表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAIN TRAFFIC2  作者: 浜北の「ひかり」
Sasago Vocational College Episode:2
102/108

286列車 サイコロ

 年末はもちろんのことだが、帰省した。帰省したら、持ている免許で車を何度か運転して。その合間を縫うように小説を書いていた。1月6日から授業が再開されるので、その前には大阪(おおさか)に戻ってこなくてはならない。僕たちが戻ってきたのは1月の4日だ。この次の日は(もえ)今治(いまばり)でどこかに出かけようっていう話になっている。

 そして、翌1月5日。今治(いまばり)の都合で集合時間は7時から14時と7時間遅くなった。

「暇だねぇ・・・。」

(もえ)がそうつぶやく。

「まぁ、いいんじゃないの。」

僕はそれにあんまり関心がないような答え方をする。片手には小説が一冊。年越し後すぐに最終巻を手に取った「八八艦隊」の架空戦記は日本の敗北に終わった。戦没した八八艦隊の艦艇は長門型戦艦(ながとがたせんかん)長門(ながと)」、「陸奥(むつ)加賀型戦艦(かががたせんかん)土佐(とさ)」、天城型巡洋戦艦(あまぎがたじゅんようせんかん)愛宕(あたご)」、「高雄(たかお)」、紀伊型戦艦(きいがたせんかん)尾張(おわり)」、「近江(おうみ)」、石鎚型巡洋戦艦(いしづちがたじゅんようせんかん)石鎚(いしづち)」、「(くろがね)」、「大雪(たいせつ)」と半数以上が撃沈された。残った八八艦隊の戦艦はビキニ環礁の核実験で使われ、1945年8月20日一度目の核実験で爆心地近くにいた「紀伊(きい)」、「駿河(するが)」、「乗鞍(のりくら)」が沈没。8月24日「天城(あまぎ)」沈没。8月26日の二回目の核実験の後8月27日「赤城(あかぎ)」沈没。最後に一隻残った「加賀(かが)」はまだ浮かんでいるという状況だ。

(「加賀(かが)」もいつか沈むのか・・・。)

と思う。史実ではここで行われた核実験は1年ぐらい後で、日本の戦艦で残っていたのは「長門(ながと)」なのだが・・・。

「まだそれ読んでたの。」

(もえ)が覗き込むようにして、聞いてきた。

「うん。「半年や1年なら暴れてみせる」ってその通りになってるけどさ。」

1941年12月トラック環礁近海の戦いで始まったこの中の太平洋戦争は1942年の12月に戦局が悪化。1943年12月、日米講和の成立を以って集結している。かなりの数の戦艦が失われているが、だいたいは航行不能に陥って自沈処分になったもののほうが多い。実質撃沈されたのは「土佐(とさ)」、「愛宕(あたご)」、「近江(おうみ)」、「(くろがね)」だ。「尾張(おわり)」は事故で爆沈した。戦死者も少なくはないが、史実の比ではないし、民間人の犠牲はほぼないと言っていい。しかし、戦局の悪化から講和まで時間がかかっているのは特に陸軍のせいということになっている。

「これって結局日本負けるんだよねぇ。」

「まぁ、勝てる見込みはないし。でも、ダニエルズ・プランのやつも半数以上引導渡してるから、かなり健闘してるよ。」

ダニエルズ・プランっていうのはアメリカが計画した「アメリカ版八八艦隊」である。しかし、あの大国アメリカでさえ、この計画の全部の船を維持管理するのは難しかったそうだと述べられていた。

「ごめん。お待たせ。」

そういう声がして、今治(いまばり)が来た。

「もう。今治(いまばり)君遅いよ。」

「悪い悪い。急に用事が入っちゃって。自分も予想してなかったからさぁ。」

「・・・揃ったから、ちゃっちゃとやろうか。どこ行くか知らないけど。」

「うん。」

今治(いまばり)はサイコロを取り出した。でも、しっかりした際ころじゃなくて、サイコロキャラメルの外箱だ。

「3人でふって出た目が多かったところに行こう。」

「それはいいけど、どこに行くのさ。」

「えーと。1と2が敦賀(つるが)方面、3と4が福知山(ふくちやま)方面、5と6が一番遠いところ。西のほうだよ。7時ぐらいから始めてれば行けるんだけど、始めるのが遅いから、行き先変えるね。」

「ほう。」

「それじゃあ、どっちからでもいいからサイコロふって。」

ちょっと(もえ)のほうをうかがう。

(もえ)が先でいいよ。」

「じゃあ、ふるね。」

大阪(おおさか)駅の白い床の上にサイコロキャラメルの赤い箱が落ちる。白の目が出したのは2だ。

「次だね。」

僕と今治(いまばり)が出た目を確認してから、僕がさいころをとる。白い床の上に落ちたさいころが示したのは4だ。それを今治(いまばり)が確認してから今治(いまばり)がさいころをふる。今治(いまばり)がふって出したものは5だった。ものの見事に別れたのである。

