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妖怪交渉人。  作者:
4/6

肆妖  座敷童。

 この世には、妖怪というものが存在する。

 妖怪交渉人というものも存在する。

 以上。詳しいことが知りたいなら第一話を読んでね。


 今日は久々の休暇だ。

 ここのところ、大変な妖怪の相手が多すぎた。この間の化け猫もそうだし、昨日の火車かしゃはひどかった……無理矢理人間を地獄に落とそうとするんだもんなあ。

 とにかく、上手くいってよかった。

 というわけで、現在僕は九重ここのえさんの屋敷の自室に向かっている。一応九重さんは僕の保護者扱いなので、僕の家はこの屋敷ということになっている。

 あまり気分は良くないが、僕はこの屋敷でも『特別』扱いされている。誰も僕に話しかけないし、触れもしない。そもそも僕がいることを良く思っていない人間ばかりだし、僕自身が居ないようにここに住み込みで働いたり出入りする人間も少なくはない。

 それでも、僕にはここしか居場所がないのだ。

 時々、そんなことを考えて心が沈む。けれども、まあ、九重さんに相手されているだけでもまだマシなのだろう。


「あ~あ……」


 自室の襖を開けて、椅子に座る。

 殺風景な部屋だ。窓が一つ、キレイな木造の壁と天井、イグサのにおいのする畳、桐箪笥きりだんすが一つに勉強机と今僕の座る椅子|(畳に椅子はどうなんだ)、それに布団しか入らない押入れ。

 本当に、なにもない。

 あ、いや、あった。

 押入れにはろくろ首が居る。

 この間|(※弐妖参照)の仕事で引き取ることになったろくろ首だ。名前は確かリンだったか。ろくろ首というのはもともと人間である場合があるので、名前がない方が不思議だったりする。


「……?」


 それにしてもおかしい。いつもなら僕が帰ってきたら押入れからテンションアゲアゲで(死語?)押入れから出てくるのだが……まあいいや。うるさいのがいないとじっくり休めるし。

 僕は敷いていた布団に潜り込んだ。今日は一日寝ることにしよう。

 ………………。

 あれ?

 僕、今朝布団片付けたよな?

 刹那せつな、もぞっと布団の中が動いた。そして腕のようななにかが僕の身体を締め付けた!


「ぐっ……う!?」


 誰だ!?この屋敷に忍び込める妖怪は……まさ、かっ!?


「お兄ちゃん♪」

「やっぱお前か!」


 布団の中に入っていたのは、紛れもなく妖怪である。ただし、決して悪い妖怪ではない。むしろ、いい妖怪である。その正体は、


「お前な……一応九重さんに憑いてる座敷童ざしきわらしだろ?」

「やだー。座敷童ざしきわらしは、家に憑くんだもーん」

「ええい離せっ!布団の中で抱きつくんじゃねえ!」

「やーだー!」


 この屋敷にとり憑く数少ない妖怪のうちの一体、座敷童のすずめである。すずめ全然関係ないやないか!ただの座敷童やないか!


「お前、凜は!?」

「そこ」


 すずめは、がっちり足と片腕で僕をホールドしながら押入れを指差した。


「ちょっと暴れたから、黙ってもらっちゃった♪」

「なんちゅーことしてんだお前……」


 座敷童は、意外にも妖怪のもつ妖力、《チカラ》が強い。ろくろ首も、首離れバージョンだと妖力はそれなりに強いのだが、それでも座敷童にはとてもじゃないが敵わない。

 と、いうよりそもそも善の心を持つ妖怪は何故か妖力が皆強いのだ。弱小妖怪くらいなら片手で相手取ってしまえる。座敷童は、住み着いた家に福を呼び込む神聖な妖怪であるから、かなりのチカラを持っている。ろくろ首は、いくら中身が更正されても本質的な性質は悪であるから、力はやはり善には一歩及ばない。長い説明終了!あー、面倒だった。


「どーせ《妖封札ようふうさつ》使ったんだろ?」

「うん♪」


 妖封札ようふうさつというのは、読んで字の通り(ぎゅう~)、妖怪を(ぎゅっ)封じる(ちゅっ)札でって、うぜえええ!!さっきからすずめが抱きついてくる!そして最後ほっぺにチューしやがった!


