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MAIN TRAFFIC2  作者: 浜北の「ひかり」
Distress Episode
98/108

282列車 あい反する

 11月5日。今日は午前中3時限。午後3時限の計6時限を受ける。午前の3時限を受けたら、昼休み休憩がある。お昼なんて作ってきていないから、昼休み休憩のときは近くにお昼ご飯を買いに行く。学校の裏手にはお弁当屋さんがあって、今日はそこにお弁当を買いに来た。たまにはこういうのもいいだろう。

「おう、永島(ながしま)。」

声を掛けられる。声を掛けてきたのは高槻(たかつき)だ。その隣には草津(くさつ)もいる。

「ああ。」

一言だけそう返した。

永島(ながしま)。内定おめでとう。」

高槻(たかつき)はそう言ってきた。

「・・・。ああ、もういいって。そのことは。」

僕はすぐさまそう言った。もう内定のことを掘り返さなくてもいい。わざわざそう言ってくれなくてもいいのに。そう思いながら、僕はお弁当を注文する。この頃は「カラアゲ弁当」がブームだったりする。

 お弁当を頼んできたら、またそういう話になった。

「いや、お前も日綜警受けたことは知ってたけど、内定だったんだな。でも、何で日綜警なんだよ。お前だったら鉄道会社じゃないのか。」

「・・・そこはどうでもいいでしょ。」

と返した。理由なんてもうどうだっていい。別に人に言えることでもないからね。今思っているのは何で自分だけ鉄道会社に入れなかったのかってことだけだ。それ以外今僕が考えているのは、どうして「おめでとう」の一言を言ってくるかってことだ。

「ナガシィ。」

そう僕のことをよんでくるのはもちろん(もえ)だ。

「おっ。彼女も来たじゃん。」

「・・・そうだね。」

(もえ)は僕たちの近くまで来てから、

「ここに来てたのか。授業終ってすぐにどっか言っちゃったから、どこ行ったのかと思ったじゃん。」

「おいおい。彼女に迷惑かけちゃダメだって。」

「はいはい。」

「あっ。そう言えば、(もえ)ちゃんも日綜警内定なんだよね。おめでとう。」

「・・・。」

「あっ。・・・ありがとう。」

ありがとうを言うまでの間がちょっとだけ空いていた。そういうことを言うのをためらったのか・・・。

「でも、(もえ)ちゃんもすごいよねぇ。一度は内定断ったんだから。」

高槻(たかつき)がそう言う。もうそのことは誰もが知っていることになっている。あれから何か月かは過ぎているからね。

「・・・。」

「62番、カラアゲ弁当でお待ちのお客様。」

注文してたものができたようだ。僕は何も言わずにそこから離れて、お弁当を取った。そしたら、すぐに学校へ歩いていった。

 高槻(たかつき)たちはその永島(ながしま)をあっけにとられたように見ているだけだった。

「な・・・なんだ。永島(ながしま)のやつ。せっかくとった内定なのに。」

「なんか変だな。」

高槻(たかつき)草津(くさつ)はそのことを不思議がった。

「あっ。あんまりこういうこと好きじゃないからさぁ、ナガシィは。」

「えっ。好きじゃないって。嬉しいことって嫌いなのかよ。」

「照れ屋さんってことか。」

「そうじゃないって。とにかく、あんまり「内定」のことをナガシィは掘り返してほしくないの。ブログ見たでしょ。だったら一番最後のあれも読んでいるはずだよ。」

「俺、学校のブログ最近読んでないからなぁ。永島(ながしま)の書いたブログって今日アップされているのか。」

高槻(たかつき)はそう言った。

「されてるよ。」

(もえ)はそれにそう答える。

「とにかく。ナガシィがブログに書いてあることっていうのは本当にことだと思うから。その通りにしてあげて。今は「おめでとう」って直に言ってほしくないからそう書いたんだろうし。」