「仕方ない。ジャンケンで勝った人の方向に行こうか。」

(半分サイコロ関係なくないですか・・・。)

まぁ、そう思っても始まらないか。ジャンケンの結果かったのは今治(いまばり)で行き先を変更すると言っている遠いところに行くことになった。

今治(いまばり)のに決まったから西のほうか・・・。で、西のどこなわけ。」

「本来であれば、広島(ひろしま)。」

広島(ひろしま)かぁ・・・。ああ、そりゃキツイなぁ・・・。」

広島(ひろしま)のほうには研修旅行とかで言ったことがあるけど、あの辺りは普通しかない。今から行くのもキツイけど、往復普通で帰って来るっていうのもキツイ。どっちにしろキツイ場所だったってことかぁ・・・。

「じゃあ、広島(ひろしま)いけないからどうするの。とりあえず西なんだから、姫路(ひめじ)行きか播州赤穂(ばんしゅうあこう)行く新快速(しんかいそく)に乗ればいいってことじゃん。」

「そうね。今治(いまばり)君18切符だしてよ。」

「あっ。ああ。」

改札口を通って中にはいる。14時スタートの予定ではあったが、それよりも遅れている。今はやく岡山(おかやま)方面に行けるのは14時30分発の姫路(ひめじ)行きの新快速(しんかいそく)姫路(ひめじ)播州赤穂(ばんしゅうあこう)行きの普通に接続し、相生(あいおい)三原(みはら)行きの普通に接続する。

「西には行くけど、これでどこに行くのさ。」

(もえ)今治(いまばり)に聞く。

高松(たかまつ)って思ってるんだけど。」

高松(たかまつ)かぁ・・・。」

僕はそうつぶやいた。高松(たかまつ)ってことは四国か。そうなれば8年ぶりぐらいに四国に上陸することになる。それに高松(たかまつ)入っていないから、高松(たかまつ)には初上陸することにもなる。

「じゃあ、その先も調べなくちゃダメじゃん。」

「うん。」

「ちょっと時刻表貸して。」

僕はそう言い、今治(いまばり)からコンパス時刻表を受け取った。この時刻表は普通の時刻表よりも小さくポケットサイズぐらいの大きさだ。しかし、分厚いことには変わりない。この時刻表から東海道(とうかいどう)山陽本線(さんようほんせん)のページを探し、今乗っている新快速(しんかいそく)の時刻が載っているページを開き、列車を追う。この新快速(しんかいそく)姫路(ひめじ)に15時31分着。接続で15時34分発の播州赤穂(ばんしゅうあこう)行きに乗り換え。途中の相生(あいおい)到着は15時53分。接続で15時56分発の三原(みはら)行きに乗り換え、この列車が岡山(おかやま)に到着するのは17時02分。高松(たかまつ)に行くってことは次に探るページは瀬戸大橋線(せとおおはしせん)。17時02分以降に発車する「マリンライナー」を探す。するとあった。岡山(おかやま)を17時12分に発車する「マリンライナー49号」高松(たかまつ)行き。これが終点の高松(たかまつ)に到着するのは18時05分だ。

「それで、どの位高松(たかまつ)にはいるつもり。」

と聞く。

「うどん食べてとかいろいろして、1時間ぐらいは居たいかなぁ・・・。」

「・・・。」

1時間ぐらいかぁ・・・。恐らくここまで帰ってこられるギリギリのラインだろう。今度は帰りの電車の時間を調べる。1時間ぐらい滞在してから戻って来るってなると恐らくこれだろう。高松(たかまつ)19時10分発の「マリンライナー58号」。岡山(おかやま)到着は20時03分。これで山陽本線(さんようほんせん)に乗る電車はどうだろうか。「マリンライナー58号」が載っているページに指を挟み、山陽本線(さんようほんせん)のページを探す。これに乗ると岡山(おかやま)接続で20時25分の普通姫路(ひめじ)行きに乗ることになる。この普通が姫路(ひめじ)に着くのは21時53分。接続で21時57分発の新快速(しんかいそく)野洲(やす)行きに乗って大阪(おおさか)に着くのは22時58分だ。

「・・・ギリギリだね。そのあとので帰ってきたら、確実に終電なくなる。特に僕たちの場合は。」

「えっ。」

「だってこれの次に乗ったら到着1時間遅れることになるよ。日付越える前に北大阪急行(きたきゅう)の終電は行っちゃうし。行けて江坂(えさか)までで、その先は歩かなくちゃいけなくなるに。」

