第11話
第11話
「そもそも、俺が気になったのはマスターのセリフだ」
リリーはマスターのセリフを思い出しているのか顎に人差し指をあてている。
「ごく普通の会話だったと思うのだけど?」
「マスターは、『ギルドとしてでは買い取りできない』と言ったところに問題がある」
「ギルドとしてでは…………なるほど、わかったわ」
やっぱり頭の回転は速いようで、リリーもようやくわかったみたいだ。
「『ギルドとしてでは』ということはそれ以外、たとえばマスターが直接買い取るという意味で言ったのね」
「正解ですよ。リリシア王女様」
マスターがそう答えた、リリーは驚いている。
「さすがはギルドマスター。ご存じでいらっしゃいましたか」
エリーゼは特に何の問題のないかのように答えている。
「あまり知られていないとはいえ、さすがに国の王女を知らずに冒険者ギルドのマスターは務まりませんよ。申し遅れた。わしの名前はジンという。マスターでもジンでも好きな方を呼んでください」
マスターは今までの硬い雰囲気から柔らかい感じになった。しかし、リリーが知られていないとはどういうことだ。
「では、マスターと呼びます。私に対して畏まる必要はありませんわ」
「そうですか、ありがたいことです。では口調を戻さしてもらう。王女様の言うようにわしはお主の素材をポケットマネーで買おうとしたのだ」
「なぜ、そのような回りくどいことをせにゃならんのだ」
厄介事であるのはなんとなくわかったが理由まではわからん。
「おまえさんは知らんようだが、今の世の中、実力がある冒険者達はヘイムダルへ行ってしまうことが多いのだ。その気がなくとも実力者は貴族連中が抱え込んでしまい、おかげでギルドには実力者が数を数える程度にしかおらんのだ。もし、ギルドで買えば市場に出す時に貴族連中がどこのだれが売ったのか調べておまえさんをめぐって採り合いになるはずじゃ」
なるほどな。マスターがいったん俺から買い取り、マスターは自分の私物を売るという名目で市場に出すというわけか。もし、あのまま買い取ってしまえば、あのでこぼこコンビ等から情報が漏れる可能性があったからこんなことになったのか。
「迷惑料もかねて、おまえさんの登録料はこいつから差引かずにタダでしよう。買い取りも少し色をつけさせてもらう」
マスターは気前よくそう言ってきた。
「随分と気前がいいな。で、何が目的だ」
うまい話には裏がある。王さん達のせいで人を疑う癖がつきそうで怖いな。
「なに、おまえさんの実力を見込んでわしからひとつを依頼するだけだ。もし、依頼を成功すればおまえさん達を特例としてCランクに上げるようにしよう。そうすればさっきみたいなバカどもの対象にはならんはずだ」
マスターがそういうが余計に怪しい話になってきた。
「それで依頼はどんな内容なの」
リリーも疑って話に入ってきた。
「依頼のランクはわからんが、軽く見積もってもBランクになるだろう。ここより北にある森で異変が起きている。普段は何の問題のない初心者向けの森なのだが、最近になって負傷者や死亡者が増加しているのだ。ほとんど新人だったから、甘く考えた新人が亡くなっただけと思えればよかったのだが、負傷者の中で厄介なことをいう者がおってな……」
「森の異変については王国の方でも存じております。兵士が調査しても少し魔物が多い気がするだけと特に何の問題もなかったという判断が下りましたが、その負傷者はなんとおっしゃったのですか」
エリーゼもログインしました。なんてふざけていられるような話じゃなさそうだな。
「負傷者は、人語を話し魔法を使う化け物にやられたと言ってきたのだ」
マスターの顔が暗くなった。
「人語を話すことができ、魔法を使うような化け物……魔人がこの近くにいるとその者はいったの!?」
リリーは信じられないように言った。リリーが言うように、人語を話せる魔物は魔族といわれる。その中でも魔法を使う者を魔人と呼ばれる。はっきし言えば、魔族はそんじょそこらの魔物よりはるかに強いし魔人はもっと強くなる。Aランクといってもいいレベルじゃないか!?さすがにエリーゼも驚いている。
「たしかにそう言ったのだが、何せその者は新人。どうせ恥ずかしいからそんな嘘を言ったのだと周りのやつらは言う。しかし、冒険者時代Sランクまで上り詰めたわしの勘がおそらく本当だといっておる」