「言ってほしくないって。」

「でも、何で永島(ながしま)はそういうふうに思うんだ。俺たちにとっても嬉しいことなんだから、「おめでとう」の一言くらい言ったって。」

「いいから。その通りにしてよ。頼むから。」

「・・・。」

高槻(たかつき)草津(くさつ)は顔を見合わせる。

「嬉しいことっていうのは嫌いなのか。」

「嫌いだよ。「そんな過去の栄光みたいなのいらない」っていうぐらいだから。」

「相当だな・・・。」

「変だと思うかもしれないけど、そういうことだから。そういうことにしといて。」

(もえ)はそう言ってから、高槻(たかつき)草津(くさつ)のお弁当が出来上がったみたいだった。すぐに、高槻(たかつき)草津(くさつ)はお昼を食べる場所に向かっていった。

 11月7日。

「今日、栗東(りっとう)が学校に来るんだってさ。」

草津(くさつ)が言った。

「へぇ、そうなんだ。」

栗東(りっとう)がかぁ。久しぶりだねぇ。」

栗東(りっとう)土佐(とさ)電に内定した。土佐(とさ)電はすぐに早期就業っていうことを言ってきたから、栗東(りっとう)は夏休みぐらいからすでに高知県に言っていた。てことはこっちに戻ってくるのは3か月ぶりぐらいかぁ。

瀬野(せの)さんも戻って来るみたいだよ。」

犀潟がそれに付け加えた。

「そうかぁ。ってことは久しぶりに大人数で授業になるな。今日は近畿(きんき)も来るって言ってるし。」

(そうなのかぁ・・・。)

言ってくれるな。っていう考えが先行した。

 木曜日は2時限授業を受けたら、フリーになる。それに木曜日は2月の研修旅行の話になっている。今年は3月にやったあれである。今回はほとんどの決定権は2年生にあるため、行き先から決定することができる。行先は愛媛、松山になっている。本来であれば、これの旅行の中身をかを決定していくことになるのだが、今週は久しぶりの顔の登場っていうのもあって、全部仕事関係の話とか、そっちでの面白話とかで終わってしまった。

 授業が終わったら、クラスのほとんどの人で梅田に行くことになった。アルバイトとかで抜ける人は抜けて、最終的に残ったのは(もえ)近畿(きんき)栗東(りっとう)留萌(るもい)瀬野(せの)、僕だった。その人数で梅田にあるゲームセンターとかをまわっていた。

「・・・。」

ゲームセンターに来たら、やることがないのはいつものことである。お金を使うっていうこともまずない。皆はクレーンゲームだか何だかに夢中になっている。でも、どうやら機械が不調みたいで、お金の投入自体に反応してくれないみたいである。お金だけ入れてゲームができないっていうとってもいやらしいゲーム機に当たっているみたいだ。僕はそういうのを遠目から見ていた。はたから見たら、ここに一人で来ていて、休んでいる人にしか見えないだろう。

「ナガシィがこういうところ来るって珍しいね。」

ふと顔を上げると前に(もえ)がいた。

「はい。これ。」

(もえ)は手を差し出した。中には飴玉が一つ入っている。

「なにこれ。」

「飴だよ。別にシュワシュワするのじゃないから、ナガシィでも食べられると思うよ。」

「・・・。」

(もえ)からその飴玉をもらって口の中に入れる。でも、ちょっとシュワってした。

「どう小説は。」

「んっ。面白いよ。今は東南アジアのほうで「加賀(かが)」と「土佐(とさ)」が戦ってる。イギリス海軍がインドに派遣した新鋭戦艦とやりあってるんだ。まぁ、ちょっと「加賀(かが)」の損傷が激しいんだけどね。」

とちょっとだけ小説の内容を話した。

「そうかぁ。じゃあ、その「加賀(かが)」っていう船沈んじゃうのかなぁ・・・。」

「今のままでいったら確実に沈むね。でも、こんなんじゃあ「加賀(かが)」はやられないって。」

計画であれば、加賀型戦艦(かががたせんかん)は世界の戦艦7(ビッグ・セブン)に入った長門型戦艦よりも強い。主砲は41cm連装砲。それを5基載せている。それだけの「加賀(かが)」が簡単にやられたのでは面白くはない。日本のどの戦艦よりも古い金剛型高速戦艦、いろいろ欠陥のある扶桑型戦艦(ふそうがたせんかん)、防御の面で疑問符が残る伊勢型戦艦(いせがたせんかん)と35.6cm主砲をのっけている戦艦群とはわけが違うのだ。

