192列車 場違い
前回の答えは根室本線厚岸駅です。
津波に負けないほど厚い岸を持っていると感じたためです。
北海道のとある駅です。
「ここに行ったら死に別れ。」どこでしょう。
(実際こうなることはありませんよ。)
4月9日。母さんが入学式のために僕のコーポに来た。そして、4月10日。僕はスーツに身を包み、入学式の会場のほうに向かった。会場は阪急ホテル。このとき専門学校の入学式は学校でやらないんだということを知った。御堂筋線で緑地公園から中津まで乗っていく。中津からその阪急ホテルまで歩いていく。しかし、このまま阪急ホテルのほうに行っても仕方がない。僕たちはまだお昼ご飯を食べていないのだ。中津から出て歩いていくと大きな交差点に差し掛かった。上を阪急マルーンの車両が走って行く。一番手前に見えているのは阪急京都線だ。今ここがどこなのか見当がつかないが、阪急8300系が梅田のほうに行っている間に十三方面に向かって列車が走っていった。梅田が近いことはこれだけでもわかる。お昼はその阪急の3複線の下にあるところで食べた。東京や大阪ではこのような土地利用はふつうだろうが、浜松で同じようなところは「べんがら横丁」(ラーメン店の集合地帯)という場所以外知らない。
お昼を食べ終わってから阪急ホテルの方に向かった。と言っても近すぎた。僕たちが入った店から一分もたたない場所。何と入った店の目の前に阪急ホテルは立っていた。上を見上げたくなるような高層ビル。こういう時に高層ビルのない街から出てきた人は上を見たがるというけど・・・。中に入ると4階ぐらいまで吹き抜けだ。そして、ちょっとここは複雑。ホテルではあるがいろんなテナントの集合体らしい。ちょっと迷って2階にあるという総合ロビーのほうに行って4階に上がる。
「・・・。」
言葉を失った。こんな華やかな場所で入学式をやるなんて・・・何とも場違いな場所でやるのだろう。
ここはすぐに宴会場という感じではない。しばらくの間ソファーに座っていた。僕の家がいくら社長の家でもこんなソファーには座ったことがない。これは人生で数回しか座ることのできないソファーだろう・・・。
(あっ。)
心の中で声を上げた。向こうから歩いてくるのは平百合ではないか。平百合も僕に気付いたみたいで僕のほうに近寄ってきた。
「よーす。永島。」
「おす。」
「なんだよここ。入学式やるような場所じゃないだろ。まず庶民の来るところじゃない。場所間違えたとしか言いようがねぇなぁ。」
「だね・・・。」
「お前と同じ浜松からの女子3人はどうしたんだよ。」
「ああ。萌たちかぁ。多分そろそろ来るころだとは思うけど、まだ1時間ぐらい時間あるしな。」
「じゃあ、まだ来ないかぁ。」
「ていうか、平百合早くない。」
「ああ。家は10時ぐらいに出たからなぁ。それから曽根に行って姫路行きの普通に乗って新快速で戻ってきたからなぁ。」
「姫路って・・・。行ってる方向逆じゃん。」
「そうしたほうがよかったってことかなぁ。225系には当たりたくないからなぁ。ちなみにいうと駅について一番最初に出た普通が225系の6両だったわけで。」
「・・・そいや平百合。こっち来て思ったことだけどさぁ、ここら辺って223系の1000番台の併結よりも225の併結のほうが多い気がするけど。」
「まぁ、225系は2000番台(223系)ほどじゃないけどバリエーションあるからなぁ。4と6と8両。それに比べて1000番台(223系)には4と8しかないからなぁ。4と8両だけで見れば1000番台(223系)より3両少ないけど6両編成が加わっるだけでも変わるから。」
「・・・。」
平百合が話し切ると平百合は何かに気付いたらしい。僕もその方向を見てみると高槻が来た。
「よーす。浜松組。」
「組っていってもまだ一人しか来てないけどな。」
高槻は背をかがめて履いている革靴のひもをまたきれいに直している。
「あの「荒天の草津」はどうしてるんだ。」
「あっ。やっぱり知ってたか。」
「そりゃ知ってるよ。撮り鉄で知らないやついるのか。」
「俺知らないけど・・・。」
「えっ。ジャンルって何。」
「俺のジャンルは車両だから。でも、そんな詳しくないけど。」
「車両かぁ。でも鉄道ファンとか読んでるよなぁ。」
「あっ。それは・・・。」
「見たことない。草津謙吾18歳。まぁ、写真の専門は223系とかだから新快速の特集やってる号とかで見たことないかなぁ。」
「中身はそんなに読んだりしてないから。」
「じゃあ知らなくても無理ないかなぁ。」
と平百合が言った。
入学式の新入生の受け付けが始まるまでの間に暁、草津、栗東、萌が来た。受付を済ませた人から順次中に入って行くという方式だったけど、僕たちはすぐに入るには気が引けた。周りは女子しかいない。自分たちのクラスだけ男子校状態になっている。最後に入ろうと栗東は言ったが、先生たちに促されて中に入った。入るとずらっと席が並んでいる。その席の端。前のほうに座った。
席に座ると話に花が咲いた。
「へぇ。お前鉄研やってたっていってたもんなぁ。」
「それでよく展示とかに行くと子供が触ってきたりして、編成ごと脱線するとか。」
「こっちはそんなんじゃないぜ。こっちのはオート脱線システムだから。」
平百合が口を開いた。
「オート脱線システム。」
「ああ。線路の周回が小さいから新幹線とか走らせた日には即脱線。」
「うわぁ。」
「じゃあ、ナガシィの家のはその真逆だね。」
「永島の家にもレイアウトあるのか。」
「えっ。うん。今住んでるワンルームを何倍ぐらいだろう。10倍かなぁ。」
