第13話
新年明けましておめでそうございます
ルールとマナーを守って読んでください
第13話
「まず、この国の役目について話しましょうか。この国は世界で唯一、異世界より勇者を召喚できる国で、世界から一目を置かれ優遇されているわ。だから、魔王が現れた場合この国は勇者を召喚しなければならないの」
「魔王が現れたとき以外は召喚しないのか」
つわものを呼べる便利な勇者召喚なんて魔王以外にも使われそうなもんだが?
「召喚のための魔力には永い年月が必要なの。1度召喚するとすぐには呼び出せないから、いざ魔王が現れたときに『召喚できません』なんて言えないから魔王以外で勇者を召喚しないようになっているの」
お決まりの展開だな。勇者が死んだらすぐに新しい勇者を召喚できないのなら、いつ現れるかわからない魔王に対して対抗できなくなる……よく考えたら魔王が現れることが前提の話だ。
「魔王が現れるのがわかっていたのか」
「はい。勇者マサムネが倒した時に魔王が言い残した『私は永い眠りに着くだけだ。再び私は人間達の前に現れる』という内容が伝承に残っております。ですから、勇者マサムネとリリシア様のご先祖様である初代の巫女との間に産まれた娘に召喚の秘術を受け継がせ、それを守り続け、こうしてこの国では代々召喚者の役目を担っておりました」
裏ボスが魔王を生みだして世界を支配しようとしていた……という設定だったな。ゲーム通りなら裏ボスがいるだろうが、裏ボス自体は直接この世界に影響を与えることができないから問題ない。こちらから裏ボスのところに行かない限り放置でいい。リリーが黒髪なのはマサムネが黒髪だったから、その血を引き継いでいる証なのだろう。
「魔王が現れたら勇者を召喚するのがこの国の役目。そしてこの国がこんな状態になってしまったのも、その召喚が問題なの。召喚で優遇されているから、あらゆる国からその秘術を盗もうとして王族の血を求めた。だから秘術が洩れないように書物以外に第1王女にしか、もっとも重要なことを口頭でしか教えられていないの」
なるほど。その重要なことをあの姫さんがミスって俺がこの世界に落とされたわけか。
「巫女の血を引く女性しか勇者を召喚することはできません。しかし、国としては巫女よりも王が政を行う事が国の安定につながるのです。国の役目として世界からは巫女が求められ、国としては王が求められているのです。そのことが問題となっていて近年、悲劇が起きたのです」
女王が国の政権を持っているところは普通にあるのに、この国ではそれが認められなかったのか。勇者を召喚するだけで巫女自体に力がなければありえるか……
「私の曾祖父の時代、王が病死して王子と王女がどちらが政権を持つかで、王族同士で争いが起こってしまったの。結果は王子が政権を持つことになった……けれどもその争いの犠牲者として王女や王族の血を引く女性が亡くなってしまったのよ。そして運良く残った女性は、先代の巫女であった余命の短い曾祖父の妹以外、幼い一人の少女しか、いなかったの……それが御婆様、つまり私の祖母が次代の巫女になって事を終えたの」
「その事件以来、王は第1王女の夫がなるようになったのです」
なるほどなー。そんな裏設定があったとは――巫女が死ぬとか本末転倒。王子や王女は自分の娘に次代の巫女をやらせようとして他の候補者を退場させようとしたが、お互いが殺し合ってしまったんだろうな。
「この国では第1王女が最も重要で第2、第3の王女や王子達は万が一のための予備扱い。だから、私はそれが嫌になってあの城を出て行きたかったのよ」
リリーが顔を俯かせながら話してくれた。
「なるほどな。自分が予備品扱いされるなんて誰でも嫌になるわ」
王族だろ?下の子は予備品扱いなんて当たり前のことだろ。そう思う人がいるかもしれないが、そんなことは当の本人に関係ない。例えば、兄弟がいて自分が年上だったとしよう。兄弟で何かをする時、意見が分かれたら「兄だから我慢しなさい」と親から言われることがあるはずだ。自分が兄になったのではない。弟ができたから強制的に兄になったのだ。
他にも、部活等で先輩から命令された時、自分が後輩だからいう理由で、言うことを聞くなんてことはごく普通だ。しかし、そういう理由なら、その人が自分よりも先にしていたという、たったそれだけのことで命令されることになってしまう。まして、その先輩に実力がなければ余計にそう思ってしまう。
これらは本人が望んでそうなったわけではない。いくら他の利点があると言われても、その±は本人が判断することで他人が理解することなんてできない。だから本人が辛いと思えば、その人を不憫に思うのはおかしくないというのが俺の持論だ
しばらく俯いていたリリーだったが、顔をこちらに向けて真剣な目で俺を見つめて
「私のことについてはこれくらいで、今度はあなたについてよ。本来ならもっと早くこちらの世界に無理やり呼び出され、家族や友人達に会えなくなってしまったことを謝らなければならないのだけど、この世界に落ち着いてから謝るべきだと言われ今まで謝罪できなくて、そんなあなたにどう接すればいいかわからなかったの……今までの非礼も含め本当に、ごめんなさい」
リリーが頭を下げた。
「わたくしも、この世界の住人の1人として謝らせていただきます。本当に申し訳ありませんでした」
エリーゼもリリーに引き続き頭を下げた。
「別にいいよ。友達と会えなくなるのは寂しいことだし、ゲームができないことや、気になる漫画やアニメが見れないのは本当に残念だけど、家族については別になんの問題もないから。ふたりのおふざけは、なじみやすいようにと思ってのことなんだろ?そういう意味なら気にしないよ。ふたりとも頭を上げてくれ」
「ご両親が心配ではないのですか」
