第31話
第31話
「――リデルか、今の俺は機嫌が悪い。何の用か知らんが、ふざけた内容ならぶち殺す」
ランドルフを殴ったとはいえ、まだ怒りが収まってはいない。こいつの性格から事の様子を見物していた可能性がある。
リデルは近づいて来て、何をするかと思えば俺の前に跪いた。
「此度は私の部下がご迷惑をかけて、申し訳ありません。ゾゾルは元帥であるアフラム様から直接、命を受けて行動したので、私は知りませんでした。他の部下からそのことが伝えられ、あなたとの約束のために急いでまいりましたが、このあり様です。約束を守れなかったことの詫びとして、私にできることであれば何でもいたしましょう。――お望みとあれば、分体ではありますが、この私を殺していただいても構いません。そうすれば、多少ではありますが、あなた方の力の源となるはずです」
ゲームでも分体を倒したらステータスアップしたが、リリー達の底上げとしては魅力的だが、カンストの俺には意味がない。
「元帥というのは何者だ?」
「アフラム様は、はるか昔から魔王様に仕えていらっしゃるお方で、勇者マサムネに倒された四天王の生き残りです」
リデルは頭を下げたまま、そう言った。パラレルワールドの考えが正しいのか、ゲーム上の出来事に矛盾しないために新たに世界が作りだしたのか……どちらにしても俺の知っている魔王関連も全て同じではなくなったな。
「なら、その元帥にそいつの首を持って行ってこう伝えろ。次にふざけた真似をしたらおまえを殺しに行く」
見せしめとして、伝令役に使う方がいい。挑発にもなるが、この警告を無視するなら……
「わかりました。一言一句、違わずお伝えします。それから、あなたにこちらをお渡ししておきます」
リデルはそう言うと懐から宝玉を取りだした。
「これは通信用の魔道具で、念話のできない者でも私と会話をすることができます。以後、何かあればこちらでお伝えいたします」
ゲーム上でも仲間同士で連絡をするために使っていた念話石か?あれは、血に込められた魔力によって登録されたもの以外には連絡できない代物だが、本当にそれなのか?
「そう言って、それで俺の位置を特定とか、何かをするつもりじゃないだろうな?」
確認をしてみたが、リデルは顔を上げて否定した。
「そんなことをしなくとも、あなたの行動は確認しております。私どもの情報力を甘く見ないでいただきたい。宿の時にも言いましたが、あなたをどうこうするつもりはありません。サーチで確認していただければ、おわかりになるかと」
言われたようにサーチで確認すると、たしかに俺の思ったものとは若干違うが、通信石(リデル専用)と出た。まさか専用と表示されるとは……しかも、詳細を見るとリデルにしか繋がらないようだ。用意周到にも程がある。
「こちらに置いておきますので、持つかどうかは、あなたにお任せいたします。では、私はこれにて失礼します」
そいうと、ゾゾルの頭を持ち去った。
とりあえず、リデルの置き去った宝玉を拾い上げる。
「ヨシアキ様、それをどうするおつもりですか?」
場の空気にのみ込まれていたのか、傍観していたエリーゼが聞いてきた。
「調べたが、本当に通信手段だけの魔道具だ。持っておくだけなら問題ないし、捨てるならいつでもできる。それに元帥とやらに伝えた後の反応を聞くためにも持っておいた方がいい」
そう言って、ポーチの中に入れる。
「魔人関連はヨシアキに任せるわ。それよりも早くここを出て、メアリーちゃんをベッドで休ませてあげたいの」
いくら魔法で治療したとはいえ、流れた血が戻ったかどうかわからないし、体力までは回復できない。安静にさせるためにも早く村に帰った方がいい。
「なら、ワープを使う。俺は失神させてしまった女性を運ぶから、肩につかまってくれ」
女性を運ぶため、しゃがもうとしたらエリーゼに止められた。
「それならば、少々お待ちを。血まみれの服でメアリー様を連れて帰るのは、ご家族に余計な心配をかけてしまうので、汚れを落とします」
そう言って、魔法で服に着いた血の跡を消し始めた。ついでに俺とリリーについてしまった血も消す。服が血まみれの状態で娘が帰ってきたら、取り乱すことになるもんな。
~~☆~~☆~~
ワープで村に帰ると、入口のすぐ近くにエリックさんがいた。俺達の姿を見るなり、駆け寄ってきた。
「あんた達、メアリーを連れ帰ってくれたんだな!!」
俺の背負っている女性には目もくれず、抱えているメアリーちゃんリリーに近づいた。
「この通りメアリーちゃんは無事に連れ帰りました。ただ、ケガをさせてしまい、治療をしたので、ベッドで安静にしなければなりません」
「ケ、ケガ!?い、いいったいどこを!?傷痕は残ってないだろうな!?」
取り乱すエリックさん。血まみれの服で帰ってきていたら、もっと大変になっていたんだろうな……
「ご安心ください。傷跡も残らずきれいに治療をしてあります。そんなことよりも早くベッドに寝かせてあげたいのですが」
エリーゼがそう言うと、エリックさんは俺達や肝心のメアリーちゃんまでも置き去りにして、あわてて村長の家へと走り出した。準備をしに先に帰ったということにしておこう……
~~☆~~☆~~
