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第32話

第32話


翌日、メアリーちゃんが意識を取り戻した。ケガの後遺症もなく、元気なことを見せるために走り回り、マーサさんに、こっぴどく叱られていた。それでもエリックさんとマーサさんは、メアリーちゃんが元気になったことを喜んでいた。囚われていた女性達も無事に村に到着していたらしく、まともな食事を与えられていなかった状態の上に、無理に森を歩いたので全員療養中とのことらしい。


夕方、騎士隊が50人ほど引き連れて到着した。騎士隊に盗賊のアジトの場所を伝え、10人ほど警備に残し、残りは回収に向かった。魔人の死体について説明しなかったが、まあ、問題ないよな。


夜、回収組が村に帰還して、隊長が俺とリリー達に話があると言うことで、本来ならそちらが来るべきなのだが、お忍びということで隊長の天幕に行く。


「リリシア様、ご無事で何よりです」


中に入ると隊長は跪いてそう言ってきた。


「要件というのは?」


「まず、捕らえた盗賊ですが、調べによりますと、ランドルフという盗賊は最近になってアルトランド王国で頭角を現した盗賊です。やり口は窃盗や小規模な強奪などが目立ちますが、消え去る前に村を焼き払ったり、村人を虐殺したりして大量の被害を出した極悪人。ランドルフは各地で手下に自分の名を名乗らせて行動させ、居場所が特定できないようにするなどのキレモノでした。しかし、今回捕らえた盗賊のアジトの中に盗品と思われる金品が大量に出てきたことと、頭を名乗っていた男のカードを確認したところランドルフ本人に間違いないようです」


騎士として、そういう報告をしなければならないのはわかるが、正直そんな情報どうでもいい。


「盗賊についてわかったが、なぜ俺まで呼ばれたんだ?」


ユルカのお偉いさんに良い印象がないため、さっさと帰りたいから話を変える。


「ヨシアキ殿をお呼びしたのは、ランドルフはA級の賞金首で、アルトランド王国より報酬が出ることをお伝えするためと、ギルドマスターからの伝言です。A級盗賊を討伐したのであれば、本来はAランク、場合によってはSランク任務になってしまうそうです。Cランクの冒険者が討伐したとなると、他の者が模倣をして無駄に命を散らす者が続出する可能性があるとのことで、冒険者ランクをBランクに昇格させることを伝えるように頼まれましたのでお呼びいたしました」


一攫千金を狙う冒険者が大勢いるのはわかるが、それでいいのか?

マスターのことだから、討伐したからランクが上がったではなく、ランクが高かったから討伐できたという噂を流すためだろう。ランクが上がることはいいことなんだけどな。


「最後に、王様よりリリシア様にお手紙をお預かりしています。これをアルトランド、ナスカの国王にお渡しすれば、リリシア様の旅にご協力していただけるように書かれてあります。城を出る前に渡していたものと同じなのですが、お渡ししていた手紙は手違いにより別の手紙を渡してしまったことに気が付き、再びお渡しすることとなりました。すでにお持ちの手紙はリリシア様に処分をしてほしいとのことです」


王国では、家で王女ではなく、お忍び旅行中の王女となっているから、そういう建前で手紙を渡してきたのか?


「わかりました。お父様に私は元気で旅をしていることを伝えておいてください」


手紙を受け取り天幕から出ようとした時、俺だけ隊長に呼び止められた。


「ヨシアキ殿、盗賊のアジトに頭のない死骸が見つかったのですが、あれが何かご存じでしょうか?」


やっぱり聞かれた!?普通に魔人だというか?でも、言ったら、異世界より招いた者は魔人をあっさり倒せるほどの人物だと見世物に利用されそうだ。当然、異世界うんぬんとだけ伝えるので、異世界人=勇者=正也となるだろうから、人々は正也がしたと思う。ゆえに、王国の利益になってしまう。やっぱり言う訳にはいかない。


