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妖怪交渉人。  作者:
2/6

弐妖  ろくろ首。

この世には、妖怪というものが存在する。

妖怪交渉人というものも存在する。

以上。詳しいことが知りたいなら前話『妖怪交渉人。』を読んでね。


また依頼である。

今月に入ってもう27件目だ。なんだ。妖怪大戦争でも起きる前兆なのか?

ぶつぶつ言いながら、依頼主の家へと向かう。

珍しく九重ここのえさんは外出していたので、

「お前逝け。間違えた、行け」

と、暴言を含んだ命令を聞くこともなく依頼へと向かっている。

依頼主は、日本に住んでいるのなら誰でも一度は聞いたことのある大規模日本料亭の社長の家での出来事だ。

夜な夜な、女の生首が家の中を徘徊しているからなんとかしてほしい、だそうだ。

………………。

なんていうか、害がないならそのままでいいんじゃないかなあ。

なんて、交渉人にあるまじきことを考えていると、目的地についてしまった。

「デカッ!?」

デカかった。なにがって、家が。

いくらなんでも大きすぎる。この家一軒で一体どれくらいの人間が住めるのだろう?

……ついでに、妖怪も。

インターホンを押すと中から和服を着たキレイな女の人が出てきた。

「どなたですか?」

「妖怪交渉人の、最上綾香です」

「あらっ、男の方でしたか。どうぞお入りください」

そういって彼女は僕を家へと入れた。

家は(家と言っていいのかどうなのかわからないが)、日本料亭チェーンなだけあって和風の家だった。なんていうか、大奥みたいな感じの。

長い長い長い長い廊下を連れられて歩いていると、歩いてきた廊下で見たふすまよりとりわけ大きな襖があり、先導してくれていた彼女がその襖を開いた。

「こちらです」

「そうですか、ありがとうございました」

お辞儀をして開かれた襖を見ると、長方形の部屋の奥に、胡坐あぐらをかいて座っている、新聞やテレビで何度も見た顔があった。

「よう来た。妖怪交渉人やな?」

「ええ」

「早速仕事の話や――――とは言っても、首は夜にしか出んからな、それまではゆっくりしとってくれや。ただ生首をどうにかしてくれたらええからのお。部屋は取ってあるわ、食事でも遊戯でも酒でも女でも好きにしてくれてええ。……ま、そのナリじゃ酒は無理かのお?学生やろ?」

「いえ、学校には行ってません」

「そうか。まあ、色々あるわのお。ええ、ええ。ほんじゃあの」

そう言って彼はパン、と手を打ち鳴らした。すると、隣の襖が開き、先ほどとは違う女性が出てきた。

「妖怪交渉人を部屋に連れて行ったってくれ」

彼がそう言うと、女性はコクリとうなずき、僕に「こっちです」と言って、歩き出した。

彼に失礼します、とお辞儀をし、女性に付いて行くと、だだっ広い部屋へと通された。

「ここです。なにか御用があればそちらにお申し付けください」

そう言うと彼女は部屋を出てどこかへ行ってしまった。

………………。

『そちらにお申し付けください』って、まさか、この部屋の隅にいる女性のことかな?

いやあ、ものすごくありがたい話だなあ。

ニコニコと笑顔を振りまいてこっちまで気分がよくなりそうだし、美人だし。

うん、ありがたい話なんだけど。

なんでこの人から妖気を感じるんだあああああ!!!

くそっ、あの社長、わざと僕をこの部屋に入れたな!?

まあ確かに生首なんか飛んでたら顔ですぐわかるよなあ!?(ガチャッ)――――って、カギ閉められちゃったー♪……って、なんで襖なのにカギがあるの!?そして何故閉めるの!?

手っ取り早い方法ではあるけれど、乱暴な……多分、この人を解雇しなかったのは、妖怪の報復やチカラを恐れてのことだろう。やることは荒っぽいが考えは恐怖に満ちている。ないわー。ほんとないわー。


数時間後。


夜も更けて、そろそろ妖怪が出る時間である。

実際は、丑三つ時が一番活動するのだけれど、大したことのない妖怪たちは力の増大さを恐れてあまり動かない。大きな行動をすれば、人に見つかって退治される恐れがあるからだ。

妖怪たちは、まるで小動物のようなものなのである。退治される恐れは十二分にあるし、その身体にある特殊な能力で、大きな動物だって簡単に殺せてしまう。大半がそんな妖怪たちだ。

もちろん、一部は小動物なんてそんな可愛いものでなく、強大で巨大な力を持つSランククラスの危険度を持つものなのだが。

さて。

起きていても妖怪――――恐らくこの部屋の隅に座っている人なのだが。とにかくソレは、本性を現さないので、敷いてもらった布団に入って寝たふりをしながら、妖怪の見当をつけることにする。

生首の飛ぶ妖怪というとそう数は多くない。イツマデという妖怪もいるが、あれは死んだ人間が成るものなので、生きている彼女とは関係ないだろう。どこかのRPGのようにゾンビが頭を投げている可能性もない。ていうか、ゾンビは妖怪じゃないので専門外だ。エクソシストでも呼んでくれ。青いヤツをな。

とか、思ってたら。

眠っている僕の目の前に、首が飛んできた。

「うおおおおおお!!??」

「あらやだ」

「あらやだじゃねえ!」

僕は瞬間、布団から飛び出し、距離をとる。

「むう。せっかくその可愛い唇を貰ってあげようと思ったのに」

「生首に最初を奪われてたまるか!ていうか、誰!?」

「ろくろ首よ」

「ろくろ首!?」

思い出した。ろくろ首には、二つタイプがあるんだ。

一つは首が伸びるタイプ。もうひとつが、こんな風に生首が飛ぶタイプだ。

「でも確か、後者の方が危険度は高くなかったか?」

「やーね、昔の話よ。今はいい男も多いし、そんなの関係ないわよ」

妙に現代に染まったろくろ首だ。

「お前、なんで徘徊してんの?」

「男探し(はぁと)」

「………………」

どうしよう、今まで何体もの妖怪を相手取ってきたが、これはどうしようもないな…でも、戦闘になることだけは避けたいし…。

「でも、この家に男ってほとんどいないのよねえ…そうだ、あなたの家に置いてくれない?そしたらここから出てってもいいわよ」

「…………まあ、いいけど」

というより、僕の部屋に置くことになるだろう。ろくろ首なんかがあの屋敷を徘徊してちゃ、九重さんならびに他の妖怪始末人にやられちゃうし。

「やったぁ♪じゃあ、交渉成立ね♪」

「はいはい」

僕はなんだか馬鹿馬鹿しくなって再び布団に身体をもぐらせ、眠った。

……ちなみに、朝起きると目の前に生首があった。

勘弁してくれ。


~後日談~


「そういえばろくろ首」

「なあに?」

「おまえの言う、『いい男』ってどんなのなんだ?」

「私が認めた人間が『いい男』よ」

「……さよけ」

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