205列車 Let’s Dance. (Practice)
今はいろいろ改造されて・・・。面影残ってる。205系。
5月7日。今日僕は午後の選択授業を取っていないので、午前中だけで終わることになる。その今日受ける授業の2時限目だった。
「えーと。授業に入る前に皆さんに伝えたいことがあります。」
と摂津さんが切りだした。いったい何の話をするのだろうか。恐らく授業のことだろう。今受けているパッセンジャー概論という授業は本当なら普通教室で行われるはずである。昨日難波さんからメールがあり、今日は1階にある鉄道実習室で行うと言ってきた。恐らくそれに関連したことだろう。
「みなさんがよく知っている難波佐紀先生の結婚が決まったというのは聞いてますか。」
全員の顔がキョトンとした。それを聞いたのは初めてだった。
「・・・あっ。聞いてないんですね・・・。ちょっと急な話で5月20日なんですけど、行きたい人っています。」
僕はそれに行く気はなかった。萌もそのような反応。クラスの半分ぐらいの人がそれを聞いていくと言った。
「ごめんなさい。本当はもっと早くいうべきだったんですけど、ゴールデンウィークに入っちゃって言えなくてすみません・・・。」
摂津さんはそうことわった。確かに。もっと早くに言うべきだっただろう・・・。
「と謝っておきながら、2年生の名張君って知ってますか。」
オープンキャンパスで見たことがある。その人のことだ。これに頷くと、
「その名張君からの提案で結婚式の時に踊ってもらいたいということなんですけど・・・曲は皆さんよく知ってるEDOの「I Love You」なんですけど・・・。それでも行きたいっていう人。」
これを言ってもそんなに大差はなかった。しかし、踊りになるとほとんどの人が顔をゆがめた。そうだろう。人前で踊るなんてことはしたくない。まぁ、僕は最初から行く気がないから関係ないかぁ・・・。
「あの。それってもう練習しないと間に合わないですよねぇ・・・。」
近畿が聞いた。
「そう。それで、2年生は自主的に練習を進めてくれていたんですけど、1年生もそうしてもらいたいということなので、お願いしたいんですけど・・・。」
「分かったよ。」
羽犬塚がそれに答えた。いや、これは彼が答えてよかったものなのか・・・。すると摂津さんの顔が少し明るくなった。
「そうですか。お願いします。・・・あっ、近畿君って結婚式に来るんですよねぇ。」
「えっ。はい。」
「ダンスの練習を仕切ってください。1年生のリーダーとしてお願いします。」
「えー。そんな勝手に・・・。」
「一番近くにいたので・・・。お願いします。」
「・・・。わ・・・分かりました。」
こんなこともあって、授業はそんなに前に進まなかった。
授業が終わって10分間の休憩。
「はぁ。なんだかんだでリーダーにされちゃったけどなぁ・・・。この中で、結婚式に来るやつって何人いる。」
「俺と平百合、栗東、近畿、今治、千葉、羽犬塚、犀潟、長万部、百済、内山さん、蓬莱さん・・・。だったかなぁ・・・。」
高槻が答えた。
「他は来ないのかぁ・・・。じゃあ、結婚式に来る人でさぁ、今日帰ったら踊りの練習とかしてくれない。自主的に。明日の放課後から本格的に練習開始するから、少しだけでいいから振付とか覚えてきて。」
近畿はそう指示を出した。そして僕にとって今日最後の授業を受けて解散した。
「暁は出ないんだな。」
帰り道。僕は暁にそう聞いた。
「ああ。どうしても一人暮らし開始するとなぁ・・・。これの関係もあるし。」
暁は右手で、金を現した。
「まぁ、俺もそうなんだけどねぇ・・・。」
「それとさぁ、俺「I Love You」知らないんだよなぁ・・・。だから、振り付けなんて到底覚えれないと思っただけ。ていうか、摂津先生があれ持ちかけてきたときちょっと嫌な予感がした・・・。」
「・・・アハハ。」
翌日。手話が終わると、その前の時間に終わっていた人たちと合流した。補足をしておくが、今日はスーツ指定日。つまり、ここに集まって人は全員スーツを着ている。集まっていたのは百済と犀潟を除く、結婚式参加組。プラス僕、萌、草津の結婚式不参加組。
「よーし。ちょっとみんな昨日の1日だけで結構踊れるようにはなってないと思うけど、ちょっと合わせてみるかぁ・・・。」
近畿がそう言って、最初にテープをスタートした。近畿は携帯をみんなのほうに向けて。みんなは携帯の画面に流れる小さい人影を見ながら、踊り始めた。僕たちは傍観していたわけだが、ものの見事にあっていないというのはすぐに分かった。終わると、
「うーん。ある程度覚えている人と覚えてない人の差がひどいなぁ・・・。」
と近畿がつぶやいた。
「近畿君。画面が小さすぎて何やってるのかよく分かんないんだけど・・・。」
内山が言った。近畿はしばらく考えてから、
「誰かワイパッド持ってる人いない。」
と聞いた。ワイパッドとはスマホのでっかいバンのタッチパネル端末。ノートパソコンのキーボードなしバージョンのことだ。
「ワイパッドだったら俺がどうにかするけど・・・。」