 ページをめくって次のところに入る。やはり、副砲とかをやられている「加賀(かが)」は一度ドッグに入るというようになっていた。今のところ、アメリカとはマーシャル沖夜戦での激突以来なにも起こっていない。その戦いで海軍はレキシントン級戦艦の半数とサラトガ級駆逐艦4隻に引導を渡したが、参戦した紀伊型戦艦の損傷に問題があったため、マーシャル諸島の占領までは手を延ばさなかった。今はトラック環礁に46cm砲搭載艦「石鎚型高速戦艦(いしづちがたこうそくせんかん)」が配備され、続くトラックでの決戦に備えている。第二次世界大戦中の日本海軍根拠地には石鎚型高速戦艦(いしづちがたこうそくせんかん)4隻以下、古鷹型重巡洋艦(ふるたかがたじゅうじゅんようかん)2、青葉型重巡洋艦(あおばがたじゅうじゅんようかん)2、葛城型重巡洋艦(かつらぎがたじゅうじゅんようかん)2、祥鳳型航空母艦(しょうほうがたこうくうぼかん)2、長良型軽巡洋艦(ながらがたけいじゅんようかん)3、朝潮型駆逐艦(あさしおがたくちくかん)4、秋月型駆逐艦(あきづきがたくちくかん)8と精鋭がそろっている。

「トラックも大丈夫でしょ。これならね。」

と言っても、少々手薄な気がする。

「・・・。」

「相変わらずだねぇ。二人は。」

と声がした。また本から目を遠ざけてみると瀬野(せの)がたっている。瀬野(せの)(もえ)の向かいに腰掛けた。

「二人とも内定決まったんだよね。おめでとう。」

「ありがとうね。」

それには(もえ)が答えた。

「配属とかってもう決まってるわけ。」

「ううん。配属はあとあと来るんだってさぁ。全国ネットで展開してるみたいだから、どこになるか・・・。」

「てことは日本のいろんなところに行けるってことか。二人とも旅行とか好きだし、それでもいいんじゃない。」

「まぁ、そんなことで日本のいろんなところに行っても面白くもなんともないんだけどね。」

そこで僕は口を開いた。旅行でいろんなところに行くのは確かに好きだけど、住むためにそこに行くっていうのは旅行じゃないし、面白さの欠片もない。ていうか、そんなので日本全国回っても仕方がない。

「・・・。」

「気にしないで、眞実(まみ)ちゃん。」

「まぁ、(とも)ちゃんなりの考えなんだろうな。でもさぁ、私すっごく(とも)ちゃんのこと心配だったんだぞ。私とおんなじような人だったからさぁ。筆記はできても面接できないっていうな。」

(・・・そんなこと・・・。)

そんなことないって。誰でも受かるような面接されただけだよって言ってやりたいと思った。僕はこの内定、家族にぐらいしか「おめでとう」って言ってほしいとしか思っていない。自慢できることも何一つない、見せびらかすことでもない。自分にとってマイナスのこの内定でさえ、他人は事実を知らないから祝福するのだろうか。してくれなくてもいいのに・・・。この内定は栄光の「え」の字もない。ただの闇の歴史だ。葬るべき歴史なのに・・・。

「まぁ、そうだったな。」

そういうだけにとどめた。どうしても、そういうふうに口は動かなかった。

 この後僕たちは近くのレストランに言って晩ご飯を食べた。栗東(りっとう)はそれから滋賀に帰り、一泊して高知県に戻るらしい。瀬野(せの)は23時30分ぐらいの夜行バスで明日の朝には広島(ひろしま)に着くように帰るという。瀬野(せの)を見送ってから、残った人たちも家へと散らばっていった。同日、近畿(きんき)からも「おめでとう」は言われたが・・・。

 11月11日。今度は香川県から内山(うちやま)が来た。その内山(うちやま)も「おめでとう」を言った。なぜだ。なぜいう。祝福されることではないのに・・・。なぜ・・・。


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