第33話
投稿ペース落ちますが、3章投稿開始します。
第33話
「馬車って見当たらないもんだな……」
シーバムの村を出て草原を歩いて2時間くらい経った。王都への道であるのに、今のところ旅人とすれ違うことすらない。
「まだ昼前ですから、すれ違う人もいないのですよ。村の近くで野宿をするくらいなら、暗くなってでも村に向かいますから」
そりゃ、そうだ。わざわざ野宿するやつなんていないわな。
「馬車は期待するだけ無駄よ」
リリーにそう言われたが、探したくなるのはなぜだろう?感知魔法で探すのということまではしないが、辺りを見まわす。都合よく見つかるとは思っていないが、何か変わったものでも見つけないとテンション駄々落ちだ。
「おい、あそこ。ドンパチやってないか?」
そう言って、遠くの方で魔法が飛び交っている場所を指さす。戦闘中ではなく、ドンパチと表現したのは飛び交っている魔法の量が多いからだ。
「魔物と戦っているにしては様子がおかしいですね……」
エリーゼから見てもおかしいようだ。
「万が一ということもあるから、近くで確認するわよ」
正直、関わりたくないんだよな……量が量だけに、万が一でも単に盗賊に襲われているというわけではないと思う。そうなると、絶対に厄介事に巻き込まれる。平穏な旅をしたいのに……
「何しているの!?早く行くわよ」
立ち止っていた俺をリリーが呼ぶ。
「はぁ~~」
人助けをするのはいいが、面倒事にはなるなよと思いながらため息をつき、リリー達の後を追う。
~~☆~~☆~~
近くに来てわかったが、襲われているような状態だ。ようなというのは、どちらも旅のためのマントやローブをまとっていて、少人数はマントに鎧だが、大勢の方は、鎧の上に顔を隠せる兜をかぶっている。襲われている方は岩場と馬車を壁にしながら交戦しているが、その馬車も炎上しており、壁の役割としては微妙なところだ。
「どうする?これじゃ襲われているのか、盗賊狩りをしているのかわからん」
「戦闘を中断させるのがよろしいかと……」
「普通に見れば盗賊狩りに見えるけど、兜をかぶっている方はこの国の騎士隊でないわね。ヨシアキ、ドカンと大きいの頼める?」
「了解。テンペストウォール!!」
馬車を中心に竜巻が発生する。風の上級防御魔法だ。中心部の空洞は大きいので近づくとかバカをしない限り、中の連中には被害は出ないだろうし、内と外の両方ともこの竜巻を越える魔法を放つことはできないはずだ。
突然発生した竜巻に外側の連中が驚いているようだが、魔法を打ち込み内側に届かないがわかると馬に乗り、早々に退散しだした。
退散したということは……襲っていたということか。
「ケガ人の確認もあるけど、事情を聞くためにも行くわよ」
魔法を消して被害者のところに行く。
~~☆~~☆~~
「皆さん大丈夫ですか?」
リリーが声をかけると、茶髪ショートの女性がこちらに近づいてきた。
「助けていただきありがとうございます。申し訳ないが、治療ができる方はいないでしょうか?重傷者がひとりいるのです。こちらの治術師は、さきほどの戦闘でやられてしまって……「もしかして、リリシア殿か!?」」
女性の説明中に、金髪の縦ロールの女性がこちらに声をかけて来た。
「ディアナ様!?」
リリーと同じくエリーゼも驚いているが、ディアナ様だと!?面倒な予感がビンビンする。
「ディアナ様、話は後にしてケガ人の治療を」
重傷者がいるということで、エリーゼが促す。
「そうだな。イリア、彼女をケガ人のところへ」
重傷者は男性で体のあちこちをキズや、やけどを負っている状態だ。後、無残にも遺体となっている人物が1人いる。おそらくその人が治癒魔法を使えた人だろう。男性2人が看取っている。重傷者を含め手当をしているのが、さきほどの説明をしてきた女性の他に男性が1人。そして、リリーの知り合いっぽい女性。生き残ったのは計6人か。ケガ人はリリーに任せるとして、その間に事情を聞いておくか。
「で、何であんた達は襲われていたんだ?」
「無礼者!気易く姫様に近寄るな!!」
俺が話をするために女性に近づくと、20後半、肩まで髪が伸びている金髪の男が間に入ってきた。その男を筆頭に男どもが集まりだして警戒態勢をとる。
「ギリアム、彼は私達を助けてくれた人だ。恩人に対して失礼だぞ」
