第25話
第25話
長時間、見張りモドキをしていたが、ようやく朝日が差し込んでくる時間になった。
「おはようございます」
テントからエリーゼが出てきた。
「おはよう」
「おはようさん」
時間を確認すると現在7時過ぎ、目覚ましもないのに予定通りの時間に起きたようだ。
「朝食の支度をするので道具をお願いできますか」
「あいよ。何がいるんだ?」
了解してしまったが、起きて早々に朝食作りとは、申し訳ないな。自分1人ならパンだけでもいいのだが、お姫様がいるから、エリーゼがそんな手抜きをするはずがない。かといって毎回作ってもらうのは忍びない。たまに俺が作ると言って、休ませるか?拒否されそうだけど……
そんな考えをしたが、エリーゼの朝食を食べると、自分の料理の腕前から1回限りで終了させられそうだな。
「朝食も済んだことだし、準備が整い次第、シーバムの村に行くわよ」
「そういや、まだ歩き続けないといけないのか……」
また、長距離移動が始まるのか――昨日の感じから後5時間くらい歩き続ける計算になる。
「泣きごとを言っても無駄なんだからね。エリーゼは、私が言う前に片づけをはじめているんだから、ヨシアキも手伝ってよ」
「わかっているが、それでも出るもんなんだよ」
愚痴をこぼしながらも、出発の準備ができ移動する。道中、魔物に出会うがこの大陸の魔物は基本的に弱いので、魔法1発さようならなのでカット。しかし、出発してから3時間くらいたった頃に異変が起きた。
「いやーーーー」
もう少しで村に着くというこのタイミングで、女の子の悲鳴とは穏やかな展開ではないな。
「ヨシアキ、急ぐわよ」
そんなことを考えている前に助けに行かなければ!俺達は悲鳴の聞こえた場所に急いで向かった。
~~☆~~☆~~
わたしは必死に逃げていたが、何かに躓いてコケテしまい、捕まってしまう一歩手前にしまった。
「このくそガキが!手間かけさせやがって」
「お嬢ちゃん、悪いけど、一緒に来てもらおうか」
わたしを追いかけてきた3人のおじさん達は余裕ができたのか、わたしをすぐに捕まえず、この情景を楽しんでいるようにも見えた。
「い、いやーーーー」
わたしは悲鳴を上げた。逃げている途中でも助けを求めたが、誰も来なかった。やっぱり、わたしのやろうとしたことはいけないことだったの……
「叫んでも無駄だ。さっさと、アジトに連れて帰るぞ」
げらげらと笑っていたが、1人のおじさんが私を捕まえようとする。もう駄目だ、そう思って目をつぶった。
「残念、無駄じゃないんだな~これが」
「だ、誰ッぐはー」
違う男の人の声がしたと思ったら、目の前にいたはずのおじさんがいない。かわりに見知らぬおにーさんがわたしをかばうように前に立っている。
「て、てめえ!よくも俺達の仲間に手を出しやがって」
襲ってきたおじさん達のセリフから周りを見ると捕まえようとしていた男が倒れている。
「ヨシアキ!」
今度は2人おねーさんが来た。このおにーさんと同じで、わたしを助けに来てくれたんだ。
「ッチ!仲間が来やがったのか。面倒になる前に親分のところへ帰るぞ」
「覚えていやがれ!」
そういうと、おじさんが地面に何かを投げ、白い煙で周りが見えなくなった。煙がなくなると、倒れていた人も含めておじさん達がいなくなっていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
黒髪のおねーさんがわたしに聞いて来る。助かったのだと思うと安心から泣きたくなってしまい。おねーさんに抱きつきながら、わんわんと泣いた。
~~☆~~☆~~
リリーに言われて動き出したが、一刻を争う事態になっているかもしれないということで、リリー達を置いて一足先に現場に到着した。そこには、今にも襲われそうな黄緑色のワンピースを着た10歳くらいの女の子と盗賊らしき男が3人が笑っていた。
「叫んでも無駄だ。さっさと、アジトに連れて帰るぞ」
1人の男が少女を捕まえようとする。そのセリフと女の子の様子から襲われる前のようだ。間に合ってよかったぜ。
「残念、無駄じゃないんだな~これが」
いきなり殴りつけるのもかわいそうなので、一声かけておく。
「だ、誰ッぐはー」
捕まえようとした男の顔面を殴り飛ばし、守れるように女の子の前に立つ。
「て、てめえ!よくも俺達の仲間に手を出しやがったな!」
盗賊の1人がにらみつけるが、すぐには襲ってくる様子がない。コケおどしか?
