第12話
第12話
ギルドで厄介事があったが宿に到着。
「いらっしゃいませ。宿屋、風華へようこそ」
茶髪ポニーの受付嬢がお出迎えか。
「3人分の部屋を1つおねがいするわ。それに冒険者ギルドのマスターからの紹介状もあるわ」
リリーがそう言う…………ってちょっと待て!!
「なんで1部屋なんだ!!2部屋だ!2部屋!」
俺があわてて訂正しようとするが、
「あら?なにか問題あるかしら?エリーゼ、何かある」
「いいえ、何も問題ないかと」
なんてことを言っている。ふたりの顔は何を言ってるの?といいたそうだ。
「そうなのか」
なんだ?この世界じゃ当たり前で俺の考えがおかしいのか……
「ヨシアキが襲ってくることなんてないでしょうし」
「ええ、チキンなヨシアキ様がわたくし達を夜這い――なんてこともできないでしょう」
前言撤回、こいつらの考えの方がおかしかった。
「お前ら俺をどういう目で見てやがる」
「あら、何か言ったかしらチキン君?」
「なんでございましょう。チキン様」
のんきにふたりともが言って来る。こいつらー!!こぶしをつくりながらそう思った。
「ええっと、1部屋でよろしいのでしょうか……」
受付嬢は困り果てているようだが、なんとかそう聞いてきた。
「問題ない」
あとでどうなっても文句いうなよ。
「では、マスターからの紹介ですので1泊40Gとさせていただきますが、期間はどのくらいでしょうか」
「とりあえず2泊でいいかしら、その後は長時間部屋を空けることになるから後日、部屋を取れればいいのだけれど問題ないかしら」
「はい、問題ありません。では80Gいただきます。なお、食事代は含まれていませんので食堂をご利用であればその都度お支払いください。また、お湯が必要な場合は桶1杯分で3Gとなりますので、必要であるなら前もって言って下さい」
「わかったわ。ここの代金は私が払っておくわ」
渡す時のリリーが勝ち誇った顔に見えてしまったのは、俺の心情補正か?
「はい、部屋は301号室なので3階になります。なお、宿を出る時は鍵をカウンターにお返しください」
エリーゼがカギを受け取り移動開始。部屋には人数分のベッドと棚が1つ、テーブルとイスがあるくらいだがゆったりとできるいい部屋だ。部屋に着くなりふたりはのんびりとベッドの上にこしかけた。
「どういうつもりだ」
俺は少々お怒りモード。やっぱり血は争えないのか、王さんを思うようなやりとりのようだった。
「同じ部屋にしたのは私達の保身のためよ」
リリーは何事もないように言っているが、保身って俺がいるからあんたらの身の安全はどうなるかわからんぞ。
「簡単に説明いたしますと、わたくし達だけで部屋にいるとよからぬ輩が来るのです。女の旅は辛いものでして、見知らぬ男が襲ってくることもごく稀にですがございます。しかし、ヨシアキ様がいればそのような輩は近寄ろうとも思わないのです」
エリーゼが業務員のような補足説明をする。そりゃたしかに女だけで旅なんて危険いっぱいだろう。しかし、それで俺がどうこうしない話にはならんと思うが?
「それに、もしヨシアキが襲ってきたなら私としては好都合なのよ」
「好都合?」
意味がわからん。
「魔力は宮廷魔道士よりはるかに上、実力は王国最強の騎士よりも強い男の子どもよ。どんな優秀な子ができるか楽しみじゃない」
「それにヨシアキ様のような方でしたら責任を持って子どもを育てていただけそうですし、資金もあるようですので、玉の輿、優良物件です」
なにやらリリーとエリーゼは楽しそうに言うが俺はそうは思えん。そう言われればそうだ。この世界で自分の子供なのか証明する方法なんてないだろう。もし俺がやってしまえば、ある日突然『あなたの子よ』なんて子どもを連れて言われても否定できない。俺がやったという自覚さえあればいいのだから……
「それでヨシアキ様はわたくし達をお襲うおつもりなのでしょうか」
エリーゼが手で口元を隠しながら言っているが、おそらくその手の下は笑っているだろう。俺が頭の中で四苦八苦しているのを楽しんでやがる。
「そんな話を聞かされたら食う気なくすわ」
今、間違ってこいつらに手を出せば俺の人生オワタになりそうだ。俺の勘がそういてくる。こういうのはすなおに直感を信じるべきだ。童○?そんなもん、とっくの昔に捨てられたわ!
