198列車 空中分解する模型
「ねぇ、お兄ちゃん。これ頂戴。」
こまちがそう言っている。と言ってもこれをこまちに上げるわけにはいかない。
「ダメ。お前がもらっちゃ。これは来年も使うんだから。」
翼はそう言って聞かせる。
「まぁ、いいんじゃないのか。」
北石がそう口をはさんだ。
「いいのかよ。北石。これ渡しちゃっても。」
「実際去年使ったやつだって今年使ってないじゃん。だったらあげちゃってもいいよ。その代りにぐしゃぐしゃにするなよ。」
「はーい。」
そう言うとこまちはすぐにほかのところに張り付けたポスターも外しに行った。この調子では校舎内に張った80パーセントがこまちのものになるだろう。
「・・・。」
「ぐしゃぐしゃにするなって。こまちのことだし、写真だけ切り抜いて他は全部捨てると思うけどなぁ・・・。」
「時にはいいんじゃないの。そういうこと大目に見てもさぁ。」
「・・・お前3年になってからキャラ変わったよなぁ。去年は結構あれてたじゃん。」
「・・・気にするな。そのかわりこれからも箕島先輩がやってた部室内でのゲームは禁止は引き継ぐけどな。」
「あっ。やっぱそれ続くの・・・。」
ポスターが貼ってあった方向に歩いて行くともうすでにそこにはポスターが張られていなかった。他の部活のものはまだ張ってある。校舎中に張ってある合唱部のポスターだ。よくこんなに貼ろうと思ったというのには感心する。
「結局今年入ったのは大湊だけだったな。」
「ああ。でもまぁ、当分は廃部にならないってだけでいいんじゃないのか。後は朝熊たちがどれだけ人を呼び込めるかだし。」
「・・・。」
「お兄ちゃん。」
後ろから呼ばれた。見てみるとこまちがたっている何枚取り外してきたのだろう。
「結構な枚数あるなぁ。何枚取ってきたんだよ。」
「えっ・・・数えてないからわかんない。北石先輩。これ本当に写真だけ切り抜いちゃってもいいの。」
「・・・いいよ。やりたいようにしろ。」
「ありがとう。」
こまちはすぐさま部室の方向に走って行こうとした。
「おい。他のところのやつ全部取ってあったのか見てきたのか。」
「あっ。他のところは朝熊先輩と己斐先輩が取ってたから問題ないと思うけど。」
走るのをやめて翼のほうを向いてそう言った。
「そう。他のやつとは会わなかったのか。」
「うん。だから部室戻ります。」
と言ったらまた部室への道をかけて行った。北石と翼はそれを黙ってみていた。
「いいよな。兄妹って。」
「全然。お前が思ってるほど兄妹っていいもんじゃないよ。むしろ大変。あいつの場合は注文が多いから。それぐらい注文するんだったら自分で撮り行けって言いたくなる。」
「注文ねぇ・・・。俺は去年注文多い人だったかなぁ・・・。」
「・・・やっぱお前どうしたんだよ。キャラ変わり過ぎ。」
すると前から潮ノ谷が歩いてきた。手には数枚のポスターを持っている。
「あっちは全部外してきたから、これ以外ないよ。」
潮ノ谷はそう言うと北石にポスターを手渡した。
「なんか少なくないか。」
「ああ。さっきお前の妹と会って、キハあたりを結構たくさん持ってった。」
「はぁ。ものの見事にキハ40系列は残ってるんだな。キハ40あたりは俺がもらうかなぁ・・・。」
「・・・今年の臨地研修は高山線あたりに行こうとでもいうのか。」
「えっ。言わないよ。ただ行くんだったら去年行けなかった四国かなぁ・・・。」
「四国かぁ・・・思い出すなぁ。」
翼はあの言葉を思い出した。
「あのさぁ、ナガシィ先輩自分たちが行きたいってところは必ず何かが起きるって言ってたけど、あれってもし四国に行くことになってたら四国のほうでも何か起こってたのかなぁ・・・。」
「まぁ、それが嘘だってこと祈っとくしかないんじゃないか。」
「・・・。」
貼ったポスターがすべて回収されていることを自分の目で確かめてから部室に戻った。部室の中では案の定こまちが写真だけをきれいに切り出して、ポスターの文字部分をゴミ箱に捨てていた。今年モジュールを作っているのは諫早と空河と大湊だけ。それ以外の人はモジュールは基本作っていなかった。
「北石先輩。今年使ったポスターもらっていいなら、去年のももらっていいですか。」
空河がそう聞いてきた。
「ああ。いいよ。でも、どこにしまったかなぁ。」
あたりを見回していると潮ノ谷がそれを見つけてくれた。
「はいよ。結構湿気てるなぁ。」
「それ仕方なくね・・・。」