「100倍ぐらいじゃないの。」
「まぁ、結構大きい周回がある。ほとんどの車両網羅してるし、貨物だって1300tふつうに走れるし。」
「1300tがふつうっていうのはすごいなぁ。コキ100でだろ・・・。それでワンルームの100倍ぐらい。相当デカいな。」
草津が感心したように言う。
「ああ。部活の話に戻るけどこういうこともあった。「きたぐに」の583系あるじゃん。あの模型部活にあるんだけど、オープンキャンパスとかで走らせると1号車(クハネ581形)は脱線しないんだけど4号車(モハネ583形)か5号車(サロ583形)が脱線して、カーブを曲がりきった先にある川に突っ込む。」
「うわぁ。最悪だな。4号車で寝てるやつ起きたら水浸しかよ。」
「後自分の家の1300tはTNカプラーだからオート解放システムないんだけど、学校の1300t貨物はアーノルドカプラーだから段差とかあったら自動解放するんだよね。しかも機関車のすぐ後ろとか、編成の途中とかで開放するから。」
「坂であったら当然逆走してくわけだよなぁ・・・。」
「迷惑な貨物。」
「他にも、これは俺は見てないから知らないんだけど、機関車を4重連にして、客車56両。」
「頑張ったなぁ。「アムトラック」かよ。」
高槻が言った。「アムトラック」とはアメリカ国鉄のことである。そして、国鉄が持っているわけではないが貨物事業を展開している会社では1.6キロぐらいの長さになる貨物列車をディーゼル機関車3両。ないし4両で牽引するということを日常的に行っている。
「カマ、電機。」
草津がそう聞いてきた。カマという言い方は朝熊がしていたのと同様機関車のこと。機関車がなぜカマと呼ばれるかぐらいは想像をつくと思う。
「確か電機。」
「電機かぁ。「アムトラック」よりは環境にいいな。」
「でも、56両をつなぐぐらいだったら車内あるいていったほうが早くないか。本物は20メートルかける56だろ。何メートルだ。」
「60両1200メートル・・・。1120メートルか。長さは「アムトラック」以下だな。」
草津は暗算で計算したらしい。余談だが「アムトラック」を走る貨物は長さ1600メートル級のものまであるらしい。
「56両を電機牽引するのに4両。それがEF210(モモ)だとして1機3390kwのEF210(モモ)を4機使うと・・・12000kwと1200kwと360kw。13560kw。EF200を使うと24000kw。DD51(デデゴイチ)を使うと1100馬力が4両で4400馬力・・・。DD51(デデゴイチ)だけでも相当だな。」
「・・・。」
まだややこしくない計算だが・・・。
「あっ。でもEF81(ロズのハチイチ)を使うとえー2550kwだったな。10000kwと200kw。10200kw。」
「朝熊が言うにはEF66(ロクロク)とEF65(ロクゴ)とEF200(ニヒャク)とEF210(モモ)だったらしい。」
「うわっ。ややこしい計算だな・・・。3900kwと2550kwと6000kwと3390kwかぁ・・・。140kwと1700kwと14000kw・・・。だから、15840kw。」
「もういいか。計算。」
高槻がそう聞いた。
「ああ。ちょっと疲れた。」
「・・・。」
草津がそう言ってしばらくすると司会が静かにするよう言った。そして、入学式が始まった。学校長の話などの次に現在の2年生の成績優秀者の表彰があった。15人いて、男子は鉄道コースの2年生だけで他は全部女子だった。ここが女子校に近いことを表している証拠だとも思った。
入学式が終わると母さんと合流。難波さんが親に挨拶をするといっていたからその難波さんを探して、探し出したら今日の分のプリントをもらった。難波さんがやっているのはこの毎日提出させるプリント。これを提出するのが僕らの仕事でもある。
コーポに戻る前に母さんと買い物をし、夜ご飯は久しぶりに母さんが作ってくれたものを食べた。ちょっと前に萌が作ってもらったものと評価をつけろというのは無理な話だった。
翌日4月11日。今日は教科書の販売のみ。難波さんは15000円あればよいといっていたけど、それよりもかなり少ない金額で済んだ。それだけ教科書が少ないということだろう。母さんは学校に行くのと同じときに部屋を出て、学校の方向に僕が分かれていくところで別れた。
コーポまで戻ってくるとすぐに萌が僕の部屋のほうに入って来た。
「草津君たちとたくさん盛り上がったね。」
「ああ。」
「・・・ナガシィ。私ねぇ、心配だったんだよ。ナガシィに友達できるかなぁって。」
「そんな心配は必要ないだろ。」
僕は別の心配が出てきたことを体全部で感じている。
(10人の推薦があって8人が鉄道コースから推薦された。そして、東海に通ったのはたった1人・・・。今度こそ萌と別れる準備が必要だろうなぁ。)
だが問題はそっちではない。1年の間で自分がそういう人間になれるかどうかが問題なのだ。第一は東海。だが、その狭き門を通り抜けることができるのは20人中1人。もしくは0。
「・・・。」
その頃。留萌は本屋のレールファンに目を通していた。
「んっ。」
今月のフォトコンの中にあった写真に釘付けになった。写真のほうは雨の中を走る300系新幹線の写真。だが、そこは問題ではない。写真右上には審査員のコメントと投稿者の名前が出ている。
「草津謙吾18歳・・・。」
(まさかあの人って・・・荒天の天才。「荒天の草津」なの・・・。)
入学式をやる場所の雰囲気が全くなかったという印象しかありませんでした。