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第36話

第36話


最初のモンスター襲撃から1回も襲われることもなく、雑談しながら歩いている。もともと、これだけ広い草原でモンスターに出くわすのは、ほとんどないらしい。ゲーム上では頻繁に出現していたモンスターだが、よく考えればこれくらいじゃないと現実世界としておかしいんだよな。頻繁にモンスターが出現したら、行商なんてやってられない。ユルカの街やシーバムの村にも行商がいたが、他の店と比較してもそれほど高くはなかったから、ホントに命からがら持ってきた商品というわけでもなさそうだった。安全?なのはいいことだから深く考えないでおこう。


突然ギリアムが立ち止り、こちらに振り返った。


「そろそろ日も暮れる時間ですので、ここで夜を明かしましょう」


周りを見ると野営するのにちょうどよさそうな場所だ。急いでいると言っていたから暗くなるまで歩くのかと思えばその辺はわきまえているようだ。


「それじゃヨシアキ、道具出してくれる?」


「あいよ。エリーゼ今日は何を作る予定?」


「そうですね……この人数ですと鍋料理にしようかと思うのですが、何かリクエストはございますか?」


「鍋と言われても特に思いつかないな。エリーゼの料理はどれもおいしいから、おまかせで」


鍋と言われて思いつくものがないわけではないが、万が一、知らない料理を挙げて話題となり、ボロが出るのはまずいからな。


「かしこまりました。それでは、材料は……」


俺とエリーゼが輪から外れて夕食の打ち合わせをする。


「何やら単なる雇用関係ではなさそうだな」


「それは正式にヨシアキを雇っているわけではないからです。私達と彼の行く道が同じだから頼んでいるのです」


何やら、リリーと姫さんが話し合っているようだが気にせずに必要なものを出していく。


「さてと、薪になりそうなもの探してくるから後よろしく」


道具一式を出した俺は適当に辺りを探しに行こうとする。


「それなら私も行こう」


誰かついて来るかもしれないと思っていたが、まさか姫さんが名乗り上げるとはな……


「姫様にお手数をかけるわけには参りません」


「薪拾いくらいどうってことない。何かしてないと落ち着かないのだ」


「それなら安全のために、私かイリアをお連れください」


「遠くまで行くわけではないから大丈夫だ。薪拾いも2人いれば十分だ。それでは、探しに行こうか」


ギリアムの提案をことごとく拒否し、俺を連れて薪になりそうなものを探しに行く。


~~☆~~☆~~


「ヨシアキ殿は不思議な人だな」


薪になりそうな木を拾っている最中、唐突に姫さんが言ってきた。


「何を突然言い出すんだ?」


「その口調だ。――姫と呼ばれる為か、父や母などの片手で数える程度以外は敬語を使ってくる。私としてはそんな物は必要ないのだがな――怒っているわけではない、むしろ私としては気軽に話しかけてくれる君を嬉しく思っているのだ」


「それは光栄なこって。今まで俺の様な奴はいなかったのか?」


微笑みかけてくる姫さんにドキッとしたが、受け流すように言葉を紡ぐ。


「いたが、それは私の正体を知らぬが故にだな。バレてしまった時はいきなり土下座されて、それ以降全く会えていないな」


王族とは孤独なものだな。それもどこの世界に行っても同じことか。


「さて、これくらいあれば大丈夫だろう。戻ろうか」


最後にこれを拾ってから行こう。そう思い茂みの中にあった木を拾う。


「うわっ!!」


大量にクモの糸が絡まってやがる。思わず木を落としてしまい散らばる。それを見て笑われたが、姫さんなら気にしなくてもいいか。


~~☆~~☆~~


戻るとすでに調理を開始していた。


「おかえりなさいませ。もう少しすれば出来上がりますので、しばらくお待ちください」


「誰が火の管理をしているんだ?」


薪がないのに火が付いている。誰かが魔法でやっているのはわかるが、無駄に魔力を使うなんてアホらしい。


「私だ。これくらい造作もない。本来は薪拾いをすることもなかったのですが、気分転換なさるようだったので止めませんでした」


「ずっと朝まで火を灯しているつもりだったのか?」


自慢げに言ったギリアムだが、俺の問いかけに固まる。吹き出しそうになるがなんとか笑いをこらえる。ゲラゲラ笑うよりもあからさまに我慢しているのを見せつけるの方が精神的ダメージが大きいからな。


「出来ました。ヨシアキ様、器の用意をお願いします」


相変わらずエリーゼの料理はうまいし、ギリアムで更にめしウマ。箸が進むわ――実際に使ってるのはスプーンだけど。


~~☆~~☆~~


「夕飯も済んだことだし、今日の順番はどうするの?」


「何の話でありますか?」


リリーの発言にイリアが質問してくる。


「見張りの順番です。全員が寝るわけにはいけませんので交代で寝ているのですよ」


「それなら私一人で十分だ。いくら結界があるとはいえ、魔物の気配に気が付かないそこの男では危険ですので」


さっきの仕返しのつもりか、昼間のモンスターに気が付かなかったことを理由に事実半分、嫌み半分といった感じで言ってくる。


「次の街まで後どのくらいあるんだ?」


「おそらく明日の夕方前には着くと思います」


それぐらいなら大丈夫かな?