ですが、などと口答えをしている。こいつらを見ていると城の連中を思い出して嫌になってくる。
「助けてくれて礼を言う。私はディアナ=セラ=アルトランド。名の通り、アルトランドの第一王女だ。君は?」
やっぱりね……リリーが様付けしていた相手だから、そうだろうと思ったよ。
それはそれとして、改めて彼女を見る。身長はエリーゼと同じくらいで、年齢もエリーゼとそう変わらないだろう。武器は手に持っている槍だな。女性の象徴はリリーより少し大きい。名前を聞かれたから答えないといけないが、異世界人とばれると面倒だから俺の設定も言っておく。
「俺はヨシアキ。そっちの娘っ子に雇われている冒険者だ」
ありきたありだが、考えた設定は貴族の娘に雇われ冒険者。リリーを娘っ子と言ったのは、王女であることを知らないという意味だ。エリーゼの事だから、それだけ理解して合わせてくれるはずだ。
「貴様、姫様に対して何たる口を!!」
「ギリアム、いい加減にしろ!」
どうして騎士という連中は頭が固いんだ……そういうことなら調べるついでに、とことん屁理屈を並べて嫌がらせをしてやろう。
「悪いけど、俺は誰に対してもこんな口調だよ。それに姫様と言われても、それを証明するもんはあるのか?」
「私のカードや王家の紋章で証明になるか?」
そう言ってカード取り出す。わざわざ付き合ってくれて申し訳ないが、後ろの連中のために言わせてもらう。
「カードは、どれだけ技術があるか知らないが、本物かどうか判断できんな。それに、王家の紋章なんて全ての人が知っている物じゃないだろ」
カードの偽造は微妙なところだが、王家の紋章入りとか見せられてもな……ユルカの紋章もどこかで見ただろうが、それすら覚えていない状態だ。異国の紋章なんて知っているわけがない。
「わたくしでは、証人にならないのでしょうか?」
エリーゼが進言してきたが、これも利用させてもらう。
「エリーゼも悪いけど無理だな。俺はあんた達に雇われているだけの男だ。リリーやエリーゼを信用していないわけではないが、知り合いということで余計に無理だな。契約は、高貴な娘っ子であるリリーを目的地に無事に連れて行くという内容だ。高貴ってのがどれくらいなのか知らんが、Bランクの冒険者が受けられる依頼と考えればおかしいと思うが?」
エリーゼもという言い方で、姫さんにも謝っておいた。それに、これで向こうの連中に俺がリリーの正体を知らないというアピールができた。
「さっきから黙って聞いておれば屁理屈を並べよって!!何があれば証明になるというのだ!!」
ようやく閉じていた口を開いたか。これ以上屁理屈を考えるのは大変だから、待ってましたと思ってしまった。
「んなもんあるわけないだろ。お城で着飾った状態で会えばそうだと思うが、ここは異国だ。しかも、ごく僅かの護衛を連れているだけの状態で、さっきまで大勢に襲われていたんだぜ。それでどうやって信じろと?」
険悪ムード(わざとやったことだが)になっていたところにリリーがこちらにやってきた。
「命に別状はなくなったけど、重症過ぎて私じゃ完治ができないわ。ヨシアキ、彼をお願い」
そう言われてケガ人を確認するが、呼吸も穏やかだし、安静にしないといけないくらいか?俺は聖人じゃないし、なるつもりもない。
「あーほとんど魔力ないから無理。リリー達の治療なら無理をするが、雇われの俺がそこまでする気はない。それに、あの状態なら死にはしないだろうし、それでも不安ならポーションでいいんじゃね?」
さきほどまで話を聞いていなかったリリーに俺の立場を説明も含め拒否する。それに、ケガ人であれば、すぐに治療するのはいいことだけではない。無償でケガを治していたら医者は病人しか診れなくなってしまう。無償でなくとも、優秀な治術師を求めて俺を頼って来るようになったら面倒だ。それに、ケガをしてもすぐに治るなんて考えていたら大惨事を招きやすくなってしまう。騎士は、ケガをすることなんて日常茶飯事だ。ケガで動けなくなれば反省して努力するだろうし、治術師のありがたみを改めて理解する。
「無理って、あなたの魔力は……」
リリーが言いかけたが、俺の正体をばらすことにつながるから続きを言おうとしない。
「ポーションは馬車の中にもあったのだが、燃えてしまってな……手持ちの分もすでに使ってもうないのだ。すまないが、持っているのであれば譲ってくれないか?」