「ヨシアキ!」
リリー達も到着した。2人が来たのなら女の子を任せてこいつらをとっちめるか。
「ッチ!仲間が来やがったのか。面倒になる前に親分のところへ帰るぞ」
「覚えていやがれ!」
そういうと、盗賊は煙幕を張った。逃げるためにやったのか、視界を奪って襲ってくるのか、どちらかわからない上に女の子がいるから不用意に動かない方がいい。煙がはれると、倒れていた人も含めて盗賊達がいなくなっていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
リリーが女の子に確認をするが、安心したのか、リリーに抱きついて泣きだした。
「女の子から事情を聞けるようになるまで待つとして、ヨシアキ様。なぜあの者達を捕まえるなり、殺すなりしなかったのですか?」
エリーゼが、俺の失態を咎めるかのように聞いて来る。
「女の子の安全を優先したからだ。俺は対人戦なんてまともにやったことがいないから、殺さずに捕まえる加減がわからん。それに俺のいた世界じゃ、殺しは重罪だ。正当防衛でも人を殺せば後ろ指をさされる。俺は魔物退治はするが、人殺しはするつもりはない」
甘いと言われるかもしれないが、これだけは簡単に変えるつもりはない。重力魔法で相手を押さえつけることもできたが、加減ができずペッチャンコにしてしまう可能性があったからやらなかった。年端もいかない女の子に、そんなものを見せるわけにもいかない。俺も見たくはないし……
「それに、あいつらが親分といっていたから、他にもいるはずだ。覚えていやがれなんていう捨て台詞をいうくらいだから、また襲ってくるだろう。そん時にまとめて捕まえればいいんだろ?」
「わかりました。そういうことにしておきます。あなたの信念をどうこういうつもりはありませんが、人を殺せる覚悟は持って下さい。あなたのいた世界とは違い、この世界では人の命は軽く見られます。盗賊に命を取られるようなことは日常茶飯事で、時には貴族が不敬をしたものを切り捨てるということもあるくらいです。そのような連中には殺さずを貫く意味はありません」
異世界にはよくあることだな。だからといって、そういう連中を殺し続けると心がおかしくなってしまうだろう。大抵の人は、人を殺すと罪悪感に押しつぶされて病んでしまう。そのため、子ども兵士を作る時、麻薬で頭を鈍らせて殺させているという話を聞いたことがある――今までの異世界者の主人公達は何をきっかけに殺さずをやめられたのだろうか……
「考えておく。それと、覚悟ができるまでは俺の目の前で殺しはしないでくれ。理解しようとは思うが、心のどこかで軽蔑してしまうと思う。だからといって、俺のいないところでも殺らないでくれ」
「かしこまりました。しかし、状況によってはお嬢様を守ることを優先して約束を守れないことになります。それだけはご了承ください」
そうして、俺達は女の子が泣きやむまで待った。
~~☆~~☆~~
「お、親分!」
部屋で大男がどっしりとした格好でイスに座っているところに、さきほどの盗賊達が膝をついて呼びかける。
「おお、おめーらか慌ててどうした?」
「実は――かくかくしかじかでさ」
男達はさきほどの起こったことを自分達の失態も含め、正直に報告する。
「んで、帰って来たわけか……当然、後はつけられていないだろうな?」
「へ、へぇー」
叱りつけられると思っていた男達だが、親分の顔に変化がないことに困惑している。
「そうか、俺の言いつけ守ったんならかまわねー。王都から騎士が見回りに来るころだし、そろそろ潮時だな……おめーら、いつもの手口で最後の大仕事をやる。メンバー全員に伝えてこい!!」
「「「 わ、わかりやした~ 」」」
部下達が部屋を飛び出し、残された大男は立ち上がり物思いにふける。
「部下達の教育が行き届いていますね。あの程度の部下なら、襲いかかって返り討ちですよ」
部屋には、大男の他に誰もいないのに別の男の声が響く。
「あんたか……あいつらの話では王都の方から来たみたいだが、言っていたことと違うぞ」
男は声の主に問いただす。
「1週間ほど前から事情によりやめたのですよ。あなたの仕事には影響しなかったし、たかだか3人くらい問題ないと思いますが、何か?」
「フン、なら万が一の時は動いてもらうぞ。安心しろ、あんたの要求以上に最高のショーを見せてやるよ」
「それは楽しみですね。――では、時が来るまで傍観させてもらいますよ」
異世界に飛ばされた人達は、何をきっかけに人殺しができるようになったんでしょうかね?




