196列車 難聴
前回の答えは予讃線鬼無駅。
鬼がいないから節分ができません・・・。
最後の問題です。中部地方のとある駅です。
「特急止まって快速通過。」どこでしょうか。
岸川では・・・、
「はぁ。おめぇ入ってくれなくてもよかったのに・・・。」
柊木が後ろ向きなことを言った。
「えー。お兄ちゃんだけいろんなところ行っててずるいもん。あたしだっていろんなところ行きたい。」
というのは翼の妹こまちである。
「大変だな。」
小さい声で北石が言った。すると翼からは本当だよという声が返ってきた。
「でも、中学生が入ってきても意味ないんじゃないか。」
潮ノ谷がつぶやいた。
「確かにそうだけど、諫早たちが高校に上がってきたんだし・・・それも全員。少しは新入生の心配をする必要はないだろ。」
「それはそうだけどさぁ。部活動説明会の時の反響みたいなのはどうだったんだよ。」
「さぁね。鉄道研究って聞くだけでほとんどの人や嫌になると思うね。オタクの集まりだと思うから。」
「でも、あたしたちってそんなオタクの集まりじゃないよねぇ。」
隼が言った。
「いや。中身見たらそう言うものしか植えつけられないと思うけど・・・。」
「・・・。」
「ところで大嵐たちは追試かなんかか。」
翼がそう言うと、
「大嵐ってあの飯田線の大嵐。」
こまちが聞いてきた。そうだよと答えていると、そうですとどこからか回答が返ってきた。
「新発田。大嵐と夢前はどうした。」
「大嵐君は今日死んでて、夢前君は携帯没収されて、今職員室です。」
「死んでるってなぁ・・・。」
「えっ。その大嵐って先輩本当に逝っちゃったんですか。」
「・・・なわけないだろ。この部活で死んだっていうのは学校欠席してるって意味。」
「へぇ。いろんな俗語使ってるんだね・・・。ボンド水とか。」
俗語って言い方はある意味間違ってないかもしれない。するとドアが開いた。今年度から顧問はシナ先生になった。アド先生のほうは部活を見てくれてはいるが、顧問としての権限はシナ先生に移ったのだ。
「おい。みんなで何ここで固まってるんだ。早く売り込みに行かなくていいのか。」
「別にいいじゃないですか。少しぐらいここでゆっくりしてても。」
「ゆっくりしてるのは結構だけど、ゆっくりしすぎるなよ。もうどの学年も終わってるんだから。」
「・・・はい。」
北石が返事をして、まず北石がたった。そして、去年醒ヶ井が作った立札を持って部室から出て行った。それについていかなかったので、すぐに部室に戻ってきて、潮ノ谷と空河と無理やり連れて行った。
「そう言えば、ナガシィ先輩たち今頃大阪で何してるのかなぁ・・・。」
翼がつぶやいた。
「勉強してるんじゃないの。」
隼が答える。
「それはそうだろうけど、専門学校でどんな勉強してるとか気にならない。」
「別に。その学校父さんも行ってたし、どんなことやってるかぐらいは聞いてるけど・・・。」
隼は昨日言われたことを思い出した。
昨日4月15日。
「父さん。なんなの話って。」
結香は隼輔に呼ばれていた。これは自分が将来乗務員などの鉄道業に就きたいといった夜であった。
「なぁ、結香。お前騒音性難聴って言葉知ってるか。」
「騒音性難聴。何。聞いたことないけど・・・。」
「そうだろうな。これは知らない人のほうが多いだろう。」
と言った。するとこう問いてきた。
「お前よくイヤホンで音楽聞いてたりするだろ。お前それどれぐらいの音で聴いてる。」
「えっ。ポッドのほうも携帯も5ぐらいで聞いてるけど・・・。」
「・・・そういうやつがなりやすい難聴なんだ。騒音性難聴って。」
するとさらに続けた。
「騒音性難聴はなぁさっきも言ったようにイヤホンをつけて大きい音で音楽とか聞いてるやつになりやすい。これでもし結香が乗務員を目指したいって言うなら、これからイヤホンで音楽を聞くことはやめろ。まぁ、恐らくやめれないだろうから、もっと音を絞って聞いたほうがいい。もしその難聴になったら、乗務員になるって夢は諦めろ。いや、そうなる。」
「・・・。駅員は。」
「駅員もだ。いいか。鉄道業に就く人間が難聴じゃ話にならないんだ。今年入ってきたやつの中にいるんだよ。そいつは運転士志望だったんだけど、その難聴を持ってて、ひたすら事務に回ってる。そいつがその仕事何年続けられるかどうか知らないけど、お前だったら耐えられるかって話だ。」
「・・・。」
「耐えられないんだったら、言うこと聞け。イヤホンだけで人生棒に振ったんじゃいつでも死にたいくらい思うだろ。」
「・・・。」
「俺は結香にはそういう人にはなってほしくない。」
「お父さん。なんでそれもっと早く・・・。」
「・・・。お前が運転士になりたいとかって思ってるならもっと早いうちに話して置くべきだったっていうのは俺も後悔してる。だけど、今日までどうなりたいかっていうのを隠してきたお前もお前だ。もし騒音性難聴にかかってたら、それは自分が犯した罪だと思え。絶対人を責めるな。耳を難聴にしたのはお前なんだからな。」
隼輔は睨む目をして私に言い聞かせていた。
「・・・。」
「翼。音楽聞いていい。」
「えっ。いいけど・・・。それ人に断わることか。」
「今日イヤホン忘れてきたから。」
