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第五話 聖剣の行方

「おいおい、10000は高いぜ。6000だ、それ以上は出せん」


 連合正府本部のある都、聖都ラギアス。その西にある商店が立ち並ぶエリアで、俺は武器屋の親父と熱い舌戦を繰り広げていた。戦いの火種は、俺の目の前に置かれているひと振りの剣。煌く白銀の刃と柄に施された紅玉がなんとも美しい、この世界最高峰の剣だ。名を聖剣――といったりする。


「これだけの剣だ、そんな値段とは思えんが」


「確かにすげえ剣だが、6000以上は無理だよ。買い手がつかない」


 親父は眉を寄せると、剣を俺の方に寄せてきた。その値段では買わない、という確固たる意思表示だろう。だが正府本部で聞き耳を立ててきた俺は知っている。6000以上でも十分買い手がつくということを。


「……最近、勇者が召喚されたってことは知ってるよな?」


「そうらしいな」


「勇者出陣に合わせて正府や各国の軍隊も大規模な魔物討伐を始めるって話も、武器屋なら当然知ってるよな?」


「もちろん、知ってるさ」


「なら、これから武器の需要がどんどん増えるのはわかるだろう。特に魔法禁止の世の中だ、剣なんて言い値でもバンバン売れるんじゃないか?」


 俺はニッと笑うと、親父の顔を見た。親父はその浅黒い顔を梅干しのごとくすぼめると、小声でぼそりと言う。


「8000」


「9000だ」


「8500、これ以上は本当に無理だ」


「わかった、それでいい」


 俺は剣をそっと親父の方へ寄せてやった。親父はほっとしたような顔をすると、それを後生大事に受け取る。彼はそれを店の奥の金庫へ納めると、代わりにその中から頭陀袋を取り出してきた。丸く造られているはずの袋が下へ長くのびていて、中身が相当重いことが伺える。


「8500ルンだ。それだけ重けりゃ擦られるってことはないと思うが、管理には気を付けな」


「ありがとよ、親父」


「おうよ。しかしあんた、あれだけの剣一体どこで手に入れた? 俺としてはどこから手に入れてても構わねえけどよ、ちょいと気になってな」


「大丈夫、一応正当な手段で手に入れたもんだ。ただ、もしあの剣の出所を聞かれても俺のことは答えないでいてくれると助かる」


 そう、間違いなく正当な手段で手に入れたことは手に入れたのだ。ただし、その使用用途が俺にこれを渡してくれた人――シータの想定していたこととは明らかに異なるだけで。


 魔王討伐に役立てるために武器が欲しい、といったのはつい二日前のこと。するとシータがすぐにあちこち手配して、どこぞの貴族が持っていたとか言う由緒正しい聖剣を用意してくれたのだ。本来、これは魔王を倒すために俺自ら手にするべきなんだろうが……まあ、問題ない。魔王討伐とかそもそもするつもりがないし、俺は素手で戦えるからな。


 俺に加護をくれた英雄は素手で戦う武道家だ。当然、その加護を受けた俺も素手での戦いが基本となっている。まだ修行とかは始めていないが、現段階でも車を持ち上げられそうなくらいのパワーがあるし、城の壁に人が通り抜けられるくらいの穴をあけることだってできる。実際に、今日もその穴を通って城を抜け出していた。


「じゃあ、達者でな」


「今度は俺にも儲けさせろよ!」


「また会う機会があったらな」


 俺は頭陀袋をひょいと持ち上げると、懐へ隠した。親父はその怪力ぶりに呆れたような顔をするが、すぐに平静へと戻る。もしかしたら、この店に来るやつにも俺ぐらいの力持ちは居るのかもしれないな。非常識の塊みたいな女を、この間見たばかりだし。







 衛兵たちに気付かれないように、俺は慎重に穴を通って城の中へ戻った。そして何食わぬ顔で自室へ入ると、頭陀袋をベッドの下へと押し込む。袋が影も形もまるっきり見えなくなったことを確認すると、図書館からこっそり持ち出していた地図を開いた。


「目的地はとりあえずエ二スタンってとこだな」


 俺はあの女が言っていた竜の山、という場所がどうにも気になってはいた。あいつが何者かはわからないが、俺にとって悪意のある存在ではないと思うからだ。俺を殺そうと思えばあの場で殺すことなど、あの女ならば簡単だっただろうからな。得体が知れないがとにかく彼女は味方のような気がする。


 だが竜の山は地図の右上、つまり俺の居る聖都から北東に約2000リーグ――1リーグは約1km――も離れた場所に存在する活火山だ。当然、飛行機もないこの世界でそれだけ離れた場所に行くためには何カ月もかけて移動していく必要がある。そんな遠いところまでいきなり出かけて行くほど、俺はあの女に期待できなかった。


 俺が今言ったエ二スタンというのは、聖都から200リーグほど東にある商業国だ。国土はそれほど広くないが、世界中から商人が集まるとされている国でとても物流が盛んな地である。木を隠すには林、ということで俺みたいな人間が紛れ込むにはうってつけの場所だ。さらに、世界中からモノや情報が集まるということで召喚魔法や魔王、さらには外界についても何か言い手掛かりが手に入るかもしれない。

 もちろん、ゆくゆくは外界へ行く予定だ。だが、今はまだその時期ではない。女の言った「今の倍は力が必要」という言葉がどうにも気になる。外界へ行くまでにはゆっくりと時間をかけたい。そのためにも今は身を隠す必要がある。


「さてと、今日は今のうちに寝ておくか。脱出は夜だし」


 城を脱出する日はできれば今日にすると決めていた。何でも明日、勇者の供の者ということで何人か人を選ばなければならないのだ。シータが言うには神秘的な雰囲気の聖女とか、凛々しい女騎士とか、怪しい魅力たっぷりの魔女とか選び放題らしいが――こっそり城を抜け出す以上、できるだけ人とのかかわりは避けたいのだ。…………ハーレムPTとか男の夢だけどな! 凄く憧れるけどな!


 そうして俺が若干くだらないことを考えていると、またたく間に日が暮れて夜が来た。いよいよ、城を脱出する時が来たのだ――。

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