第19話
活動報告通り、投稿します
第19話
「紅茶になります」
さきほどの空気から一転してお茶会が始まり、エリーゼが人数分の紅茶を用意する。
「ありがとうございます。メイドさん」
笑顔を浮かべながらエリーゼに感謝するリデル。
「メイドたるもの、お客様におもてなしをするのは当然のことです」
「さっきまで敵対行為をとってなかったか?」
のんびりするリデルと普通に接客するエリーゼにツッコミを入れてしまった。
「それはそれ、これはこれでございます」
そう言ってイスに座る。
「さいですか」
紅茶を一腹して気持ちを落ち着かせる。ケーキが4人分とは……まさかとは思うが、リデルはこの展開を予期していたのか?
「んで、お前は何を謝らなければならないんだ」
「焦ることはないでしょう。ケーキでも食べて世間話でもしてからでもいいじゃないですか」
リデルが抗議するがそれでいいのか大将……とりあえず持ってきたケーキを一口食べる。
「このケーキうまいな。どこのケーキ店だ」
おいしかったから、別の種類の物を食べに行こうかと思い聞いてみる。
「名前は忘れましたが巷で有名なケーキ店らしいですよ。その店の中でも人気商品だそうです」
買いに行った店の名前を忘れるとはな。
「おそらくパティスリィでしょう。この街で有名なケーキ屋といえばパティスリィですから」
エリーゼも俺がロザリオを外した状態で食べているから大丈夫と見て食べている。
「今度行ってみましょうか」
リリーも同じようにケーキを食べ始めた。
「そうだな。それにしても、よく店もわからず買えたな。金とかどうしたんだ」
よくよく考えたら、魔人が街で買いものとかシャレにならんぞ。
「いえ、街に着いたらとあるお嬢さん方が声をかけてくれましてね。それでおいしいケーキ屋をしりませんか?って聞いたら連れて行ってくれたんですよ。ケーキもそのお嬢さん方が選んでくれましたよ。お金は魔王軍に挑んできた冒険者とか兵士達の遺産ですよ。ああ、それとヨシアキさんを探せたのは、お嬢さん方が何しに来たのかと聞いてきたので、黒髪の男性を探しているというと、女性達がいろいろと聞きまわって、ここにいると教えてくれましたよ」
畜生!イケメンの特権か!?魔人でも顔さえよければ女は食いつくのか!!イケ(てない)メンはどうしろというんだ!!
「なんでお前はほとんど人間の格好なんだよ!!しかもイケメンとかスタッフの腐女子対策か!?」
ついつい心の叫びを漏らしてしまった。
「スタッフや腐女子が何なのかわかりませんが、私が人間の姿に近いのは人間こそがもっとも強い力を秘めた生物であるから似ているのですよ」
「どういうことなの?」
みんなの疑問を代表して、リリーがリデルに聞く。
「そうですね。なぜ、人間であるかの説明ですが、普通に考えればこの世界で魔王様が最強と思われがちです。しかし、魔王様が最強であるなら大昔に人間である勇者に倒されるはずがありません。ですから人間が最強であり得るという証明になります。そのため、力を求めるものは人間の姿に近づいていくのです。ですから、魔王様も勇者に倒される以前はドラゴンの様な姿をなさっていたそうですが今では人間の姿でいますよ。それから私の様な力のある配下の者は人間をベースにお造りになり、私の場合はこの翼以外は人間の姿になっているのですよ」
また、ゲームの裏設定のような話をされるとは……たしかにドラゴンとか強い魔物であるといわれているが、それでも人間が倒せるのなら、人間の方が強いことになる。倒せないで有名なエ○ーマンさんでも、必ず岩男が勝てる見込みがあるように、魔王を勇者御一行が倒せないように設定されていたらクソゲ―扱いになるし、そんなゲーム誰もやりたくないよな。