隼はとっさにウソをついた。今日はイヤホンを忘れたのではなく持って来なかったのだ。難聴のことを聞かされれば・・・。自分はそういう人間にはなりたくないと思っているし、お父さんだってそうなってほしくないと言っている。この話は柊木にも話すべきだろうか・・・。今はそのことよりも自分がそうなっていないかというほうが心配である。部活に女子はいても今この話題を振って共感してくれそうなのは翼の妹であるこまちぐらいしかいないだろう。しかし、こまちにこんな難しい話をしてもしょうがない。
「いいよ。この中だったらガンガンに流してもいいだろ。」
翼はそう言ったが、あえて音を少し押さえた。マックスにするのは気が引けた。翼には今日少し行動のおかしい隼が無性に気になった。
しばらく時間が経つと北石が戻ってきた。収穫があったようで一人1年生を連れてきた。
「大湊彗星です。よろしくお願いします。あっ。でもまだ部活登録届だしてないから100パーセントではないですけどね。」
と言った。
「あっ。部活登録届だったら僕が預かるよ。書いてなかったら今すぐ書いて。」
シナ先生がそう言って、大湊はすぐに何も書いていない部活動登録届を書いた。シナ先生はそれを受け取ると職員室のほうに戻っていった。職員室にしかハンコがないからだ。
シナ先生が部室からいなくなってから、
「改めて自己紹介だな。」
翼が切りだして3年生から順番に自己紹介することになった。
自己紹介が終わろうとしていた時に夢前が入って来た。
「あっ。夢前新しく入った新入部員。挨拶しといてね。」
「あっ。はい・・・。」
夢前はイヤホンをしている。大湊はそれを見ていた。すると、
「イヤホンは頭じゃなくて耳を悪くしますよ。先輩。」
と言った。
(・・・もしかして。彗星知ってる・・・。)
「ねぇ、彗星。」
声をあげた。
「もしかして、騒音性難聴って言葉知ってるの。」
「ど・・・どうしたんだよ。急に。」
北石の声が聞こえて、すぐに正気に戻った。そして、近くの椅子に腰かける。
「知ってますよ。」
大湊はあっさりと答えた。
「僕は負け犬になんてなるつもりはありませんから・・・。」
「・・・。」
「今から勝ってるつもりかよ。」
潮ノ谷がそう言った。
「・・・勝っているってわけじゃありませんけど、なんかこれからの世の中ってふつうに行けそうな気がするんですよねぇ。僕も若者の中に入りますけど、最近の人ってひどい奴いるじゃないですか。ああいうのは世の中に打ちのめされるタイプですよ。それも簡単にね。根気の足らない人しかいない世の中で、何が勝敗を決めるかっていったら、頭ですよね。知識さえあれば世の中渡ってけるんだって思ってますから。」
大湊は先輩の前で普通にそう言った。そう言い切ってからハッとして、
「あっ。ごめんなさい。いきなりタメ口で・・・。」
「別にタメ口なのはいいけど、すごいな。」
この後ふつうに電車の話で盛り上がったのだ。そして、解散するときになった。翼が鍵を返しに行くというので、隼もすぐに出たのだが、大湊に引き留められた。
「何。」
引きとめた理由が知りたい隼はそう問いた。
「知ってますよ。あなたのお父さん。苗字と名前同じ字を書くんですね。」
「・・・。」
「・・・僕がなんで騒音性難聴って言葉を知ってるか知りたいんでしょ。」
上から目線の言葉にイラッとくるが、
「そうなったの・・・兄貴なんです。」
「えっ。」
「兄貴はバカですよ。せっかく採用してもらったのに・・・。せっかく採用してもらったのに欠勤してばっかですから。もしかしたら、自殺までするかもしれませんけどねぇ・・・。」
「・・・。」
「それにあなただってそれかどうかっていうのが心配なんでしょ。分かりますよ。ごく最近までイヤホンで・・・大きい音で聞いてたんですから。」
「・・・それじゃあ意味が・・・。」
「無いのは分かってます。僕は鉄道が好きですけどもう夢は断たれたと思ってますから。」
「・・・。」
「世の中・・・知らないほうよかったことって多いと思いませんか。先輩は・・・。」
「・・・。」
「ごめんなさい。あんなこと言ってましたけど、僕はもうすでに負けているわけですから。」
「諦めるなよ。」
「えっ。」
「諦めるなよ。本当はなりたいんだろ。やれるところまでやって・・・。」
「分かってるんですよ。」
大湊の言葉が遮った。
「僕だってそれなんです。・・・本当にごめんなさい。隼先輩は目を覚まさせてくれようとしてくれたんでしょうけど・・・。結果が全てですから。」
大湊はそう言うと自分の帰り道に入っていった。
今回からの登場人物
岸川高等学校
大湊彗星 誕生日 1996年4月3日 血液型 B型 身長 151cm
今回からの設定変更
諫早轟輝 身長 164cm→166cm
空河大樹 身長 159cm→161cm
朝風琢哉 身長 156cm→159cm
夢前つばめ 身長 152cm→155cm
新発田紗奈 身長 147cm→150cm
大嵐響 身長 143cm→147cm
朝熊豪 身長 149cm→152cm
汐留寛 身長 156cm→158cm
己斐健祐 身長 151cm→154cm
青海川謙矢 身長 132cm→134cm
牟岐茉奈 身長 135cm→138cm
この難聴になったら厄介です。今イヤホンが普及して爆発的に増えているそうです。成りたくなかったら、大音量でイヤホンで音楽聞くなんて馬鹿なことする人は減りますよね。
大湊彗星
由来は新大阪~南宮崎間(晩年は京都~南宮崎間(「寝台特急あかつき号」と京都~門司間で併結))の「寝台特急彗星号」です。