「「 やっぱりチキンね(でしたか) 」」
なんだこの嫌がらせは――
手を出せばおそらく一生尻に敷かれ、出さなければチキン扱い。どっちを選んでもハズレってなんだよ!!
「お前ら、俺をおちょくるのもいい加減にしろ!!」
「きゃーおそわれるー」
「あーれー」
棒読みでそんなセリフを言ってきた。もう、ほんとに襲ってやろうか……
「ヨシアキいじりはこれくらいにしといて今後の予定を考えましょうか」
「ええ、これではヨシアキ様があまりにも不憫で……ぐすっ」
リリーは新しいおもちゃを見つけたかのように楽しそうに言い、エリーゼはハンカチを取り出し、お涙ちょうだいをしている。
「はいはい、わかったから本題を言え」
もう付き合うのが疲れるから流してしまうのが一番だ。
「おもしろくないわね。まあ、これから食料やあなたの得物を買いに行くわ。その後宿に帰ってどう森を探索するか打ち合わせ。明日は、野営場所の確認ついでに探索をして、宿に戻る。明後日から本格的に捜索する予定だけど問題ないかしら」
聡明なリリーに戻ったのか、まともな意見を述べる。
「妥当だな。しかし、俺の得物はあるから買いに行く必要ないぞ。まあ、食糧はないけどな」
「得物もヨシアキ様の袋の中に入っていらっしゃるのですか」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
さてと、どいつにするかな?
ポーチを確認して無難な武器を探す。やっぱりここはこれにすべきだな。
ポーチの中からショートソード2本取り出した。『白夜』と『黒椿』、これはショートソードというよりも小太刀といってもいい代物だ。ゲームでは太刀はあっても小太刀という分類がなかったためショートソード扱いになっている。刀長は50cmでそれぞれ柄が白と黒で見栄えもいいし、かなりの業物で終盤まで使える俺の愛刀だ。もう1本の愛剣である大剣の方は聖剣扱いだからさすがに問題になりそうだからここぞという時以外は出さない方がいい。
「ほんとに便利な袋ね。どのくらい入るの」
「んー、容量は測ったことないからわからんが無限に入ると思うぞ。ただ、探すのが大変になるけどな。そうだ、ついでにあれも出しておくか」
『しんぴのロザリオ』これはゲームお決まりの全状態異常無効のアクセサリー。現実世界となった今では毒とか麻痺になったらどうなるかわからんからな。こいつで防ぐのが一番だ。
その他の防具は鎧とか兜などあるが、わざわざ着る必要はないだろう。
俺がロザリオを首にかけると、
「あら、かわいらしいロザリオね。あなたにそんな趣味があったなんて思いもしなかったわ」
「相当な魔力付加のアクセサリーでしょう。ヨシアキ様の私物ですから、人にも言えないおそろしい付加がかかっているのでしょう」
「ただの状態異常無効だ」
全く、俺をなんだと思ってやがる。
「十分人に言えない付加だと思うけど……」
「ええ、市場に出ているのはせいぜい使い捨ての耐性付加です。ですので、無効となりますと売りに出せば少なくとも1億Gはすると思われます」
ふたりが呆けている。たしかに序盤はそんなものないし中盤で使い捨てを買うぐらいしか防ぐようなものはない。無効アクセサリーは中盤の後半から終盤にかけてレアな魔物からドロップやダンジョンで拾うしかない。
「気にしたらダメね」
「ヨシアキ様の私物にツッコミを入れるのはやめておきましょう」
うん、それが賢い選択だと俺も思うぞ。
「そういや、リリーやエリーゼの戦闘スタイルって何なんだ」
「私は見ての通りこの剣で戦うわ。魔法もそれなりに使うから魔法剣士と言った方がわかりやすいかしら。それと属性は水と派生の氷、それに光よ。強さは水と氷系は上級Lv1で光は中級Lv2までね」
ただでさえ光の属性が少ないのに、水と氷属性もあるとは優秀だな。
「わたくしは得物はナイフを使います。基本的にはナイフで戦い、とどめで魔法といった方法と、わたくしは重力系魔法があるので敵の動きを止めるなどといった補助も行います。土は上級Lv1、重力は中級Lv1でございます」
前にも説明された気がするが、重力系魔法は時間に応じて魔力を消費するし扱いが一番難しため、使える人はほとんどいないはずだが優秀ってレベルじゃないぞ!?
