第24話
第24話
「ん、ん~~~~はぁ。おはよ」
大きく背伸びをしながらテントから出てきたリリーだが、まだ眠たそうだ。
「おはよ。目覚めに紅茶でもいるか?」
リリーは「もらうわ」と言ってエリーゼがいた場所に座る。俺はエリーゼが入れてくれた紅茶よりは落ちるが、と一言入れてから渡した。
「それで、エリーゼとどんな話をしていたの?」
最後の話は伏せるとして、
「どうでもいいことだよ。世界の歴史についてかな?獣人とかの話が印象的だったな」
リリーもその話を思い出したのか、納得という感じでうなずいている。
「あの話ね。でも、不思議よね。魔族は魔王によって生み出されたと言い伝えがあるのに、魔王を裏切るような魔族が出てくるなんて」
ぶっちゃけ、スタッフがそういう設定にしました。なんて味気ない答えが出てくる。そのスタッフも、ちゃんと裏設定をしているだろうけど。それについて考えてみるか……
「子を成せるということは、魔王が全ての魔族を自分で作ったわけではないから、そうでもないと思うぞ」
「それでも、絶対服従とかの洗脳でもしておかなかったのかしら?」
そうだな……話が違うかもしれんが、自分でロボットを作ったとして、それに裏切られるようなことはないよな。人でも、神とか信仰しているものに危害を加えることなんてないしな。
「んー。ちょっと話が逸れるかもしれないが、俺の世界の物語に説明しやすそうな話がある。時間つぶしに聞くか?」
「どんな話なの?」
リリーは話のネタに興味を持ったのか、体の向きを焚火から俺の方に向けた。
「まず、確認だが、この世界でも天使と堕天使はわかるよな?」
「ええ、天使は神の使い。正義の使者のことでしょ?逆に、堕天使は字のごとく天使が悪に堕ちたものと言えばいいのかしら?」
神には前に会ったし、天使がいてもおかしくはないか。
――でも、あの神って放任主義じゃなかったか?まあ、説明がしやすくなるな。
俺の聞いたことに何の意味があるの?という感じでリリーは首をかしげている。
「じゃ、話に戻すぞ。この話は、そもそも、天使ってのがどういうものかは、簡単にだが、さっきリリーが説明したな。なら、なんで堕天使なんてものが存在するんだ?」
邪神とか例外がいるが、神というのは善の象徴だ。その神が正義の使者として作った天使が、悪に染まるようなことは矛盾している。神が完璧という条件があるが、信仰者にとってはそういう存在と崇められているから問題ない。
リリーは問いかけの答えをぶつぶつと言いながら考えているようだが、思いつきそうにないな。
「答えは、悪があるからこそ正義が成り立つからだ。光が闇を消し去ってしまったとき、自分達の存在意義を示すためにも悪を作る必要があった。だから、天使の中から堕天使なんていう悪を作るようにしたんだとさ」
神は信仰心でできているなんて話がある。つまり、信仰心がなくなってしまえば神は消えてしまう。信仰心をなくさないようにするために作ったという説があるらしい。
「この話は逆のことでも言える。魔王をより巨悪に見せるためには光がいる。光は勇者なわけだが、白を入れることで黒を目立たせる。そういう意味合いで魔王も、裏切り要素を入れたのかもしれない」
リリーは、「そういう考えもあるのね」といってうなずく。
「ヨシアキって哲学者なの?」
ふと、気になったのかリリーが聞いてきた。
「いや、単にゲーマーで、そういう物語のネタとして使われていたからいろいろ知っているだけだ」
ゲーマーなら小ネタとかでも話が盛り上がるから、気になることはグー○ル先生で調べていたな。
「あなたの世界ってホントに想像ができないわね」
そんな感じで、リリーとも話をしながら警戒も怠らなかった。お互いにエリーゼから聞いた話を確認して時間が過ぎるのを待った。
~~☆~~☆~~
「そういや、リリーとエリーゼってホント姉妹みたいだよな」
普段は主と従者の関係であるが、宿の時とか人の眼がない場所では仲良くおしゃべりをしていたし、エリーゼが普段着だったら姉妹といわれてもおかしくない。
「あながち間違いでもないわ。私とエリーゼは、はとこなの。前に事件の話をしたわよね。あの話に出た王子がエリーゼの祖父なのよ」
「はぁ!?つまりエリーゼも王族なのか!!」
王族がメイドってどんな経緯でなるんだよ!?いや、逆に王女専属メイドといっていたから、それなりの地位が必要なのか?
「いいえ、エリーゼの祖父は自分の犯した罪の責任によって一族共々、王族から除名されたの。刑が軽いのは、数少ない勇者の血が流れているから簡単には処刑にはできない、ということで一族は国内永住と内乱の復興金として全財産没収されて没落貴族になったそうよ。没落と言っても、エリーゼの父親は優秀だったから次々と功績を残して、今は中流貴族よ」
「それって罰になったのか?それじゃ、意味がなかったような気もするが?それにエリーゼを連れて国外に出るのって問題にならないのか?」
事件で勇者の血が減って処刑できないのはわかる。血がどうこう言っているから血が薄まることも懸念して、近親相姦とか、元の世界でもあるからここでもやってそうだ。
「そうでもないわ。うまくいったのはエリーゼの父親だけよ。まあ、陰口を叩かれているみたいだし、あの事件のせいでどんなに功績を残しても重役にはなれないの。それに、あの事件を起こしたのは祖父であって、エリーゼの父親は当時赤ん坊で関与していないってのもあるわね。エリーゼは私の専属だから国外に出ても問題ないのよ」
ふーん、血族主義かと思ったら実力主義もあるのか。それに、リリーは王女として国外に出ることがあるだろうからその都度、専属を変えるわけにもいかないか。
「それにエリーゼ自身も優秀だし、私を利用してのし上がることもできないから5年ほど前から私の専属なのよ」
王族なんて利用されるのは当たり前、利用されない者を手元に置いておく方が使いやすいのか。
「他人のそういう話で盛り上がるのは、褒められることではないから他の話にしましょ」
「そうだな……今度はリリーの話をしてくれ。どういう生活だったとかはいいから、おもしろかったこととか、これからやりたい事とか、話せる内容で頼む」
あの時は暗い話だったから、それ以外のことを聞きたい。
「そうね……やりたいことは世界を見て回りたいかしら。外交で各国を回ることはあっても一部しか見られなかったわ。だから、世界中を旅したいの」
リリーはよくあるやりたい事を述べる。
「他にはないのか?」
「他に――て言われても、そう思いつかないわよ。ヨシアキは何かやりたいことあるの?」
少し考える素振りを見せたが、やめて逆に振ってきた。
「俺か?」
そういわれて考えてみる。やりたくないことはすぐに思いつくが、やりたいことは思いつかない。
「特に思いつかんな」
「でしょ?だからいろんなところに行って、その時に思いついたらいいのよ」
行き当たりばったりではあるが、リリーの言う通り考えても思いつかないなら、そうするのが一番だ。
「そうだな。んで、なんかおもしろい話はないのか?」
「そういわれても……あ、そういえば――」
こんな感じで朝を迎えるまでリリーと見張り?をした。
シリアス?な話を考えるのは大変ですね