「なんでかなぁ・・・。北大阪急行(きたきゅう)の終電もうちょっと遅くしてくれてもいいじゃん。」

「でもなぁ・・・。留萌(るもい)が言ってたんだよねぇ、地下鉄と北大阪急行(きたきゅう)は仲悪いって。まぁ、仲が悪いのは上層部のお偉いさんたちだけで、下の人たちまで仲が悪いってことはないだろうけどねぇ、くだらない。」

と付け加えてやる。

「・・・。」

「まぁ、最初のパターンで帰って来るってことでいいでしょ。大阪(おおさか)に着くのは23時ぐらい。そこから家に帰ってお互い日付を越えるって感じでしょ。」

 帰りの時間も決まって、しばらくしたら新快速(しんかいそく)神戸(こうべ)に到着した。東京から延びていた東海道本線(とうかいどうほんせん)はここで終わる。ここから先は下関(しものせき)まで山陽本線(さんようほんせん)になる。神戸(こうべ)から30分ぐらいかけて姫路(ひめじ)に到着。姫路(ひめじ)では同じホームをはさんで止まっている播州赤穂(ばんしゅうあこう)行きに乗り込む。相生(あいおい)に着いたら、ホームをはさんで止まっている三原(みはら)行きに乗り込む。相生(あいおい)から先に行く列車はほとんど黄色に塗られた国鉄車両である。ネットなどある特殊な環境下では末期の車両が黄色をまとっているということから「末期色」っていう愛称が定着しているが、この「末期色」はいつまで走るのだろうか・・・。まぁ、姫路(ひめじ)新快速(しんかいそく)から播州赤穂(ばんしゅうあこう)行きに乗り換えた人がそっくりそのまま入ったようにもなるので、ここから先は岡山(おかやま)までどうも座れそうにない。岡山(おかやま)からの「マリンライナー」にもたくさんのお客さんが待っていて、一瞬座れないんじゃないかと思っていたけど、いらぬ心配だったようだ。補助席に腰掛けることができた。高松(たかまつ)には予定通り到着。そこでうどんを食べる。うどんを食べてから、今治(いまばり)はお土産を買うためにパン屋さんとかに入った。それを待って、僕たちは改札をぬける。

 高松(たかまつ)からの帰路はずっと小説を読むかんじになった。

 二回の原爆に耐えた「加賀(かが)」はまだ浮かんでいる。浮かんではいるが、右側の上部構造物は完全に焼けただれていて、原形をとどめている方が珍しくなっている。「加賀(かが)」の放射線量はなかなか下がらない。誰もこの「加賀(かが)」に触れることを拒むかのように。その意思を海だけがやさしく包み込んでいる。「加賀(かが)」の艦首はだんだんとそのゆりかごに洗われるようになった。そして、全身がつかる時が来た。「加賀(かが)」は静かに艦首から沈んでいく。第1主砲、第2主砲が水につかり、艦橋が海の中へと沈んでいく。「加賀(かが)」の姿は艦橋がすべて見えなくなった時点で、洋上から姿を消した。

 翌日。

「おい。ジャップの「カガ・タイプ」がなくなってるぞ。」

「さすがの「カガ・タイプ」も沈んだか・・・。でも、いつ・・・。」

 1945年9月4日。元日本海軍戦艦「加賀(かが)」沈没を確認。沈没時間不詳。のちにアメリカ海軍に報告されるものである。

 1945年9月4日2時56分。この時間は「加賀(かが)」だけが知る。

(「加賀(かが)」ようやっとあの世へ旅立ったのか・・・。)

本を閉じて表紙を見る。描かれているのは夕陽の中に移る加賀型戦艦(かががたせんかん)の姿だ。

(ふぅ・・・。読み切った・・・。)

隣をふと見ると(もえ)が眠っている。僕の前では今治(いまばり)が眠っていて、その隣には居合わせた乗客の一人が眠っている。起きているのは僕だけみたいだ。

「・・・。」

(クソ・・・。結局鉄道を嫌いになることはできない・・・。全員に鉄道が好きじゃないっていうことを見せ続けるのはさすがに無理があるかなぁ・・・。だったら・・・なんで・・・。こういうのどっかの海の底にでも沈めたいなぁ・・・。捨てて、楽になりたいなぁ・・・。ねっ。(もえ)・・・。)

 大阪(おおさか)には23時に到着。それからすぐに今治(いまばり)と別れ、僕たちは家に帰った。家に着いたのは日付を越えるギリギリだった。


「戦艦尾張」の終わり(・・・)方よ。


史実の「戦艦陸奥」爆沈みたいにしてみたけど、あっけなさすぎか。


サイコロの旅っていうのはストーリー上通りどこに行くのかをサイコロで決めるってものです。「こち亀」にあった「山手線ゲーム」みたいなことはないのでご安心を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