頭を上げたふたりの疑問として、エリーゼが聞いてくる。
「そうだな、俺の家族について話しておくか。ちと暗い話になるがいいか」
この話のせいで、友人と呼べるやつらが少ない原因でもあったから軽々と話す内容ではない。
「私が勝手にしゃべっただけだけど……私の話だけをしといてあなたの話を聞かないわけには、いかないわ。あなたが話せるなら話してほしい」
ふたりの眼を見てみるが俺の眼からまっすぐに視線をずらさない。どうやら興味本位でなく真剣に聞いてくれそうだな。
「そうか……なら話すぞ。俺の家族はおやじとおふくろの3人家族だった。小さいころから両親は仕事でほとんど家にいなかった。俺が中学って言ってもわからんと思うから15歳の時におふくろが別の男と子どもを作って離婚になった。それならおふくろが悪いと思ったが、実はおやじもその数年前に別の女と子どもを作っていたことも発覚したんだ。昔から休日でも両親が働いていると思ったら、ふたりとも子どもほったらかして愛人に会いに行くとか、1児の親のすることかよ……そんなわけで、両親共に新しい家族をつくるためにも、どちらも俺を引き取りたくないってどっちが世話をするか、なすりつけ合いになったんだ。結局俺は寮のある学び舎に行くことが決まっていたから一応おやじに親権が渡った。おやじはおふくろと別れてからここに来るまで生活費を出すだけで、おふくろも会いに来ることはなかった。だから俺は、そんなおやじに対する嫌がらせとして、19歳になる年になったら入ることができる大学という学び舎に入ったんだ。そんな家族だったし両親ともに親族の付き合いがなかったから、さびしい思いをする家族なんていないんだ」
主だった原因だけを話したが、実際にあったことは他にもあってひどかった……
「まさか、そんなにひどい話だなんて」
「それではあまりにもヨシアキ様が不憫です」
リリーは黙り込んでしまい、エリーゼはすすり泣きしている。聞く覚悟を決めていたふたりだったが、この話を聞いた連中と同じような反応をしている。普通こんな話を聞かされたら、どう反応すればいいか俺にもわからんけど。
「はいはい。こんな話は終わり。忘れた、忘れた。それよりも戦闘での連携方法の確認が重要だ」
「でも……」
リリーが俺の話を未だに引きずろうとしてくる。
「でもも、へったくれもねえ!さっきの話は今更どうでもいい。俺はこの世界で生きていくんだ。もう関係ないことだ!エリーゼも泣く必要なんかないぞ。逆にこっちの世界に呼んでくれたことをうれしく思っているくらいだ」
ファンタジーの世界で無双する。だれしもが想像する夢の一つを体験することができるなんて最高じゃないか。
「本当にそう思いなのですか」
エリーゼがなんとか、そうしゃべれるくらい落ち着いてきた
「マジだよマジ。大マジです」
ふざけた言い方だが、俺が本気で言っているのが伝わったようで、暗い感じは残るが、話す前と同じくらいの雰囲気にはなった。
「連携については明日にしましょ。なんだか話疲れてこれ以上しゃべる気になれないわ。明日に備えて早めに寝ましょ」
リリーが疲れた顔をしてそう言う。
「そうでございますね。では、ヨシアキ様少しの間お部屋を出てください」
「ん?なんで」
「レディの着替えを覗くおつもりですか」
泣いていた子はどこへやら。エリーゼは復帰したようでよかったような気もするが、なんだか微妙な感じがする。
「私たちを襲いたいのなら話は別だけど」
リリーもそんなふざけたことを言えるくらいなら心配する必要ないな。
「了解。おとなしく外で待つから、終わったら呼んでくれ」
誘惑される前にとっとと退散すべきだが、これからのことを考えると誘惑に負ける気がするから、いったん部屋を出て精神統一すべきだ。賢者モードになれる人がうらやましいぜ――
扉の前で精神統一をしていると呼ばれたので着替えが終わったようだ。俺の心の準備はまだだが、いくら待ってもできそうにないから腹をくくって入るとする。
部屋に入るとふたりはネグリジェ姿になっていた。リリーは淡いピンク、エリーゼは白と、とても似合っていて色気がハンパない。その服はどうやって、あの少ない荷物に入っていたのか聞きたいが、聞いてはいけないお約束なんだろうな……
「どうしたの?」
リリーが期待していた反応と違ったようで俺に問いかける。1つ、気になることのせいで俺は冷静でいられる。そう、エリーゼの一部分だ。メイド服の時にあった膨らみが明らかにない。着やせするタイプは聞いたことあるが、一部分が着太りするタイプなんてあったか?――ああ、あれがあったな。
「パットか」
つい、俺がそう口走ってしまうとリリーが『あちゃー』という感じで顔に手を当てた。エリーゼの方はというと、ものすごい殺気を感じる。騎士隊長のマルサスよりはるかに恐ろしい殺気だ。カンストしている俺でさえ死の恐怖がよぎる。
「ヨシアキ様、遺言はそれでよろしいでしょうか。残念ながら、その遺言は後世に残ることはないでしょう」
口調こそかわりないが、いつもと雰囲気が全く違う。殺気全開で全然抑え込んでいない。近寄って来るだけで汗が止まらない。俺の話を聞いて泣いてくれた心やさしいエリーゼさんはどこにいったんだ!?
「なんでそうなる!?ただ口がすべ……じゃなかった。何でもないです」
「そうですか。それではヨシアキ様おやすみなさいませ(できれば永遠に)」
その後、何をされたのか全く覚えていないのは、よかったことなんだろう……
人の夢で儚い
信者で儲ける
止まるに少しで歩く
漢字は奥が深いです
主人公の過去これだけと思う方もいるでしょうが、ドン引き過ぎる内容は書けないのでご了承ください
次回、森へ
やっと魔物と遭遇だけど、バトルの表現が難しいです