「ええいっ、暑苦しい!今は説明の途中なんだよっ!」

「え、説明?誰に?」

「……あれ、誰だろう」


 なんだ。怖いぞ。なにか触れてはいけないような気がする。

 ので、ほっとくことにした。


「とにかく、出ろ。布団から出ろ。いや出てくださいお願いします」

「ぶ~。仕方ないな~」


 本当にしぶしぶと言った感じですずめは布団から出た。とりあえず、マウントポジションを取られないよう、立ち上がる。前に座ってたら急に抱きつかれて、机に頭を打ち付けたことだし。


「お兄ちゃん、やっぱり大きいね~」

「お前が小さいんだ。僕は全然大きくない」


 僕の身長は160センチくらいだが、すずめは120センチくらいだ。ちなみに九重さんは130センチ。でも僕より年上。多分20歳くらいだと思うんだけど……。

 僕をまじまじと見るすずめは、いつもと変わらぬおかっぱ頭に綺麗な着物、足袋を履き、少し大きすぎると感じるかんざしを頭につけていた。簪がないと、調子が悪いらしい。


「ところで、お兄ちゃん」

「ん?」


 すずめは、押入れを指差して言った。


「あの女、誰?」

「いや、前教えたじゃん!ていうか、全然知らない相手にいきなり妖封札使ったのかよ!」

「嘘嘘ジョーダン、座敷童ジョーク、略して童ジョークだよ」

「お前ほど横文字使う座敷童も珍しいだろうな……」


 本当に呆れる。


「とにかく部屋から出てけ、僕は疲れてるんだ」

「えー」

「えー、じゃない」

「ぶー」

「ぶー、でもない」

「僕、すずめを愛してるよ」

「僕、すずめを――――って、言うわけねえだろ!」

「ちっ」

「舌打ちしたか!?」


 むう。

 ダメだ。このままではただただ水掛け論になるだけではないか。

 ここは、妖怪交渉人のチカラの見せ所だろう。

 作戦1・大きなことを要求し、その後小さな本命を要求し、こちらの要求を果たさせる。


「すずめ、あのな」

「やだ」


 作戦1失敗。

 なんの、作戦2だ。

 作戦2・多少の犠牲を払い、こちらの要求を果たさせる。


「すずめ、あのな」

「やだ」


 作戦2失敗。なかなかやるではないか。

 しかし、これならどうだ。

 作戦3・情に訴える。


「すず」

「やだ」


 あかん。これ水掛け論やないやないか。完全に平行線の話になっとるやないか。どないすんねん。


「うーん、じゃあ、一緒に寝たらいいんじゃない?」

「む……」


 このまま全然寝られないより、いいかもしれない。


「……わかった」

「わーい♪」


 僕はもぞもぞと布団に潜り込んだ。そしてすずめが僕の背中にぴとっと張り付いた。暑い。しかし、まあ、心地よい温かさと言えなくもないかもしれない。


「おやすみ、お兄ちゃん」

「ああ、お休み……ふぁぁ」


 まぶたが落ちていく中、僕は思った。

 あれ?なんで僕が説得されてるの?


「説得方法、『無視し続けたのち、自分の要求を一つだけ言い、それによりこれしか突破口がないと思わせ、妥協させる』、大成功♪」


 作戦名長ぇよ、とか思いながら、僕は眠りについた。


~後日談~


「ふぁあぁ……よく寝た。ありゃ、すずめがいないな……先起きたのか。……布団片付けるか」


 ガラッ


「………………あ」

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