第28話
第28話
嫌な予感というものは、どうしてはずれてくれないのだろう。
「なんだと!?どの方角に連れ去られたんだ!!」
今すぐにでも家から飛び出しそうな勢いで、エリックさんは男性に詰め寄って男性を揺さぶり、聞きだそうとしている。
「落ち着いてください。それでは答えることもできません」
エリーゼがエリックさんをなだめる。エリックさんの気持ちもわからなくない。
「す、すまねぇ」
エリックさんは落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしている。
「別に気にしちゃいない。それよりも方角だが、連れ去った男達は南東に逃げていった」
「南東だな。ちょっと待ってくれ」
感知モドキを南東の方向に展開させる。距離はわからないので適当に2キロ先まで範囲を広げる。精神的負担が大きいが、どういう状態か把握した。約800メートル先に大人が3人、子どもを抱えながら走っている。さらに、そこから約500メートル先の洞窟の中に人だまりがある。――おそらくここがアジトだろう。
「みつけた。アジトらしき場所もわかった」
俺がそういうと、エリックさんが部屋の隅に置いていた武器を取り、今すぐにでも助けに行こうとした。しかし、扉の前にエリーゼが立ちふさがった。
「どいてくれ!娘を助けに行くんだ!」
「申し訳ありませんが、それはできません。あなたの気持ちは十分に理解できますが、あなたの実力でお嬢さんを助けられるのですか?」
「それがどうした!そんなことは関係ない!!できようが、できまいが娘を助けに行かない親がいるか!!」
今にも剣を引き抜くほどの剣幕で答える。
「お嬢さんを助けに行くのは私達におまかせ下さい。連れ去った男達はおそらく昼間の盗賊です。お嬢さんの捜索中に盗賊達が襲ってくる可能性が高いのでしょう。その対策のためにも、次期村長となるあなたが不在では問題になります」
エリーゼの説得により頭に登っていた血が下がったようで、自分の立場を理解したようだ。
「絶対に無事に連れて帰るから、メアリーちゃんのことは俺達にまかせてくれ。エリックさんには万が一に備えてこれを渡しておく。もし、盗賊が来たら鳴らしてくれ。こいつはマジックアイテムの一種で、特定の人物がどこにいても聞こえるから、鳴らせば俺がすぐに駆けつけられる」
そういって俺はポーチからベルを取り出しエリックさんに渡す。
「娘の一大事なのに、この肩書きのせいで動けないのが憎たらしい……でも、村の皆に迷惑をかけるわけにはいかねえ。頼んだぞ!」
~~☆~~☆~~
村長一家から本来の警備依頼から救出依頼に変わり、メアリーちゃんを助けるために盗賊のアジトへと向かっていた。
「メアリーちゃんを攫った理由って想像できる?」
走りながらもリリーが聞いて来る。
「ぱっと思いつくことが2つある。1つはエリーゼが言っていたように、捜索で男どもを村から引き離して村を襲う。それよりもあり得そうなのが、メアリーちゃんが盗賊達の知ってはいけないことを見聞きした可能性だ」
メアリーちゃんが言っていた「盗賊達が何かを言い合っていた」という点もあるが、俺達が現れたら、早々に逃げ出したあの盗賊が少女を追いかけていたという説明にもなる。
「それもございますが、もともと、あの盗賊達が人攫いをしていたという線もあります」
「報告に挙がらなかっただけで、実際は起きていたと?」
現実的に考えればその確率の方が高い。人攫いなんて被害は全滅が普通だ。旅人が攫われたとしても村の人達には全く知る由もない。――でも、もしそうだとしたら、被害者の悲鳴を村人に聞かれず、戦闘の痕跡を残すことなくやり遂げる実力があるということになる。
「救出人数が増えそうだな。面倒事が起る前に急ぐぞ」
~~☆~~☆~~
「洞窟があるのはこのあたりのはずだ」
「洞窟って言われても崖しか見えないわよ」
目的に来たが入口らしきものが見当たらない。俺が感知した時は、ここら辺が空洞になっていた。崖をよく見ると1か所、植物が妙に繁殖している。そこを調べてみると――ビンゴ。
「これはさすがに近くで調べられないことにはみつからないな」
「周囲に見張りは?」
「ちょっと待ってくれ――――大丈夫だ。周りには人がいない。でも、入口付近に2人いるし、その奥は結構な人数になっているがな」
ざっと40人。盗賊の数はエリックさんが見た数よりも多い、というよりも人攫いの被害者がいると見た方がいいな。
「では、わたくしが先行しますので、気をつけて入りましょう。」
~~☆~~☆~~