潮ノ谷は湿気ていると言ってからポスターをぱらぱらとめくって中を見ていた。潮ノ谷には分かる車両は少ない。JRの車両でも強いのは九州と東海ぐらいだ。その面では北石や翼のほうが断然強い。
「去年もマイナーなやつは使ってないんだよなぁ・・・。」
「まぁ、マイナーなやつ見せても分かるのって俺か北石ぐらいしかいないじゃん。それにディーゼルになったらお前しか分かるやつがいない。」
「それは国鉄のディーゼルだろ。俺だって全部わかってるわけじゃない。」
「ウソつけ。俺なんかキハ53とか言われたらわかんないぞ。」
「・・・。」
それから部室の中でいろんなことを話していた。しばらくするとアド先生が部室に来た。それにはアヤケン先輩も付き添っていた。アド先生は伝えることだえ伝えてから部室を後にしていった。僕たちのほうはというと、
「おい。聞けアド先生がまた空中分解しそうなことを言いだしたぞ。」
アヤケン先輩がそう切り出した。
「空中分解しそうなことっていったいなんですか。」
北石が聞き返した。
「いや、これ本当は北石の牙城になる話なんだけど、」
アヤケン先輩はこうことわってから、
「単線モジュールを作れっ。だと。」
「単線モジュール・・・。それのどこが僕の牙城なんですか。・・・まさか、そこにキハが動くって意味でですか。」
「簡単に言えばそう言うこと。でもキハ以外も動くんだけどねぇ。」
「・・・。別にそれはいいですけど誰が作るかなぁ。」
「北石でいいんじゃないのか。」
翼がそう言うと、
「ふざけるな、俺は進学する行くつもり。少しでもいいところにはいきたいから勉強する。」
「あっ。そう。じゃあ、俺たちがどうにかするしかないかぁ。」
潮ノ谷のほうもむいてそう言った。潮ノ谷は黙っている。
「でも二人かぁ。二人じゃ足らないよねぇ。単線モジュールでしょ。部活に一つもないし、作るってなったら最低4枚のカーブが必要なわけだし・・・。」
分かりきっていることを言う。
「聞いた話によれば、今年モジュール作ってるのは諫早と空河と新入の大湊ぐらいしかいないってことじゃないか。全員総動員して作ればいいんじゃないか。」
「それはそうですけど・・・。」
語尾に行くにしたがって声が小さくなった。まず部活の人全員がモジュールづくりが得意なわけではない。新発田はまずそう言うことはしない。隼もモジュールづくりには興味がないみたいだし・・・。夢前は途中で投げ出しそうな予感がするので危険信号だ。
「確かに。計画聞いてみると本当に空中分解しそうだ。」
「いや、マジでこれは過去に空中分解したことがあるんだよ。俺が作った単線モジュール3枚ぐらいあったんだけど全部もうないし。」
「・・・。」
「じゃあ、なんで今回に限って単線モジュール作ろうって言ったんですか。」
「TOMIXから大量にキハ40系列の模型が発売されたじゃないか。もちろん先に廃止になった大糸線のキハ52。それプラスこの部活でアド先生が持ってるキハ58形とキハ65形。それとキハ20形がある。それだけ多い気動車がいればそう言う方面のほうがあてるって考え。」
「なるほど。分からないわけじゃないですけど・・・。」
「それに今年入った大湊君だっけ。あいつも結構模型持ってるらしくて、持ってるのが125の小浜と信越と大糸のE127なんだよ。」
「それで作れって言ったのか。・・・確かにあの2両1両が複線区間を走るのにはちょっと無理があるからなぁ・・・。」
「それだったら単線モジュールを新たに作って活躍の場を広げるってことですか。」
「ああ。俺がいたときにはそんなのなかったのに単線モジュール作れ出ったからなぁ。俺も大学が開いてる時はできるだけ来るようにするよ。俺がいたほうが進み具合は早いだろうしね。」
「・・・。」
ということで今年の目標としては単線モジュールを文化祭までに完成されること。これでよくはこの中にしまわれっぱなしになっていた車両たちを活躍させるというのが主旨になった。
旧日本海軍の零戦みたいに・・・。
なお、重要ですのでここで捕捉します。この物語はMAIN TRAFFICの続編ですが、ストーリーはMAIN TRAFFIC184列車より続いています。よかったらMAIN TRAFFICもお読みいただけますでしょうか。どのように主人公たちが大阪に来たのか。また、どのように鉄道研究部で活動していたのか。すべてわかります。