「さぁな。襲ってきたからやっつけたんで、何なのかは知らないな。頭がないのは、切り離しても動いていたから、魔法で埋めたから見つかんないのも不思議じゃないと思うぞ」


適当にそれらしい嘘を並べる。盗賊達が口を割ればばれることだが、魔人が人に協力するなんて思わないだろうから、たぶん大丈夫だよな。


「そうですか、無駄に足を止めてしまい申し訳ない。明日の朝出発する前に、こちらからご挨拶に参りますとリリシア様にお伝え願います」


国の連中に関わるとロクなことがないのは身にしみているから、了承してさっさと村長の家へ行く。


~~☆~~☆~~


翌朝、騎士隊は盗賊団、商人や旅人、それに捕らえられていた女性達を連れて王都に向かう時間になった。


約束通り、出発前に隊長が村長の家に来た。


「念のため、警備の者を数名この村に半月ほど滞在させます」


「ありがとうございます。村の皆も安心して過ごせます」


騎士が残るのであれば、残党が襲ってきてもひとまずは安心だな。


「あなた方も、治安維持のご協力ありがとうございました。では、よき旅を」


そう言って、隊長は俺に握手を求めた。意味わからんが、拒否するとおかしいと思われるのでしぶしぶ手を出す。すると、隊長は「後のことをよろしく願いいたします」と言って手を取った。


何を?てリリーのことか。名前を出すわけにはいかないのはわかるが、このタイミングは反則だろ!?これでは、お礼のために握手をしたのか、頼みごとをして了承の握手をしたのか、どちらにも取れてしまう。――だから、国の連中に関わるのは嫌なんだよ。


「そろそろ、私達も旅に戻ります」


隊長が立ち去って、リリーが村長達に伝える。


「そうですか。あなた方には感謝をしてもしきれない恩があるのに、それを返せないのが残念です。本当にありがとうございました」


「メアリーや村を救ってくれてありがとうな。また、ここに訪れるのなら村の皆で盛大に歓迎するぜ」


「その時は、たくさん料理を作りますね。みなさん、どうもありがとうございました」


「おにーさん、おねーさん達、どうもありがとう」


4人からそれぞれの言葉でお礼を言われた。


「それでは、皆さんお元気で」


「またな」


こうして、シーバムの村を去った。


~~☆~~☆~~


「次はどこに向かうんだ?」


村を出て今更だが、地図を取り出し聞いてみる。


「北に進んで、カルールに行きます。更に、カルールの北の峠を越えればアルトランドの領土です」


「説明だけなら近いけど、地図を見る限り、長旅になりそうだな」


王都とシーバムの距離とシーバムからカルールの距離はおおよそ倍近くある。更に、この地図では高低差がわからないので、峠でどれほどの時間がかかるかわからない。


「仕方がないでしょ。運よく馬車が通れば交渉するから、それまでは歩くわよ」


騎士の連中はとっくに城に行ったし、今更村に戻って頼むわけにもいかないからな。しゃーない、歩くか。道中に人がいることを願うか。人といえば、エリーゼに言っておかないといけないな。


「エリーゼ、あの約束なんだが、今回ので俺の甘さがわかったから、なかったことにしてくれ」


自分の考えを改めるためにも、まずは、死に慣れることから始めるべきだ。自分では殺せないから、死を見ることから慣らしていくべきだ。


「あの約束とは何のことでしょう?それに、『あの~』では何のことを指しているのか、わからないので相手には伝わりませんよ」


ちょっ!?え!?何で!?

エリーゼさん、文脈からわかるでしょ。それに、あなたと約束なんて片手で数えるくらいしかないはずですよ。

エリーゼの顔を見る限り、とぼけているわけではないようだ。


「ふたりとも、約束ってなんのこと?」


あの時、蚊帳の外であったリリーが聞いて来る。


「ヨシアキ様との約束は、何かをしないでくれというお願い事ですから。ヨシアキ様が約束を破棄するということなので、気にするようなことではありません」


ほぼ当たりじゃねーか!何でわからないふりをしたんだ?イジワルか?それとも、天然が発動したか?


「そうなの?まあ、行きましょうか」


そうして、再び次の町を目指して歩き始めた。


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