第22話
第22話
「では、見張りの注意事項と火の番についてご説明します」
……たしかに重要なことだ。全員で寝るとか危なすぎる。
「そりゃ、やったことないし、知識もないから聞かなければならんが、こんな時間からか?まだ、8時にもなってないぞ?」
「理由としては睡眠時間を長くするためです。本来であれば、わたくしだけでやりたいのですが、1日程度なら問題ありませんが、それ以上となるといくらわたくしでも支障をきたします。おふたりは見張りの経験がございません。ですから慣れない内は1人で見張りをせず、2人でするためです。今から説明すれば8時から明日の7時ぐらいまで約11時間。ざっと計算でも、おふたりが4時間ずつでわたくしが3時間。少ない睡眠時間ですが、短時間で体力の回復する練習と思ってください」
そうだよな。いきなり説明されてやれと言われてできるはずがない。2人ならリリーとでも、お互いをカバーしながらやればできるはずだ。慣れたら1人3時間の見張りでも6時間は寝れるようになるのか。
「火の番ですが、暖がとれれば問題ありません。見張りですが、感知魔法を使えるのであればそれだけでいいのですが、感知魔法はサーチのように使える者が限られています。ヨシアキ様は使えるのであればそれでよろしいですが、できないのであれば音に注意を払って下さい。暗闇では目視ができませんが、音は実力者でない限り出てしまいますので対処できると思います。それに、集団や魔物といった場合は必ず音が聞こえます」
感知魔法で思いつくのはアラートかな?でも、あれは逆に魔物を呼び寄せる魔法。その反対を意識すれば魔物除けにはなるかな?
そんなことをするくらいなら結界魔法を使う方がいい。ゲームで他にそういうのはなかったな。ゲーム知識以外の魔法がまだありそうだから後々調べるとして、今はこっちに集中。宮廷魔道士のじいさんが言っていた『イメージで魔法を発動させる』ということは新たに魔法が作れる可能性がある。というよりもゲーム上、エリーゼの言うような感知魔法はなかったから、新たにできた魔法と考えるのが筋ってもんだ。音…………ソナーみたいに音波でもまき散らすのか?
「――ヨシアキ様、聞いていらっしゃいますか?」
エリーゼに声をかけられて考えを止める。
「ああ、すまん。感知魔法のイメージしてて聞きそびれた。んで、他に何か教わることはあるのか」
「そんなので見張りは大丈夫なの?」
ふたりがちょっと怖い顔になった。すんません、反省します。
「まあ、いいでしょう。では、さきほど申し上げたように、ヨシアキ様、次にお嬢様、そして最後にわたくしの順で仮眠を取ります。注意事項ですが、実際に行いながらご説明した方が覚えやすいので、その時に」
「リリーではなく、俺からなのか?」
「順番は日によって変えますが、今日この順番なのかは、長時間見張りをする方が辛いので、お嬢様の負担を軽くするためにこの順番なのです」
なるほど、そういうことなら俺が先に休んでいた方がいいのか。誰か1人は間休憩が入るが残りの2人は続けてになる。今日はリリーがその1人になって俺とエリーゼのどちらが先になるかで、最初から説明のみで実践するわけにわいかないからエリーゼが後になるのか。
「でも寝れそうにないんだが」
「そこはどうにか眠ってください。同じ部屋で寝ていたのですから、わたくし達が近くにいて眠れないという言い訳はできませんよ。――最悪、見張りに支障が出ないよう休んでください」
同じ部屋で寝ていたのはそういう意味もあったんですね……
「了解、頑張って寝てみる」
「それじゃ、ヨシアキ、お休み」
「お休みなさいませ」
「ん、いったんお休み」
テントに入って横になってみる。大学に入ってから草木も眠る丑三つ時に寝る生活習慣になっていたが、こっちの世界に来てから普通の時間に寝られるようになった。でも、さすがに8時前から寝るのはきついな。
とりあえず、リラックスはしておかないといけないんだったよな。しかし、さっき考えていた感知魔法が気になる。ソナーを考えたけどあれは音の反射を利用するのでこっちが処理できなければ意味がない。コウモリがやっているけど、あれは前方で、俺がやりたいのは全方位……ダメだ、人間が処理できる範囲を超えている。それよりも自分の感覚を広げる方法が理想だ。
そういや、とある漫画に○というものがあったな。あれは纏っているオーラを広げることで、その範囲にある物の形や動きを感じ取ることができるだったか……それを魔法でやってみるか?でも、あれは能力のない人間でも感じ取れる力を利用したもので魔法は人間では感じ取れない。成功するかわからんが、それでも試してみる価値はあるな。よし、考えもまとまったことだし眠る努力をしてみるか。
~~☆~~☆~~
「――アキ、ヨシアキ。時間よ」
リリーの声が聞こえたので目を開ける。
「ん?ああ、俺はなんとか寝れたのか?」
