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序章: 始動!

どうも、銀龍です。

主人公が、自分と同名とは……描いてて恥ずかしいものがありますね。(かといって今更名前は変えられないし(汗))

初めて書く近未来サムライ物ですが、どうぞよしなにお願いします。

それでは、長文&乱文失礼します。

遮るもののない旱魃で皹割れた大地を、太陽が灼いている。

白茶けて皹割れた大地を止めどない風が削り、その形を砂へと変えていく。


地球‐‐―――‐世界の崩壊により現代文明が滅びてから500年、はかり得ないほどの時が流れていた。

だが、生存した人間たちはそれでも尚諦めずに生きることを望み、ある者は商人あきんどとして人をまとめて街を作り、新たな『文明』を生み出したのだった。


旧世紀の年号は凡て忘れ去られ、現在の号を『征和せいわ』という。



征和13年・北海道列島南部‐――――‐。

旧世紀に起きた大規模な地殻変動により、世界各国は次々と沈んでいき、この日本列島も例に漏れず各地方が欠けて消えた。

今や日本列島は本来の形を失い、北海道だけを切り離して他は全て地続きとなっている。


北海道も一部しか残らなかったが、そこが唯一の都市となった。


「香炎、もういい……ここは任せて先に行け!」

「そんなこと、できる訳ないでしょ!?」


北方地域・最大都市札幌西ゲート内は、空爆による業火で満ちていた。

轟々と拉げて燃え尽きようとする街路樹を軍刀で斬り飛ばし、香炎は爆弾の中枢を真っ二つに斬る。

攻撃目標は、ゲート全域と軍部の分室だった。

炯牙けいき、どこにいる?」

吹きつける油煙と炎に歯を食いしばり、香炎が叫ぶように言う。

「いつもの場所だ、分かるだろ?」

背中ごしに彼の軍刀の感触を感じて、香炎は少しばかり安堵の息をついた。

だが、今は油断も予断もできない状況だ。気取られぬように、そのまま溜息を飲み下す。

その時、香炎の腰に下がっている無線から、鋭い声が漏れた。

「杣崎、杣崎香炎……至急応答せよ!」

「こちら杣崎……爆弾処理、無事終了しました」

ノイズの音を漏らして、無線機から耳障りなだみ声が鼓膜に叩き付けてきた。

「よし、さすがは我が軍の誇る工兵コンビだ。速やかに撤収せよ」

「「承知!!」」

駆けだした香炎に続いて、炯牙が後に続く。



 「住民に被害はなかったみたいだけど、これじゃあ大分復旧に時間がかかるね」

「それで食い扶持稼げるなら、文句はないさ…」

兵舎への帰路を歩きながら、香炎は大仰に溜息した。

「それにしても、酷い格好だな」

「お互い様よ」

笑う香炎の頬を拭ってやり、炯牙はそっと彼女を抱き寄せる。

「ダメダメ、血がうつっちゃうよ」

「いい、移っても俺だって同じだし」

切り伏せた他区の敵兵の返り血を浴びたせいで、香炎も炯牙も服は血泥まみれだった。


共に親もなかったので、二人は兄妹のように今までを暮らしてきたが、今はちょっとした問題が起きていた。

兄妹のように育ってきたとはいえ、やはり年頃になると心身共に変化は顕著になる。

二人は、自分らが男と女であることを意識し始めていたのだ。

軍に従事する『サムライ』として男女の差別はないが、炯牙にはそれがつらくなり始めていた。


「なあ……少し休んでいかないか」

歩を止めて振り向いた炯牙は、河川敷を指さす。

「え‐―――‐……また廣瀬隊長に怒鳴られるよ。あたし、あのオッサン嫌い」

「まあいいだろ、いつものことだし」

「よくなーい」

だれてみせる香炎の背を押して、炯牙はゆるい勾配を降りていった。

焦土が広がる中、河川敷だけは息災だったようで、むしれた箇所すら見当たらない。

橙色の夕陽が川面を黄昏の色に彩っている中、二人は肩を並べて川を見ていた。

「お前さ、はふりなのにどうしてそんなに強いんだ?」

「さあ? あたしは、護るためなら努力は惜しまないだけだけど?」