「しかし、いくら人間が最強と成り得ると言っても、必ずしもすべての人間が強くなれるわけでもありません。ですから、そういう人間が現れないように魔王様は芽を摘むためにも人間達を支配しようとなさっているのです」
なるほどな、一理あるわ。出る杭を打つことで自分よりも強いものが現れないようにしているのか……
「そういうわけで、ヨシアキさんには謝らなければならないのです」
「つまり俺は出過ぎた杭で、目の上のたんこぶか?」
そうだよなー。魔王には俺が邪魔な存在なんだろうなー
「はい。私はおとなしく森を去って魔王城に帰ったのですが、立場上、魔王様に報告しなければならなかったので、ありのままを報告したのです」
「そういうことなら、ヨシアキが強過ぎたのが原因なんでしょ」
リリーはリデルを擁護するような言い方をする。お前はどっちの味方だ……
「私が『魔王様より、はるかに強い男で魔王様なんかゴミ同然。ヨシアキさんが攻めてきたら魔王様でもボロ雑巾のようにひどい状態となって殺されてしまいます』と報告したら、
『そんなふざけた人間がいてたまるか。この私より多少強いかもならまだしも、この私をゴミ扱いだと!?よろしい、ならばその男を殺せば私に歯向かう人間はいなくなるはずだ』と意気込んでヨシアキさんを殺すように魔王軍に命令して刺客の手配をしている最中です。私は絶対にあなたと闘うなんてしませんけどね。そんなことよりもあなたをこちらに引き入れた方がいいですよ。ヨシアキさんなら世界の半分いや、7割でこちらにご招待してもいいくらいです」
「お前が焚きつけてんじゃねーか!!そしてお前はどこの魔王だ!」
明らかに、コイツの言動が原因だ!それに『世界の半分をやろう』とか魔王の言うセリフだろ。リリーやエリーゼも苦笑いをしている。
「私が思ったありのままを報告しただけです。それに、私は魔王ではありませんよ。安心して下さい。『ただ強いだけの無名の人間を殺したくらいで歯向かう人間は減りません』と魔王様に言っておきましたから、しばらくは様子見してくださると思いますよ。それに、私や私の配下の者はヨシアキさんに手を出すようなことはしません。というよりも諜報部門で戦闘メインではないので一部を除いて戦えません。ヘルガやシルヴァの軍は戦争がありますし、魔族は人間よりも数が圧倒的に少ないので、刺客といっても、せいぜい1人か2人ぐらいを送って来る程度です。その場合は前もってあなたにお知らせいたしますよ」
確信犯だろが、ちくしょう!落とし所を用意してあるのが、余計に腹立つ!!
「そういうことならここにいるのはまずいですね。ヨシアキ様をねらって、この国に攻めてこられたら……」
「なら明日にでもここを離れましょう。さすがに国民に被害を出すわけにはいかないわ」
冷静になったふたりがそんなことを言いだした。
「ヨシアキさんだったら、『なら、魔王のところへ案内しろ。俺がぶっ殺してやる』とおっしゃるかと思ったのですが?」
「あいにくと、俺はそんなことで魔王を倒すつもりはないな。もし、魔王を倒しに行ったら、あの王さんに言われたように勇者をやるハメになるからやりたくねえ。それに今、魔王を倒したら一番得するのは、あの王さん達になっちまう。だから、襲ってくる刺客を殺すと――単に次々と刺客を送るだけになるな……半殺しと絶対的な恐怖でも植えつけて、諦めさせるのが理想だな。あまりにもウザくなったら魔王に土下座させに行くがな。
それにしても、お前達は俺と別れないつもりなのか?俺について来るなんて100害あって1利なしだぞ」
さっきのセリフじゃ、そうとらえてしまうぞ。
「何言ってんのよ。あなたを見捨てるわけないでしょ。あなたは私達のせいでこの世界に呼ばれたのよ。責任を持って最後まで見届けるわ。でないと私の気が済まないのよ」
「そうでございますよ。それにヨシアキ様なら刺客を倒すことなんて造作もないことでしょう」