しばらくぼーっとしていただけのような気がする。
「寝ぼけてるの?現に今起こしてたんだから寝てたんでしょ。ふわぁ~~~~。それじゃ、時間になったら起こしてね」
そういうとリリーは横になって寝る体勢になった。とりあえず、ぼやけた頭を覚ますためにも外に出るか。
「おはようございます。休息はできましたか?」
「おはよう、たぶんできたと思う」
焚火の前にエリーゼが座っていて隣に座ると紅茶の入ったコップを渡してきた。ホント気の利く人だよ。
「見張りのことで俺なりに考えていたんだが、試してみたい魔法があるんだかやってみてもいいか」
「試してみたいと言うことは失敗する可能性があるということでしょうか?内容にもよりますが、どういったことをなさるおつもりですか?」
俺は思いついた魔法について説明する。
「それができるようになればたしかに見張りが便利になりますが、実際にできるのでしょうか?」
「んじゃ、試しにやってみる」
魔力を放出するにあたって注意することは殺気が入らないようにすることだな。威圧するわけではないから相手に感づかれたら意味がない。魔法は基本的に術者の周りで発動させて放つが、たしか相手の周囲に発動させる魔法もあったな。あれの応用で俺の周りを指定してそこから範囲を広げていく。
半径10mくらいでとどめ、意識を集中させる。後ろのテントでリリーが横になっているのがわかる。――知っていることだから分かってとうぜ……あ、今動いた。たぶん寝返りでもしたんだろう。他には、5mには何もいないな。結界で入れないからか、そのすぐ近くには小さい生物たぶんこのサイズだと兎か……2匹いるな。左の方の木に鳥が留まっている。他にはとくに何も感じない。
「たぶんできた。何か違和感あるか?」
「いえ、特にはありません。強いて言えば空気が変わったような気がする程度です」
「でも、これは神経をかなり使うな」
感覚を広げるというのは全身が触られているような感じだ。木や石などは動かないから最初に感じただけで気にならないが、動物は動くからなんかくすぐったいと言えばいいのか、チクチクすると言えばいいのかよくわからん。違和感がするというのが一番当てはまりそうだ。
「なら、やめておいてください。極端に神経を磨り減らすのは得策ではありません。それに、その方法では魔力を垂れ流しにしてしまうので長時間の見張りで行うのは危険です」
魔力で満たすから余計に神経を磨り減らすし、魔力の無駄になるのか。それなら、結界魔法のように膜状にして入った時にこの方法に切り替えるか。――でも膜状に張ることはできても、それに感覚を繋げるのが難しそうだな。何かいい方法を考えないと長時間は使えないな。
「――まだ、改良の余地があるな。というか、話をしながらでいいのか?音に注意しろっていってただろ」
「それは大丈夫ございます。今回は集中力が切れて眠らないというのが目標です。この森の魔物であれば低級ですので知恵を使うようなものはいません。来たとしても、まっすぐこちらに向かうので木や草の揺れる音で気が付きます。盗賊は城の近くなので治安維持のため殲滅行動を度々行っています。城の周囲にあるこの森を縄張りにするようなバカはすぐに御縄になるので、ここ十数年被害報告がありません。ですから、確認ができるのであればお話をしていても問題ないのですよ」
へえー、あの街って治安がいいと思ったら相当レベル高かったんだ。あれ?だったら部屋を別にしてもよかったんじゃね?――ああ、同じ所でも寝れるようにするためでもあったんだよな。……まだ寝ぼけてんな。
「さっきの話の続きだが、俺の知っている範囲では感知魔法なんて存在しなかった。おそらく俺ができたように魔法は新しく作れると俺は思う。それで、魔法と同じように他のことも新しくできたことがあるかもしれない。だから、俺の知識がどこまで正しいか分からなくなってきたんでいくつか確認をしたいんだが?」
エリーゼが腕だけ考える人のポーズになった。
「そうですね……どういったことを確認したいのですか?」
聞いたはいいが、なんかあるか?歴史は今聞いても意味がない。んーー、あ!そうだ。
「生活習慣とか聞いたから、国についてだ。ユルカは前に聞いたし、ロマリアはあまり関わらないだろうから後回し。アルトランドとか、ナスカについて教えてくれ」
「わかりました。まず、アルトランド王国ですが、気候はここよりも寒く今は春ですが冬になれば雪が積もるのがユルカと違います。国としては貿易が盛んでユルカやロマリアの物をナスカ連合王国とやりとりをして逆にこちらへはナスカの物を送っています」
「ちょっと待ってくれ。ナスカ王国じゃないのか?」
早々に俺の知識から違う話が出てきた。
「たしかにナスカ王国は連合の中心ですが正式には連合王国です。アルトランドよりも先に、そのことについて話した方がよさそうですね」
伏字の意味がないような気がします。