詞とは、癒しの能力を持つ者のこと。

大抵は戦闘には向かずに、軍医などになるのが普通だ。

「護るって、誰を?」

「誰って、仲間に決まってるじゃない」

少し希望を込めて問う炯牙だが、にべもなくはね返されてしまう。

男心、というかなんというか……香炎にはそれが伝わっていなかったようだ。

「お前……戦姫って呼ばれてんの、知ってるか?」

「あたしが? そんな大した物じゃないって。だってあんまり可愛くないもん」

とりつく島もなく否定した彼女に、炯牙はがっくりと肩を落とした。

(可愛くない訳、ないだろうが……この無自覚女!)

香炎といえば、隣で水遊び中。

「はぁ〜……まだまだガキだもんなぁ」

「なにーっ(怒)」


香炎15才、炯牙16の晩夏の風景。

二人が無邪気に笑っていられたのは、その年が最後だった。


紅葉が山脈を染め、白露が降る頃―――香炎に北方への異動命令が出たのだ。

「香炎、なんで辞退しなかった!? 向こうは、西よりも危険なのは知ってるだろう」

「炯牙……仕方ないんだ。あたしは従うことしかできない、『サムライ』として」

「サムライである前に、お前は女なんだぞ!? 分かって言ってるのかっ」

爪が食い込むほど強く双肩を掴む炯牙に、香炎は弱々しい笑みを浮かべた。

「それがどうしたの? 炯牙、何かヘンだよ。怒らないでよ」

「これが…怒らずにいられるかっ……俺はなぁ、お前が!」

香炎の目が、大きく見張られる。

唇に、荒々しい衝撃。

唇を奪われたのだ。

「――やめてっ! それがどうしたの!? 確かに北は戦場いくさばの最前線だけど、そこで食い止めればいいだけの話じゃないっ」

炯牙の頬を強く張って、香炎は肩を怒らせて威嚇する。

「あたしは、あたしはもう……誰が死ぬのも見たくないんだ」

「……っ!」

これ以上香炎の傍にいたら、彼女自身を奪ってしまいそうで……。

炯牙は、兵舎へと逃げるように走っていった。


「こうするしかないんだよ……炯牙。あたしはサムライであって、女じゃない」

青褪めながら呟いた香炎の頬を、透明な筋が伝いおちる。

(嬉しかった……本当に嬉しかった、炯牙からのキス。でも……)


それから年が明け、三月を数えた初春の頃。

炯牙の元に北の戦隊が敗れたという報せと、小箱が届いた。

戦に於いて、それが何を意味するのか分からない炯牙ではない。

けれど、分かりたくなかった。


香炎が‐‐―‐死んだのだ。


かぱりと開けた小箱には、一房の遺髪。

香炎は酷い爆発に巻き込まれ、唯一それしか見つからなかったと聞く。

「う…そ、だろ? 香炎……」

それは、ふさぎ込んでいた炯牙に新たな決意を生み出すことになった。

ふらりと兵舎を出奔した炯牙が向かったのは、北海道列島北端の断崖だった。

大陸(青森以南)からの敵艦隊は北海道を焦土にして南下し、またどこかの土地を蹂躙しているのだろう。

だが、そんなことは炯牙にとってはどうでもいいことでしかなかった。

いま、彼の中にあるのは香炎の傍に行くことだけだった。


「ッ炯牙! いたぞ、こっちだ!」

ばたばたと騒々しく地べたを踏みならして駆けつけた仲間の工兵たちに取り押さえられた炯牙は、さっきを込めて彼らを睨みつけた。

「やめろ、お前が死んでどうするんだよ!」

「……放せ、放せよ!! 香炎がいない場所に、俺の居場所なんかないっ」

炯牙の叫びに、一同はハッと息をのんだ。

「炯牙……お前」

炯牙は泣いていた。

『鬼神』と謡われたサムライの片割れが、脆く崩れようとしていた。

いま、ここにいるのは炯牙というサムライではなく、愛する者の死を受け止めきれずに崩れゆく一人の男。


「頼む、やめてくれ……これ以上、俺をここに縛らないで欲しい」


哀願する炯牙が飛び降り、見えなくなるまでを彼の仲間であった工兵たちは茫然と見送っていた。


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