俺の感じた通り、中に入ってすぐに盗賊が2人に見つかったが、エリーゼが素早く沈黙させた。仲間に知らせようとしたが、的確に首に手刀を入れた。本来であればナイフで殺していただろうが、俺との約束を守ってくれたようだ。土魔法で地面に貼り付けにして、ついでに口を覆い魔法と唱えさせないようにもしていた。魔法で明りをともしながら洞窟の奥へ道なりに進んでいたが分かれ道になった。
「ヨシアキ様、右と左。どちらの方が人が少ないですか?」
「――――右だ。ついでに、左の方は奥が深いし、入り組んでる。おまけに開けた場所があるからこっちが本陣だな」
右の方はというと、小さな凹状になっている場所に10人以上がいる。牢屋と考えるのが妥当だろう。
右へ進むと予想通り牢屋があり、見張りが3人いた。騒ぎを起こすと他の場所で捕まっている人が人質にされる可能性があるから、できるだけ穏便に済ましたいところだな。
「ここは私に任せて。――我が魔力を集め、我の定めし者の睡魔を呼び起こせ。スリープミスト!」
水の状態異常魔法か。見張りの盗賊達は次々と眠り始めた。牢屋に閉じ込められていた人達がざわつき始めた。
「皆さん、助けに参りました。他の盗賊が来ては厄介になりますので、お静かにお願いします」
全員が眠ったことを確認して、エリーゼが閉じ込められている人達に説明をしてカギを壊して牢屋の扉を開ける。牢屋にいたのは15人、全て女性だ。中には手錠をかけられている人もいる。しかし、メアリーちゃんが見当たらない。眠っている盗賊達は入り口にいた盗賊と同じ状態にするとして、助けたはいいがどうやって村に帰ってもらう?俺達の誰かが先に連れて帰るのは得策じゃない。かといって魔物が出る森をここにいる人達だけで行かせるのも不安だ。
「ちょっと前に10歳くらいの少女がここに連れられて来なかったか?」
とりあえず、捕らえられていた女性達に聞いてみる。
「いいえ、最後に入れられたのは私達で、少女と言われても私の妹くらいです」
手錠をかけられていた女性が答える。そのすぐ隣にはその妹さんらしき人物で同じく手錠をかけられている。たしかに幼くは見えるが……それでもリリーより少し幼いくらいの年齢だ。
「俺達は村長の依頼で、その女の子を救出しなければならない。すまないが、もう少しの間ここで待ってくれ」
「それならこの手錠のカギを探して。私達はこれでもDランク冒険者なの。この手錠さえなければ、村まで彼女達を避難させられるわ」
そういうと手錠がよく見えるように両手を挙げる。
「その手錠は魔法を封印するものです。装着者の発動しようとする魔力を吸収し、放出させるもののようですね」
そういう原理ならあの方法で外せそうだな。
「ちょっと手を前に出して」
首をかしげながら両腕を前に出す。俺は手錠部分に手をかざして魔力を流し込む。するとパキンという音を立てて壊れた。
「――供給過多で壊すとは……理論上では、できると言われていますが、実際にやってのけますか……」
周りにいた皆が驚いている中、リリーとエリーゼ達だけは呆れていた。いや、だってさ、カギ探すの面倒じゃん?それに、ゲームみたいに都合よく手錠のカギを見張りが持っている可能性少ないし、ボスが持っていたらそのまま連れて帰るじゃん……
残り3人の冒険者の手錠も壊して逃げる準備ができた。新たに盗賊がいるといけないので、入口まで連れて行く。人質が逃げたことがばれないよう、途中の分かれ道のところでエリーゼが見張りをしている。
「武器は盗賊が使っていたものを利用してもらうとして、村は北西、歩いて20分ほどかかる。ここから先は任せるぞ」
「わかったわ。命にかえても彼女達を守るわ。先に村に行って待っているから、探している女の子と一緒に無事に帰ってきてよ」
さきほど牢屋で話をした女性が代表して答える。洞窟を出る時に「盗賊のボスは、かなりの実力者で切れ者よ。何をしてくるかわからないから気をつけて」と言い残して行った。
囚われていた人達は彼女達に任せて救出作業、第2ラウンド行きますか。
~~☆~~☆~~
「おもしろいことになったので伝えておきますが、侵入者が3人やってきて、捕らえていた商品を逃がしましたよ」
部屋で最後の準備をしていると、協力者から知らせが入る。ガキを連れてきてから30分もしない内に侵入者が来るとは!!
「ッチ、あいつらつけられやがったな!!見張りのやつらにも罰を与えるが後回しで、村を襲う時に商品も回収すればいい、先にそいつらを始末しないといけねーな」
どうやってハメる……ガキを使うのは当たり前だが、それだけではこいつが協力してくれそうなショーを見せることができない。――そうだ!最近手に入れたあの女を使えば……
更新ペース上げ過ぎて、ストックに追いついてしまう。
あるだけ連投しますが、途切れてしまうかもしれないので、ご了承ください