「なら、俺も徹夜するからリリー達は寝てていいぞ」


寝れるのはいいんだが、それだと鈍感とか役立たずを認めるような気がするので、俺も見張りに参加する。


「貴様はいなくてもいいんだぞ?」


「このテントに5人も入ったら寝れたもんじゃない。それに、おまえは女性が寝ている中に男を入れるつもりか?」


ぶっちゃけ、こっちの方が理由だったりもする。俺達のテントはもともと3人がゆったりと入れるように準備していたが、5人となると余裕がなくなる。ヘタに寝がえりをしてあらぬ問題が起きてしまったら面倒だ。


「それならむしろ中に入れるわけにはいかないな。私が一晩中見張ってやろう。イリア、おまえは中からこいつを見張れ」


「了解であります」


俺の話を聞いて完全に下心を理由に俺を見張るつもりだな。それなら――


「そういうわけだから、エリーゼもこいつが不用意に入るようならバッサリやっといて」


「かしこまりました」


予想外の切り返しにクスクスとリリーと姫さんが笑う。クックック、おまえだけに味方がいるのではないのだよ。


~~☆~~☆~~


そういうわけで、野郎と見張りをすることになった。リリー達なら話をしながら夜が明けるのを待つが、こいつとでは口を開けば皮肉の言い合いになるので、静かに武器の手入れをする。そういや、これもゲームと違う点だな。武器の手入れなんて今までしたことなかったが、ちゃんとしていないと血がこびりついて切れ味が悪くなるのがよくわかる。粗悪品は消耗品と言われるぐらいもろいらしい。


「きゃっ!!」


突然の悲鳴に何事かと思いふたりそろってテントへ入ろうとする。


「姫様、何事ですか!!」


座っていた場所の都合上ギリアムが先に入って中の様子をうかがう。


「なんでもない。テントの中にクモがいてな。それがイリアの上に落ちてきて悲鳴を上げたのだ」


なんだ、そんなことなのか。クモが突然落ちてきたら普通に悲鳴なり奇声なり上げてしまうわな。恥ずかしそうにしているイリアが縮こまっている。今日は災難だな。腹を鳴らして、悲鳴を上げて、騎士としてズタボロだな。


イリアがギリアムに怒られ、再び見張りに戻る。それにしてもまたクモか……ん!!使えるかもしれない!!


俺の思いつきを試すためさっそく結界を展開する。今の状態では空間を魔力で満たしているが、ここからクモの巣のように魔力を糸状にして空間に張り巡らせるイメージで……よしできた!!今までのように無駄に神経を使うことはない。しかし、結界内の密度が少ないから入り込んだら今までのように切り替えないとダメだな。でも、慣れれば糸の数を増やせそうだから大成功だ。


「何をニヤついているのだ?」


見張っているせいか、俺の顔の変化に疑問を抱いているようだ。


「何でもな……ん?」


言おうとした矢先に結界に何かが入り込んできた。意識を集中してそれが何なのか確認すると2人こちらに向かってきているようだ。


「なぜに黙り込んでいるのだ?」


「あっちの方向から人が来る。運動がてら、ちょっと見てくる」


立ち上がろうとすると、ギリアムの方が先に立ち上がった。


「いや、私が行こう。貴様では嘘か真かわからないからな」


そう言って、テントからイリアを呼んでギリアムは人がいた方へ歩き出す。


「隊長に迷惑をかけるなと最初に言いましたよね」


そう言って睨んできた。思い当たることがあり過ぎてどれのことで怒っているのかわからないな。


「言われたが、返答はしていないな。それに、あいつは尊敬するに値するような人物じゃないから態度を変えるつもりはない」


屁理屈ではあるが事実、俺は頷いただけだし、腐れ騎士にヘコヘコするのもバカらしい。


「何を言うのですか!?隊長は若くして数々の功績を残し、二つ名をあたえられる程の実力者なのですよ!今度開かれる闘技大会にも我が国の代表として今年も選ばれているのです!!前回は惜しくも初戦で優勝者と当たってしまい残念な結果となってしまいましたが、あれから更に修行に励んだらしく今年こそは優勝間違いないのであります!!他にも…………」


イリアがものすごく熱弁してくる。俺が聞いていないことを気づいていないのかまだ話が続いている。俺に対して態度がきついのは自分の尊敬する人に嫌がらせをする悪い虫のように見えているからかな?


その後も長々と聞きたくもない話をBGMとして武器の手入れをする。惚気話ではないのが救いだな。内容的には好きなアイドルの良さを話しているような感じだから無理に止める必要もな……ん?と話が止まった。漸く終わったのかイリアの方を見ると結界を解いた。


「隊長、どうだったのですか?」


話している最中にどうやらギリアムが帰って来たみたいだ。なんで気が付くのだろう?そのまま外で立ち往生していたら笑えたのに。


「ただの冒険者だった。明りが見えたから、万が一盗賊だったらいけないから仲間を連れて様子を見に来たそうだ」


ふーん。それだったらギリアムが行って正解だったな。騎士の格好をした盗賊なんていないだろうから、話も早く済むわな。


「それにしても、よくもまあ気が付いたものだな。感知魔法が使えたのか?」


「さぁな。ただの勘かもしれないぞ?」


自慢してもいいが、感知魔法を使える人間は少ないので引き抜き行為とかされると面倒なのでバカ正直に教えることはしない。


「まあいい。イリアはテントで休め。この男を見張る。他にも隠していることがたくさんありそうだ」


~~☆~~☆~~


質問攻めにあうかと思ったが、その後ギリアムは話しかけてくることもなく、ただじっと見ているだけだった。聞かれたところで俺が正直に話すつもりもないけど、ただ見ているだけはやめてくれ!!


「あのさ~。見られるの、すげー気になるんだが、そっちの人間?」


「それはおまえの方じゃないのか?もしくは、おまえにやましいことがあるから気になるのだろう。単に、私はおまえを見張っているだけなのだからな」


鼻で笑いながら言うギリアムの態度からそっちの気はないのはわかる。となると、嫌がらせか!?ここにきて精神攻撃を仕掛けてくるとは!!後で倍以上にして返してやる。



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