「戦闘方法に関しては実践で見せるのが一番ですのでここまでにして、食糧は明日でも問題ないですし、余った時間は連携の確認とお互いに親睦を深める時間といたしましょうか」
「なら飯にしないか?そろそろ腹がへってきたんだが」
なんやかんやしているうちに、夕方だ。
「そうね。ならここの食堂に行きましょう」
「そういや、使えそうな金が金貨1枚しかないからリリーに渡しとく。これでしばらく俺が出す必要ないだろ」
そう言って、俺は金貨を指ではじき、リリーに渡した。
「そうでございますね。別々に支払うと同じパーティーに見えませんし、かといってヨシアキ様が支払うと、その袋から取り出しますので、その不思議な袋目当てに妙な輩が来るかもしれません」
エリーゼにそう言われて俺の不注意さに気がつかされた。ギルドでも普通に使って受付嬢のマリサは何もいってこなかったが、でこぼこコンビとかが見ていたかもしれない。あいつらがお縄になって助かった……
「かといって全く使わないのはもったいないですので、マジックアイテムの一種といえばランクが上がり次第に解禁でも問題ないと思います」
荷物持ちとして使われるのが目にみえる……
「わかった。今のところは、できるだけ人前では使わないように気を付ける」
「そうした方がいいわね」
「それでは参りましょうか」
俺達は食堂で他愛もない会話もしながら早めの夕食を食べ終え部屋に戻った。そのときに時間について確認しといた。ゲームと一緒で日本とほぼかわらない。1日は24時間、1時間は60分。曜日が火、水、風、土、光、虚無で月に5回、つまり1月は30日。1年は12か月で360日と少し短い。だからマスターが言っていた1週間は6日しかない。
「さてと、さっきの続きで何を話すべきか」
「あなたのいた国ってどんなところだったの」
リリーが定番の質問をしてくる。本来なら家族について聞かれそうだが、異世界から突然呼び出されたからかそこは聞いてこなかったが、この質問はぎりぎりアウトに近いぞ。
「国なんてどう説明すればいいかわからんな。ここよりもはるかに進んだ文明なんて想像できないだろ。強いていうなら魔物なんていないし、周りの国なら別だが戦争なんてないくらいか」
「戦争がない国……それはすばらしい国でございます。わが国でも表立った戦争はありませんが、他国といざこざが未だにございます。今は魔王の影響のため停戦状態となっていますが……」
エリーゼが一瞬暗い表情になった。おそらく何かしらあるのだろう。
「国で思い出したが、この国はどうなってんだ?」
王さんにどれだけの権力があるか知らんがあれはないし、リリーやマスターの言っていたことも気になる。
「そうね。ならこの国の役目と現状について話しましょうか」
そう言い、リリーはこの国のことを話し出した。