姫さんがそういうならポーションを取り出すのはかまわないが、後ろの連中が睨みつけてムカつくから引き続き嫌がらせをさせてもらう。
「いくらでこれを買ってくれるんだ?」
そう言って、ポーションを相手に見せつける。
「なら、これで足りるだろう」
さきほどまで怒鳴っていた男とは別の騎士が金を渡してくる。案の定、思っていた通りの行動をしてくれたよ。
「あんた、ふざけてんのか?」
「何を言っている?銀貨1枚でお釣りがくるだろう?」
うわー最低だ。俺の言った意味を理解していない。
「相場ならそうかもしれないが、ここには商人なんていない。あんたらはケガをしているやつの安全を銀貨1枚で買おうとしているんだぜ?」
物の価値なんて、いくらが正しいのかわからない。所詮、お金のやり取りなんて双方の合意の上で取引が行われる。だから、俺は人の安全を銀貨1枚で済むとは思わない。
「足元を見よって……」
渡してきた男が怒こっているが、ケガ人をその程度にしか考えていないとしか思えない。
「なら、別に買う必要はないだろ?」
悪徳商法のように思えるが、これは当たり前のことだ。わかりやすく例えるなら、100円のパンを買うのにそれ以上の金を払うのはバカらしい。しかし、遭難とかで食料問題に陥ったとき、100円のパンをいくらで買う?逆に、いくらなら売ってもいい?
いくら積まれようとも売る気はないという人もいるだろう。それは普通だと思うぞ。今回はポーションだが、余っているとはいえ、何が起こるか分からない。ケガをしたら魔法で治療すればいいと言えばそうだが、必ずしも魔法が使える状態ではない。普通の人なら、のどをやられたら詠唱を唱えることができないし、俺も集中できないくらいのケガをしてしまったら魔法は使えない。そんな時のためにもポーションは必要だ。たかがポーション、されどポーションという訳だ。
「そういうことならこれで頼む」
姫さんは自分のサイフを袋ごと渡してくる。実行するとは……さすが王女様、尊敬するよ。
「冗談だ。早く飲ませてやれ」
ポーションと一緒に渡された銀貨とサイフを返す。姫さんは受け取ったポーションを騎士に渡しケガ人に飲ませる。
「(最初からそうすればいいものを……)」
さきほどから、怒鳴っていた金髪の男(……ギリアムだったか?)が舌打ち混じりに愚痴をこぼした。
「勘違いをするなよ。これは俺の慈善行為で、ポーションを出す必要もなかったんだ。ハッキリ言って、貴族ってのは偉そうで、威張り散らすから嫌いだ。全ての貴族がそうじゃないのはリリーで理解している。あんた達がそうでないか確認するために、さっきまでわざと嫌味ったらしいことをやっていたんだ。姫さんはリリーと同じくそうでなかったが、あんたは俺の嫌いな部類そのものだ。さっきまでの会話でもそうだが、わざわざ俺の魔法で助けたのに、最初に何と言ったか覚えているか?」
そう、こいつは「無礼者!気易く姫様に近寄るな!!」と侮蔑してきた。そんなんじゃ、助けたのがバカらしく思えてくる。そのことを思い出したか、男は顔を顰めた。
「それを踏まえた上で、何か言いたい事があれば聞くぞ?ちなみに、今の状態で助け合いの精神なんていうふざけたことをぬかすなよ」
礼すら言わない人では、どんなに熱弁されようとも騙っているようにしか聞こえない。
「……我々を延いては姫様を助けていただき、礼を言う」
男はしぶしぶ頭を下げながら礼を言ってきた。
「随分と態度が変わったな」
「ック!!……これ以上姫様の護衛として恥ずかしい真似はできないのだ」
俺の言葉にかみついてこようとしたが、ぐっとこらえそう言ってきた。これならしばらくはおとなしくしてくれそうだ。
「話のわかるお偉いさんで助かったぜ」
楽しいんだが、いじるのはこの辺にしておいて、本題にそろそろ入らないとダメだな。
「それにしてもお久しぶりですね、ディアナ様」
ひと段落したと見計らって、リリーが話をする。
「ああ、最後にあったのは半年ほど前になるのか……」
「お元気そうでなにより……と言いたいところですが、どうして襲われていたのか、心当たりはありませんか?」
「そういうリリシア殿も、何か事情があるようだが、後にして――こちらはどう説明したものか……」
お待ちかね、ピエロ登場!どう料理しましょうか(笑)