羽犬塚が口を開いた。
「今持ってる。」
「ごめん。今は持ってない。明日から持ってくることにするよ。」
「・・・そう。じゃあ、それはお願い。ごめん。小さいけど、今日はこれで我慢して。」
近畿が内山にそう言うと内山は納得した。
そのあと数回ダンスの練習をした。そして、解散。ふと時計を見ると7時近くになっていた。
翌日。英会話が終了する。
「はぁ、どうしようかなぁ。みんながおどってるところでも見てから帰ろうかなぁ。」
瀬野がつぶやくのが聞こえた。
「見てくの。昨日私たちも見てから帰ったけどねぇ。」
「楽しそうだよなぁ。じゃあ、あたしも見てから帰るかぁ・・・。」
というわけで、昨日と同じメンバープラス瀬野が集まることになるだろう・・・。だが、英会話が終了しても、すぐに全員集まれるわけではない。そのあと授業があって、全員集まるのはそれ以降だ。それまでの間はベンチに腰かけて、みんなで話したりしていた。その間、近畿と平百合は将棋をしていて、僕はそれを見ていた。将棋は中学生の時にやっていたので、少しはどうなるかが分かる。
17時25分ごろ。授業が終わったので、だんだん人が集まり始めた。最終的に集まったのは昨日集まったメンバープラス瀬野、犀潟、マイナス高槻だった。
「おーい。ちょっと。みんなやるから集まって。」
近畿がそう声を掛けた。そして、昨日と同様練習がスタートした。
(ちょっと踊ろう。)
と思って、僕もみんなに交じって踊った。
「はぁ・・・。」
終了すると休憩。これの繰り返しである。
「ナガシィ。何おどってるの。ナガシィは行かないんじゃなかったの。」
「いいじゃん。踊るのは自由だって。」
「そんなに踊りたければ結婚式参加すればいいのに。」
「ヤダよ。人前で踊るなんて恥ずかしいよ。」
「ここでだって十分人前で踊ってると思うけど・・・。」
確かに。ここを道なりにまっすぐ行けば、服部緑地につながっている。そして、ここら辺はマンションなどが立ち並び、今の時間は帰宅するサラリーマンや学生が横を通っていっている。
「・・・。」
「おーい。また練習するぞ。永島。参加するんだったら、センターでやれよな。」
「はっ。」
近畿のその声で起き上がった。センターって・・・。やる気はないけど、踊りはする。しかし、次から萌も参加してきた。逆に今までずっと傍観しているのは草津である。草津はこういうものには興味がないようだ。
「お前らなぁ。」
終了すると草津がそう言っているのが聞こえた。
「よくやる気になるよなぁ。こういう公園のど真ん中で、ダンス・・・。俺はやる気にはなれないけどなぁ・・・。」
「はぁ、ちょっと疲れた。このごろ運動不足かなぁ・・・。」
「いや。こんなハイテンションで踊ったことって久しぶりだわ・・・。」
萌、瀬野の順につぶやく。
「アハハ。はぁ・・・。」
「お前むだにうまいよなぁ。下手したら、こん中で一番うまいんじゃないのか。飲みこみ早いし・・・。」
瀬野が僕にそう言ってきた。
「まさか。俺が参加する人たちよりうまいんじゃ話にならないよなぁ。大体、俺は行かないんだし。」
僕はいつも通りの声でそれに答えた。
「えっ・・・。」
その声とともに瀬野の顔があっけに取られたようになった。どうかしたのだろうか。僕はどうもしていない。というか、昔から萌と話してきた声だし、萌はこれには何の違和感も持っていない。
(ちょっと。女の子よりも高い声出せるんじゃないのか・・・。)
「アハハ。そうだねぇ。ナガシィがほかの子たちよりもダンスうまいんじゃしょうがないよねぇ。大体いかないんだし。」
「いや、行って来いよ。それで、センターで踊って来い。」
「踊らない。踊らない・・・。俺はそこまでじゃないもん。」
(・・・。ダメだ・・・。マジで女の子に見えてくる。)
「・・・。」
「なぁ、あと1回みんなで合わせるから。」
近畿がそう言うと、ベンチに腰掛けていた人たちも立ち上がった。そして、今日最後の練習。時計はもうすでに7時を回っていた。今日は昨日よりも少しだけ遅いのだ。
「草津。ちょっとこれ持ってて。」
「ああ。」
近畿が羽犬塚のワイパッドを手渡した。そして、草津が再生ボタンを押して、曲がスタートする。全員それに合わせて踊った。
「すごいなぁ・・・。こっちから見てるとものの見事にあってないってこと丸わかりだよ。」
草津がそうつぶやくと、
「えっ。そんなにひどい。」
羽犬塚の声が上がる。
「ああ。特にお前が一番ひどい。それだったらまだ参加しない永島達のほうがましな気がする・・・。」
「・・・。」
「いや、でもまだここはましだろ。」
「ましなところサビだけだよ。」
「アハハ・・・。」
そして、終了した。しかし、全員すぐに帰る気がないみたいにそこに停滞していた。
「じゃあ、早いところ帰ろうか。」
「うん。そうだな。」
僕が荷物を肩に掛けようとすると、
「キャッ。」
いつもの萌の攻撃をストレートに受けた。
「隙ありすぎ。」
「えっ・・・。」
今度は瀬野だけではなく、全員の顔がポカンとした。
決まったぁぁぁぁぁ。