Sランク入りできるほどの実力者だったのか。歴戦の戦士の勘はよくあたるらしいから、おそらくほんとに魔人がいるんだろう。
「もしそうだったとして、依頼内容はどうなるんだ」
「依頼を受けてくれるなら期限は今日から1週間以内に問題を解決してほしい。もし見当たらなかったらその時は普通の見回りとしての依頼で2ポイント付けよう。報酬は銀貨20枚だ」
「魔人相手にその報酬は少ないんじゃないのか」
物価がわからんが、軽く見積もってBランクの依頼と言ったのにあきらかに少ない気がする。
「すまないがこれ以上は出せそうにない。他のギルドの連中に説明ができんからな。魔人が現れ、その討伐報酬で支払いました。なんて言うても信じられず、横領と思われワシが捕まってしまうわ。そのための処置として特例のランクアップだ」
そりゃそうだ。魔人なんかこの大陸にいるはずがないとみんな思っているだろうし。
「達成の証明はどうなさいますのですか」
エリーゼは落ち着きを取り戻し聞いている。
「おまえさん達が解決したと言えばわしの方から冒険者を使って1週間捜索させ何事もなければ依頼達成だ」
「おいおい、俺がその魔人と結託しとしたらどうするつもりだ。日数分だけ隠れてくれなんて交渉は簡単だろうに」
「どうもせんよ。魔人が取引をしてくれるとは思えんし、そんなことをするつもりなら今ここでそんなことを聞くはずがない。もし本当に魔人がいたのなら国に報告してくれるだけでもポイントをやろう。リリシア王女様が言うのであれば国も動くはずだからな。それにわしの勘が正しければおまえさんの実力なら大丈夫だ。あのバカどもは一時はCランクまでいった奴らだ。あいつらを赤子の様に扱えるのなら死にはせんだろ」
マスターは当たり前のように答えた。
あいつら、あれでCランクだったことがあったのか……ちょっと驚き。
そんなことよりも、この依頼どうするか……俺としては魔人とやり合うのは問題ないとは思うが初戦でやるには気が引ける。しかし、さっきの内容からすれば実においしい話だ。数多くのギルドの依頼を受けずにCランクまで上げられる。そうすれば俺の手持ち素材も売りやすくなし動きやすくなるだろう
「わかった。俺は引き受けよう」
考えた末に少々危険な道になりそうだが引き受けるべきだな。
「あなた正気なの!?ってよく考えたら問題なさそうね。あなたがいれば大丈夫そうだから私も受けるわ。エリーゼ、大丈夫よね」
リリーは一瞬驚いたようだが落ち着きを取り戻して参加するみたいだ。いったい、俺に対してどこからそんな信用ができるんだ?
「お嬢様が、そうおっしゃるのでしたらいかように」
まあ、当然のごとくエリーゼも参加と。
「そうか、なら今すぐにでも行ってくれるか」
マスターはうれしそうな顔をして言っていた。
「すまないが、行くのは明日からだ。食料の準備やら野営の準備やらで、今日は無理だろう」
「それもそうだな」
恥ずかしい思いをしたようでマスターの顔が少し赤くなった。
「それでは、今夜の宿を探しに行きましょうか」
リリーがそういうとマスターはちょいと待てと言い、紙を取り出し書き始めた。
「それなら、ここから北にある風華という宿がいいじゃろ。わしからの紹介状も渡しておくから、行ってみるといい」
そう言って、紙をエリーゼに渡した。
「あの宿は国でも有名なのでもともと行く予定だったのでありがたいです。ぜひ伺わせていただきます」
「今度こそ、行きましょうか」
リリーが再び出ようとするが、またもやマスターに止められた。よくもまあ、出ばなをくじかれるものだ
「そうだった。ヨシアキといったかな。おまえさんの素材は置いて行ってくれ。金は金貨1枚で十分お釣りがくる。その金には素材代の他に、わしからの払えない報酬分の気持ちとさっきの修繕費も換算しておる」
「修繕費くらいマケてくれないのか?」
「物を壊しておいて何を言っておる」
マスターはあきれ顔になった。
「それもそうだ。ついでに城がどうなっているか調べておいてくれないか」
「それくらいたやすいことだ」
素材を渡し、金貨を受け取った。マスターは気軽に了承してくれたことだし、情報源も手に入れたも同然だな。
「それからカードは受付のマリサから、帰りに受け取ってくれ。では、いい結果を期待しとるぞ」
そういやカードのことすっかり忘れてた。こうして、帰りにカードを受け取り、はじめての依頼を受けた。
ネタばれ禁止と言ったら
┌(┌^o^)┐ホモォを期待してる人がいたんですが・・・