村長の家でメアリーちゃんと女性をベッドに寝かせる。メアリーちゃんにはエリックさんが付きっきりで看病すると駄々をこねたそうだが、村長の息子として仕事をほったらかすわけにはいけないとマーサさんに叱られた。しぶしぶ村の男達を引き連れて、もうすぐ到着するであろう囚われていた女性達を迎えに行く。ふたりの様子はマーサさんが見てくれていて、俺達は早めの夕食を済ませ、部屋で休むこととなった。
「あの女性はどうなるんだ?」
奴隷の所有者は、当然この世にいないだろう。居たとしてもランドルフだから、今後の境遇が気になり聞いてみた。
「あの女性は違法奴隷です。一度国に保護され、首輪を外すことになります」
「違法と断言する理由は何なんだ?」
奴隷の設定についてはゲームでは、一切書かれていなかった。でも、他の物語の知識からでは、断言できる要因がわからない。
「ヨシアキには、この世界における奴隷について説明した方がいいわね」
リリーがそう言うと、エリーゼが説明を始めた。
「奴隷になるのは3つあります。1つ目は、借金により奴隷に成り下がる、借金奴隷。2つ目に、犯罪者が奴隷に成り下がる、犯罪奴隷。最後に、人攫いなどによって奴隷に落とされる、違法奴隷があります。また、奴隷には、労働奴隷、性奴隷、戦闘奴隷の3種類があります。労働奴隷は、労働力を目的として。性奴隷は、性行為を了解した労働奴隷。戦闘奴隷は、戦いを目的とした奴隷です」
「それで、どうしてあの女性が違法奴隷なんだ?」
「質問は、後にしてください。奴隷には人に対して自己防衛以外、殺傷行為ができません。戦闘奴隷も、全て国が管理して、盗賊などの悪人を討伐、戦争のための戦力として使う場合には国が許可を出しますが、それ以外は他の奴隷と同様です。あの女性がメアリー様を刺したという点から、違法中の違法奴隷と言う訳でございます」
殺傷行為について以外はテンプレだな。
「なるほどな。性奴隷以外が犯されるということは?」
「性奴隷以外は、主人から無理やりされると奴隷から解放されます。それに主人は奴隷の安全を保障しなければなりません。定期的に監査が入り、守れなかった場合はその者の奴隷期間減少または解放、場合によっては、主人が犯罪奴隷となります」
「それなら、性奴隷との違いがないと思うが?」
なぜ、そう思ったのかと言われそうだが、エリーゼの反応を見る限り、当たりのようだ。
「お気づきの通り、無理やりという点だけで、強要させれば解放になりません。犯されると解放という設定では、奴隷自ら主人や他者に迫ったり、主人の知らないところで別の者に犯されたりするという点から、監査制度になりました。しかし、その監査制度のため、奴隷を持つのがそれなりの権力を持つ者が大半で、場所によっては賄賂などで、ないものとされてしまいます」
やっぱりそうか。周りのやつらに犯されるか、自分にやらせるかという選択を強要すれば、主人は労働奴隷を性奴隷として使えないこともないと……
「いうなれば、性別の分け方か。女は性奴隷。男は戦えるなら戦闘奴隷、そうでないなら労働奴隷という感じか?」
「違いがあるとすれば、奴隷期間や安全でしょうか。労働奴隷が一番長く、性奴隷が3割減。戦闘奴隷は、半分というぐらいです。その点、期間の短い戦闘奴隷は、生き残ることが難しく、逆に労働奴隷は基本的に安全で、奴隷全てに衣食住の保護がありますので、元の生活に戻りやすいのです」
「勉強はこれくらいにして、休みましょ。魔力の使い過ぎで、眠いのよ」
そうだな。リリーはメアリーちゃんを治療するために、ありったけの魔力を使っていたのだろう。さすがの俺も疲れていないと言うと嘘になる。戦いの最中やその後しばらくは頭に血が上って気にならなかったが、広範囲で感知魔法を使った反動で、集中力がほとんどなくなっていたらしく、ワープした後、緊張の糸が切れたみたいで多少ふらついてしまった。
「そうだな。俺も疲れたから、俺も部屋に行って寝るわ。騎士隊が来るまでは、村の人に警備とか任せても大丈夫なんだよな?」
「ヨシアキ様が盗賊団を壊滅させたことは伝えてありますので、村の人達でも大丈夫です。それでは、早いですが、お休みなさいませ」
「お休み、ヨシアキ」
「ん、お休み」
部屋についたら速攻でベッドに横たわった。今日1日の内容が濃過ぎた。
メアリーちゃんにケガを負わせてしまったのは俺のミスだ。最初に会った盗賊達を殺すなり、捕まえるなりしていれば、攫われることはなかったはずだ。そうでなくとも、攫われた後、アジトで盗賊達との戦いの時、手加減なしでやれば一瞬で終わらせることもできたのに、それをしなかった。殺さずをするにしても、あの時のように防御魔法で吹き飛ばせばそれでよかった。俺の慢心のせいでケガをさせてしまった。だからといって、殺さずをやめる決心はできていない。でも、悪党に対して、問答無用でぶちのめす決心だけはできた。
この世界で生きていくためには、いつか人を殺さないといけない時がくるだろう。今日、魔人を殺したが、殺したことに何の後悔もない。人に近い存在だったにもかかわらず、そんなことがあったなという程度にしか思っていない。
たぶん、人を殺せるようになると、こんな感じになってしまうのかと思いながら眠りについた。




