはもしかしたら天才少女になっているかもしれない。気にしたら負けだな。
「それも含めて、魔法練習でコロニーを潰しまわっていた分も含めてリリー達はステータスアップしたんだろう」
そう言うとリリー達は納得したのか、うんうんと頷いている。
「原因が解明したところで、話を変えますが、ヨシアキ様。今回のディナ様の件はどう思われますか?」
エリーゼが真剣な顔で聞いてきた。
「目的が姫さんなのか、それともロマリアから貰い受けた何かなのは分からないが、どう考えても、狙われているのは確かだな」
「どちらにしても、ディアナ様を無事にアルトランドに送り届けなければ……最悪の事態、国際問題で両国ともに大変な被害が出てしまうわ。ヨシアキは目立つ事をしたくないから普段から力を抑えているけど、本当に申し訳なけど最悪の事態を全力で阻止してほしいの……」
リリーが上目遣いに頼んでくるが、そんなことをしなくても断るつもりはないぞ。
「安心しろ。俺もあの姫さんには傷ついてほしくないから手を抜くつもりはない」
メアリーちゃんの二の舞にならないように、ただ守るだけでなく黒幕の目星を探しながら護衛をするつもりだ。そんなことを考えているノックの音が聞こえた。
「ヨシアキ殿入っても大丈夫か?」
いったい誰だろうと思っていたら、まさかの姫さん登場。リリー達が来ているから、リリーに用があって来たのだろうか?
大丈夫と伝えると姫さんだけでなくギリアムとイリアも入ってきた。それだけなら特に気にするようなことではないのだが、3人とも旅支度を終えたような格好をしている。
「ギリアムが街にいる草に確認をしたところ、襲ってきた者達がこの街に潜伏している可能性が高いそうだ。おそらく私達が街に入ったことは知られているので、宿には身代りを置いて囲まれる前に山小屋まで移動したい。3人には悪いが、街で暴れられるわけにもいかぬ。それに今からなら奴らの網をすり抜けることができるかも可能性が高い」
まさか姫さんからそう言われるとは思わなかったな。姫さんのことだから何も言わずに去っていく気がしたんだが……リリー達と顔を合わせるが、特に異論はないようだ。
「わかりました。すぐに支度をするので先に下で待っていて下さい」
リリーが代表で答え、一時の休憩が終了。アルトランドに向けて歩き始めた。




