第16話
ルール&マナーをよろしくお願いします
第16話
宿に戻り、夕食には早いので部屋で疲れをとっていた。
「ヨシアキと一緒でよかったわ。せいぜい、使いの魔人くらいで私達でも足手まといにはならないと思っていたけど、まさか、あんな大物と遭遇するなんて思ってもいなかったわ」
「俺としては逆にあいつでよかったよ。他の魔人なら容赦なく戦闘になっていただろうな。そのせいで、地形が変わるなんてありえそうだし、交渉できる余地があったから助かったぜ」
「そもそも、なぜヨシアキ様はあの魔人が分身であることがわかったのですか?お金や道具などこの世界にある物を持っていらっしゃるのも常々疑問に思っておりましたが……」
そうだな――道具のことや強さの理由を話したところで問題ないだろう。
俺は神から聞いた話をリリー達に話した。
「――というわけだ。信じる、信じないは自由だ」
俺の話を聞いてふたりは疑うよりも納得したような感じだ。
「正直、信じられない話だけど、そう言われると納得できるわ」
「しかし、魔王を幾度もなく倒している方が来られたのですから心配する必要はなかったですね」
「そうでもないぞ。所詮は人間だ。窒息死するし、空腹になれば動けなくなる。俺の防御力がどれほどなのか、実践してないからわからんが頭がつぶれたり、首が吹っ飛んでも即死だな。だからといって試すわけにもいかないがな……他にもいろいろあるが、毒とか状態異常だけはこいつのおかげで大丈夫だろう」
そういってロザリオを見せる。
「私達でもゴブリンにすら殺される可能性があるから、たしかに油断はできないわね」
「これでヨシアキ様の謎について理解できたことですし、そろそろ夕食の時間になりますがどういたしますか」
エリーゼが懐中時計を確認して言った。そういや時計は持っていないな。服と一緒に買いに行くか。
「そうだな。腹も減ってきたし飯にしようや」
「そうね。せっかくだから祝い事も兼ねて贅沢しましょ」
そうして、俺達は店の料理で1番高いものを食べた。感想としては普通にうまかった。今まで薄味だったが今回食べた料理は元の世界の料理と変わらない味付けで食べやすかった。やっぱり薄味なのは調味料が高級品扱いで出回っていないのが原因なんだろうな――
部屋に戻り、再びゆったりしようとしたがエリーゼがいない。
「エリーゼがいないんだが、どうした」
「エリーゼには、ちょっと買い物を頼んだのよ。すぐに戻るわ」
そうか、でも買い出しって何を買いに行ったんだ?言い方からして必要な物ではないようだし……
「ただいま戻りました」
ちょっとのんびりしていたぐらいで、案外早く帰ってきたな。
手に持っているのはグラスとワイン瓶の様だけど酒なら宿の飲み物としてあったはずだが、あきらかに宿の物ではない。
「いいものが見つかりました」
そういってリリーにワインを見せる。
「早速飲みましょ。こんなときじゃないと安心してワインを飲むことができないから、たしなむ程度しか飲めないのが旅の難点よね」
「そうでございますね。わたくしは仕事の都合上、普段からワインを控えなければならないのでさらに格別な味になると思います」
うれしそうな顔をして受け取り颯爽とコルクを抜いてグラスに注ぐ。エリーゼは言い方からして酒飲みの様だな。
「ヨシアキもどう?あなた今までお酒を飲もうとしなかったでしょ。こんな時ぐらいは飲みましょ」
たしかに俺は今まで紅茶やジュースを頼んで酒を飲んでいない。
「あいにくだが、俺は酒にめっぽう弱いから遠慮しとく」
なぜ、未成年の俺が酒に弱いことを知っているって?そんなもん飲んだことがあるからに決まっているじゃないか。大学に入って早々、親睦会と言う名の飲み会で飲んだんだよ。そん時に、ちょっと飲んだだけで寝てしまったから酒に弱いことを知った。
未成年が飲むんじゃないと怒られそうだが、酒を飲んでいる人に未成年で飲んだことがあるか聞いてみるといい。だいたい9割の人が飲んだというはずだ。だからと言って未成年の人達は酒を飲むんじゃないぞ!お酒やタバコは20歳になってからだぞ!!