ふたりがそんなことを言ってくれるとは……やべ、ちょっと嬉しさのあまり目から汗が出そうになる。
「お前ら…………そういうことなら止めはしないが、いつでも別れていいからな。それに俺が危険だと判断したら置いていく。俺はふたりが気に入っているんだ。だから、ふたりを危険に巻き込むつもりはないからな」
一応、形式として言っておくが、これは本心だ。前から好みのタイプだと思っていたが、添い寝事件からリリーのことを意識し始めた。エリーゼもしっかりものと思わせて、稀にやってしまうドジっ娘がチャーミングなお姉さん――初日の道を間違えたのも、わざとではなく、振り返ってしまい、また振り返るのが恥ずかしいのでやったらしい。それに、店の休業日もすっかり忘れていたそうだ――という発見をして親しみやすくなって、ふたりの時でも他愛もない話で盛り上がるようになった。そんなふたりに危険な目にあってほしくない。
「遠まわしではありますが、ふたり同時に告白なさるとはヨシアキさんも大胆ですね」
そういわれて、リリーは『こ、告白!?』と顔を真っ赤にしているが、エリーゼはとくに反応し……あれ、若干リリーと同じように顔が赤いような気がする。
「そこのバカ!茶化すな!!」
俺も顔が熱くなったのがわかる。
「ヨシアキさん、告白するならちゃんと伝えるのが紳士の務めですよ。それではお邪魔虫は退散すると致します。ホントはあなた達について行きたいのですが立場上無理ですので何かあれば報告しに来ます。それではまたお会しましょう」
そいってリデルは部屋を出た。
「二度と来るな!!」
リデルが去った後のこの沈黙……どう処理しろというんだ!!
「あ、あのー、よ、ヨシアキ?」
リリーが沈黙を破ぶった。
「なんだ」
ふてくされた感じで返事をしてしまったが、今はそれ以外の反応ができそうにない。
「さっきの言葉なんだけど……あ、あれってどういう意味でいったの」
あいつに毒されたのか、そんなことを聞いてきた。
「意味も何も言葉通り、俺はお前達が気に入っている。ハッキリ言えば好きだな。ただし、人としての好きだ。愛しているの意味じゃない。知り合ってまだ1週間ぐらいしか経ってないんだぞ。そこは間違えるな」
一目惚れというものがあるが、俺の場合は気の合う人と恋人になりたいタイプだ。
「『まだ』ということでしたら、時間の問題ですね」
あれ?言った本人でも気がつかなかった本心?をエリーゼに指摘される。リリーはうれしそうな顔をしている。
「ありがとう、ヨシアキ。私もあなたのこと嫌いじゃないわよ」
うれしそうにリリーは言ってくれるが、エリーゼに指摘されたことで頭が混乱している。
「嫌いじゃないではなくて、好きの間違いでは?」
エリーゼもあいつに毒されてしまっているな。
「そ、それはあなたも同じでしょ」
反論といわんばかりに指摘するリリー。
「はい。人としても男性としても、わたくしも好きでございますよ。その気持ちはお嬢様には敵いませんが」
さらっとリリーの反論を流すが、その言われ方はうれしくねーー
「後の言葉は余計よ!!」
あーもう!あいつのせいでめちゃくちゃだ。
「やめやめ、この話は終わりだ。明日に備えて俺は寝る」
そう言ってベッドに潜り込んだ。
「今日は一緒に寝ましょうか?」
リリーめ、終わりだと言ったのに、まだそんなことを言うか!あの時以来そんなことしなかったのに……毒され過ぎだ。
「しらん!好きにしろ!!」
「それでは遠慮なく添い寝させていただきます」
エリーゼまで、まだ引きずるか!?
「その前にヨシアキは席を外してよ。着替えるから」
「う……わかった」
ベッドに潜っていた俺は言われたとおり部屋を出た。その後どうなったかって?ふたりに挟まれて寝ましたよ。ふたりはすぐに気持ちよさそうに眠っていたけど、俺はなかなか寝れなかったよ――なんでかって?聞かんでもわかるだろ!!