「ヨシアキ様がそうおっしゃるのであれば無理強いはいたしません」
エリーゼさんよ、それは自分の飲む量が増えるからじゃないのか。そういうことなら、なんか邪魔をしたいのが人と言うものだ――郷に入りては郷に従えだ。リリーが飲んでいるなら年齢制限にはならない……というかこの世界って酒の年齢制限あるのか――酔いも一種の状態異常だ。ロザリオで状態異常は効かないはずだ。毒のブレスとか効かない設定だから体内に入った異物を無効化するとみた。
「そういうことなら俺も少しもらおうか」
グラスを受け取り全員にワインがまわった。
「なら乾杯でもしましょうか」
グラスを持ち寄って、
「「「 乾杯 」」」
そういってワイン一気飲みした。ワインなんか飲んだことないが、これはおいしいし飲みやすい。グラスをテーブルに置いて一息。
「ワインって飲みやすいんだな」
「物にもよるんだけど、これはいいワインね。さすがエリーゼってところかしら」
リリーは味わいながら飲んでいる。
「お嬢様に上物以外のワインをお出しするわけには参りません。それに、伊達にお酒好きを名乗っておりません」
エリーゼはやっぱり酒好きなのね……飲まない俺にはその誇らしげな顔を理解することはできないよ。
なんて考えていたら視界がおかしい。目が回るし、猛烈に眠気が襲ってくる。完全にあの時と同じ状態だ。ふらついて倒れそうになる。ふたりが何かを言っている気がするがもう何を言っているのかわからない。もし、他の誰かが異世界に来たのなら、酔いは状態異常無効でも無理だと教えてやろうというアホな考えをしながら倒れるように気を失った。
~~☆~~☆~~
「「 ヨシアキ(様)!? 」」
私達は倒れたヨシアキに駆け寄った。何がどうなってヨシアキは倒れたの!?エリーゼが毒を盛るはずもないし、それにもし、ワインに入れられていたなら私達も同じようになるはずだ。エリーゼがヨシアキの容体を確認する。さきほど話していた内容を思い出し、まさか……という最悪なケースも考えてしまった。しかし、確認したエリーゼは、呆けた顔をした。
「酔って眠っただけです。全く、驚かせないでください」
――いくら弱いからって1杯で酔いつぶれるなんて……当の本人は気持ちよさそうに寝ている。私の心配を返してほしいわ……
「昨日と同じようにベッドに寝かしてあげましょう。今日はヨシアキがいなければ私達は死んでいたかもしれないのだから、感謝の意味をこめてゆっくりさせてあげましょ」
「そうでございますね」
エリーゼはヨシアキをお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
「それじゃ飲みなおしましょうか?ヨシアキのせいで幸せな気分が一瞬にしてどっかいっちゃったわ」
エリーゼがワインを入れなおす。
「では再び」
「「 乾杯 」」
~~☆~~☆~~
静かな時間を過ごしながらワインを飲む。ときどき、ヨシアキの方を見るがホントに気持ちよさそうに寝ている。こんなお酒に弱い男が最強なんて格好がつかないわね。……でも、そんな男に私は助けられた。ただ静かに眠らせてあげるだけでは感謝にならない――
「そうだわ!おもしろいことを思いついちゃった」
「いきなり、なんでございましょう」
ワインを注いでいたエリーゼが手元が狂いそうになったが、こぼさずに済んだ。
「ただ眠らせてあげるだけじゃ感謝しきれないから――」
エリーゼに私の思いつきを説明する。
「なるほど、わたくしも賛成です」
エリーゼも了承してくれた。これなら私達の感謝の気持ちを伝えられる。
「起きた時のヨシアキの反応が楽しみね」
飲んでも飲まれるな
タバコやお酒は自分にあった用法・容量を守りましょう